ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

第4回「ニュース戦線異常あり!?」

このごろ、何かとニュース界隈が騒がしい。
原因は、この4月から衣替えした3つのニュース番組だ。メインキャスターが古舘伊知郎サンから富川悠太アナウンサーに変わった『報道ステーション』(テレビ朝日系)、アンカーパーソンが毎日新聞の岸井成格サンから朝日新聞の星浩サンに変わった『NEWS23』(TBS系)、それに番組自体が一新された『ユアタイム〜あなたの時間〜』(フジテレビ系)がそう。

そうそう、これら一連のキャスター交代劇は、一部で「政府からの圧力?」なんて陰謀論も囁かれたけど――それは先の3月24日に『日本外国特派員協会』(よくニュースで目にする青い旗の前で会見するアレですね)で行われた田原総一朗サンらの記者会見で、当の岸井サン自らが否定したし、古舘サンも別のインタビューで「降板は自分の意志」と発言してるので――多分、偶然でしょう。

あっ、同じくくりで、NHK『クローズアップ現代+』の国谷裕子キャスターの降板も話題になったけど、あっちは単に自局の50代以下の視聴者層の少なさに危機感を抱いたNHK編成局の意向。要は「バラエティ番組を前倒しして、クロ現は遅い時間に移して、キャスターを若い視聴者向けに一新しちゃおう!」ってワケ。残念ながら、そこに政治的意図はない。

ニュースは習慣視聴

さて、そんな次第で、この4月から新装開店した3つのニュース番組。その評判はどうか?

まずは初回視聴率から見ていきましょうか。『報ステ』が12.0%、『23』が5.4%、『ユアタイム』が4.0%――。

『報ステ』のみ午後10時台の放送で、あとの2つは、各局のニュース番組が揃う激戦区の11時台。ニュースの潜在視聴率は大体10%程度と言われるので、それを独占できる『報ステ』と、視聴者が分散する11時台のニュースとで数字に開きがあるのは仕方ない。ちなみに、これらの初回値――残念ながら、いずれも衣替え前より若干ダウンしたんですね。

でも、心配ご無用。基本、ニュース番組というのは習慣視聴。いわば視聴者は馴染みのバーに毎晩通い、マスターのウンチクに耳を傾けるようにチャンネルを合わせるようなもの。新参者がいきなり支持を集められる世界じゃないのだ。

ニュースステーションの初週は8%台だった

現に、あの一世を風靡した『ニュースステーション』(テレビ朝日系)ですら、それまでバラエティ番組で人気司会者だった久米宏サンがニュースに転じて大いに話題になったけど――初週の平均視聴率はわずか8%台と一桁だった。

同番組の視聴率が上向くのは、それから4ヶ月後のフィリピン政変からなんですね。当時、女子大生(!)だった安藤優子サンが現地から連日、生の情報をリポート。これに視聴者がクギヅケとなり、番組開始半年後には20%の大台に。そこからの人気ぶりはご承知の通り。

何が言いたいかというと、先の3つのニュース番組も最低、半年間は生温かく見守りましょうよ、ということ。

とはいえ、これら新装開店したばかりのニュース番組に、いきなりの試練が降りかかる――熊本地震である。

開始1週目で震災に遭遇した報ステ

特に大変だったのが、衣替えしたその週に、いきなり地震の報に接した『報道ステーション』(テレビ朝日系)。それは、番組開始4日目のこと。

午後9時26分、熊本県で震度7の揺れを観測。NHKの『ニュースウォッチ9』はそのまま10時台も番組を続け、『報ステ』も急遽、震災特別編成で対応する。裏に競合するニュース番組がないのが報ステの強みだったのに、いきなりのライバル出現。しかも相手は「有事の際のNHK」と言われる強敵だ。ここで大幅に視聴率を奪われるようだと、報道番組としての看板に傷がつきかねない。

結果は――10時台のNHKが17.8%、『報ステ』が13.7%。ちなみに、同時間帯の民放他局の震災報道特番は5~8%台だったので、これはもう大・大健闘。

現地入りして本震に遭遇した富川アナ

ちなみに、富川アナは翌15日には、最も被害の大きかった熊本県益城町に現地入り。僕の見た限り、被災者を思いやり、精力的に動き回るその姿は、むしろスタジオにいる時よりも彼の真価が発揮されていたように思う。しかも富川アナはその数時間後、なんと本震に遭遇する――。

まぁ、思わぬ波乱のデビューとなったワケだけど、ニュース番組の矜持が問われるのは、大災害や大事件が起きた時。いたずらに煽らず、冷静沈着に――でも必要な情報をコンパクトかつスピーディーに届けるのがニュースの身上。

その意味では、古舘時代から現場リポートの場数を踏んできた富川アナならではの報道ぶりだったと思う。少なくとも、古舘サンにこの機動力はない。

報ステはリア充ステーション!?

