ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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『ヒメアノ~ル』監督が語る“夢を叶えた虚しさ”・部屋を黒染めした下積み時代

予想外!? 全く童貞っぽくなかった吉田監督

森田剛主演による最新作『ヒメアノ~ル』をはじめ、『さんかく』『机のなかみ』など、監督・吉田恵輔(『よし』は土に口)の作品に多く登場するのが、童貞性の強い男子と、彼らをピンポイントでつくような魅力を発揮する女子たち。そして、男女問わず、多くの登場人物たちが不器用で、イケイケの人間に対する下から見上げる目線が、随所に登場する。
これらの作品で、自ら脚本も手掛ける吉田監督。

きっと僕ら、“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン”チェリーの味方のはず! 僕らのように煮え切らない青春をおくり、それを燃料に創作をしているタイプの監督のはずだ……!

と、初めての吉田監督インタビューに意気揚々と乗り込んだチェリー編集部。現れたのは想像と違う、イケイケオーラが溢れ出る監督だった……。

ということで、今回は吉田監督インタビュー第2弾。
(第1弾はこちら

監督の、イタすぎるほどリアルな脚本の創作の秘密や、自主映画を作っては賞に応募し続けていた下積み時代の話などを聞いた。そして最後は映画監督という夢をかなえた後の寂しさの話まで……! これを読めば『ヒメアノ~ル』のみならず、吉田監督の過去の作品も見たくなるはず!

“戸田の性獣”と呼ばれた高校時代

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――ごめんなさい。今、すごく動揺しています……。言葉は悪いですが、裏切られた気分といいますか……。作品から、もっと童貞っぽい方を想像していました。今回の『ヒメアノ~ル』でいえば、濱田岳さんが演じた岡田のような……。

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「あはは! そうでしょ? 俺は実はヤンキー文化の中に育ってきていて、結構ヤンチャなほうなんだよね。埼玉県の戸田高校って高校にいたんだけど、女子の間で“戸田の性獣”って言われてたから(笑)。『会ったら絶対ヤラれちゃうよ』って噂されてたらしいんだよね」

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――むしろ、童貞の敵じゃないっすか!

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「まあ、高校の頃は、ヤンキー文化の中にいたから、オタク文化的なものをバカにして育ってきたんだよね。でも、映画の専門学校に入ると、俺みたいな育ちの奴がいないんだよ。アイドルオタクとかアニメオタクとか、俺が今までバカにしてきたような奴が多くてさ。見た目はすごくダサイ奴らなんだけど、でも喋ってみると、ギャグのセンスはすごくあったり、優れた部分があるわけ。そうすると段々、偏見がなくなってきて、彼らにも彼らの趣味にもリスペクトが湧いてきたんだよね」

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――オタク側ではなく、ヤンキー側だったんですね。では、『さんかく』でいえば、高岡奏輔さんが演じていた、改造車を乗り回す百瀬という役が、吉田監督に近い感じなんですか?

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「そうそう、だからあれは、自分のことをバカにしてる自虐ネタなんだよ。高岡奏輔の役が俺に近くて、ああいうバイクを持ってかっこいいと思っていた自分に対する『サムッ』ていう感じを出したんだよね」

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――『ばしゃ馬さんとビッグマウス』で関ジャニ∞の安田章大さんが演じる天童も、自信満々でサムい感じに描かれています。

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「あれは俺の友だちなんだよね。どちらかというと、麻生久美子さんが演じた役のほうが俺に近い。映画の世界に入ってからめっちゃ頑張ってるけど、どうにもならないっていう時代の俺ね」

『ヒメアノ~ル』のユカのようなヤリマンが好き

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――では、今回の『ヒメアノ~ル』の中にも、監督はいらっしゃるのでしょうか?

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「今回はどこにもいないかな。強いて言えば、佐津川愛美さんが演じたヒロインのユカみたいなコと、つきあうことが多いって感じかな(笑)」

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――ああいう、少し精神的に不安定っぽい、経験人数の多いコってことですか?

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「あのね、俺ヤリマンが好きなの。周りから『あのコ、ヤリマンだよ』って言われてるようなコが好きなんだ」

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――そ、それはなぜなんでしょうか?

