ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

なぜ勝地涼は生き残ってこれたのか 本人と考えてみた

俳優・勝地涼。2000年に日本テレビ系ドラマ『永遠の仔』で注目を集めて以降、ドラマ・映画・舞台と幅広く活躍。既にキャリアは16年を数え、今年、30歳を迎える。

そんな年に、勝地は『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』で、ニューウェーブアワードを受賞した。勝地を重用する脚本家・宮藤官九郎も2年前に受賞したこの賞は、新たな波を起こしたとされる人に贈られる賞だ。

確かに、勝地涼は、16年のキャリアがありながらも、そこに落ち着かず、どんどんと新たな顔を見せ、波を起こし続けている。しかし、きっとここまでの道のりは平坦ではなかったハズだ。
特に世代的には、多くの俳優たちが同時期に存在感を強くしてきたワケで、その中で16年経っても生き残り、そして現在のような独自の存在感を出すようになるのは容易ではなかったはず。

そこで『チェリー』では北海道に飛び、夕張市での授賞式にやって来た勝地にインタビュー。10代の頃から2015年のドラマ『おかしの家』『ど根性ガエル』の話までたっぷりと聞いた。そうそうたるメンバーと交友関係を広げる勝地の、人間的な魅力が伝わる取材時間となった。

10代から20代と、20代から30代……感じる2つの変化

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――まずは、ニューウェーブ賞受賞おめでとうこざいます。ご自身に、新しい波が起きているというか、平たく言うとキテる感じのようなものはありますか?

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「賞をいただいて、むしろこれから新しい波を見せられるように頑張っていかなければ、と思いました。今『キテる』っていうのは正直、感じていなくて、『もっともっと』という気持ちの方が強いです。でも焦っても意味が無いし、現状あるものにきちんと向き合っていこうと思っています。冗談では、宮藤官九郎さんとは『勝地くんキテるんじゃない?』『キテますねー』というような会話はしますけど(笑)」

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――キャリアも長いですが、これまでの俳優生活に波はありましたか?

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「“落ち着く”っていう感覚が、僕の中にあまりないんです。ひとつひとつの作品をやる度にソワソワもワクワクもしますし。10代から20代になるときに、自分の中に波を起こさないと大人になれなかったり、30歳を目前にした今も、求められるお芝居が変わってきていたりと色々な変化は感じますね」

嫉妬心に響いた山田孝之の言葉

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――気になります……! まずは10代の頃の勝地さんの話からお伺いしてもいいでしょうか。

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「10代の頃は嫉妬だらけでしたよ。『なんでこの人はこの役をやっているのに、自分はやれないんだろう』とか『なんで自分はこの舞台に立ててないんだろう』とか。特に高校時代は堀越学園っていうちょっと特殊な環境だったこともあって尚更思いました」

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――たしかに86年生まれの勝地さんの世代は、俳優も、堀越学園の芸能コースに在籍する生徒も層が厚かったです。

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「今はもう思わなくなりましたけど。山田孝之くんは『そうやって横を向いている時間があったら、自分で上を見てそっちを目指したらいいんじゃないの?』って言ってくれて、ホントにその通りだな、って思いました。
小栗旬くんも、10代の頃から友達ですけど、ドラマや映画で主役を背負っているし、自分の監督作品をゆうばりに持ってきたりとか、やっぱり輝いているので、尊敬もします。『凄い! いいなぁ』とは思うけど、でも、だからといって、自分が劣っている、と感じるワケではありません。だから、やっぱり自分のことを見つめていればいいんだ、とは思っています」

成長していく役とセリフ

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――それでは、30歳を目前にした今は、どんな変化を感じていらっしゃるのでしょうか?

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「台詞が成長してきているのを感じています。今まで、会社が舞台の物語だったら、新入社員役だったものが、少しずつ、後輩のいる役がもらえるようになってきています。
 
ドラマ『おかしの家』では、40歳手前の設定でセリフを言う場面があったんです。これまで色々悔しい思いをして、やっとやりたかったことに到達できたのに、『なんでこの仕事やっているんだろう』と言うんです。それって、10代のときには言えなかっただろうな、と思います。正直、29歳の自分でも、もしかしたら説得力に欠けていたかもしれません。だから、成長しているセリフに追いついてる自分でいたいですね」

『ど根性ガエル』奇跡のセリフは実は……

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――去年の勝地さんの出演のドラマでいえば『おかしの家』もよかったですが、『ど根性ガエル』の五郎も、また違う感じで素晴らしかったです。

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「五郎は、あれだけキャラクターの強い役で、子供たちにウケなかったら……落ち込みますよ(笑)」

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――4話で、柄本時生さん演じる、かつての仲間モグラが、街に花火師として戻ってきますよね。あの話の最後で、モグラが打ち上げた花火を見て、祭りの警備をしている五郎が、周囲の通行人に『あっしの友達でやんす!』と、話かけるところが最高に素晴らしかったです。

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「あそこ……いいですよね?」

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――ええ、花火を見上げていい表情をするだけでなく、他人に話しかけるという行動と、あのセリフがあることで、ゴロウのモグラへの思いと、みんなが過ごしてきた年月の重さが伝わってきて、感動が増しました。

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「あのセリフ、僕のアドリブなんです」

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――ええっ、アドリブだったんですか!! 勝地さん天才ですね!

