ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

第3回「僕らがバラエティを見る理由」

仕事が忙しくてテレビなんか見る暇ない――そんな人に会うと、僕は決まってこう告げることにしている。「一週間で、たった1つのテレビ番組を見るだけで、世の中の流れが分かる便利な番組があるんですよ!」

大体、それは半年くらいのスパンで入れ替わり、以前は『マツコ&有吉の怒り新党』(テレビ朝日系)や『Youは何しに日本へ?』(テレビ東京系)、『ブラタモリ』(NHK)あたりを挙げていたと思う。ちなみに今は、『マツコの知らない世界』(TBS系)がそうだ。

もちろん――それらはバラエティ番組であって、情報番組じゃないから、世間を騒がしているニュースの裏側や次のトレンドをピンポイントで教えてくれるものじゃない。そうじゃなくて、僕が言いたいのは、世の中の空気感とか時代感とか、そういうこと。つまり――最も旬なバラエティ番組は、最も旬な空気感であふれていて、それを毎週見ていると、自ずと時代の空気と同化できるってワケ。

いきなり結論みたいになっちゃったけど、僕らがバラエティ番組を見るメリットは、今、現在進行形で進んでいるこの時代と“同化”できるからなんですね。

テレビは時代を映す鏡

よく「テレビは時代を映す鏡」と言われる。受信料で運営されるNHKは別として、民放は視聴率が広告料金にモロにハネ返ってくるから、どうしても数字狙いに走らざるを得ない。特にプライムタイム(19時~22時台)の視聴率争いはし烈で、テレビマンたちは四六時中「今、視聴者は何を見たがってるか?」を考えながら番組を作っている。

もちろん、その視点はバラエティに限らず、ドラマもドキュメンタリーもニュースもスポーツ中継も同じ。ほら、かつてドル箱だった巨人戦のナイター中継が、今や地上波でほとんど見かけなくなったのも、視聴者のニーズに合わなくなったから。代わって、近年その場所に定着したのがバラエティってワケ。その結果、今やプライムタイムの実に8割近くがバラエティなのだ。

昨年、日本テレビは2年連続「年間視聴率三冠王」を達成したけど、要するにそれは、プライムタイムの8割近くを占めるバラエティの視聴率が他局よりよかったから。つまり――今やバラエティを制す局がテレビ界を制すと。

バラエティ番組があるのは日本だけ

バラエティと聞いて、あなたがパッと思い浮かべるのは、どんな番組です?
恐らく――それは、派手なスタジオセットに、お笑い芸人をはじめ、トークスキルの高い俳優やグラビア出身タレント、元アスリートに文化人、それにハーフタレントやオネエタレントといった多彩な面々がひな壇に座り、何らかのVTRを見て、コメントする類いの番組じゃないだろうか。そのVTRも一般教養から生活お役立ち情報まで、何かと学べる要素があるのが最近のトレンドだったり――。

でも――あまり知られてないけど、世界広しと言えども、「バラエティ」というジャンルのテレビ番組が存在するのは、実は日本だけなんですね。

ちなみに、海外では90年代の終わりから「リアリティショー」が人気で、例えばアメリカでは、視聴者の電話投票で1人のスターを決める『アメリカン・アイドル』(FOX)や、大企業のCEOが自社の末端労働者に変装して潜入する『アンダー・カバー・ボス』(CBS)などが有名だ。このリアリティショーは、人気を博すと他国に“フォーマット”が売られるため、世界各国で『オーストラリアン・アイドル』や『アラブ・アイドル』といった姉妹番組が氾濫する。

バラエティ番組とリアリティショーの違いって?
一番の違いは、視聴者参加番組かどうかってこと。

日本はリアリティショー後進国?

日本でも、かつて『サバイバー』や『クイズ$ミリオネア』などのリアリティショーのフォーマットを購入して、その日本版をTBSやフジで放映したことがある。
でも、低視聴率から、いつしか“視聴者参加”が“芸能人ゲスト”に変わり、気が付けば――いつものバラエティ番組になっていた。
先の『アメリカン・アイドル』にしても、世界中にフォーマットが売られ、各国で盛り上がる中、どういうわけか先進国では日本だけが購入していない。

なぜ、日本にはリアリティショーは馴染まないのか?
ひょっとして、日本はリアリティショー後進国?