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「ヤリマンって、しっかりしてないコが多いじゃん。そういう不安定な感じに、俺は蛾のように引き寄せられていくんだよね(笑)。まあ、それでつきあうと、こっちが傷つくんだけどね。逆に、女の子にマジメに『好き』なんて言われると、あんまりそのコのことを考えなくなっちゃうんだよね。だから、酒飲んでるときにペタペタ触ってくるような女のコ、大好きなんだよね。『他の女子に冷めた目で見られてるの気づいて!』って思いながら、同時に愛おしさを感じるんだよね」

「君のおごりでホテル行かない?」

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――そういう女子、飲み会にいますよね……。それにしても飲み会中でさえも、俯瞰でものごとを見ていらっしゃるんですね。監督の作品の飲み会描写が、こちらも心が痛くなるほどにリアルである理由の断片が垣間見えた気がしました。

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「そうだね、飲み会のときにも、例えば『場が凍ったら、この女はフォローするだろうな』とか考えちゃうんだよね。そうすると、場を凍らせたら何が起こるか見たくなっちゃって」

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――では、実際に凍りつかせてしまうこともあるのですか?

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「あるね、『こいつと今後絡むことはないだろうな』って思ったときは、演出家のような人でも『あの作品、面白いと思ってんの?』ってわざと聞いてみたりね。
俺そういう感じだから、知らない人にもよく絡まれるんだよ。去年の年末も2連発で絡まれたね。酔っぱらいが騒いでると『ゴチャゴチャうっせえな』とか言っちゃうんだよね(笑)。火に油を注ぎたくなるというかね」

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――そういう会話の実験のようなことはよくされるのですか?

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「やるねー。『言っちゃいけないな』って思えば思うほど言いたくなるんだよね。例えば、女の子とコンパして、二次会まで行って『ちょっと抜けだしてホテル行かない?』って言うとするよね。そういうとき、俺は8割がた行ける自信があるの」

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――う、うらやましいほどの自信です(笑)。

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「でも、そこで『あ、いいよ』って言われたら面白くないじゃん。そうすると、なんだか余計な一言を入れてみたくなるんだよね。
 
例えばだけど、『君のおごりでホテル行かない?』にしてみる。『君のおごりで』って一言入れたときに、どんな反応するかなってことを1回想像するわけ。でも、想像すると、実際なんて言うんだろうっていうのが気になってしょうがなくなるんだよね。
 
もちろん『君のおごりで』なんて入れると、確率は8割が5割をギリギリ切るくらいのところまで下がるわけ。でも、別にヤれなくてもいいから、怒られてもいいから、その答えを知りたくなっちゃって、言っちゃうんだよね」

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――作家・吉田恵輔が、男・吉田恵輔の欲望に勝つワケですね……。ちなみに、実際に言ってみたときのリアクションはどんな感じなんですか?

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「やっぱり、自分が思ってもみないことを言ってくれるよね。まずは、「何言ってんの?」が1位。2位は「馬鹿じゃないの?」。そうやって、冗談として受け流すみたいなパターンは多い。でも、ちょっと考えて『お金あるよ』って言われたことがあったんだよ!」

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――そんなリアクションもあるんですね!

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「それってさ、自分の中からは出てこないでしょ。現実は作家性を超えるんだよ。だから、やっぱりね、作家は身を削らないといけないの。何か面白いひとつの台詞をもらうためには、周りから白い目で見られることもあるし、嫌われたりもするし、ガチで失敗もする」

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――めちゃめちゃかっこいいです!