一応、震災が起きる前の平常運転の『報ステ』も検証しておきましょう。
たった3日間の検証になるけど――とにかくスタジオの雰囲気が明るいのが僕の印象ですネ。

なんたって富川アナと小川彩佳アナが並ぶと、壮観だ。美男美女の揃い踏み。富川アナは生粋の体育会系のイケメンだし、小川アナは帰国子女で、青学初等部からエスカレーターのお嬢様。心なし、彼女は古舘時代より伸び伸びやっているようにも見える。

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さらに、この2人が並んだところに、スポーツコーナーのキャスターの松岡修造サンや新レギュラーの元水泳選手の寺川綾サンが並ぶと――なんというか、ほとばしるリア充感というか、Facebook臭というか、まるでアメリカのアイビーリーグの学生たちを見ているようだ。

いっそ、富川アナが冒頭で「こんばんは。リア充ステーションです」と挨拶しても許せてしまえるくらいの圧倒的な明るさなのだ。

新生報ステに見られる“両論併記”

『報ステ』のリニューアル前、一部の識者たちの間では、「局アナがメインキャスターでは、牙を抜かれたも同然」みたいな悲観的な論調が見受けられた。でも――僕の見る限り、今のところ、むしろ本来の報道のスタンスに立ち返っているようにも見える。

例えば、4月12日に報じられた、千葉県市川市で開園予定だった保育園が近隣住民の反対で開園を断念したニュース。いつものように、子供たちの声を“騒音”と断じた近隣の老人たちを非難する論調かと思いきや――小川アナは「取材を進めていきますと、どうもそれだけではないようです」と、ニュースを深掘り。いわく、道路の道幅が狭く園児たちの送迎に危険が伴うことや、事前説明がなく唐突に建設計画が立てられ、住民たちの理解が得られなかった――等々の理由が判明した。

そう、いたずらにニュースを善VS.悪の二元論にはめ込まず、多様な視点で報じる。これこそがニュース本来の役割、“両論併記”である。

米メディアの“イエロージャーナリズム”への反省

ニュースを伝える際、誰かを悪者にしてスパッと斬れば、そりゃあ番組は盛り上がるし、視聴率も上がるかもしれない。でも、それじゃワイドショーと同じだ。欧米でいうところのイエロージャーナリズムである。

イエロージャーナリズムって?
19世紀末のアメリカで起きた、『ニューヨーク・ワールド』と『ニューヨーク・ジャーナル』の2つの大衆紙の部数競争に端を発する戦争スキャンダルのこと。
当時、両紙は日々センセーショナルな記事で米国民を煽り、双方とも『イエロー・キッド』なる風刺漫画を連載していたことから、世間はその争いを「イエロージャーナリズム」と呼び、面白がった。

そして事件は起きる。1898年2月15日。アメリカの戦艦メイン号が、当時、スペインの植民地だったキューバのハバナ湾で爆発して沈没。両紙は早速、この事故を確たる証拠もなしに、キューバ独立を妨害するスペインの仕業と報道する(実際は濡れ衣だった)。米世論は「スペイン打倒」で沸騰。そして世論に動かされ、遂にアメリカ政府はスペインとの戦争に踏み切る――。

開戦に先立ち、『ニューヨーク・ジャーナル』の社主ウィリアム・ハーストがキューバに派遣中の挿絵画家フレデリック・レミントンに送った有名な電報がある。
「君は絵を送れ、私は戦争を作る」

リニューアルは朝日への大政奉還?

