ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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「欲望が人生を加速させる」 『日本で一番悪い奴ら』白石和彌監督インタビュー

“日本警察最大の不祥事”稲葉事件の手記を原作とした映画『日本で一番悪い奴ら』が公開前から話題沸騰している。
監督は死刑囚の告発を元に暴かれた殺人事件のノンフィクション『凶悪』が映画賞28冠に輝いた白石和彌。

白石監督は伝説のインディペンデント映画監督・若松孝二を師匠に持つ、骨太な映画作家として注目を集めている。
最新作である『日本で一番悪い奴ら』は、前作と同じく“タブーをきちんと描く”という作風は踏襲しているものの、過去、監督2作品とは異なり、かなりハイテンション。

今回は白石監督に、綾野剛らキャストの魅力や、実際に起きた事件を映画化する理由、“ハイテンションな犯罪映画”を撮ることになった背景について伺った。

犯罪者たちの青春映画

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――諸星(綾野剛)が警察官になったばかりの冒頭のシーンで、新人警官として過剰なくらい張り切っている演技が素晴らしかったです。監督ご自身が若手の映画スタッフだった時代も投影されたのでしょうか?

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「冒頭のシーンはまさに自分の駆け出しの頃を念頭に置いて演出しました。
僕も社会に出て、映画の世界へ入った時、一刻も早く仕事を覚えたい、監督やスタッフの役に立ちたいと思って、カチンコを持って走り回っていました。
 
諸星にとっては銃を摘発することが正義だったけど、僕にとっては映画を作ることが正義だったんです。
綾野君も現場では、俳優として右も左もわからなかったデビュー当時の話をしてくれました。
そういった意味でこの作品は、道を踏み外していく警察官を主人公とした“犯罪者たちの青春映画”だと思って撮っていました」

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――諸星が警察の中で、どんどん麻痺していったように、監督も映画の現場で自分が麻痺していくことを経験されたのですか?

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「今は客観的に見ることができますが、映画の世界に入りたての頃は、正義(映画作り)のために規則をガンガン破っていました。
 
例えば……夜8時以降は子供と撮影をしてはいけないと労働基準法で決まっているんですが、当時小学2年生の子役に夜11時頃、『あと一回がんばったら寝られるよ!』と言いながら、撮影をしていたこともありました。
なぜかと言うと他の俳優さんのスケジュールが空いていなかった場合、同じシーンを別日で撮影することができないので、当時助監督だった僕がその子役を起こすしかなかったんです。親の了承も取ってるしいいだろうと。
でも、夜中に小学2年生の子を寝かせないで撮影しているなんて、外から見たらキ●ガイ沙汰ですよね」

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――たしかに、映画業界ではない人が聞いたら驚きますよね(笑)。
本作では、諸星の強みに依存して、周囲の先輩たちがだんだん麻痺していくのが恐ろしかったです。組織の中で道を踏み外さないために何を心がけるべきだと思いますか?

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「映画の現場でいうと、『あいつは眠そうな子供をシャキッと起こすのがうまいんだよ』みたいなポジションは、どんな仕事にもあります。
周囲も、“組織にとって都合のいい長所”を持っている人に依存して、麻痺していきますから。
その上、集団には同調圧力があるので、間違ったことを周囲に指摘したら、自分がその組織にいられなくなることも多いですし。
 
非常に難しいですが、流されないように自分の立ち位置を客観的に確認することが大切だと思います。
具体的には、自分たちがやっていることが、外から見ても本当に正しいことなのか、身近な人に指摘してもらうのがいいかもしれません」

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純朴な青年だから、法律を犯してしまう

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――最初は純朴だった青年・諸星が犯罪に手を染めてしまう過程が衝撃的でした。

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「純朴であるがゆえに、手を染めてしまったのだと思います。
少しでも手を抜いて、エリートコースから脱落できる人であれば、犯罪者にならなかったはずです。
彼がもし、サラリーマンになっていたら一流のサラリーマンでしょうし、違う仕事でも、間違いなく“その道のトップになれる人”ですよ。
原作を読んだ時も、諸星のモデルとなった稲葉さんに対して同じ印象を抱きました」

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――誰でも諸星のようになる怖さがあるということですね。

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「諸星の場合は警察が職場だから周りにあるものが、ヤクザや、シャブ(覚せい剤)やチャカ(拳銃)というだけですからね。
本来、正義のために仕事をしていたつもりが、悪の立場になっているという経験は、誰しもが一度は味わうのではないでしょうか。
 
例えば、東電に就職して、“電気を供給する”という意義のある仕事をやっていた人も、原発事故が起こってみると、被災者側にとっては悪人でしかないわけです。
東電の人は『俺は人のためにと思って仕事をしていたのに、誰かの平和な生活を奪っちゃったんだ』と思うはずですよね。
僕は、その2面性をずっと描きたいと思っていました」

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“慎重でありながら大胆” 主役・綾野剛の魅力

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――今回は、綾野さんの物語を引っ張っていくお芝居に感動しました。白石監督からみた、綾野さんの主役としての魅力はなんですか?

