ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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「重岡大毅も千葉雄大も顔きっかけだけど…」『利息で~』監督が絶賛

伊坂作品で仙台を映してきた名監督
新作は250年前の仙台が舞台

『ゴールデンスランバー』『予告犯』など、優れたエンターテイメント映画を次々と生み出してきた映画監督・中村義洋。

特に、伊坂幸太郎作品(『アヒルと鴨のコインロッカー』など)をはじめとした原作モノにおいては、“文体の温度感を活かした演出”と、“無駄がないのに遊びのある映像表現”が秀逸。その作品は原作本のファンからも支持されている。

仙台在住の作家・伊坂幸太郎作品の映像化で、仙台を舞台にした作品の印象が強い中村監督。5月14日(土)から公開される、新作『殿、利息でござる!』も、250年前の仙台を舞台にした初の時代劇だ。

藩から課せられた重い年貢により、夜逃げが相次いでいた宿場町・吉岡宿。お上にお金を貸し出し、利息で経済を立て直すため、数名の庶民が、千両(3億円)を目標に貯金をはじめる。仙台人の勇気と知恵と忍耐で町を守った、実話が元になった物語だ。

今回はチェリー編集部が、仙台をこよなく愛する中村監督に、仙台人の魅力や『殿、利息でござる!』の製作に至るまでの背景を聞いた!

中村義洋監督が語る、仙台人の慎み深さ

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――『殿、利息でござる!』は仙台のテレビ局が企画した映画ですね。

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「仙台にある、東日本放送からお話をいただきました。あの局はドラマ部門がなくて、報道番組や情報番組をメインに制作しているんです。
社員の方から『ずっと報道をやってきましたが、震災から5年目の企画では、どうしてもドラマを作りたいんです!』と言われたのが印象的でしたね。
原案となる題材を色々と見ていくうちに、『殿、利息でござる!』の原作、磯田道史さんの『無私の日本人』に出会ったんです」

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――色々と題材はあったと思うのですが、なぜ『無私の日本人』だったのでしょうか?

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「東日本大震災の時、仙台の人たちの精神性が、海外の方々から賞賛されました。それは“震災の最中にも関わらず、暴動も起きず、粛々と行動していた”とか、そういう忍耐と美徳の意識です。
『無私の日本人』には、そんな仙台の人々が現代まで受け継いできた精神がしっかりと描写されていました。
 
もう一つ、運命を感じたのが、舞台となった宿場町・吉岡宿が、東日本放送から車で15分ほどの場所にある土地だったことです。
それを聞いたら、やらない手はないですよね。
時代劇ということもあり、予算が増えてしまうことはわかっていましたが、当初の予定だったドラマ作りから、規模を広げて、映画製作へと踏み出すことになりました」

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――確かに、それは運命的ですね……! 今、仙台に住む人たちと接していて、250年前の吉岡宿の人たちと通じる精神を実感した瞬間はありますか?

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「今、仙台に住んでいる人たちも慎み深いですね。その印象は『アヒルと鴨のコインロッカー』で最初に仙台に来てからずーっと変わりません。
取材には、記者の方に囲まれて、次々と質問をされる囲み取材という形態があります。
仙台の囲み取材は、僕を囲む5、6人の記者の方が下を向いて、なかなか口を開かないんですよ(笑)囲んでるのに

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――相当、慎み深いんですね(笑)。

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「他にも、仙台でご飯屋さんに入った時に、笹かまや牛タン、ずんだなど、絶品だった名物を褒めても、どの店員さんも『東京にはもっとおいしい食べ物あるんでしょ』とおっしゃる(笑)」

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――そこまで謙虚な性格の方が集まっていると、はじめて仙台に行った人は驚きますね。

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「『ゴールデンスランバー』のPRで堺雅人くんと竹内結子さんを仙台へ連れていった時、20人ほど記者の方がいる、合同会見をやったんですね。
その会見がはじまる前に『誰も質問して来ないかもしれないけれど、別に映画が面白くなくて発言しないわけじゃないからね。みんなやる気に満ちているけれど、少しおしとやかなだけだから』と2人に入れ知恵をしておきました(笑)」

