ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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冨永昌敬“決めない人生”のススメ

『南瓜とマヨネーズ』冨永監督の最新作は…

オダギリジョー×香椎由宇を主演に迎えた長編デビュー作『パビリオン山椒魚』に、染谷将太×窪塚洋介×仲里依紗×川上未映子で太宰治の原作を映画化した『パンドラの匣』、最近では魚喃キリコの漫画を原作とした『南瓜とマヨネーズ』で揺れる女性の心を見事に描ききりスマッシュヒットを飛ばした冨永昌敬監督。

そんな冨永監督が最新作に選んだのは『素敵なダイナマイトスキャンダル』。セルフ出版(現在の白夜書房)で『写真時代』『NEW self』などのエロ雑誌を創刊した伝説の編集長・末井昭の自伝的エッセイの映画化だ。

母親がダイナマイトで心中という衝撃的な過去を持ち、現在でも『自殺』『結婚』など勢力的に文筆活動を続ける、生きる伝説・末井昭に冨永監督はどう対峙していったのか? インタビューをおこなった。
「迷う人生にこそヒントはある」「満たされなさを埋めようとして前に進む」「路頭に迷っている僕らだからこそできることがある」など、末井さんの人生を例に、迷える“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”には嬉しい人生のアドバイスも多くいただいた……!

ヒントは迷う人生のほうにある

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――まずはどのように原作をお読みになったのか、お聞かせください。

「これを読んで『いい時代だったんだなあ』って感じる人もいるとは思うんですが、僕は、面白いのは時代ではなくて末井さんだ、と思って読みました。エロ雑誌を作っている時代の末井さんの部下になりたいと思ったほどで、まあ部下になる代わりに映画を作ったという感覚ですかね」

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――具体的には末井さんの人生のどのあたりに面白さを感じられたのでしょうか?

「末井さんは、もともとはグラフィックデザイナーになりたかった人で、特に雑誌をやりたかった人ではないんですよね。それどころか、当初の目的は何一つ叶ってないような人ですよね。工場に憧れていたけど、工場は一瞬で辞めて、絵を描くのが好きだから就職したデザイン会社は長続きせず、先輩が描いたキャバレーのポスターに刺激されてキャバレーに転職……。いちいち路頭に迷ってくれてるじゃないですか(笑)。末井さんのように迷ってくれてる人の人生のほうが、ヒントはあるし、他人事じゃなく感じられるんですよね」

瀬戸際に立ちながら柔軟な決断ができる人

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――たしかに、末井さんがうまくいってないからこそ共感できる部分は多くありました。

「それに、末井さんは、人生の瀬戸際に立ちながら実は柔軟な決断ができる人だとも思うんです。キャバレーで働いていて、看板を描くことを頼まれても『キャバレーの看板はグラフィックデザインではない』って固い考えをして断る人もきっといると思うんですよね。でも末井さんは看板を描いたし、エロ雑誌もバカにせずにつっこんでいった。『そこしかない!』と思うとつっこんでいって、最終的に末井さんは自分の雑誌を、いわばデザインすることになったわけです。きっとそれは末井さんにとって、つまらないデザイン会社で上司に言われた仕事を続けるよりも、色々な楽しさや喜びを得られた経験だったと思うんです。この映画の特に前半にはそれが出るようにしましたが、やっぱり満たされなさを埋めようとして前に進んでいく力のある人でもありますよね」

人を楽しませられる不幸

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――そして、そんな末井さんの人生の序盤には、実の母親のダイナマイトでの自殺という不幸があります。

「これは不謹慎な言い方になってしまいますが、“究極の面白い不幸”なんですよね。誰も持っていない、面白い不幸。正直、誰かに『母が自殺した』って話をされるとしたら、かわいそうだし、聞く方も構えちゃうじゃないですか。でも、その方法がダイナマイトだと聞くと『え、嘘でしょ?』って、面白く聞こうとしてしまう。不幸なのに人を楽しませられることに、末井さんは気づくことができたんでしょうね。そして、それができるようになって、末井さん自身もラクになっていった」

路頭に迷っているからこそ、できること

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――ちなみに冨永監督自身は、自分の不幸を映画にいかそうと思ったことはないのでしょうか?

「大学のころ、そんなことを考えましたけど、うまくいかなかったですね。だからそのときに、僕の凡庸な不幸は表現する価値もないものなんだ、と気づいて即座に解放されました。今思えば、不幸なことが起こった自分に過剰に反応してしまう、自意識過剰な時期だったんでしょうね」

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――ちなみに、末井さんの人生は“路頭に迷ってくれている人生”ということでしたが、冨永監督自身のこれまでの人生はどういう感覚なのでしょうか?

「いやあ、常に路頭に迷っている感じですかね(笑)。映画監督はみんなそうだと思いますよ。1本1本ですから。次も撮れるかどうかわからないじゃないですか。その度に路頭に迷ってるようなもんですよね」

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――そういう感覚だったんですね。

「大昔、撮影所があった時代の日本映画界は、映画監督は社員だったわけですよね。企画は映画会社の企画部が脚本家と一緒に作って、それを監督がどんどんと撮っていく。それでも名作を撮ったり、作家性が出る監督はいたわけで、正直羨ましく思うこともありますよね。まあ、でもそこを羨ましがってだけいてもしょうがないので、今、路頭に迷っている僕たちだからできる面白いことを、どんどん拡大解釈してやっていくしかないんですよね。『僕はこれです』って決めちゃうのはもったいない。だから僕自身も映画だけにとらわれずに、やっていこうという意識はありますね」

「自分の周りだけでも面白く」で変わっていく

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――なんだか末井さんの生き様とも重なってきますね。

「ええ、きっと、末井さんも怒りはあったと思うんですが、そのときできる面白いことを、苦労を厭わず続けていたら雑誌がヒットした。きっと、何もする気が起きないっていう若い人も多いと思うんです。でも、文句を言ってもいいけれど、それだけで何もしなかったら、面白いことはおきない。『自分の周りだけでも面白くしよう』って意識を、みんながもてば少しずつマシになっていくと思うんですよね。僕にとっては、それがこの映画を作ることだったんです」

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――じゃあ、路頭に迷っている若い人にはぜひ、この映画を見てもらって……。

「いや、路頭に迷っている人が本当に必要なのは、映画じゃなくてこの『素敵なダイナマイトスキャンダル』の本のほうですね」

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――一応、映画の公開にあわせた宣伝の意味をこめたインタビューですが、大丈夫ですか?(笑)

「いいんです。映画は路頭に迷ってない人にも見て欲しいですから。
末井さんは自分の失敗談を包み隠さず書いてくれる貴重な人で、本にヒントがたくさんつまっているんです。末井さんの失敗を読むことで、何かの失敗から免れることができた人ってたくさんいると思うので。
本がヒントだとすると、映画はヒントへの入り口として、単純に面白がってもらいたい。それで本も読んでもらえたら嬉しいです。逆に、『明日どうしよう』みたいなレベルで路頭に迷っている人たちには、すぐに本を買いにいってもらいたいですね。映画では、そこまで教えられないので(笑)。映画では、まずは面白がってもらって『自分たちも面白いことをしよう』と思うきっかけになってくれたら嬉しいです」


(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)


映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』 3月17日(土)アトル新宿ほか全国で公開

(C) 2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会
監督・脚本:冨永昌敬
原作:末井昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子ほか

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