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「綾野君は、主役として、“映画の中における自分の役割”への察し方がビビットだと思います。
現場でも、お芝居の中でも、立ち位置の見つけ方がすごく慎重でありながら、大胆なんです。
脇役のキャストは、主役を見て自分の芝居を決めていくので、綾野君の立ち位置がとても重要でした」

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――主役を立てる、脇役のキャストといえば、YOUNG DAIS(ヤング・ダイス)さんとデニスの植野行雄さんのキャラクターがはまっていましたね。

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「ダイスは目がキラキラしていてピュアなイメージがある反面、ヒップホップという文化がまとう、ダークな部分を併せ持っていました。
彼が醸し出す雰囲気は、俳優としてとても稀有な素質だと思います。
 
行雄ちゃんはブラジル人と日本人のハーフなのですが、実は日本語しか話せないんです。
その上で、彼のパチモン感がある風貌は、才能でしかないです(笑)。
片言の日本語とパキスタン語を練習していきながら、自然と自分でキャラクターを作ってくれました。」

欲望は人生を加速させる

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――原作者である稲葉さんともお会いされたと伺いました。

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「辿ってきた人生の深さを感じる、迫力がある方でしたね。
稲葉さん以外にも、元受刑者の方とお会いしたことがありますが、刑務所に長く入っている方には独特の影があるんです」

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――稲葉さんに、かつての純粋さの面影はありましたか?

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「今でも純粋無垢で、むき出しな方でした。綾野君も事前に稲葉さんに会って、同じ印象を抱いたみたいです。僕も稲葉さんの『自分に嘘をつかない』生き様を諸星にも反映させました」

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――稲葉さんや劇中の諸星のように、欲望をむき出しにしている若者は最近少ないです。

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「日本という国は、欲望を持つこと自体があんまり好ましくない風潮があります。
僕は欲望が人を成長させると思っているので、若者には、ちゃんとコントロールしつつ、ギラギラした欲望を持ち続けてもらいたいです」

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――映画業界に入ってくる今の若者たちはギラギラした欲望を持っていますか?

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「ギラギラした男の子は少なくなった気はします。
その代わりに、映画の現場では照明部や撮影部でも昔より女の子が増えています。
でも男性、女性に関わらず、頑張る子には頭が下がりますし、世代が変わったから、みんなダメになったとは、全く思ってないです」

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――白石監督が駆け出しの頃は、欲望がありつつも委縮してしまうことはありましたか?

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「もちろん、ありましたよ! 社会に出たての頃は、無知なりに一生懸命やるけれど、先輩には、けちょんけちょんに叱られました。
 
社会人のスタートはみんなそうだと思いますし、挨拶の仕方も電話の取り方もうまくできなくて、目の前にある一つ一つのことに敗北していました。
中には仕事を教わらずにできる人もいるのかもしれないですが、最初から完璧な人が、いい人生を歩めるわけではないと思っています。
 
失敗や挫折を知っていることが、人の上に立って、仕事をする時にすごく大きな力になっていくはずなので。
僕は若松監督や怖いスタッフさんに怒られたことで、今、若い子たちをちゃんと叱ってあげられている気がしますね」

実際に起きた犯罪を映画にする魅力

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――『日本で一番悪い奴ら』は今までのヤクザ映画や刑事ドラマにはないテンションですよね。

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「今回は、犯罪者の青春映画であり、和製ギャング映画が撮りたかったんです。
アメリカでいうギャングという人たちを、日本に置き換えると、ヤクザということになりますよね。でも、ギャングとヤクザはどこか違う。日本にヤクザ映画はあってもギャング映画って存在しないんです。
でも、刑事をギャングとして描くことをひらめいて、この作品を撮ることができました」