80年代に起きたバラエティ革命

いえいえ、その逆。日本はリアリティショー先進国。実のところ、日本ではとうの昔に似たようなことをやっていたんですね。
先の『アメリカン・アイドル』のフォーマットも、日本は既に70年代に『スター誕生!』(日本テレビ系)なるオーディション番組を生み出し、あまつさえ最終審査には芸能プロダクションやレコード会社が同席して、その場でスカウトのプラカードを挙げていた。
先の『アンダー・カバー・ボス』にしたって、既に90年代前半には同種の企画を『浅草橋ヤング洋品店』(テレビ東京系)で、「ファッション水戸黄門」や「お料理水戸黄門」と称してやっていたし――。

その昔、60年代から70年代にかけ、日本もクイズ番組を中心に、今のリアリティショー同様、視聴者参加のスタイルが隆盛を極めた時代があった。
でも、1981年に始まった『なるほど!ザ・ワールド』(フジテレビ系)をキッカケに、それらは一気に斜陽へ。代わって、芸能人が解答者として出演し、トークそのものを楽しむ新たな潮流が生まれた。クイズも単なる知識を問うものから、出題VTR自体を面白く見せるスタイルへと進化。
そう、今日の「バラエティ」のフォーマットの誕生である。

世界一面白い日本のバラエティ番組

実は70年代後半、テレビはラジオの深夜放送やマガジンハウス系の雑誌に押され、今と同じように若者たちの“テレビ離れ”を起こしていた時代があったんですね。
そこへ、前述のフジテレビが始めた“バラエティ革命”で、若者たちがテレビに再注目。その潮流はクイズ以外――歌番組や動物番組、紀行番組などへも波及し、他局も巻き込み、気が付けば、かつて存在した多様な番組は「バラエティ番組」へと変貌。一大ジャンルを築くに至った。
その一連の流れは、先にも述べた通り、要はテレビマンたちが四六時中「今、視聴者は何を見たがってるか?」を考えた結果なんですね。

そう、日本で世界的にヒットしたリアリティショーが今ひとつウケないのは、日本人のテレビに対する目が肥えてるから。80年代以降、30年以上もブラッシュアップを重ねたバラエティ番組のフォーマットは磐石。
試しに、平日のプライムタイムに、どの局でもいいから、オンエア中のバラエティ番組にチャンネルを合わせてほしい。まず間違いなく、面白いから。
実際、YouTubeなどの動画共有サイトを通じてアップされた日本のバラエティ番組(違法行為だけどネ)を見た外国人たちは、一様に「日本のテレビはなんて面白いんだ!」と絶賛コメントを多く残している。

お祭りはたまにやるから盛り上がる

ところが、である。そんな風に進化してきた日本のバラエティ番組が、数年前から雲行きが怪しくなってきた。若者のテレビ離れである。
原因の一つとして、どの番組も似たような作りになってしまい、強烈な個性に欠け、いわゆる「目的視聴」が減っていることが挙げられる。
家に帰ったら、ながら視聴でもとりあえずテレビを点けていた時代ならいざ知らず、ネットやスマホが優先される今、その傾向は命取りになりかねない。

そこで、それに対処すべく各局が講じたのが、スペシャル放送を増やすことだった。「今回はスペシャルなので、見逃せませんよ!」という具合。以前は年2回の改編期にしかやらなかったのを、2~3カ月に1回、どうかしたら月1のペースに。それは一定の効果はあった。
特に積極的だったのがテレビ朝日で、ひどい時は一週おきにレギュラー放送とスペシャル放送を繰り返した。その結果、同局は2012年と13年、2年連続でプライムタイムの年間視聴率トップに君臨する。

だが、お祭りはたまにあるから盛り上がる。そう頻繁にやられると、飽きるのも早い。2014年、テレ朝のスペシャル攻勢は失速。同局は年間視聴率トップの座を日本テレビに明け渡した。

『マツコの知らない世界』は脱“ゴールデン仕様”

そんな最中の2014年、今後のテレビ界の未来を占う1つの番組が始まった。
TBS系の『マツコの知らない世界』である。以前、深夜にやっていたのを21時台のゴールデンに持ってきたもの。画期的だったのは、深夜時代とまるでフォーマットを変えなかったのだ。

普通、深夜からゴールデンに上がると、スタジオセットを豪華にしたり、出演者を増やしたり、新たなコーナーを設けたりと、いわゆる“ゴールデン仕様”に変更しがち。深夜時代より幅広い視聴者を相手にするので、万人に受け入れられるように――と。確かに、『トリビアの泉』(フジテレビ系)のように、それで視聴率を上げた番組もある。