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「思わず、出ちゃったんですよね(笑)。モグラをやったのが、愛らしい時生くんだったり、あの撮影したのが、モグラとのシーンを撮った後だったというのも大きく影響していると思います。気持ちが高ぶったんでしょうね。だから、映像だけど生ものだなって思うんです。そういう瞬間は嬉しいです」

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――それは、もう勝地さんが生み出した奇跡の瞬間ですね。

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「『おかしの家』の石井裕也監督にも『勝地くんは奇跡起きるよね』って言ってもらえるんです。でも、僕にはイマイチ理解できてないんです。だから、自分で狙っているわけじゃないので怖さもあるんですよね。だって、もしその瞬間に僕に奇跡が起きても、そのテイクがNGだったら、次のテイクでは出ないかもしれないじゃないですか。
 
でも『勝地くんの良さはそういうとこだよ』って石井さんに言ってもらったりすると、『あんまり考えないでやる瞬間も大事なのかも』って思えるんです。
蜷川幸雄さんに舞台でお世話になったときに『こういう勉強をしようと思ってんですけど……』ってちょっとアピールのつもりで言ったら、『勝地はそのままがいい。あんまり勉強とかしない方がいい』って返されたんです。」

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――ちょっと、石井裕也さんのおっしゃることと被る部分がありますね。

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「そうやって、言ってもらえることに共通点があると、その言葉を信じてしまいますよね(笑)。もちろん、ないものねだりをすれば、狙って奇跡を起こしていきたいですけど、役者はそれぞれ違うと思うので、僕は僕を受け入れようと思っています」

勝地涼の“かわいがられる才能”

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――こうやって振り返ってみて、ご自身では言いづらいと思うのですが、他にもたくさん俳優さんがいらっしゃったなかで、長い間生き残ってこられた理由って何があると思われますか?

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「これはイイ子ちゃん発言ではなく、ホントに思っているんですけど、ここまで役者を続けてこれたのは、出会ってきた人たちのおかげです。
出会ってきた先輩たちが、面白がってくれたり、可愛がってくれたり、いじってくれたり……そういうところから、自分ができていると思うんです。
 
10代のときにお世話になった阪本順治さん、また違う才能を見つけてくれた劇団 新感線の、いのうえひでのりさんや、古田新太さん……。
宮藤官九郎さんも『勝地くんて、バカなんじゃないの?』っていつも笑ってくれるんです。でも確かに僕はできないだろうと思われることもバカみたいに全力でやるようにしているんです。
そうやって、いじってくれた人たちのおかげで、役が広がっていったとも思っているので、本当に感謝しています」

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――そうそうたる面々にかわいがってもらっていますね……! もしかしたら、勝地さんは、かわいがってもらう才能があるのかもしれませんね。

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「それは……あるかもしれません(笑)。自分では、どちらかというと年上からは生意気と思われるタイプだと思っていたんです。
でも、もしかしたら、ある意味その生意気が良かったりするのかもしれないですね。吉田鋼太郎さんに対しては、僕ひどかったですから。同じ公演に出ているわけではないのに、同じホテルにいるっていうだけで『吉田鋼太郎につけといて』って飲み物を頼んでましたからね(笑)。もちろん知り合いではありましたけど、今ほど仲はよくない段階でした」

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――勝地さんも、それを受け入れてた吉田さんもすごいですね……。そういうのってもちろん生まれ持った部分もあるとは思うのですが、もし、かわいがられるコツみたいなものがあれば、教えてもらえないでしょうか?

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「コツは……全力です。『飲まない?』って誘われたら、考えるまもなく『行きます!』と即答ですし。あとは、かっこ悪くても、本気で悩んでいることを本気で相談すること、ですかね。僕が今仲良くしている後輩は、自分よりも身長高くてイケメンで、腹が立つんです(笑)。でも、『聞いてくださいよ!』『悔しいんすよ!』なんて言われると、ついつい聞いてしまうし、可愛げがあるんです。振り返ってみると、僕もそういう風にやっていたんだろうな、と思うんです」

後輩としてかわいがられてきた勝地涼。
自分も後輩をもつ年齢になり、自分の持っていた“かわいがってもらう才能”に気づく。
まもなくやってくる、30歳。かわいがることも、かわいがられることもできる年齢で、
今度はどんな波を起こしてくれるのか、目が離せない。

(取材・文・写真 霜田明寛)

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