ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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キム・ギドク「2016年3月11日の日本人へ」福島原発の影響で奇形児…衝撃映画で来日 

整形や死刑囚の恋……。これまで、映画という手段を通して韓国の暗部に切り込んできた、鬼才キム・ギドク。
最新作『STOP』のテーマに選んだ舞台は日本。福島で被災をし、奇形児が生まれることを懸念して、堕胎をも考える若い日本人夫婦の話だ。

あまりの刺激的な内容に、日本はおろか韓国でも公開が決まっていない本作。これまでキム・ギドク作品を上映してきた各地の映画祭でも、上映を断られたというこの映画が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で、ついに日本で初めて上映された。
監督は上映に合わせて緊急来日。ゆうばりで、キム・ギドク監督に話を聞いた。

忘却には“傷を治療するための忘却”と“恐ろしい忘却”がある

C
――震災からちょうど5年が経ちました。そしてこの作品を見て、僕たちは放射能や震災のことを、驚くくらいに“忘却してしまっている”ということに気づけました。

「“忘却”には2つあると思っています。ひとつは“神の最高の贈り物”と言えます。
例えば、親や近しい人が死んだ、といった苦しい思い出。そういった思い出は、忘れないとなかなか、生きていきづらいですよね。むしろ、忘れていくことで再生できるんですね。言い方を変えれば、“傷を治療するための忘却”といったところでしょう。

もうひとつは“恐ろしい忘却”です。人間が犯した失態を忘れてしまうと、より大きな事故に結びつきかねません。福島の原発事故のようなものを忘れてしまうというのは非常に危険です。
でも、日本人だから、韓国人だから、ということは関係なく、人は忘れてしまいます。問題を解決するよりも忘れる方がラクですしね。
今、日本では川内原発、高浜原発といった原発の再稼働の問題が出ています。韓国では、旅客船のセウォル号の問題もありました。ああいったこと忘れてしまったら、また、それ以上の大きな事故が起こりかねません。

人間はそういった過ちを繰り返してきました。でも、それよりは問題を解決する方法を考えていかなければならないのではないかと思います。
日本は、太陽光発電や地熱発電といった、いわゆる次世代エネルギーの技術が非常に高い国ですよね。それを電力会社が買ってくれない……といった色々な問題があるとは聞いております。もちろん、いっぺんに代替エネルギーに変えるということは難しいと思いますが、やはりそういう努力をしていくことがフクシマの再来を防ぎ、未来に備えるためには必要なのではないかと思います」

今度はハートウォーミングな映画も……

――正直『STOP』を見て、日本で生き続ける、ということが怖くなってしまいました。『STOP』に限らずですが、監督の作品を見ると、“世界の見え方”が変わってしまいます。
観客の“世界の見え方”を変えてしまう可能性があるということに、怖さはありませんか?

「その点は、いつもちょっと心配しています。特に日本で公開されたものは『魚と寝る女』『悪い男』など、ショックの強いものが多いですよね。ですから、日本の方がそれをどういう風に受け止めてくれるのか、というのはいつも気になっています。
ところがですね、『良かったよ』と言って下さる方が意外に多いですし、今回ゆうばりに来ても「記念写真撮りましょうよ」なんて言ってくれる方がたくさんいました。
そう言われたときには、映画を撮っていてよかったな、と思います。
一方で、作品を見て、あまり良い気分にならないという方もいるみたいなので、そういう方々のために、少し温かい、ハートウォーミングな映画も撮ってみたらどうだろう、と思ってもいます」

見せたいのは人間の本質

B
――ちなみに監督ご自身は、あれほどの濃度で世界を見つめていて、生きづらくなったりすることはないのですか?

「そうでもないですよ(笑)。人間が生きている限り、“見せるべきもの”も“見せられないもの”もないんじゃないかと思っています。
私が見せていきたいのは、人間の本質なんです。人間の「生」を見せること、とも言えますね。私の映画を見て、ショックや怒りを感じる方もいると思うんですけど、そういった感情も含めて人間であるということですね」

“時代を扱う”ことに意味がある

――この5年間の間に、日本では震災に関する映画も多く作られました。ですが、そういった社会性の強い作品は、興行的にはあまりヒットしない傾向があります。

「韓国も同じです。ハリウッド映画のような、ただ楽しい、単純な映画が人気があるっていうのは、当然だと思います。私の作品は、楽しいだけではなく、憂鬱な思いにもなります。
でも、そういった映画も海外に行けば、ファンが多かったりしますよね。日本では三池崇史監督や北野武監督などが当てはまるかもしれませんが、自分の国内では、非常に地味な映画でも、海外に行けば、次の作品を待っている人がすごくたくさんいる、というケースがあります。
それに、映画というのは作れば、時間がたっても、DVDやネットといった色々な手段で見ることが出来ます。お金は稼げないかもしれませんが、時代を記録すること、時代にあった事件を扱うことに意味があると思っています」

原発は日本だけではない世界の問題

A
――最後に、“2016年3月11日の日本人”へのメッセージをお願いします。

「私は、日本に友達がすごく多いんですが、みなさんとても良い方で優秀です。でも、日本と韓国は、過去の不幸な歴史のために、あまり仲が良くない状況です。特にスポーツの時には、お互いを殺し合うようなイメージで応援をしたりもします。
そんな中で作った、今回の『STOP』ですが、これは韓国人だとか日本人だとか、そういったことは関係なくて、人類の安全の問題だと思っています。
そして、5年前の3月11日にはたくさんの方が亡くなりました。亡くなった方のご家族のことを考えると、非常に心が痛みます。
そして、原発の問題は、終わっていません。終わっていないどころか、これからも、どんどん深刻なことになっていくかもしれません。世界中の技術者を集めてでもですね、早く自然な状態が戻ってくるようなことになればいいなと思っています」

キム・ギドクという“優しい警告”

作品の刺激の強さ、メッセージ性の強さから、キム・ギドク監督は、怖い人なのではないか、と思っていた。
だが、実際のキム・ギドクは、写真のように優しく笑う人だった。取材時だけではない。映画祭の期間中、多くの日本人と笑顔で触れ合っていた。
そこで感じた。キム・ギドクの警告は、愛であり優しさなのだ、と。
国家による警告は自分本位だが、キム・ギドクによる警告は、世界のことを考えた優しさなのだ。
映画という手段を使った、この“優しい警告”。
僕たちがしてしまっている“恐ろしい忘却”と、もっと多くの融合を起こしてくれることを願ってやまない。

(取材・文:霜田明寛)

映画『STOP』
2015年/日本語(英語字幕)/カラー/87分/ジャパンプレミア
提供:キム・ギドクフィルム
あらすじ
原発事故以来、福島から東京に引っ越した夫婦がいた。妻が妊娠をしましょう、しかし、夫は子供を産むことを望まず、妻は妊娠中絶を主張した。今、放射能から安全になったという証拠を見つけるために、夫は近所を探して、そこから衝撃的な場面を目撃することとなる。
キャスト&スタッフ
[監督・脚本]
キム・ギドク
[プロデューサー]
キム・ギドク
合アレン
[出演]
中江翼
堀夏子
田代大吾
武田裕光
合アレン
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