ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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『ザ・サークル』監督が語る“ネットのカリスマ”の恐ろしさ

©YOSHIKO YODA

エマ・ワトソン演じる美人社員の24時間を中継

自らの24時間をSNS上で公開した美人新入社員がアイドル的人気を博し、巨大SNS企業のカリスマに。そして、その果てにたどりついた悲劇とは……。

トム・ハンクスとエマ・ワトソンという2大ハリウッドスターが巨大SNS企業のカリスマ経営者と美人新入社員を演じる映画『ザ・サークル』。2013年に発行された小説を原作に、SNS社会の光と闇をスリリングに描いた作品となっている。

メガホンを取ったのは新進気鋭の監督・ジェームズ・ポンソルトだ。

c YOSHIKO YODA

“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では、来日したジェームズ・ポンソルト監督にインタビュー。
監督自身が感じるSNS社会の問題点や構造から、エマ・ワトソンが演じた新入社員のような“ネットによって生まれたカリスマ”の恐ろしさや、エマ・ワトソン本人の話、そして見事に映像化されたSNS企業の造形まで、話を聞いた。

それぞれのポケットの中に、逆らえない神がいる

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――個人の24時間が中継されるという設定に、1998年に公開された『トゥルーマン・ショー』(The Truman Show)を思い出しました。『トゥルーマン・ショー』はテレビによる中継でしたが、この作品はネットによる中継ですね。

「昔だったら、そういう監視社会の物語というのは妄想の域を出なかったかもしれないけれど、現代のテクノロジーをもってすれば、すぐにでも起こりうる物語になってしまっている、というのが大きな変化ですよね。
それにもうひとつの差は、『トゥルーマン・ショー』では番組のプロデューサーが神の役割だった、ということです。例えばジョージ・オーウェルの小説『1984年』にもビッグ・ブラザーという政府機関がある。ですが、今の監視社会は政府や誰か権力者のような人に押し付けられたものではなく、私たちが自ら望んでつくり上げてしまったものなんですよね」

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――どういうことでしょうか?

「今、僕らは自分のスマートフォンを神のように扱っている。スマホを賛美して、手放せなくなってしまっていますよね。でも、それは同時に、情報を抜き取られ、スパイされてしまう可能性も生んでいる。お互いがお互いを監視するような状況に、自分でしてしまっているんですよね。『トゥルーマン・ショー』のような、ちょっと離れた場所に全知全能の神がいてコントロールしている世界から20年が経って、今はそれぞれのポケットの中に、逆らえない神がいる。そういった世界の中で我々は生きていかなければいけないんです」

SNSは最高の自分と最低の自分を同時に表現する

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――なかなか怖いものがありますね。

「もちろん、いい部分もありますよ。SNSが広まった初期には【アラブの春】がありましたよね。大きなメディアが取り上げなかった声を、学生たちがSNSを通して届けることができました。個人的なことで言えば、僕もFacebookを通して奥さんと出会っていますから(笑)」

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――そうだったんですか! そんな監督が今回、SNSの負の側面も描いたのは説得力がありますね(笑)。

「大事なのは、実際の人間関係をきちんと構築することなんですよね。もちろん簡単に連絡を取れて便利な部分もあるけれど、SNSは実際の人間関係の代替には絶対になりません。だから本人を目の前にして言えないことは、僕はSNS上では言わないようにしています。それに、人は自分を匿名にしたときに、顔のない人間として、ときに冷酷なことを平気で言えてしまう。SNS上の発言でも、自分が言っている言葉なんだということは常に意識的でありたいですよね。SNSは使うことによって、最高の自分と、最低の自分を同時に表現することができてしまいますから」

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カリスマ性と人間としての完成度は別

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――監督のおっしゃる通り、SNSの奥には人がいます。ただ今回のエマ・ワトソン演じるメイを見ていても、SNSという拡散装置の奥にいる人にカリスマ性があり、そして暴走してしまったときというのは本当に恐ろしさを感じます。

「そう、今回のメイと、トム・ハンクス演じるベイリーは、そういったカリスマ性のある人物にすることによって恐ろしさを際立たせるようにしました。ただ、カリスマ性はあっても、彼らが完璧な人間かというとまたそれは別の問題です。事実、アメリカでは、とてもじゃないけど洗練された人間とは思えないトランプという人物がSNSの力を使って大統領になってしまった。彼のようなポピュリストがリーダーになってしまうのはまずい、と歴史に学べばわかるはずなんですが、歴史というのは繰り返してしまうものなんですかね……。その歴史の繰り返しに、今はテクノロジーの力が加わってしまうわけですから、なかなか解決策というのは見出しづらいですよね」

“ものすごい情報量がやってくる世界”の演出

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――今回の映画では、その恐ろしい世界が具現化されているわけですが、2人の人物造形だけではなく、洗練されたオフィスや、SNS上のコメントがポンポンと上がってくる映像は、近未来的でスタイリッシュなものでした。

「原作を読みながら、“ものすごい情報量が自分のところにやってきてしまう世界” を映像化することに、とてもワクワクしました。メールにFacebookにTwitter…全てに応えようと思うと僕たちはとても疲弊してしまいますよね。その感じを映像で表したかったんです。見ているみなさんが読み切れないくらいのコメントや、そもそも英語じゃないコメントもスクリーンに出すことで、それを体験して欲しかったんですよね。そして、オフィスのデザインは、実際に色々なIT企業に足を運んだり、世界中の建築をリサーチして作りました。それでわかったことがあるんです」

どの国でも“理想のオフィス”は似たかたち

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――どんなことでしょうか?

「日本でも、スイスでも、北カリフォルニアでも、人々が思う理想郷的なオフィスって、ほぼ似たような姿なんですよ。ガラスを多く使って、とてもオープンな雰囲気で、植物が中に生い茂っていて……。で、なぜそうなのか考えてみたんですが、やっぱり、どこの国でも経営者としては、オフィスを従業員がもっと働いてくれるような場所にしたいんだと思うんですよね。冷たくて形式的で、早く帰りたくなるような場所ではなく、あたたかい雰囲気で、帰りたくなくなるような場所。映画の中での<サークル>のオフィスもそういう場所になるように心がけて作りました」

役と重なる!? エマ・ワトソンとトム・ハンクスに受けたインスピレーション

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――そう考えると恐ろしいですね……。そしてオフィスだけではなく、エマ・ワトソンが演じるメイにも本当にいそうなリアリティがありました。

「エマ・ワトソンは、実際に、国連でスピーチをしたり、自分のSNSでも政治的な意見を忌憚なく発信し続けている。一方で、それこそ『ハリー・ポッター』の頃から、自身もメディアに晒され続けている人でもあるわけです。だから今回のメイには大きく重なりました。
トム・ハンクスもそうだったけど、ふたりとも、ただ友だちと外食するときでさえ、自分の行動を見られているという意識で生きています。だからこそ、今回は2人の意見を聞いて、インスピレーションを受けながら作品を作っていきました。2人のすごいところは、たとえ悪いことを書かれても、それに左右されないところ。それは僕も見習いたいなと思った部分です(笑)」

c YOSHIKO YODA

(取材・文:霜田明寛)


【関連情報】
『ザ・サークル』は11月10日からTOHOシネマズ 六本木ヒルズ他 全国ロードショー

監督・脚本:ジェームズポンソント
出演:エマ・ワトソン、トム・ハンクス他
配給:ギャガ
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