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「まあ、昔からそうなんだけどね。物心ついたときから映画監督になりたくてさ。小学校のときに本を読んでたら『映画監督になるには色んな経験をしなければいけない』みたいなことが書いてあったのよ。
 
それが自分の中にずっとあるから、何かトラブルの匂いのするほうに近づいて、自分の感情を動かしたくなるんだよね。だから中学の頃からヤンキー文化にも近づくし、好きになる女の子もマジメなコよりもヤリマンになっちゃう。自分が傷ついたり、もしくは傷つけたりするような場所に身を置かないと不安になるんだよね」

部屋に黒スプレー 追いつめられていた下積み時代

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――昔から、映画監督になることに対してストイックだったんですね。

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「20代の頃、それが度を過ぎちゃったことがあってさ。その頃、映画祭に落ちまくってて、精神的に追いつめられて、一度おかしくなっちゃったんだよね。
 
うまく書けないのは、プレステがあるからだ、本棚があるからだ、テレビ台があるからだ……ってどんどん捨ててったの。そのうち、カーテンも壁紙も剥がして。今度は、明るくて眩しいから書けないんじゃないかと思って、窓ガラスを黒スプレーで塗りたくってさ。最終的にはひとり、部屋で床にパソコンがおいてあるだけの状態になったんだよね」

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――す、すさまじいですね……。その症状は、吉田さんの作品が映画祭で評価を得始めた頃から、治っていったんですか?

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「だいぶ治っていったけど……でも、今度は評価され始めると、今がチャンスというか、鉄が熱いうちに色んなプロデューサーに作品を見せないといけない、っていう追いつめられ方になっていったんだよね。それで、除夜の鐘が鳴ってるときまで書いてた。『今、除夜の鐘が鳴っている。だが、除夜の鐘が鳴っているときに書いている作家は俺しかいない。俺の勝ちだ……』ってね。
 
そうやって自分で自分を追いつめちゃうんだよね。さすがに友人たちに『ついてってあげるから、病院いこ?』って言われたけどね(笑)」

夢を叶えたあと、動き出した瞬間

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――そんなに自分を追い込んで、映画監督になろうとしていた方が、今や継続的にヒット映画を作り続けていらっしゃいます。今は幸福なんじゃないですか?

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「それがさ、『監督になりたい』っていう夢に縛られてきたから、その後のことを考えてなかったんだよ。監督になったら『あれ……終わっちゃった』っていう感じで。
今は『10本撮って死のうが、15本撮って死のうが同じじゃない?違いある?』って思ってる。最近は今まで犠牲にしてきたものを取り戻そうと思って、ほとんどしたことがなかった旅行をしたり、ボルダリングしたりしてるよね(笑)」

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――成功して満たされるわけじゃないんですね。

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「満たされないよね。でも、たぶんそれはみんなそうなんじゃないかな。売れた芸人さんとかも、売れる前のほうが楽しかったって言ったりするよね。
 
俺も、売れる前に、ちょうど同世代の自主映画を作っていた仲間たちと、お互いの現場に行って、助けあってた時代があったんだよね。トキワ荘じゃないけど、『あいつは受かった』『あいつは落ちた』みたいなことにみんなで喜んだり、落ち込んだりしてね。その時代を経て、今は俺しか生き残ってない状況になっちゃったんだけど。あのときは俺も含めてみんな何も持ってなくて。あの時代のことを、死ぬ前に思い出す気がするんだよね」

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――人生で1番嬉しかった瞬間、というと思い出すのはその頃の風景ですか?

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「うーん、人生で1番嬉しかった瞬間は『なま夏』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭のグランプリをとった瞬間かなあ……。2番目は、それを経て商業デビュー作になった『机のなかみ』を撮れることになったとき。クランクインの日が渋谷集合でさ。ロケバスに乗って、動き出した瞬間に『あっ、俺のロケバスが動き出した。この瞬間を噛みしめておこう』って思ったんだよね」

夢に対する、他の追随を許さない努力と、それでも生まれる不安。そして、叶ったあとの満たされなさ。それらを笑いに包みながら語ってくれた吉田監督。まるで、監督の作品のような刺激的なインタビュー時間だった。

(取材・文:霜田明寛)

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映画『ヒメアノ~ル』
出演:森田剛 佐津川愛美 ムロツヨシ 濱田岳
監督・脚本:吉田恵輔
原作:古谷 実「ヒメアノ~ル」(ヤングマガジンKC所載) 音楽:野村卓史
製作:日活 ハピネット ジェイ・ストーム
制作プロダクション:ジャンゴフィルム
配給:日活
公式サイト:www.himeanole-movie.com
©2016「ヒメアノ〜ル」製作委員会

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