ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

三浦大輔「セックスはとっととしよう。そこから人としての向き合いが始まる」

演劇ユニット・ポツドールを主宰し、『愛の渦』では第50回岸田國士戯曲賞を受賞するなど、劇作家として活躍し続ける三浦大輔。近年では、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』『何者』や、自身の舞台『愛の渦』の映画版など、映画監督としても活躍の幅を広げている。

そんな三浦大輔監督の最新作は、石田衣良の小説が原作となる『娼年』。松坂桃李演じる、主人公のリョウが“娼夫”となって多くの女性と邂逅を重ねる物語だ。劇中でリョウは、冨手麻妙さん、桜井ユキさん、大谷麻衣さんから、江波杏子さんまで、錚々たる女優たちが演じる女性たちに心と体で対峙している。

実際にリョウのような男が存在したら負ける気しかしない“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”としては、恐怖すら感じる設定だが、そこには何かしらのヒントが存在するハズ……!
ということで、監督の三浦大輔さんに直撃単独インタビュー。そこには、三浦大輔さんという、僕たちオトナ童貞の進化形であり、目指すべき先輩の姿があった……!

性欲を解決することで、人として向き合えるようになる

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――映画『娼年』は素晴らしい作品でありながら、“恋愛が性愛に敗北している”という点で、チェリーな僕たちとしては恐怖も感じました。そこで、その恐怖を埋めて安心して『娼年』を鑑賞できるよう、今日は三浦さんにアドバイスを乞いにきました!

三浦「わかりました。完全に僕の価値観で、僕の持論を喋りますが……まず、とっととセックスをしなければ何も始まらないと思っているんです」

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――と、いいますと?

三浦「最初、男性は、女性に対して、まず何より『この女性とセックスできるのか?』という観点で接していると思うんです。男性は、セックスをしたいと思う女性とじゃないと、まず会いませんよね。恋愛よりも、セックスをしたいという気持ちのほうがまずは勝つ。セックスをするために、LINEをしたり、ご飯に行ったりしているわけです」

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――最初はそうですよね。とてもよくわかります!

三浦「だからこそ、とっととセックスを終えて、その執着をなくさないと、恋愛関係って始まらないと思うんです。まずはその女性に対する性欲というものを1回解決したほうがいいんですよ。1回セックスをすることで、初めてその女性に対して、人として向き合えるようになるんです。そこからは、その女性が “セックスする相手”ではなく、“話す相手”にシフトしていく、すなわち本当の男女関係が始まるんです」

性欲と執着の曖昧さの先に恋愛関係のスタート地点がある

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――最高です! すぐにでも実践していきたいんですが、そこを理解してくれる女性は少なそうです。

三浦「では少し女性に対してのメッセージになってしまいますが、女性の多くは、セックスを先延ばしにしたほうが、男性が女性に真摯にしてくれる、もしくは、恋愛関係に発展しやすくなると思いがちですよね。違うんです。1回セックスをして、それがよかったら、男性はその女性にまた会いたくなりますよね。性欲で会っていくうちに、だんだんそれが性欲なのか、その女性に対する執着なのか、ごちゃまぜになって、境界線が曖昧になっていくんです。その曖昧さの先に恋愛関係の開始があるんです」

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――じゃあ最初のセックスは、女性からしても、男性にまた会いたいと思ってもらうために大事なんですね。

三浦「ええ、初戦の印象は、その後の男女関係にとても影響を及ぼすと思っています。よく、女性は、遊び慣れた女に見られないように、あえて手を抜いたりすると思うんですが、そうすると男性側は『ああ、こんなものか』と感じてしまって、その女性にまた会おうと思う気持ちがなくなってしまうんですよ。さらに、焦らされれば焦らされるほど、『さんざんもったいぶって』と、その落胆も大きくなる。せっかくその先で、性欲と執着がごちゃ混ぜになって、恋愛関係が始まるかもしれないのに。まとめると、まずは、性欲はどうしてもつきまとうものなので、それを取っ払ってから、お互い真摯に向き合いましょうという話なんです」

人生のキモはセックスにはない

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――ありがとうございます! ここまでは、恋愛が始まるかどうかのタイミングでの男女関係の話だったと思うんですが、長期的な関係性を考えるといかがでしょうか?

三浦「男女はセックスレスになってからが勝負、とよく言いますが、本当にその通りだと思います。例えば2年一緒に暮らして、性欲を感じなくなった男女が、そこから踏ん張れるかというのが男女関係の重要なところですよね。性欲というのは、男女関係の最初の、とっかかりでしかありません。セックスは確かに大事なものですけど、人生のキモではないと思っているんです」

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――セックスは人生のキモではない。では、三浦さんの中での人生のキモはどこにあるのでしょうか?

三浦「つまらないことを言ってしまいますが……生活ですね。お互いの人生を有意義にしていくために、どう生活をしていくか。言い方は悪いですけど、恋人同士とはいえ、それぞれの人生は別にあります。だから、共通認識がとれた上で、うまくお互いに利用しあって、一緒にいる。それができるかどうかですよね」

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――ちなみに、性欲の関係が終わったあとに、一緒に生活ができる相手かどうか見極めるためには、どこを見ればいいのでしょうか?