そう、時にメディアは戦争すら作ってしまう――。その反省に立ち、今日の米国のジャーナリズムは、“両論併記”の報道を原則とする。

古舘時代の『報ステ』がニュースを単純化して、視聴者を煽っていたとは言わない。でも、芸能プロダクションの古舘プロジェクトが番組の内部に入ることで、自ずと“見せる”方向へ番組の比重が置かれていたことは少なからず否めない。何せ、彼らはその道のプロなのだ。

今回、同番組は古舘サンの降板ばかりが取りざたされたけど、実は古舘プロジェクトが外れた意味の方が僕は大きいように思う。

それはつまり――(久米宏サンを擁する)オフィス・トゥー・ワンが番組制作に入った『ニュースステーション』の開始から30年かかって、ようやくテレビ朝日が局の看板であるニュース番組で、完全にANN(オール・ニッポン・ニュース・ネットワーク/朝日のTVニュースネットワーク)の体制に戻すことができたことを意味する。
いわば、朝日新聞への大政奉還だ。

元は親戚関係だったTBSと朝日新聞

さて、話変わって――今度はTBS系の『NEWS23』である。

前述の『報ステ』に比べると、どうしても地味な印象が付きまとう。新しいアンカーパーソンの星浩サンと言っても、大抵の人はピンとこないだろう。顔を見たら「あぁ、報ステに出てたあの人か」という感じか。

そう、星サンは朝日新聞の人だ(現在は退職への手続き中とのこと)。ワシントン特派員や政治部デスクなどを歴任したベテラン編集委員。
えっ、なぜ朝日新聞の人がTBSのニュースに出るのかって?

元々、TBSは開局にあたり、朝毎讀の三大紙が各々で民間ラジオ局を作る計画だったのを電通の4代目社長吉田秀雄サンが一本化して創設した経緯もあり、朝日新聞の資本も入っていた。

現に、開局してしばらくは、TBSは大阪で朝日新聞が設立した朝日放送と系列関係にあった。それが田中角栄の斡旋で1975年、東京と大阪の“腸ねん転”が解消され、現在のTBS-毎日放送、テレビ朝日-朝日放送の系列が完成する。だからTBSと朝日新聞は、元々は親戚同士だったってワケ。

実際、『NEWS23』の前身番組の『筑紫哲也 NEWS23』でアンカーを務めた筑紫哲也サンも、元はと言えば朝日新聞の記者だった。

民放随一の取材力、JNN

今でこそ、TBSは視聴率争いで日本テレビやテレビ朝日の遥か後塵を拝している。でも、かつて1960年代から70年代にかけては“民放の雄”と呼ばれ、常に視聴率はトップの座にあった。

ドラマもバラエティも歌番組も子供番組も、話題になるのは大抵、TBSだった。そしてニュースも――「報道のTBS」の異名を持ち、民放随一の取材力を誇るJNN(ジャパン・ニュース・ネットワーク)をバックに、三大紙やNHKに負けない強力な報道体制を敷いていた。

JNNとは、TBSの全国系列局で作るネットワークのこと。多くはラジオも兼営する老舗のテレビ局で構成され、それゆえ人材も豊富だった。

ちなみに、当時のTBSの代表的なニュース番組が『JNNニュースコープ』。アンカーパーソンが仕切るアメリカのニュースショーに近いフォーマットで、田英夫サンをはじめ、古谷綱正サンや浅野輔サンなど、歴代のアンカーは一流のジャーナリストたちが務めた。

当時のニュース番組は、各局ともアナウンサーが淡々と原稿を読むストレートニュースが主流だったので、『ニュースコープ』は異色の存在だったんですね。

そして現在――TBSの看板ニュースは『NEWS23』。今もJNNの取材力は民放随一を誇り、アナウンサーではなく、ジャーナリストをアンカーに据えるフォーマットも昔のままってワケ。

キャスターとアンカーパーソンの違い

そう、アンカーパーソン。ここに、TBSのニュースに対する矜持がある。
日本では、ニュースを読む人は「キャスター」と呼ばれるけど、実はその言葉、和製英語なんですね。欧米では「アンカーパーソン」が普通。

キャスターとアンカーパーソンの違いって?
簡単に言えば、ニュースの編集権があるかどうかってこと。
欧米のニュース番組は、アンカーがニュースの編集権を持ち、その日、どのニュースをどの順番で、どの配分で伝えるかなどを自ら決める。筑紫哲也サンがやっていたのが、まさにこのスタイル。星サンの前任者の岸井成格サンも編集権を持っていた。

星サンはまだ就任したばかりなので、まだその辺りは試運転かもしれないけど――いずれ編集権を任せられると思う。じゃなきゃ、わざわざ朝日新聞の編集委員をスカウトしたりしない。

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今、星サンへの論評で見受けられるのが、目が泳いでいるだとか、ニュースを伝えるのが下手だとか――。でも、そんなのはじきに慣れるだろうし、そもそも上手く伝えてくれる人を望むなら、アナウンサーを起用すればいい話。

そうじゃなくて、アンカーに求められる能力は、「何を、どう伝えるか?」のジャーナリズムの視点。
半年後に、星サンならではのニュースの切り口を見てみたい。

アンカーは意見を述べるべきか?

