ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

vol.7「な」さん 〜どタイプなバイト仲間は彼氏持ち〜

恋愛映画の名手・今泉力哉監督が12人の女性との告白の記録を綴る連載『赤い実、告白、桃の花。』。
故郷の福島を離れ、名古屋の大学に入学。名古屋篇第5回目が始まります。

御器所GEOでバイトをはじめたのは大学4年のいつくらいからだったろう。その頃は今のように改装される前で、一階も二階も本やCD、VHS、DVD、ゲームなどが並んでいた。まだまだVHSの時代だった。道を挟んで向かい側にTSUTAYAがあって、それはそれはわかりやすいライバル店舗だった。ビデオ屋バイトは楽しかった。私は今までに10種類以上のアルバイトを経験してきたが、やはり映画が好きなのだろう、ビデオ屋バイトと映画館バイトは長く続いた。基本的に接客業が好きなので、飲食やコンビニ、ビリヤード場バイトやホテルのフードコートなども苦痛ではなかったのだが、ビデオ屋バイトは楽しかった。その証拠に大学卒業まで続いた。引っ越しがなければ、もっと続けていたかもしれない。

そこには可愛い子が多かった。綺麗な人もいた。面白い女性もいた。いろんなジャンルの可愛らしい女性がいた。ギャルっぽい子。真面目そうないかにもモテそうな女子大生。音楽やライブ好きなサブカルっぽい子。アホっぽい子。いろいろ経験を積んできたであろうお姉さん系。私が好きになった「な」さんはアホっぽい子だった。どタイプだった。

実際に一緒に働いていた期間はものすごく短かった気がする。バイトの後輩として「な」さんが入ってきたのは、夏だったか秋だったか。とにかくたいして話をした記憶もないのだが、どタイプだったので、すぐ好きになってしまった。すぐ好きになってばかりですね、私。でもバイト仲間である。告白してうまくいくわけもなさそうなのに、告白したらそれはそれは明日から気まずい。告白せずにただただ日々が過ぎていった。

大学の同級生に良弥という男がいる。確か一浪でひとつ年上だった彼は、とても変なやつで、彼のせいで、も、彼のおかげで、もたくさんある人物である。川村邸でよく麻雀をしたメンバーの一人であり、私にパチンコを教えたその人でもある。おかまバー(ゲイバー?当時の名称がわからない)もフィリピンパブもストリップもナンパも。彼がいなかったら一生縁がなかったかもしれない。今では愛知県のテレビ局でディレクターなどをしている二児の父だが、まあ彼のように変わった人間を私は知らないし、彼にはたくさん憧れた。とにかく変なやつだった。二人で飯を食っていても、タバコが吸いたくて、1000円札をテーブルにポンと置き、先に店を出て、自分の車に戻っていってしまうような、「え、私どうしたらいいの?」となんだか自分勝手な昭和の男の彼女にでもなったような。そういうところがある男だった。

なぜ急に良弥の話をしだしたかというと、私が「な」さんを好きなことを告白したのは、私ではなく良弥だからである。その日の話はまた後で。もう少し良弥について語ろう。

大学2年の時。
12月。良弥の誕生日。いつものように彼女がいるようないないような、いや、いないんだが、な同級生の男連中が麻雀をしたり、マン喫で飯を食ったり、大学でだらだらしたりしていた。ふと良弥が「ストリップを見に行きたい」と言い出した。4、5人で良弥の車に乗り込み、私たちは人生初のストリップを見にいった。他の同級生が初だったかは知らないが、私は初だった。“名古屋銀映”という新出来にあるストリップ小屋。今、この文章を書くにあたり、調べたら2010年に閉館していた。元々はその館名から想像できる通り、映画館だったらしい。確か3000円だった。受付に置いてあった割引券に「コピー可」と書いてあったのを鮮明に憶えている。割引券、コピー可、って!と強く思った。女性は確か1000円とかだった気がする。ストリップを堪能した20歳前後の私たち。良弥は1000円のツーショットチェキも撮っていた。こういう場に来ても決して物怖じせず、きちんと楽しめるのが良弥のかっこよさだ。そういえば、一度、良弥に連れられて、栄のまあまあ有名な大きなクラブに行ったことがあった。そこはセキュリティーや敷居?などがきちんとした場で、良弥の履物がビーチサンダルだったため、入店を断られた。

