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島崎遥香が“生の自分”を魅せた!映画『劇場霊』中田秀夫監督インタビュー

島崎遥香を主演に迎えた『劇場霊』が11月21日(土)から公開される。
監督は『リング』や『仄暗い水の底から』で人の業から起こる怪奇現象を描いてきたホラー映画界の巨匠・中田秀夫。

近年は前田敦子を主演に据えた『クロユリ団地』をヒットさせ、まさかの“中田秀夫ホラー×国民的アイドル”のコラボを成功に収めた中田監督。
今回は華やかさの裏に嫉妬うずまく“劇場”を舞台に、AKBのセンター経験もある島崎が、実力がありながらも売れない女優・沙羅を演じる。

中田監督に「ホラー女優の理想像」や「人気アイドルを中田監督ワールドで引き立てる、独自の演出方法」について聞いた。

AKBでもJホラーでもセンター位置 新人・島崎遥香と映画女優・前田敦子の魅力とは

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――『劇場霊』の主役を選ぶにあたりAKBグループ全体のオーディションを行ったそうですが、その際に選定理由として特に重点を置いたことはなんですか?

「一番重視したのはホラー映画のヒロインとして映える人です。実は私、ホラー映画の大ファンというわけではなかったんですが、20年撮っているとホラー映画女優はかくあるべし!という理想が見えてきます。それは演技力以上に大事なものです。昔は日活にも松竹にも撮影所があって新人やニューフェイスと呼ばれた人たちに月に2本くらい映画に出演させて演技を磨かせていました。演技力は後からでもつくんです。何より大事なのは映画的な見映え。特にホラー映画でいえば、『不安な表情』『おそれおののく様子』『叫ぶ姿』などがキーになってきます」

――たしかに今回主演の島崎さんは困り顔、不安げな表情が印象的です。

「今回主演の島崎さんは“お顔のパーツ”がはっきりしていますよね。特に若い人向けのホラー映画は、くっきりはっきりとした顔立ちが大事なんです。
島崎さんは“孤独を抱えている”というと言いすぎかもしれないですけど、普段から不安そうな陰があったり、それでいていざピンチに立ち向かう場面では目に鋭さが出たりするところが魅力的でした。はじめてお会いした時から、『今回のヒロインは島崎さんかなー』とは思いましたね」

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――「くっきりはっきりとした顔立ち」というと『クロユリ団地』の主演の前田敦子さんも浮かびます。

「そうですね……『クロユリ団地』の時は、最初から“前田敦子主演”という形で企画をいただきました。前田さんは映画にかける思いもすごくて、豊富な演技経験もありましたし、オーディションで選んだ感じではないです。
『クロユリ団地』の現場では前田さんに『不動のセンターがゆえの孤独感を大事にしてほしい』と伝えていましたね。

今回、島崎さんにも、『“人気の地位に居るアイドルの孤独”と“20歳の女の子としての自分”の両面を大事にして演じて欲しい。役になりきるのも大事だけど、自分にしか持っていない素の部分も出して欲しい』と要求しました。

生っぽい不安感をもってもらうのがホラー映画にとって大切なんです。最初に不穏なことが起きてだんだん大きくなっていく……そんなホラー映画では、入口の不安感が出せないとダメなんです。
その点は今回の島崎さんも、もちろん前作の前田さんも見事でした」

陰のヒロイン・護あさな 『リング』から続けている演出方法

――先ほどホラー映画のヒロイン像でいうと、今回重要な役割を担った護あさなさんもホラー女優向きのように思えます。護さんの現場でのお話を教えてください。

「護さんもホラー的に映えるお顔でしたね。人形の動きのシーンも一部CGですが、実際にはパントマイムの先生から特訓を受け、特殊メイクをしてもらい“人間になりかける人形の動き”を演じてもらいました。

映画としての登場時間はそんなに多くはないですが、人形のパントマイムのシーンも多く、出番のない日もずっとスタンバイしてくれていたんです。たくさん助けてくれました。なので、僕の印象では彼女の出番は少なくないんですよね。間違いなく陰のヒロインでした」

――中田監督がずっと続けている「恐怖の演出方法」を教えてください。

「『リング』で松嶋菜々子を演出した時から恐怖度をメーターのように1から5で示すようになりました。最初からマックスの恐怖度5で、演技してもらうんです。

映画って順で撮るとは限らず、バラバラに撮ることも多いので、真ん中のシーンなのに恐怖度が5だとそれ以上は出てこない……ということもあります。なので、最初に限界まで行ってもらい、限界を知ってもらう。他の場面もメーターにすると伝わりやすいので、この演出方法をずっと採用していますね」

バラエティでは見せない島崎遥香の“生の感情”が『劇場霊』ヒロイン沙羅に奥行きを持たせる

――沙羅(島崎遥香)が事務所でもオーディション会場でもカバンの紐を握りしめているところが印象的でした。どのように演出されたんですか?