羽生結弦にしか出せない、身分と時代設定の説得力

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――この作品には、宮城県出身の羽生結弦選手が出演されていることも話題になりました。仙台藩主・伊達重村役に羽生さんを起用した背景を教えてください。

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「キャスティングを決める会議中に、誰かが、冗談のつもりで羽生結弦の名前を出したんですよ。
その場にいた5、6人が全員、口には出さないけれど『それだ!』と思ったはずです。
さすがに出てもらえるとは思ってはいませんでしたが、一応、打診しました。
しばらくして、スタッフから『出演すると仰ってますけど、どうしますか?』と言われた時は驚きましたね」

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――撮影当日まで他のキャストの方に、羽生さんが出演されることは秘密にされていたそうですね。

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「他の俳優にバレないように、撮影当日もリハーサルまでは内緒にしていました。
きたろうさんが『キムタクなのではないか……?』といった感じで、伊達重村役を当てようとしてきたけれど、バレませんでしたね(笑)」

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――『殿、利息でござる!』の役の中で、最も身分が高い役柄として、説得力のある存在感でしたね。
みなさんがひれ伏す姿が演技だと知りながらも、撮影現場のことを想像して、ニヤニヤしてしまいました。

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「この豪華なキャスト陣が『殿だ!』とひれ伏して、説得力が生まれる俳優さんはなかなかいないですよね。史実に基づくと伊達重村は当時、25歳くらいだったそうです。
今、25歳の俳優でこの役を探すとなると、難しいですよね(笑)。
 
普段は俳優ではないですが、圧倒的な存在感を持つ彼にお願いできて、本当によかったと思っています。
きっと当時の庶民たちも、身分制度的に殿様を直接見てはいけないものの、なかなか会えない方なので、顔を見たいと思うはずです。
そんな役柄における設定と、俳優たちと羽生さんとの関係性がピッタリ重なりますよね

「千葉雄大の演技を見て、現場で泣いてしまった」

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――羽生さんに限らず、若手キャストの皆さんの演技も光っていましたね。
千坂仲内役の千葉雄大さんが、今までのイメージとは異なる役柄で印象に残っています。

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「仲内の役は、誤解を恐れずに言うと、誰が演じても面白い脚本に出来上がっていると思っていました。
ただ、出来れば甘い顔立ちの、見た目がおぼっちゃん風の方をキャスティングしたかったんです。
そういう俳優さん、今いっぱいいらっしゃるじゃないですか(笑)。
 
スタッフから『仙台の横にある多賀城市の出身だから、仲内役を千葉雄大さんにしませんか?』と言われて、顔を見たらこの役に理想のイケメンだったので、即決しました

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――ええっ、演技を見ないで決めた、ということですか?

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「でも、演技を見ないで決めたにも関わらず、現場のお芝居を見て、『本当に千葉くんでよかった』と思いましたね。
“代官である堀部圭亮さんに、2回目に嘆願書の提出をお願いするシーン”のやり取りを見ていて、僕も現場で泣いてしまいましたもん。
とにかく、ちゃんと脚本を読んできてくれて、ちゃんとキャラクターを考え抜いてくれて、その上、本当に謙虚な男でした。でも、千葉くんは褒めると嫌がるんですよ(笑)

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――先日インタビューさせていただいたんですけど、かなり謙遜される方ですよね。

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「メインキャスト以外の人足役の皆さんとも、千葉くんはよく飲みに行くんですよ。そこでも、人足役の人たちが、あまりの演技のうまさに、千葉くんにくいついていました。そこでも千葉くんはニコニコしながら、口数少なめでしたけどね(笑)」

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――飲みの場で口数が少ない千葉さんが、とても想像し易いです(笑)。
十三郎(阿部サダヲ)の息子・音右衛門を演じた重岡大毅さんの演技に注目される方も多いのではないでしょうか。

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「僕の映画では、親子や兄弟という間柄の役をキャスティングする際に、似た人を本気で探すことがよくあります。重岡くんは阿部サダヲさんに似ていたので出演してもらいました」

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――ということは、重岡さんも、現場まで演技は見たことがなかったのですか?

