ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

19歳ドイツ俳優「学校では教えてくれない戦争をこの映画が教えてくれた」

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いつもと逆!? ドイツ人少年が体験した悲しい歴史を映画化

デンマーク・アカデミー賞、トロント国際映画祭、東京国際映画祭…etc. 世界中の映画祭を席巻した映画『ヒトラーの忘れもの(原題:『LAND OF MINE』)が、日本でも公開される。

ドイツ人が、ユダヤ人などの他民族を迫害する作品は数多く作られてきたが、大雑把にいえば、この映画はその逆。第二次世界大戦で負けた後のドイツ人が、かつて自分たちが占領していたデンマークの地で、今度は逆に迫害を受ける話だ。

この作品は、デンマークの軍の指揮のもと、ドイツ人の少年たちが、海岸線に埋められた200万個以上の地雷を手作業で撤去させられたという実話に基づいているのだ。

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ただ単純に、ドイツの少年たちがかわいそうなだけの話ではない。彼らを指揮する軍曹をはじめとするデンマーク人たちは、現在は加害者でありながら、元・被害者たちでもある。その根本にある憎悪が、彼らから優しさや正義感を奪ったり、かつては見えていたはずのものを、見えなくさせていったりする。

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人としての優しさを取り戻していく人もいれば、麻痺していく人もいる……。感覚を麻痺させず『忘れないこと』をコンセプトに掲げる“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では、昨年の東京国際映画祭での上映時からこの作品に注目
今回、日本での公開にあたり、少年兵の中でも中心的な役割を果たす、セバスチャン・シューマンを演じたルイス・ホフマンに話を聞いた。

目を背けてしまっていた史実

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1997年生まれの19歳。11歳から俳優として活動している。同じ敗戦国である日本人でも知らないであろう、戦争に負けた国・ドイツの終戦後の悲しい史実。ルイスは何を感じたのだろうか。

「初めて脚本を読んだときは衝撃を受けました。ソファーに座ったまま、何度も涙を流して、2時間半ほどのあいだ、立ち上がれませんでした。この事実はドイツ人である僕も知らなかったですし、デンマークの多くの人が知らないんです。デンマークの方は、第二次世界大戦中には自分たちは善い行いしかしていない、と思い込みたい気持ちがあって、自分たちが冷酷なことをしてしまったという史実からは、目を背けていたところがあったみたいなんです。監督のマーチンはデンマーク人ですし、ある種、そういった戦争中の悲しい史実を告白している物語でもありますよね」
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事実よりも、その人自身に目を向ける

衝撃の実話――といった、ありふれた言葉では片付けられないこの物語。見たものたち自身の、他者への優しさや、世界の見え方を揺さぶられることは必至だが、演じたルイスにはどんな変化があったのだろうか。

「まずは、『目には目を歯には歯を』という発想は、絶対にしてはいけないし、不可能なんだと知りました。そして、人や歴史への見え方は完全に変わりましたよね。学校で戦争について習うことはありましたが、それはあくまで事実の羅列。その時代に生きた人々の人間性を教えてもらうことはありませんでした。逆に、この作品が教えてくれたのは、まさにその部分。“人が何をしたか”ということよりも、“その人が誰であるか”を知らなきゃいけない。つまり、戦争の事実だけを売り買いするんじゃなくて、その行為の裏にある、その人それぞれの個性や性格に目を向けなければいけないんです。だから、撮影後は日常生活でも、この映画から、学んだことを応用しようとしています。ただ漫然と“人の行動”を見るのではなく、その“行動をしている人”に目を向けるようになりましたね」

強いセバスチャン、揺れる軍曹

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ルイスのこのしっかりとした考えは、演じたセバスチャンという役にも通ずるものがある。セバスチャンは集められた少年兵たちが、軍曹に萎縮していくなか、きちんと意見する勇気をもった少年だ。

「セバスチャンは強いですよね。何が正しくて、何が正しくないのかという自分なりの感覚をきちんと持っている。そして、観察眼に優れた男でもあります。状況をしっかりと見据えて、どう行動すればいいかが見えている。そういった状況判断ができるのは、もしかしたら戦争を経験してきた少年兵だからなのかもしれません。そして、物語の最初から最後まで、自分の価値観は揺らいでいないんですよね。しっかりとした意思を持っている」