「今回バッグの紐を握りしめていたのは島崎さんの演技プランです。素直に言うと僕はこのシーンで女優に仕草の演出はつけていないです。僕の大先輩で、角川アイドル映画で一世を風靡した澤井信一郎さんは得意でしたけどね。澤井監督は原田知世や薬師丸ひろ子に“かわいい仕草”の演出をつけています。僕もできれば仕草の演出をしてみたいですね(笑)。

どこかのインタビューで、島崎さんが『沙羅にAKBでまだ人気ではなかった自分を投影した』という主旨の話をしていました。一度もそんな話をしたことはなかったけれど、オーディションの後に『自分はこれから女優としてやっていけるんだろうか……という不安感を投影して欲しい』とは言いましたね」

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――今回は普段、世間から“塩対応”と呼ばれている島崎さんの素直で真摯な素の部分が出ている気がしました。

「島崎さんは物凄く頭の回転が速い人なので、バラエティ番組だとつい視聴者が自分に求めるイメージの発言をしてしまうんだと思います。僕も舞台挨拶で一緒になると、頭があまりにキレるんで、驚くことが多々ありました。彼女は“自分が何を言えば、観ている人に喜んでもらえるのか”を一生懸命考えている人だと思うんです。
今回はホラー映画でウケを狙わなくて良い分、“生の自分”に寄せられたのかも知れません」

準主役・足立梨花は太陽のような女優

――今回、準主役を演じられた足立梨花さんは目がくっきりはっきりしているというより、顔立ちがスッキリした美人に思えます。足立さんを選んだ理由を教えてください。

「足立さんは前作の『クロユリ団地』のスピンオフドラマ『クロユリ団地~序章~』に出演してもらったんです。今回のスピンオフドラマ『劇場霊からの招待状』も監督してくれている、三宅隆太さんが演出している回のヒロインでした。
僕もすごく足立さんをいいなと思っていたし、プロデューサーからの推薦もあって、今回の出演が決まりました」

――現場での足立さんはどんな方でしたか?

「居るだけで場が明るくなる人でした。現場にとって余計な明るさではなく、こぼれ出るような天然な明るさです。助監督が『足立さんは太陽みたいですね』って言っていました。
印象的だったのが、足立さんのラストシーンの撮影です。撮影時が明け方だったこともあって、待ち時間、特殊メイクされたまま寝ていましたからね(笑)。
カメラが回ると、蘇って、ビシっと決めてくれていましたけど」

島崎遥香はなごみ厳禁、フィルムへのこだわり……

――主演の島崎さんは現場ではどのような様子でしたか?

「島崎さんには役に集中してもらうために、控室で籠ってもらうことが多かったです。
僕も『あなたは慣れてないから、照明待ちの時や休み時間、ヒロインとして他の役者となじみすぎるな』といいました。役者の経験も浅いので、役と切りかえるのが難しいだろうと判断したんです。僕も極力、島崎さんとは私語を交わさないようにしました。

ただ、一回だけ私語を交わして僕が助監督に怒られたことがありました(笑)。話した後になごみすぎて、自分の頭の中に緊張感もなくなって、なかなかOKが出せなかったんです。
俳優さんのせいじゃなく、僕の判断力が鈍っちゃうんですよね」

――最後に、デジタルが主流になりつつある昨今ですが、今回フィルムで撮影されてみてあらためて感じるフィルム撮影の魅力について教えてください。

「ホラーとフィルムは相性がいいんです。暗さの表現は今でもフィルムの方がリッチなんですよね。物凄く黒に近いけどどことなくグレーに近いというか……闇の濃さや発色の仕方もデジタルとは全く違います。フィルムで撮った作品も、最終的にはデジタル上映になるのですが、その時も色が残るんです。

予告編を観た人の感想を知人からのメールやTwitterで聞くと、みなさん違いを感じてくれていますね。
あとはフィルムだと“不安がったり怖がったりする芝居”がポンっと目に入ってくるんです。それに対してデジタルは写り方が均衡。ずっとフィルムで撮って来た映画監督としてはそう感じます。これからはデジタルがもっと主流になっていくので、デジタルの技術も人物を際立たせるためにもっとがんばらなきゃいけないですね」

国民的アイドルを女優として尊重する中田監督。
人が持つ普遍的な負の感情を怪奇現象と共に描いてきたJホラー界の大御所は、あらゆる人の立場を汲んで言葉を選び、作品にも映画界に対しても真摯に向き合っている姿が印象的だった。

そんな中田監督だからこそ、“無いものにされた声”を哀しくも、美しく映しだすことができるのかもしれない。
映画『劇場霊』は11月21日(土)より全国ロードショー。

(取材:霜田明寛 小峰克彦 文:小峰克彦)

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■関連リンク
・映画『劇場霊』公式サイト:http://gekijourei.jp/

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