でも、深夜時代にヒットしてゴールデンに移動したものの、その“仕様変更”が裏目に出て、新規客の獲得に失敗したばかりか、旧来のファンまで失い、あえなく打ち切られた番組も少なくない。『アメトーーク!』なんて、その仕様変更が嫌で、同番組の演出を務める加地倫三ゼネラルプロデューサーは、頑なにゴールデンに上がるのを拒んでいるほど。

視聴者の心を掴むには“こちら側”にいること

そんな風潮の中、『マツコの知らない世界』は、30分番組から60分番組に変更された以外は、何一つ仕様を変えずにゴールデンに船出した。

同番組のフォーマットは、MCのマツコ・デラックスが、ある分野に詳しい“スペシャリスト”のゲストからプレゼンを受けつつ、やりとりするだけ。21時台の番組で、ひたすら2ショット映像が続くのは異例である。

でも、これがよかった。シンプルな画は昨今の賑やかすぎるバラエティに食傷気味の視聴者を癒やし、深夜時代からのファンは変わらないフォーマットに安堵した。何より彼らの心を掴んだのは、マツコが“こちら側”の住人と思われたこと。そう、こちら側――。
その証拠に、マツコはしばしばテレビ的にギリギリな本音を吐く。ポテトチップスがテーマの回などは、山芳製菓のキャビア味のポテトチップスを思わず「まずい!」と表現したほど。
テレビのこちら側の視聴者が喝采したのは言うまでもない。

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時代を反映する鍵は「目的視聴」

同番組が始まる前、TBSの火曜21時枠は、裏に『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)や『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系)などの強敵が控え、視聴率は一桁台で苦しんでいた。が、『マツコの知らない世界』が始まるや否や数字を二桁に乗せ、スペシャルではなんと14%台もの高視聴率を記録する――。

いや、視聴率以上に驚かされるのが、同番組の録画率だ。2015年の年間平均視聴率ではバラエティ部門の30位なのに、録画率に目を転じると、『アメトーーク!』に次いで、バラエティ部門の堂々第2位。録画率とは、要は目的視聴。テレビが点いているから、なんとなく見るんじゃなくて、明確に「見たい」から見る番組のこと。

そう、これこそが、僕が同番組を「一週間のうち、これを見るだけで世の中の流れが分かりますよ!」と人に薦める理由。多くの人が目的を持って見る番組こそ、今の時代の空気を最も反映しているんじゃないかって。

「しくじり先生」はテレビ版週刊文春

もう一つ、僕が推す番組がある。
テレビ朝日系の『しくじり先生 俺みたいになるな!!』もそう。こちらも『マツコの知らない世界』同様、深夜でヒットしてゴールデンに上がった番組だけど、放送尺が30分から60分に伸びた以外は、何一つ仕様を変えなかった。

ただ、開始前は不安もあった。この番組の身上はキャスティング。深夜時代はオリラジあっちゃんに「普通の笑いを作りたいんじゃないんですよ。僕、時代を作りたいんすよ」とかつての若気の至りの発言を反省させたり、浅田舞に天才の妹を持ってグレちゃった過去をカミングアウトさせたりと、エッジの立たせ方が絶妙だった。
それがゴールデンに上がると、尺が倍になるのに、そんなに毎週、面白い人が続くものかと。もしかしたら、キャスティングの基準が甘くなるのではと――。

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だが、その不安は徒労に終わった。
同番組はゴールデンに上がった後も、「襟は大事」の名言を残したホリエモンをはじめ、前園真聖や新垣隆、ヒロミやTMNの木根尚登らを担ぎ出し、深夜時代以上の神回を連発する。クオリティ優先の主義なのか、平均して月に2回程度の放送ペースがいい感じに機能している。これなら深夜時代とキャスティングのペースは変わらない。

それにしても、同番組で特筆すべきは、ヤフーニュースの記事になる頻度の高さ。大体、2回に1回はゲストの“しくじり”が記事になる。いわば、テレビ版週刊文春とでも言おうか。
ただ、あちらはしくじりを暴露された人たちは、それ以降の活躍の機会が減るのに対し、こちらは前園やヒロミみたいに、逆に活躍の場を広げるケースが多い。

ショーン・マクアードル川上さん、待ってます、ね。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

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