ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

vol.1 「ほ」さん 〜初恋と呼べる恋〜 後編

恋愛映画の名手・今泉力哉監督が12人の女性との告白の記録を綴る新連載『赤い実、告白、桃の花。』。連載開始記念・3本一気に公開中!今泉監督が自身の初恋を振り返る第1回“初恋と呼べる恋”の後編です!前編はこちら

そして迎えた卒業式当日の朝。教室。
一番負けた人から告白していく。
一番負けた人、それは、件のヤンキー君であった。
そいつが、まあ、なかなか告白しない。本当に告白しない。
そりゃそうである。だから、じゃんけん大会が行われたのだ。
しかし、彼は意を決して、告白した。たしか、教室のベランダでだった。
OKだったか、だめだったか。その結果を私は憶えていない。
たしかOKだったんじゃないかな。いや、憶えていない。
でもそいつは告白した。
なぜかベランダで。
次々と告白が行われていった。
でも俺の前のやつが、なかなか告白しなかった。
そして最悪な事態が起きた。
卒業式が始まってしまったのだ。
全員体育館に集合して、卒業式が行われた。
すすり泣いている者もいた。
こちらはそれどころではない。
卒業式が終わり、ふたたび、教室。
しかし、まだ告白しない。
教室での先生の話も全部終わって、それではみなさんさようなら、となって、そこでやっとそいつが告白した。

もう下校である。
私の好きな「ほ」さんが、女友達数人と話しながら教室を出ていった。
校庭にはたくさんの人がいた。卒業生。それぞれの父兄。先生たち。
だらだらとお互いの親同士が挨拶などしている。
まじかよ、と思った。
もう、じゃんけんをしたメンバーもちりぢりで誰も私のことなんて見ていなかった。
でも、告白しない、という選択肢はなかった。
なんだかんだ、私もしたかったんだと思う。
好きなことを伝えたかったんだと思う。
たくさんの卒業生とそれぞれの父兄、先生たちが挨拶している校庭で、彼女のもとに行き、
私は言った。
「好きです」と。たしか、「好きです」と言ったと思う。具体的な言葉は憶えていない。
具体的な言葉は
「あの、えっと、気づいてたと思うけど、俺、ずっと前から、あの、、、好きでした」
とかだったと思うが、とにかく。「好き」ということは確実に伝えた。
その直後、私は校門に向かって走っていた。恥ずかしかった。逃げたかった。とにかく恥ずかしかった。私の母親もいたはずなのだが、記憶にない。
返事を聞かずに。告白、即、逃げである。
「つきあってください」なんてとても言えなかった。
彼女が私を好きじゃないことくらい、私にはわかっていたのだ。それでも。

そして数週間後。4月。
私は中学生になった。
福島県郡山市。田舎である。もちろん、当たり前に「ほ」さんも同じ中学校にいた。中学校は同じ地域の3つの小学校から生徒が集まっていて、1学年7クラスあった。幸か不幸か、私と「ほ」さんは同じクラスではなかった。私は卓球部に入った。「ほ」さんは女子バスケ部に入った。あの道徳まっぷたつの彼は小学校時代からバスケ少年だったから、男子バスケ部に入った。そういうのもあるのかな、なんて思ったりもした。あれ以来、気まずくてひと言も話せずにいた。当たり前だけど廊下などで会うことはぜんぜんある。でも、話さなかった。私が完全に避けていた。気まずかった。返事とか聞きたくなかった。ふられたら終わってしまう。逃げるように、避けるようにしていた。でも彼女が好きだった。だから苦しかった。ずっとずっと話せない日々が続いた。

そして、時が過ぎ。夏か秋か。
なぜかわからないのだが、「ほ」さんが女子バスケ部をやめて女子卓球部に入ってきた。理由はわからない。なにせ、私はあれ以来まともに会話をしていないのだ。だけど、それが凄く嬉しかった。卓球部は基本的に男女分かれて練習しているから、さほど接点が生まれる訳ではない。でも、それでも、嬉しかった。

それからしばらくして。
中学2年の夏頃だったろうか。
私は「ほ」さんとまともに話すこともないまま、もちろん彼女からの返事もないまま、次第に別の人が気になりだしていた。同じクラスの「や」さん。自分のなかに不思議な罪悪感があった。好きな人がいるのに、別の人を好きになり始めている自分に。別に彼氏でもなんでもないのに、どういう自意識だったのだろう。なにか決定的な出来事があった訳ではない。でも私は「や」さんがとても好きだった。小学校は別だった。彼女は短髪で陸上部で、とても明るく元気な子だった。たっはー、と笑った。中学2年の中頃から高校3年の卒業時まで、私は「や」さんを好きだった。決して「ほ」さんを嫌いになった訳ではない。「ほ」さんも好きだった。でも「や」さんへの想いが上回っていった。

ちなみに、現在「ほ」さんとは、実家に帰った時に飲んだりする間柄である。もちろん、サシではなく、同窓会的に。その同窓会をしきってくれているのが、道徳まっぷたつの彼だ。彼は今、小学校の先生をしている。「ほ」さんは介護かなにかの仕事についている。そして、私も、道徳の彼も、「ほ」さんも、それぞれ、結婚している。たしかみんなこどももいる。いいことだと思う。すごく。

今でも私は、「ほ」さんがなぜ卓球部にはいり直したのか、その理由を知らない。聞こうとも思わない。きっと大した理由じゃない。大した理由じゃないなら、そんなの知らない方がいい。だって好き勝手に想像できるから。もしかしたら。そう。うん。まあ、でも、もう20年以上も前の話だ。

私は今まで、初恋はいつ、と聞かれたら、5歳、と答えてきた。
でも、本当に初恋と呼べるものは、呼ぶべきものは、この「ほ」さんな気がする。
初恋だって曖昧なものだ。自分で決めていいのなら、私はこの恋を初恋と呼ぶ。

次回は「や」さんについて。本当に好きだった。なんなら今でも好きだ。だめか。私、既婚者。「や」さんこそ、好きになったのに唯一告白していない、その人である。

(つづく)

(文:今泉力哉)

『赤い実、告白、桃の花。』【vol.2 「や」さん 〜告白されて、恋を知る〜】は来週公開予定。【vol.0 告白のススメ】はこちら!

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