ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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リリー・フランキーも怪演!戦後70年目に観るべき映画『野火』

終戦70年という節目の年ということもあり、例年より戦争をテーマにした映画が多く公開されている。
今年は特に昭和天皇の葛藤を正面から描いた作品や、戦時下の少女の情事を描いた作品など、視点を新たにした戦争映画が目立つ。
中でも戦場の最前線での兵士たちの極限状態をありありと映し出した、大岡昇平原作、塚本晋也監督・主演の『野火』が話題だ。
劇中、終始ショッキングなシーンが続くにも関わらず、女性誌から漫画誌までもが特集を組み、ネット上でも広く議論を巻き起こしている。

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就職活動を辞めて、『野火』のオ―ディションを受けた夏

実は私にとって本作は、非常に強い思い入れがある。
2年前の夏の日。廃墟のようなとある場所で、本作の監督である塚本晋也氏に会った。
当時大学4年生だった私は就職活動をやめ、奇跡的に書類審査が通った『野火』のオーディションを受けていたのだ。
当時の私は「塚本監督の作品に出られるのであれば、人生のレールから思い切り外れてもいい」と思っていた。
しかしその日に渡された脚本の一部を見て、私のぬるい夢は吹き飛んだ。内容が恐ろしすぎて、全く理解が追い付かなかったのだ。
案の定、オーディションは予定よりずいぶんと早く終わってしまった。帰り道、チャレンジの結果ではなく、『野火』の恐ろしさと、「戦場」というものを全く想像できていなかった、平和ボケしすぎた自分にショックを受けていた。
そんな思い出を抱きしめ、公開された本作を観るも、また軽々と想像を超えられてしまう。
映画館から出た私は、就職戦線に復帰せず、あのままエキストラやボランティアの制作スタッフとしてこの作品に関わらせていただくべきだったのではないかとさえ思った。
 

“ゆるくない”リリー・フランキーも熱演!戦場を再現

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物語の舞台は太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島。一等兵の田村(塚本)は結核にかかり、病院に行くように命じられる。野戦病院と称する小屋の中にいたのは、負傷して瀕死状態の兵士たち。見た目では健康そうに見える田村は、追い返されてしまう。部隊に戻るも、病人では使い物にならないため、拒絶される。

行き場を無くした彼は空腹と暑さの中、1人で島をさまようことになるのだが、そこで隊からはぐれた日本兵と出会う。片足に大けがを負い、歩けない安田(リリー・フランキー)。何故か彼を慕い、世話を焼く永松(森優作)、戦場でも正気を失わず、部下を引っ張る伍長(中村達也)etc.

彼らは互いに他者と関わる中で、かろうじて“人間”であることを保っていたのだが……。
 

あなたは、極限状態で餓死寸前ならば人間を食えるか

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本作の一番の特徴は、終始途切れることのない“違和感”だ。まるで、スクリーンから葉の匂いが漂ってきそうなくらい、生命力あふれる木々。偉大で神聖な自然の中に立つ、不自然極まりない存在、泥と血と虫にまみれた痩せこけた日本兵。この2つの存在の対比、気味の悪さが戦争の愚かさと虚しさを訴えかけてくる。

一方で戦場に置き去りにされた当事者、“極限状態の人間”も印象的。
島のいたる所に、脳みそや内臓をぶちまけ、人の形をとどめていない日本人が転がっている。
その上、いつ殺されるかわからないという、恐怖。絶望をもっても忘れられない、空腹。そんな極限状況の下、ついに“人間”を食べる同胞が現れる。

塚本監督は1960年生まれ。当然、実際の戦争は知らないはずだ。戦争を知らない人たちが優れた想像力と創造で、“戦地での日常”を再現し、現代人に迫る映画『野火』。
平和のありがたみを知っていると思いこんでいた筆者が打ちのめされたように、「いまの日本に危機感を持てない」人、「危機感を持てない自分に対して、危機感を持っている」人にこそ、この作品を観て、自分の価値観をより深めていただきたい。

(文:小峰克彦)

『野火』
渋谷ユーロスペース、立川シネマシティほか全国上映中
監督・脚本:塚本晋也
原作:大岡昇平
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作ほか
ⒸSHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

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