“本当に良い映画は観客に追体験させてくれる” 第28回TIFFの受賞者記者会見レポート

10月31日(土)に東京国際映画祭が閉幕。
受賞者記者会見では審査員たちがシャンパンを片手に登場するなど、終始和やかな雰囲気で行われた。 

審査委員長のブライアン・シンガー監督は「イベントや自作のPRもあったので9日間(10月22日-31日)で16本見るのが大変でした。無事に終わってホッとしています。審査員にフィルムメーカーが多かったので、やりがいもあって、楽しめました」と述べた。

『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝』などの大作映画でプロデューサーを務めた審査員のナンサン・シー氏は「映画大好き人間を審査員としてそろえていただき、毎日映画三昧の幸せな時間でした。しかも場所は大好きな東京! ちなみにショッピングをする時間もちゃんと作りました」とお茶目な一面をのぞかせた。

唯一の日本人審査員である大森一樹監督は「審査会はブライアンが挙げた6本の映画が自分にとっても、満足できる映画だったのがうれしかったです。国も育ちも違うのに、いいと思う映画は共通だったことに感動しました」というエピソードを披露。
ジャンルの全く異なる16作品。その中にある審査員にとっての「良い映画」は共通していたようだ。

グランプリは実在の精神科医の生涯を追った『ニーゼ』

第28回東京国際映画祭・東京グランプリに選ばれたのはホベルト・ベリネール監督の『ニーゼ』。
“ショック療法が当たり前だった”1944年のリオデジャネイロ郊外の精神病院を舞台に、当時は先進的だった芸術療法を取り入れようとする女性精神科医の孤独な戦いを描いた作品だ。

審査委員長のブライアン・シンガーは“自分のいとこが実際にダウン症だった経験”を挙げ、“優れた医師が患者に行うコミュニケーション描写”のリアリティを絶賛。
この発言を受けての「個人の体験が、賞の選定理由になりますか?」という記者からの質問には審査員のナンサン・シー氏が答える。
「“個人の体験”は理由の一つにはなります。ただ、本当に素晴らしい作品は雪国の寒さ(『カランダールの雪』)を知らずとも、精神病の方との接点(『ニーゼ』)がなくとも疑似体験させてしまう。経験したことがない自分も今回引き込まれました」と述べた。

一連の流れを受けて、大森一樹監督は「日本のジャーナリストはすぐに審査のマニュアルを知りたがる」と前置きをした上で「映画には2種類あります。それは引き込まれる映画と引き込まれない映画です。東京国際映画祭の審査にマニュアルはありません」と日本映画界の代表として、凛とした声で語った。

製作費は破格の低予算!
日本映画スプラッシュ部門作品賞は『ケンとカズ』

“日本のインディペンデント映画を応援する”「日本映画スプラッシュ」部門の作品賞は『ケンとカズ』が受賞。29歳の小路紘史監督が登壇した。
「日本で一番の映画を作るつもりだった」という小路監督は韓国映画(特にポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』、ヤン・イクチュン監督の『息もできない』)に影響を受けたという。
記者から「いまの日本のインディペンデント映画にモノ申すとしたら?」という質問が投げかけられる。
小路監督は「インディペンデント映画でも技術面に力を入れるべきです。この映画は照明、ロケ、衣装にすごくこだわりました。インディペンデントだからといって、ストーリーだけではなく、技術面でも作りこんだ方がいいのではないかと思います」と回答。200万円という破格の低予算で、世界観を作りこんだ小路監督の発言は強い説得力を感じさせた。

世界の片隅のドラマが東京で体験できる喜び
次回の東京国際映画祭にも期待

審査員特別賞には『スリー・オブ・アス』、最優秀監督賞には『カランダールの雪』のムスタファ・カラ監督、最優秀女優賞には『ニーゼ』のグロリア・ピレス、最優秀男優賞には『地雷と少年兵』のローラン・モラーとルイス・ホフマンが選ばれた。

イランからフランスに亡命してきた元革命家の家族(『スリー・オブ・アス』)、ナチスの地雷を撤去させられるドイツ人捕虜の少年兵(『地雷と少年兵』)、トルコの極寒の季節での貧しい生活(『カランダールの雪』)etc.
賞に輝いた作品は実際に世界の片隅で起きたできごとが元になっている。義務教育の教科書では省略されてきたできごとを映像に起こした、撮られるべくして撮られた名作たちだ。
彼らの目線で、日本では感じることのできない歴史や自然の理不尽を疑似体験することができる。
“声なき声を、劇的に伝える”映画というメディアが持つ側面をしっかりととらえた作品が受賞作にそろったことが喜ばしい。
興行収入ランキングにテレビドラマやアニメの劇場版が並ぶことの多い日本。この国の首都で映画という表現の最前線を担う作品が観られる東京国際映画祭。
また来年も“世界の片隅に引き込んでくれる”作品が世界中から集まることを願う。

(文:小峰克彦)

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