そうそう、『NEWS23』と言えば、星サンの前任者の岸井成格サンが発したコメントが、一部の識者たちから「放送法に定められた政治的公平性に欠ける」と批判されたことがあった。

まぁ、つい熱くなって口が滑ったのかもしれないけど、欧米の基準で言えば、アンカーが私的な意見を述べるのは基本、タブーとされる。むしろ、意見を言わないことがジャーナリストの矜持とさえ思われているほど。

欧米のニュースの基本スタイルは、アンカーは交通整理の役目である。詳しく解説を付け加えるのは、その分野の専門家たち。大学教授やシンクタンクの研究員ってところ(間違ってもコメンテーターじゃない)。そして先にも述べた通り――必ず2つの視点、両論併記がマストになる。そして結論には言及しない。最終的な判断は視聴者の手に委ねられる。

メディアの役割は多様な光を当てること

よくマスメディアの役割を「権力の監視」とする論調があるけど、それはちょっとおこがましい。本当に権力を監視する役目を担うのは、国民なんですね。それが成熟した民主主義のあり方。

じゃあ、マスメディアの役目って?
国民に“真実”を伝えること。正義は人の数だけあるけど、真実は1つしかない。そこに多様な光を当て、議論を深めるのがマスメディアの役割。そして――光の当て方で、マスメディアはその個性をいかんなく発揮できるってワケ。

それが、ニュース番組における本来のアンカーパーソンの役目なんですね。岸井サンがやるべき役割も、実はそこだった。

伝説的ジャーナリスト、ウォルター・クロンカイト

そう、アンカーパーソンは意見を述べない――そんな“矜持”を生涯貫いた代表的人物に、クロンカイトがいる。
ウォルター・クロンカイト。米CBSの『イブニングニュース』のアンカーを20年近く務め、その真摯な報道姿勢から「大統領よりも信頼できる男」と呼ばれた伝説のジャーナリストだ。

でも、そんなクロンカイトも、生涯でただ一度だけ、私的コメントを発したことがある。それは1968年2月、ベトナム戦争の「テト攻勢」が行われた直後のこと。クロンカイトは現地からのニュースを伝えたあと、一拍置いて、カメラ目線で次のように語ったのだ。
「民主主義を擁護すべき立場にあるアメリカ軍には、これ以上の攻勢ではなく、むしろ交渉を求めるものであります」

――それは、常に冷静沈着なクロンカイトにしては、珍しく感情を露わにした厳しい口調だった。その時、彼ははっきりと戦争反対を唱えたのである。

その発言はアメリカ世論に大きな衝撃を与え、時の大統領リンドン・ジョンソンは、こう嘆いたという。「クロンカイトの支持を失うということは、アメリカの中道層を失うということだ」

結局、それが引き金になり、アメリカ世論はベトナムからの撤退論が主流になる。そして――クロンカイトは翌日から、また元の冷静沈着なアンカーパーソンに戻ったのである。アンカーのひと言が世論を動かす強い影響力を持っていることを、誰よりもクロンカイト自身が危惧したからである。

メインキャスターが降りたユアタイム

さて、この記事も随分長くなったけど、いよいよ最後のニュース番組、フジテレビ系の『ユアタイム〜あなたの時間〜』に移りたいと思う。
もう、多くを語る必要はありませんね。皆さんご承知の通り、開始前から大騒動を起こした番組である。

当初、メインキャスターに就く予定だったショーン・マクアードル川上サンが、『週刊文春』に学歴詐称疑惑をすっぱ抜かれ、テレビ界を揺るがす大騒動に発展したのが3月15日。そして翌日、彼は早々に自ら出演辞退を申し出る。

とはいえ、この時点で番組スタートまで半月余り。もはや代わりを見つける時間はない。結局、当初サブの予定だったモデルの市川紗椰サンがメインキャスターに昇格――。
そして、僕らは伝説を目撃する。

その日、僕らは歴史の証人になった

実は、アナウンサーやジャーナリスト以外の人物がニュースキャスターに就くことは、特段珍しいことじゃないんですね。過去にも、女優の星野知子サンや俳優の石田純一サンらがキャスターとしてニュースを読んだことがある。
とはいえ、そこは役者。カメラが回ると、まるで彼らはドラマの中でニュースキャスターを演じるように、ごく自然に振る舞った。むしろ風格すらあった。

さて、そこで市川紗椰サンだ。
彼女の本業はモデルである。一応、『ホウドウキョク』なるフジテレビがネット配信する番組でキャスター経験があるものの、予算も視聴者数も桁違いの地上波の番組は、やはり別もの。しかも報道番組ともなれば、彼女がそれまで出演経験のある地上波のバラエティや情報番組とも、スタジオの雰囲気もスタッフの種類も別世界。
そこで何が起こったか?

