ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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「世界平和は家族平和から」カウリスマキ“難民映画”でシリア人俳優が感じたもの

アキ・カウリスマキ最新作 主演俳優が初来日

フィンランドの名匠・アキ・カウリスマキ監督の最新作『希望のかなた』が12月2日(土)より公開される。2017年のベルリン国際映画祭で監督賞を受賞した本作は、前作『ル・アーヴルの靴みがき』に続き“難民3部作”として、カウリスマキが難民問題に真っ向から向き合ったものとなっている。

主演を務めたのはシリア人俳優のシェルワン・ハジ。1985年生まれの彼は、自身も2010年にシリアからフィンランドに渡り、俳優業だけではなくショートフィルムの脚本や監督、インスタレーションの制作などもおこなっている。
公開にあわせて、シェルワン・ハジが日本に初来日。“童貞”の冠をつけながらも意外に硬派な“文化系マガジン”、“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”ではインタビューをおこなった。

シリアからフィンランドへ 必要だった自分を確立する作業

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――『希望のかなた』の主人公カーリドと同じく、ハジさん自身も異国からフィンランドにやってきた方なんですね。

「僕の場合は戦争が理由ではなく、妻となる人に連れていかれたんですが、なかなか大変な思いをしてフィンランドに入りました。ゼロからのスタートで、もちろん言葉も覚えなくてはいけませんし、それで学位をとって、友人も時間をかけてつくっていく。それはこうして言葉にしてしまうと簡単ですが、自身の世界を確立していく作業でもあり、時間も努力も必要ななかなか大変なものでした。私にとっては大きなターニングポイントです」

カウリスマキとの出会い

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――そうして、ハジさんがご自身の世界を確立されたフィンランドで、アキ・カウリスマキ監督に出逢います。

人が“人と人として出逢う”ということほど、美しいことはないですよね。カウリスマキとの出逢いは、僕という人間の中にあった経験を、より大きくしてくれるような体験でした。年齢などの差はありますが、お互いを理解し合えないということはありませんでしたね。作品だけではなく、人としての彼のものの見方に敬意を抱くようになりました」

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――ということは、『希望のかなた』の作品自体もハジさんに響いたものだったんですね。

「もちろんです。カウリスマキが、遠い中東のことをとても近くに考えて、入り込んでくれていることを感じました。彼自身が、世界を良い方向に導くメッセージを伝えることに必死で、でもきちんとユーモアを交えながら伝えようと奮闘してくれている人、という印象です」

ユートピアなんて存在しない

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――さて、今回が初来日となりました。日本の印象はいかがでしたか?

「私の育った国では、相手のことを敬い、それをきちんと表現するような文化があるのですが、そこが似ている気がして、美しさを感じました」

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――ありがとうございます。しかし恥ずかしながら、劇中でフィンランドが主人公カーリドの難民申請を認めないように、日本は1万人の難民申請に対して28人しか認めないような冷たい国でもあります。

「それは、あなたの責任ではないので、恥ずかしく思う必要はありません。ヨーロッパでも、フィンランドでも、あなたと同じように心を痛めている人はたくさんいます。世界のどこかで起きていることは、世界中で起きているんです。でも私にとってはそういう思考をもって、言葉にしてくれる人がいるというだけで、とても嬉しいことです。もともと、ユートピアなんて存在はしないんですから」

グローバル社会とはお互いの美しい面を見つめること

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――ユートピアはない中でも、劇中に描写されているように、寛容な人もいれば、不寛容な人も存在します。せめて寛容な側の人間でいつづけるためにはどうすればいいのでしょうか?

「いえいえ、何にもなる必要はないんです。人としてあればいいんです。何が正義で、何が悪かなんて、人に言われる筋合いはないですよね。自分自身であり続けて、人として生きて、お互いに話し合っていく。そして、お互いの美しい面をちゃんと見る、ということがグローバル社会なんです。だって、僕自身、20年以上前から、日本の素晴らしいアニメを見続けていますし、ラテンアメリカのダンスに触れたりしています。醜い部分ではなくそういう美しい面を見つめていけばいいんです。そうすれば、すぐに自分が見つかります。何も自分を探しに山に登りに行く必要なんてない。すでに自分の中に、自分はあるものなんです」

よい家族が集まって、よい社会になっていく

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――素晴らしいお話です。ちなみに日本のアニメはどんなものを見てこられたんですか?

「『キャプテン翼』に『釣りキチ三平』、『風の谷のナウシカ』なんかも印象に残っています。娘には『ちびまる子ちゃん』を見せていますね」

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――ええっ、娘さんがいらっしゃるんですか!

「ええ、娘ができて、家族のために生きるようになったことで魂が訓練されているような気がします。自分自身のことしか考えないで生きていると、どうしても欲に縛られていってしまうんですよね。それが家族のことを思うことで変わってきました。よい家族を作ることができれば、それが集まってよい社会になっていく。それがうまく機能していけばよい世界になっていく。だから、世界平和は家族平和から。単純に聞こえるかもしれませんが、悪くないと思いませんか?」


(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)


■関連情報・映画『希望のかなた』2017年12月2日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー!
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
主演:シュルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン
提供:ユーロスペース、松竹
配給:ユーロスペース
© SPUTNIK OY, 2017

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