ストリップ小屋を後にした私たちは良弥の車に再度乗り込んだ。良弥が車をどこかに走らせる。明らかに帰る方向と逆に。どこにいくのか尋ねると、ストリップの照明に感動したから、今からアメリカに行って、ああいうショービジネスの照明マンになる、だから今から空港に行く、と言う。アホだなと思ったけど、面白そうだなとも思い、連れ回されるがまま、ドライブを楽しんだ。

男4、5人で着いた深夜の空港。
もちろん本当にアメリカに行くわけではない。深夜の空港に入り、とまっているたくさんの飛行機や夜景を空港の大きなガラス窓から見た。とても綺麗だった。この一日をきっかけにして、毎年12月の良弥の誕生日には“良弥ツアー”なるものが行われることになる。その日は良弥の車に乗り込んで、彼の行きたいところにただただ連れ回される、というツアーだ。全3回(卒業までだから必然的に3回で終わった)行われた良弥ツアーは、口コミで参加希望者が増え、最終的にはクラスの女子も参加、車2台で行われるまでになった。3回目にして最後のツアーは、大学4年の12月に深夜のとある動植物園に侵入する、という就職内定をもらっている者からすれば最低で危険な企画であったが、もちろん当日までどこに行くかも知らされていない私たちはみんなで動植物園に侵入、そのスリルと動物との触れ合いを楽しんだ。まあ7、8人中2人しか内定をもらっていなかったが。

旅打ち、という言葉を聞いたことがあるだろうか。
大学2年か3年の春か夏の長い休み。私は良弥と二人で毎日パチンコをしていた。良弥が調べた東海地区の新装開店の店に車で向かい、パチンコやスロットを打ちながら旅をするのである。結局14日間くらい続いた旅打ち。私はプラス30000円くらいで終わった。ひたすら、志村けんのバカ殿様の台で勝たせてもらった。良弥の収支についてはここでは触れない。

話は戻って。
「な」さんである。ある時、良弥に好きな人がいると告げたら、良弥はその人を見たいと言い、私のバイトが休みの日にふたりでGEOに向かった。良弥はカウンターにいる「な」さんに客として声をかけた。
「すみません」
「はい」
「あの、『ハリー・ポッター』ってどこにありますかね?」
『ハリー・ポッター』なんて大量に、なんなら新作コーナーに棚一面ある。もう棚というより壁だ。この店で一番わかりやすいところにある『ハリー・ポッター』のVHSを彼女に探させるという、なんともよくわからないナンパテクみたいな感じで、彼女を『ハリー・ポッター』のところまで連れて来た良弥は、私の前で、突然「な」さんに言った。
「なんか、りきやが『な』さんのこと好きなんだって」と良弥。
「おい!」と私。
「え〜?」と彼女は笑っていた。
「な」さんは私が「な」さんを好きなことに気づいていたと思う。それにきっと告白されたりすることにも慣れていたんだと思う。しかも彼氏がいる。そのことには薄々気づいていた。返事なんて聞かずに、私はヘラヘラしながら良弥と共にGEOを後にした。

それからしばらくして。「な」さんがバイトを辞めることになった。私の告白のせいではないと思う。その送別会かなにかの飲み会の日。つまり、今日限りでもう一生「な」さんと会えなくなるかもしれない、その日。私は川村邸(自宅)から「な」さんに電話をかけた。
この前は友達があんな感じで変な風にふざけた感じで告白しちゃったけど、本当に好きであること。彼氏いるよね、という確認。でも、もう会えないかなと思ったので、ちゃんと伝えなきゃいけないと思って、という自分の想い。あんなふざけた半端な伝え方で終わらせたくないということ。そういうことをきちんと伝えた。本当はその日の飲みの場で、どこぞのタイミングで声をかけて、居酒屋の外や片隅でふたりきりになって、直接面と向かって話せればいいのだけど、そんなテクニックも度胸もない私は電話で伝えた。そして、すっきりした面持ちで飲みに参加した。