――僕らは伝説を目撃したのである。身体はずっと前後に揺れ、目は虚ろに宙をさまよい、言葉もどこか上の空のメインキャスターという伝説を。
左右をベテランの野島卓アナウンサーらが固めるものの、番組はそんな彼女を中心に回っていたのである。

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1つ、確かなことがある。
今、この番組を見ている僕たちは、間違いなく歴史の証人になれるってこと。

すべてはニュースステーションから始まった

――以上、2016年のニュース戦線を紹介してきましたが、実はこのバトル、元をたどれば、その源流は1つのニュース番組に行き着くんですね。

番組の名は、先にも何度か登場した『ニュースステーション』(テレビ朝日系)。その歴史的扉が開けられたのは、1985年10月7日。

若い方々は知らないと思うので、簡単に番組を紹介すると――メインキャスターは、それまでバラエティや歌番組の司会で人気を博していた久米宏サン。華麗なる転身劇だ。それだけでも驚きなのに、このニュース番組はとにかく異例づくしだった。

まず、コンセプトは「中学生でもわかるニュース」。そして、それまでテレビ局にとって“聖域”とされた報道番組に、バラエティや情報番組の制作会社であるオフィス・トゥー・ワンが「企画・制作協力」の形で関わったのだ。

それだけじゃない。サブキャスターやリポート陣は一般から公募。そして銀行マンや商社のOL、つくば科学万博のコンパニオンや大学生らが採用される。しかも――スタジオには観客を入れ、なんと公開放送だった。断わっておくが、ニュース番組である。

岡田有希子が教えてくれたこと

とはいえ、先にも述べた通り、番組は開始早々、一桁台の低視聴率に苦しむ。
そしてマイナーチェンジを繰り返し、気が付けば――公開放送をやめ、公募で選んだリポーターも減らし、普通のニュース番組になろうとしていた。

1つ、象徴的なエピソードがある。
番組スタートから半年後の4月8日、アイドル歌手の岡田有希子サンが投身自殺を遂げた。『ザ・ベストテン』時代、彼女と親しくしていた久米サンは大変なショックを受ける。

その日、打ち合わせの席で番組プロデューサーから今日報じるニュース原稿を渡された久米サン。その中に岡田サンの自殺のニュースが入ってないのに気がつく。以前、芸能の世界に身を置いていた久米サンにとっては大事件でも、報道の世界では、それほどプライオリティーは高くないらしい。

だが、ここで久米サンは考えた。
「待てよ、自分がニュース番組を始めたのは、もっとお茶の間に近いニュースを伝えたかったからでは?」

そう、スタジオに観客を入れたのも、リポーターを一般公募から選んだのも、全てはお茶の間に近づくためだった。残念ながら、それらのアイデアは挫折したけど、久米サンは最も大事な最後の一線で踏み止まる。
「そうだ、岡田さんのニュースを報じよう」

かくして――『ニュースステーション』はお茶の間の支持を得て、大人気番組へと成長するのである。

Nステが僕らに教えてくれること

『Nステ』が、後のニュース番組に与えた最も大きな影響が、キャスターのコメント力である。
今日、ほとんどのニュース番組はキャスターが意見を述べる。それは日本独自のスタイルだけど、その源流は久米サンにあると考えて間違いない。

――とは言え、以前、久米サンはあるインタビューで『Nステ』における自分の立ち位置について、こんな風に答えていた。
「自分はキャスターではなく、ニュース番組の司会者です」

そう、久米サンはハナから自分をキャスターとは思っていなかった。公正中立を柱とする欧米のアンカーパーソンとは、自分は別物と自覚していたのだ。

『Nステ』が今日の僕らに教えてくれることが2つある。
1つは、ニュースはもっと自由でいいということ。
そしてもう1つは――そもそもチャレンジしないと、新しい扉は開けられないということ。初めから成功する番組なんてない。数々の失敗の先に、成功へのヒントが見える、と。

そう――市川紗椰サン、無駄な失敗なんてないんです。
ドンマイ。

(文:指南役)

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