ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

韓英恵 “もしかしたら…”で生きてきた女優道

17年を経た映画女優・韓英恵

10歳で、鈴木清順監督に『ピストルオペラ』で見出された女優・韓英恵。2004年公開の是枝裕和監督『誰も知らない』では当時11歳にもかかわらず印象的な女子高生の役を演じ、2005年公開のSABU監督『疾走』では、当時映画初主演だった手越祐也(NEWS)の同級生役……と多くの作品に出演。
今年2018年は、3本の主演作が公開される、日本でも数少ない“映画女優”だ。
10代の頃から、その鋭い目線は、スクリーンの向こうから、見る者のあり方を問うているような気迫さえ漂う。瀬々敬久監督の最新作『菊とギロチン』でも朝鮮にルーツをもつ女性力士を演じ、日本人のあり方を問うているようだった。
27歳になった彼女に、“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”がインタビュー。しかし、取材現場に現れた彼女は明るく、スクリーンの中とは少しまた違った印象を受けた。

小さい頃から「成熟してる」みたいなことをよく言われたんですが、私自身はいたって普通なんです。27歳の今も、自分のことを子どもだな、と思います。私の「ちょっと」は、周りの「ちょっと」と感覚が少し違うというか。実はそんなに深く「女優とは?」みたいなことを考えたこともなくて、物事に対してあまり現実味を感じられないタイプなんです。自分の人生の中で、やっていきたい作品に出会えたらいいな、というくらいのボサっとした感じです。

今回の『菊とギロチン』の現場でも、瀬々敬久監督に「韓さん、ちょっと鈍臭いな……」って言われて、怪我しないか心配されてたんです。案の定、撮影の前々日くらいに相撲の稽古で脚を怪我してしまって。本番には、なんとかなったんですが、一時は歩けないくらい痛かったんですよね。

『誰も知らない』から変わったこと

あの韓英恵が27歳になったらさぞかし大人に……という想像からは、意表をつくような言葉の数々。とはいえ、女優歴も17年。なぜ、長い間続けられたのだろうか。そして、初期の頃を振り返って変わったことはなかったのだろうか。


さすがに『誰も知らない』の頃は、子どもだったので、今のように「今日の現場、押してるな……」とか全体を考える発想はなかったですね。そこは大人になったのかなと思います(笑)。でもまだまだ未熟です。

映画を続けられているのは、私自身が、映画を見てくださってる皆さんに救われているからですかね。前に「韓さんが出ている映画を見て、生きようと思った」というような内容のお手紙をいただいたことがあって。それを読んで、私のほうが救われたんです。もちろん、映画をやめようと思ったこともないわけではありません。でも、そういうときも「誰かが明日も生きてみようと思ってもらえるような映画に、私は1本でも多く関わっていきたいな」って思って。そういう作品が増えて、救われる人が増えていくことで、私自身も救われていく気がしています。

初めて「脚本を読んで泣いた」

そんな韓英恵の最新出演作が、瀬々敬久監督の『菊とギロチン』だ。関東大震災後の大正後期を舞台に、実在したアナキスト集団「ギロチン社」と、強く生きようとした女性力士たちの生き様を描く。韓が演じたのは、在日朝鮮人であることで迫害を受ける女力士・十勝川。韓国人の父親を持ち、日本で韓国人として生きていくことを決めた韓自身とも重なる役柄だ。

 


もともとは配給会社の忘年会で、瀬々敬久監督にこの作品の構想を聞いていました。それで監督にお願いをして脚本を読みました。読んでみたら涙が出てきて。私、今まで、脚本だけで泣いたことはなかったんです。私の家族とリンクする部分があったからなのか、理由はわかりませんが、あの時点で、既に私の中でのこの作品で伝えたいことは決まっていた気がします。それで監督にすぐメッセージしました。「この役をやらせてください!」って。

国籍やプライドは捨てて、人は人を好きになれる

作中で、韓が演じる十勝川は、アナキスト・グループ『ギロチン社』のリーダー・中濱鐵(演・東出昌大)に恋をする。今よりも大変な時代の“国境を越えた恋”に何を感じたのだろうか。

 


作品自体は朝鮮と日本の関係も描かれているんですが、十勝川としては「朝鮮半島がどうとかよりも……好きなんだ!」という感じで演じました(笑)。きっと、自分の父親と母親が結婚したときも、同じような感じだったんじゃないかと思うんです。人は本当に愛があれば、プライドとか背景とかを捨てて、直球で人のことを好きになれる

実は、大正時代に生きていた、私のハルモニ(韓国側のおばあちゃん)の父、ひいおじいちゃんが、学生時代日本人の方と、結婚しようとしていたくらいの大恋愛をしていたみたいなんです。でもその方は、関東大震災で亡くなられてしまって、ひいおじいちゃんは、朝鮮半島に帰った。ひいおじいちゃんに会ったことはないですが、そういうことがあって今私がここにいるという認識があって。その上で、この脚本で十勝川と中濱鐵の恋に触れました。だから、どんな時代も国籍や背景は関係なく、人は人を好きになれる、という意識はありました。

私自身も、どちらかというと、直感で決めるタイプです。なので優しいから好きとか、イケメンだから好き、とか理由が先に来るんじゃなくて「好きだから好き」(笑)。とはいえ“自分が知らない世界を知っている人を尊敬する”という傾向はあるので、鐵さんを好きになる十勝川の気持ちはとても理解できます。『菊とギロチン』には多くの男性が出てきますが、十勝川としては鐵さんが一番かっこいい。私があの時代に生きて出会ってても好きになっちゃうのかもしれないなと思います(笑)。

韓英恵が探したい“希望”

関東大震災後の日本を描いた『菊とギロチン』の時代背景は、大震災の“その後”である今の日本と多く重なる部分がある。劇中、女力士のひとり、小桜は「どうせ希望なんてないなら、好き勝手やってやれ!」と叫ぶ。韓自身、『菊とギロチン』の世界を経験して、今どんな希望を見ているのだろうか。


あの時代、女相撲の一座に加わった人たちは、ある種、社会や、自分の置かれていた状況から逃げてきてあの相撲部屋にいった人たちなわけですよね。だからこそ、あの相撲部屋自体が、「強くなれるかもしれない」というみんなの希望と理想に溢れた場所になっていたと思うんです。そう考えると、自分たちの理想を掲げて活動していたギロチン社のメンバーと出会ったのは偶然じゃないし、今も十勝川は、鐵さんに出会えてよかったと感じていると信じています。

私自身は、常に希望を持っていたいです。持っていたいから、探し続けていたい。探しにいけば、もしかしたらそこに希望があるかもしれないし、もしかしたら希望なんてないかもしれない。でも “もしかしたらあるかもしれない”と思って進むことが大事かな、と思っていて。10代の頃からずっと“もしかしたら”で生きているんです。

(取材・文 霜田明寛)
(photo:yoichi onoda)

関連情報

映画『菊とギロチン』 7月7日(土)よりテアトル新宿ほかにて全国順次公開

監督:瀬々敬久
脚本:相澤虎之助・瀬々敬久
出演:木竜麻生、東出昌大、寛 一 郎、韓英恵、渋川清彦、山中崇、井浦新、大西信満、嘉門洋子、大西礼芳、山田真歩、嶋田久作、菅田俊、宇野祥平、嶺豪一、篠原篤、川瀬陽太
ナレーション:永瀬正敏
2018年/日本/189分/カラー/DCP/R15+/配給:トランスフォーマー
© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

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