10人以上はいたであろうその飲みの場で、私は「な」さんとはほぼ一言も会話しなかった。全体がお開きになる前に「な」さんが帰る運びとなった。このへんからだいぶ曖昧で、もしかしたら夢なのかもしれないが、彼女か私がなぜか車に乗っていた。タクシーなのか。彼女の親が迎えに来ていたのか。もしかしたら彼氏の車だったのか。でも、なぜか私が車に乗っていた気もする。とにかく、私か「な」さんのどちらかが車の助手席に座っていて、どちらかが助手席の外にいた。本当に曖昧なのだが、やっぱり、どういうわけか私が車に乗っていた記憶がある。そこに「な」さんが駆け寄ってきてくれた記憶がある。わざわざ。そして「ありがとう」だか「さようなら」だか、言ってくれた記憶がある。ものすごく嬉しかったのを覚えている。でも、なぜ私が車に乗っていたのかは謎で、もしかしたら夢なのかもしれない。

この飲み会の記憶として、「な」さんが帰った後に起きたある衝撃的な出来事を憶えている。私はこの日に年上のあるバイト仲間の女性とキスをしたのだ。その人は、冒頭で書いた「いろいろ経験を積んできたであろうお姉さん系」の女性で、自分よりもいくつか年上だった。だいぶ酔っ払っていた女性を私は家まで送り届けた。飲み屋から歩いていけるマンションにその女性は住んでいた。送り届けた際にキスをされ、「こういうこと、よくないですよ」と言った。そして、別れた後、どうしてもおしっこが我慢できなくなった私は彼女に電話し、「トイレだけ貸してもらえませんか?」と伝えると、「どうぞ。ふふふ」みたいな返事をされた。いや、こちらは本当にトイレが借りたいだけなのだ。でも確かにキスされた直後である。変に思う方が普通かもしれない。でも私は童貞、根性なし、しかも失恋したてである。トイレを借りただけでその女性の家を後にした。そういう部分も彼女には真面目で可愛らしくみえたのかもしれない。彼女は昔、東北に住んでいて、夜の店で働いていた際イッサと付き合っていた、と言っていた。

好きな女性に告白した日に別の女性にキスをされる。これは拙作『知らない、ふたり』で使っているエピソードの元になっている。また、トイレだけ借りて帰ろうとする男女の話は拙作の短編『体温』という映画の元になっている。またこの日だったか別の日の飲み会だったか。店長の一言が印象に残っている。御器所GEOの店長は24歳くらいの若い男前の人で、すごくうまく生きている感じの人だった。ばんばん出世していき、その若さで、店長から地域リーダーみたいなポジションに昇進するしないみたいな話も出ていた。飲みの席で店長が言った。
「俺、ぜんぜん映画見ないんだよね。映画は『グーニーズ』だけ見てればいいと思う」
翌日、お店の『グーニーズ』が全部借りられていた。店長がいかに愛されていたかがわかるエピソードである。この店長が面接してるからバイトに可愛い女性が多かったのかもしれない。

「な」さん。会いたいなぁ。今どこで何をしているのだろうか。アホっぽいと書いたが、柔らかい雰囲気なだけでしっかりした女性だったのかもしれない。だってわざわざ最後に挨拶をしてくれるような女性である。夢かもしれないのがちょっとあれだけど。この連載に登場する12人の中で一番ともに過ごした時間の短い女性かもしれない。「な」さん。長野さん。あ、言っちゃった。でも実名を書いちゃっても大丈夫なくらい、何の問題もない、何の関係もない、ただの憧れだった人。年下だった。絶対、私のことなんて憶えていない。それにしても良弥の「『ハリー・ポッター』どこですか?」はちょっと笑ってしまった。

いまだにこの時のバイト仲間は何人か連絡がつく。でもどんどんその数も減っていっている。今では1人か2人くらいだろうか。2011年くらいに名古屋に行く用事があった際、ふらっと御器所GEOを訪れたことがあった。店舗はだいぶ改装されていて一階はリサイクルショップみたいになっていて、切ないかな、洋服などが売っていた。2階はレイアウトこそ変わっていたがレンタルショップのままだった。自分の商業デビュー作『たまの映画』のDVDがレンタルされていたのを見つけた時、少し感動した。

次回は1年間の大阪芸人生活をすっとばしての東京篇。
3番目の彼女についてである。「る」さん。彼女と出会わなかったら、私は今、映画監督をしていなかっただろう。

(つづく)
(文:今泉力哉)

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