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――ギャング映画にこだわった理由を教えてください。

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「原作通りに、刑事が悲惨な様相で、犯罪にまい進していくストーリーだと、観客が観たい映画にはならない気がしました。
悪事に手を染めている奴らだって日々深刻に過ごしているわけではなく、楽しそうに過ごしたいはず。カニが手に入ったら、みんなで集まって食べたり、チャカ(拳銃)が手に入ったら試しに撃ってみたりだとか、ワイワイさせたかったんです。
それに本来、いけないとされていることをみんなでやる楽しさって絶対あるはずなんです。現にアメリカ映画に出てくるギャングの人たちは、毎日楽しそうに過ごしていますから(笑)」

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――たしかに羨ましくなるくらい、楽しそうでした(笑)。
『凶悪』に引き続き本作も実際に起きた犯罪をモチーフにしていますが、実話を映画にする面白さについて教えてください。

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「フィクションだと、登場人物の気持ちを整理して、どうしても理詰めで描いてしまうんです。
一方、実話ではどうしても整合性がとれない、作家が思いつかないことが起きています。
 
例えば“覚せい剤を中国から20キロ送らせると警察や税務署には約束しつつ、本当は30キロを送らせる”と小説で書くとします。不正をしても、せいぜい20キロにプラス10キロの範囲だろうと、整合性を考えてしまうわけです。
でも現実には、20キロのはずが、130キロ送ってくるんです。ありえないですよね(笑)。
 
調べていて実感するのが、犯罪者は計算しているようで、意外と犯行はざっくりしているんです。
そして、何より悪いことをしている人たちは、人間としてむき出しで、その姿が面白いんですよ。
『この人はいい奴で、大学は主席で、みんなのために一生懸命働いていた~』みたいな、“結婚式で流されるビデオ”のような映画だけを、みんな観たいわけではないと思うんです」

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――最近、“結婚式で流されるビデオ”のような作品が多いですよね。現代には、キレイごとで割り切れない感情を、しっかり映す映画も必要だと思います。
他にも本作に取り入れた予想外の実話はありますか?

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「稲葉さんの現役時代の写真がいくつかあって、お会いした時に持ってきてくださったんです。その中の一枚に、稲葉さんが隣の男に手錠をして、カメラに拳銃を向けてポーズを取っている写真がありました。
その写真は、当時仲良くしていたヤクザに、銃を摘発するために『3カ月だけ刑務所入ってくれないか』とお願いして、入所直前に撮影した記念写真だったんです。
その時に、ラシード(デニス・植野)の従兄弟をわざと出頭させるシーンで、同様の写真を撮ることを思いつきました」

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――ラシードの従兄弟を出頭させるシーンで撮った写真は、ホンモノだったんですね!(笑)

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「しかも、これから刑務所行くのに、写っている人間はニコニコしているんです。本当にギャング映画みたいですよね。彼らは、犯罪を犯していても、人生が楽しくて仕方がないんです」

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――犯罪シーンがふんだんに出てくる本作ですが、監督が描かれる覚せい剤を打つ場面に、緊張感と悲惨さがにじみ、映画として魅力的で、特に印象に残っています。

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「僕も綾野君も、もちろん覚せい剤なんて打ったことがないので、稲葉さんに打った時のことを聞いたんです。
ご本人も、腕に血管が出なかったらしく、足の血管でよく打っていたと聞いて、あのシーンを撮りました。
覚せい剤が効き始めるタイミングは、打った瞬間だったり、時間差があったり、その時々で違うらしいんです。
それを聞いて綾野君が『途中から効く感じにしたい』というので、本番では、だんだんと効いていくように演じてもらいました」

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――綾野さんが覚せい剤を打つシーンは、本当に恐ろしかったです。
役者の方からすると覚せい剤を打つシーンはどんな気持ちで演じられているのでしょうか?

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「ピエール瀧さんが薬物中毒のヤクザを演じた『凶悪』の時、打ち上げで『覚せい剤を打つ芝居っておもしれえな!』と言っていたんです。
今回その話を綾野君にはしてなかったんだけど、『白石さん、薬物中毒の役、面白いっす』と言っていたので、面白いんでしょうね(笑)。
薬物にまつわる作品を集めた、薬中映画祭とかやってみたいな(笑)」

欲望を持つことが歓迎されない現代の日本に投下される、映画『日本で一番悪い奴ら』。
加速しすぎて、スピード違反になった男たちの欲望は、現代人の冷えきった心を沸騰させてくれるはずだ。

(取材・文:小峰克彦)

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『日本で一番悪い奴ら』
公式HP: nichiwaru.com
2016年6月25日[土]全国ロードショーキャスト:綾野剛、中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)、ピエール瀧 他
©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
配給: 日活
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