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「いえ、重岡くんの場合は、既に演技は見たことがありました。なので、似ているだけではなく、演技ができることを知ってオファーしました。
実際の現場でもうまかったですし、彼を選んでよかったです」

「濱田岳と僕はずっと仙台のことを気にかけてきたので、
どうしても彼には出演して欲しかった」

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――もうひとり、注目の若手俳優のお話を聞かせてください。『フィッシュストーリー』や『ポテチ』など“中村監督作品といえば濱田岳”というイメージがある方も多いと思います。今回、ナレーションに濱田岳さんをキャスティングした背景を教えてください。

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「岳の主演映画『アヒルと鴨のコインロッカー』を撮って以降、僕も彼も、仙台という土地との関係性が深いんですよね。
震災後も2人でずっと仙台のことを気にしていたので、今回、どうしても彼を出演させたいと考えていました。
ただ、スケジュールがどうしてもあわなくて、残ったのが“ナレーション”というポジションだったんです

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――現在、かなり多くの作品に出演されている濱田岳さんですが、中村監督作品に出演する姿は“ホームで演じている”という印象があります。中村監督だからこそ気づいているであろう、濱田さんの魅力を教えてください。

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「僕が好きな映画のひとつで『デリカテッセン』という作品があります。
ドミニク・ピノンが主演だったんですが、彼は決してイケメンではありません。笑うと顔がクシャってなるので“クシャおじさん”と呼ばれていたくらいなので(笑)。
その作品のせいもあって、僕は『イケメンではなくても、映画の主役をやるべきだ』と考えています。
 
また、濱田岳を使うもうひとつの理由は、彼の芝居から発せられる雰囲気ですね。
“映画にノッてもらう”には、お客さんと登場人物の気持ちを一体化させることが、大切です。彼の芝居には、お客さんをキャラクターに感情移入させて、映画の中へ連れて行くことができる魅力があります

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――濱田さんのお芝居の話にも重なりますが、この作品に限らず、中村監督の作品には、いつの間にか泣かされていることが多いように思えます。
“泣かせる”という展開を作る上で、毎回心がけていることはありますか?

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「照れもあるんですけど、ストレートには表現しないようにしています。
どストレートに“泣かせる描写”を撮ることが本当にかっこ悪く思えてしまって……。
だから“泣かせる”テクニックは考えていないですね。実は、脚本を書いている時によく泣いてしまうんです。その気持ちのまま、撮っているだけなので、実際に撮っている最中も泣いてしまいますね(笑)」

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――監督が涙もろい方だと知って、自然に泣いてしまう理由がわかりました(笑)。

映画を作っている場合じゃない
中村義洋監督と震災後の仙台

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――仙台との強いつながりに関して伺ってきましたが、東日本大震災の後の監督と仙台の関係性についても聞かせてください。

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「地震の後に、『ゴールデンスランバー』のキャストである竹内結子さんや岳たち、この作品の関係者で物資補給に行ったんです。その時に伊坂幸太郎さんにもお会いしました。
当時、僕は『映画 怪物くん』を編集していたのですが、『映画を作っている場合ではないんじゃないか……』と思ってしまったんです。
 
その時に、『怪物くんの映画を楽しみにしていた子どもたちが、津波で流されてしまったかもしれない。その子達のためにも作らなくてはいけない』とスタッフの一人に言われ、伊坂さんにも『こういう時だからこそ、映画を撮らなくてはいけないのではないか』と言われました。
その時に、目の前のことをしっかりと続けることが、被災地にとって一番なんじゃないかと思うようになりましたね」

涙もろい巨匠が、仙台への優しいまなざしをもって作り上げた『殿、利息でござる!』。
沈みがちな日本人の気持ちを、上へ向かせてくれる映画であることは間違いなさそうだ。

(取材・文:小峰克彦 写真:浅野まき)

 

【作品情報】
「殿、利息でござる!」
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©2016「殿、利息でござる!」製作委員会
5月14日(土)全国ロードショー出演:阿部サダヲ 瑛太 妻夫木聡 他
監督:中村義洋
脚本:中村義洋 鈴木謙一
原作:磯田道史『無私の日本人』所収
「穀田屋十三郎」(文春文庫刊)
製作:「殿、利息でござる!」製作委員会
配給:松竹
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