三浦「わかりやすい一例をあげると、テレビを一緒に見ていて苦痛じゃないかは重要ですね。映画館は会話をしなくていい非日常の場所ですけど、テレビって日常の中に組み込まれたものじゃないですか。その時間を共有して苦じゃないか、楽しくいられるかっていうのは生活を考える上で大事だと思います。仲良くない友だちとテレビを見ると『え、ここが笑いどころなの?』みたいな感じで気になって、結構苦痛だったりするじゃないですか(笑)」

好きだから、女性の嫌な部分が見えてくる

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――そうですね(笑)。最初は「とっととセックスしろ」という話から入りましたが、三浦さんの中ではセックスよりも生活が大事という話が聞けて、なんとなく安心しました。

三浦「僕は、セックスというものに期待や幻想をあまり抱いていないんですよね。そのせいなのか、やはりセックスという行為自体はどこか、滑稽さと間抜けさが拭えないものだと思っているんです。この『娼年』でも、もちろん登場人物はみんな必死なんですけど、傍から見た滑稽さも含めて、セックスを描かないと、どうしても僕は気持ち悪くなってしまって。そういった感覚は、原作にはないかもしれないけれど、僕としては外せなかった部分ですね」

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――もちろん、原作の意思を尊重されてるとは思うんですが、オリジナル作品ではないですし、三浦さんご本人の価値観と完璧に一致するかというとそうではないということですよね。

三浦「ええ、石田さんの原作の意思を引き継いで、忠実に映像化したつもりではいるんですが、やはり、僕の色というか価値観がどうしても溢れてしまう。僕がオリジナルで作品を作ると、もう少し女性の嫌な部分を描こうとしてしまうんですよね。それはもちろん、僕が女性に執着していることの裏返しで、好きだからこそ女性の嫌な部分が見えてきてしまうんですけどね。一方で、石田衣良さんの原作は女性を全肯定するスタンスなんです。だから、『娼年』を映画化するにあたっては、僕の中にもどこかに残ってはいたけれど、普段は恥ずかしくて出せなかった、女性を肯定したい気持ちを目いっぱい、出しましたね」

性欲はあるが、エロさはない

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――そして原作の設定上、多くの濡れ場を撮ることになりました。

三浦「撮ってみて、エロに関して自分は興味が無いんだなということを自覚しました。性欲というものに対しては興味あるんですけどね」

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――性欲には興味あるけど、エロさには興味がない……どういうことでしょうか?

三浦「例えば胸の谷間をアップにするとか、女性がいやらしく見えるアングルっていうのはあると思うんですよね。ただ、そういうカットを撮る気にあまりなれなくて。それよりも、女性が主人公のリョウに向き合っているときの顔から浮かび上がってくるような、コミュニケーションのありさまのほうに興味があって。だから、もしかしたら、男性の方は期待するほど、エロくないと思うかもしれないです。僕としては、女性のエロさよりも、コミュニケーションそのものや、松坂桃李くんが演じるリョウをしっかり捉えようと思いながら、撮影を進めていきました。ただ、あれだけ女優さんが開放的になっているのは松坂桃李くんの力が大きいと思います」

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――たしかに、松坂さんの力が作品に説得力を与えているのは感じました。

三浦「もともとの設定において、演出ではどうしても埋められないこの『娼年』という作品の隙を、松坂くんが埋めてくれた気がします。それはもちろん、松坂くんの人間性や、松坂くんの女性に対しての真摯な向き合い方が、女優さんを開放させてくれたということも含めてです。やっぱり、女優さんも相手が松坂桃李だったから、あそこまでやってくださった部分もあると思いますから(笑)」

セックスに希望はない

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――お話を伺っていて、だいぶ恐怖が消えてきました。ということで最後に、もうちょっと積極的な質問を……。僕らチェリー読者・オトナ童貞たちが進化するために、この『娼年』から取り入れられる部分があれば教えてください。

三浦「松坂桃李くん演じるリョウは、特段、セックスがうまいわけではないと思うんです。でも、心を通じ合わせようとしている。例えば、大谷麻衣さん演じるヒロミとのセックスのときに、『リョウくん!』『ヒロミさん!』って名前を呼び合うじゃないですか。セックス自体を盛り上げようとするのは、演技の部分もあって、それはもしかしたら偽りと捉えることもできるのかもしれません。でも、名前を呼びあうことで2人は頑張って、通じ合おうとしているわけです。努力をちゃんとしているわけです。だから、たまには名前を呼び交わしあったり、お互いの目を見つめ合って、手を抜かず、セックスしてみたらどうでしょうか……ってこんな結論で大丈夫ですかね(笑)」

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――大丈夫です!(笑) ありがとうございます!

三浦「僕はやっぱり、セックスに対して希望を抱いていない人間なんですよね。でも性欲は、僕を含めて、誰にでも、どうしてもつきまとうものだと思うんです。繰り返しになってしまいますが、だからこそ、それを早く取っ払って、人として相手と向き合うことをオススメしたいですね。作品のテーマと真逆なこと言ってますが(笑)」

(取材・文:霜田明寛)
Photo:yoichi onoda

『娼年』 作品情報

2018年、最も衝撃的で、最もセンセーショナルな“事件”。
娼夫リョウが見つめた、生と性の深奥―

映画『娼年』 4月6日(金)、TOHOシネマズ 新宿 他 全国ロードショー
主演: 松坂桃李
脚本・監督:三浦大輔  原作:石田衣良「娼年」(集英社文庫刊)

(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
企画製作・配給:ファントム・フィルム
R18+

ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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