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「一方で、少年兵を統括する軍曹は、自分の意思や道徳観が揺らいでいくキャラクターです。最初は、少年兵たちを『ドイツ人だ』という感覚でくくって見ている。もちろん、もともとドイツ人全体に対する憎悪もすごいわけです。でも、だんだんと、少年兵たちもそれぞれが人間だということを知っていくなかで、彼の価値観はどんどんと変わっていく。その2人の対比も面白い部分だと思います。

ちなみに、セバスチャンのほうが僕自身よりも、思慮深くて落ち着いていますよ。でも、どこか共通している部分があったから、監督が僕を起用してくれたんだと思います。もちろん、僕はセバスチャンそのものではないので、セバスチャンになれるように、他から取ってきた部分もあります。僕にない要素を、キャラクターづくりのために加えていく作業は、素晴らしい僕の旅でもありました」

役者として“いったことのない場所”

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ちなみに、少年兵たちの中で、ルイスと、ヘルムートを演じるジョエル・バズマン以外は、実は演技未経験の少年たち。そうとは思えない、驚きの切迫感を表現しきっている彼らだが、監督との現場での関係はどうだったのだろう。

「監督はセバスチャンのような落ち着いた方でした。現場では、声を荒げるようなことは一切ありません。人って、やっぱり怒ってしまうと自分をコントロールできなくなってしまいますからね。実は僕自身、生活の中であまり怒ったりすることがないんです。だから、ジョエルが演じるヘルムートとの取っ組み合いで喧嘩するシーンは、大変でした。監督と、軍曹を演じたローラン・ムラさんがいい意味で僕を追いつめてくれましたね。それで、終わった後に、涙が止まらなくて。監督になぜ涙が出てしまうのか聞いたら『それはね、気持ちの上でいったことがないところまで、いったからだよ』と言われました。役者として、とてもありがたい経験でしたね。まあ、もともと3時間半あったものから、実際の上映時間である2時間弱にしていくなかで、残念ながら削られてしまったシーンなんですけどね(笑)」

人生は史実じゃない

それにしても、19歳とは思えない、しっかりとした考え方を持った青年。「まさか、ドイツの青年って、みんな、こんなにしっかりしているものなの?」と、映画で学んだ“くくらずに人を見る”ということを忘れたような発言をしてしまうと、ルイスからこんな返答が。

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「ドイツ人はこう、日本人はこう、といったような一般論での表現はできないと思います。それぞれが、どんな家族と共に過ごして、どんな世界を経験してきたか、ということで違ってきてしまいますからね。僕自身は、他の育ち方はしたくない、と思うほど親には最高の育てられ方をしてきてもらっています。11歳から8年間、この仕事をしてきているというのも、今の僕という人間に大きく作用していると思います。
やっぱり人って、ステレオタイプに判断しちゃいけないんです。人が何をしたか、じゃなくて、その人の背景にあるものを、きちんと見つめる。そのためには、相手のことを知ることはもちろん、自分のことを知ってもらうことも大事です。人生って、史実からなるものじゃない。人間同士の話ですからね」

ルイスの言う、“人を見つめる”という行為。なかなか簡単にできるものではないが、『ヒトラーの忘れもの』を見ることで、まずはその行為が体感できるはずだ。

(取材・文:霜田明寛)

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映画『ヒトラーの忘れもの』
12月17日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開出演:ローラン・ムラ、ミゲル・ボー・フルスゴー、ルイス・ホフマン、ジョエル・バズマン、エーミール・ベルトン、オスカー・ベルトンほか
脚本・監督:マーチン・サントフリート
プロデューサー:ミケール・クレスチャン・リークス/マルテ・グルーナート
撮影:カミラ・イェルム・クヌスン
編集:モリー・マリーネ・スティーンスゴー/ピア・サンホルト
音楽:スーネ・マーチン
美術:ギデ・マリング
衣装デザイン:シュテファニー・ビーカー
キャスティング:ジモーネ・ベアー
© 2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF

原題:LAND OF MINE
2015年/デンマーク・ドイツ/カラー/ドイツ語・デンマーク語・英語/101分/シネマスコープ/5.1ch
配給:キノフィルムズ

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