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無良崇人”だから”伝えられる、ひとつのアスリート像

あまの さき

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あまの さき

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人と人との繋がりに助けられて、最後まで現役を続けられた――。

今年3月に引退を表明したフィギュアスケーターの無良崇人さんが、選手生活を振り返って1番最初に口にした言葉です。
高橋大輔、織田信成、羽生結弦、宇野昌磨……国内だけでも同世代に強豪選手がひしめきあっている中、「先輩たちの背中を追い、後輩たちと切磋琢磨したからこそやってこられた」と語ります。

元フィギュアスケーターを父に持ち、小さい頃からスケートが身近にあった無良さんが、初めて氷に乗ったのは3歳の時。フィギュアスケート歴は、すでに20年を超えました。


そんな彼が、現役を引退した今、伝えていきたいこととは、一体何なのでしょうか?

「勝ちにいくことだけがスポーツじゃない」 無良の考えるアスリート像

――スケート以外にもトークショーやテレビ出演など、精力的に活動していらっしゃる中で、今後こういったことを発信したい、といった思いはあるのでしょうか?

無良さん「スポーツ選手として、自分がどういうことを重視してやってきたのかということを伝えていきたいと思っています。

“五輪に出たい”、“メダルを獲りたい”という目標を持って競技をしている選手が多くいる中で、自分の場合は少し違った。家庭の環境からスケートをはじめて、気が付いたら選手になっていました。だからだと思うんですが、成績を残すということは重視していなかったんですよね。

それよりも、例えば“もっと大きいジャンプを跳びたい”とか、“こういう演技がしたい”“この曲で滑ってみたい”……そんな目標を持って競技をやっていました。まずは自分の演技をすること。自分らしく滑って表現するということを目指して現役を続けていたんです。勝ちに行くこと以外の方向性での携わり方もあるということを伝えて行けたらいいなと思っています」


――では、ずっとスケートが好きだったんですか?

無良さん「嫌いになったことも、もちろんありますよ。ケガに悩まされていた時期もあったので、挫折しそうになったこともあります。

でも、そういう時に助けてもらったのはやっぱり人との繋がり。特に大ちゃん(高橋大輔さん)が大きなケガから復帰を果たしたあとの演技には奮い立たせてもらいました。スケートってやっぱりいいなって思わせてもらえたんです」

――先ほどおっしゃっていた“人との繋がり”ですね。同じ時期に選手として切磋琢磨されていた方々も、それぞれ違った舞台に活躍の場を移されています。その中で、無良さんの目指す形は?

無良さん「自分はまず、応援していただいたことへの感謝を伝えること。今、真央(浅田真央さん)と一緒に全国を回るサンクスツアーに出演させていただいているのも、その一環です。

ツアーのテーマは『スケートを身近に感じてもらうこと』。ショーを通して、スケートの魅力を伝えていくことができたらいいなと思っています。その他にも、自分がやってみたいと思うことには挑戦していきたいですね」

浅田真央と作る新しいツアーは「進化が醍醐味」

――サンクスツアーの密着特番を拝見したのですが、普通のショーとも異なる分、大変なことも多いのでは?

無良さん「既存のツアーだと、スケーターはゲストとして呼ばれて、オープニングとフィナーレだけ前日から練習して、あとは自分のナンバーを滑ります。でも、今回のツアーの関しては、真央と舞(浅田舞さん)を含む10人のキャストが1時間半のショーの間中色んなナンバーを滑るんです。その構成や配置について1から考えるのは、大変さももちろんありましたが、いい経験をさせてもらっているという実感の方が大きいです」

――ショーとしての新しい形を作り上げる過程は面白そうですね。

無良さん「全員を同じように動かすという大変さはありますが、面白いですね。チーム一丸となって作るというのがこのショーの魅力なので、それがお客さんに伝わればいいなと思っています。今まで自分たちも経験のないことを1から作っていくという大変さはありますが、出来上がってショーで披露した時の感動や嬉しさっていうのは、回数を重ねるごとに増していくんじゃないかな。やっていくうちにどんどん合わせられるようになったり、余裕が生まれた部分にアドリブが入れられるようになったり……そういう形で進化させられるのは、ツアーとしてやっていく醍醐味ですね」


――ご自身でも1からやっていくことに興味が出たのではないですか?

無良さん「今回のツアーは、一重に真央だからっていうことが大きいと思っています。キャストの部分だけでなく、スタッフさんからスポンサーさんまで含めて、本当の意味で賛同してついてきてくれて上手く成り立っているので、すごく難しい。世の中的にいかに彼女が大きな存在か、一緒にやってみたからこそ改めて思い知りました」

SNSが繋いだ意外な縁

――TwitterやInstagramをやってらっしゃいますが、どんなきっかけで更新しているんでしょうか?

無良さん「現役時代は色んな制約があったのですが……引退してからは、ショーのこだわりだったり、行った先のことだったり、色々な部分の良さを知ってほしいと思った時に投稿しています。コメントをいただけることも多いのでありがたいです」

――印象に残っているエピソードはありますか?

無良さん「平昌五輪の時、試合に関しての投稿は思っていた以上に反響がありましたね。ああいう舞台での演技はより人を感動させる分、フィギュアスケートが記録だけじゃないっていうことを伝えられる貴重な機会なのではないかなと思います」

▲五輪に関しての無良さんのツイート

――無良さんとSNSといえば、漫画家の久保ミツロウ先生とのやりとりを浮かべる方も多いのではないかと思います。

無良さん「久保さんがフィギュアのことをテレビ番組でネタ(*)にしてくださっていたので、思わず。ネタで使ってくださってありがとうございます、という気持ちでした」

*……フジテレビ『久保みねヒャダ こじらせナイト』にて、漫画家の久保ミツロウさんがフィギュアスケートのフリップ芸を披露した。

無良さん「当時はまだフィギュア人気も女子中心の時期に、あえて男子のネタを引っ張ってきたことに、すごいなこの人……・って思ったんですよね(笑)。僕らが競技以外の部分で注目していただけることはほとんどないので、ありがたいなという気持ちで見ていました。
僕のヘッダーとかプロフィール画像も、久保さんが描いてくださったものなんです」

▲無良さんのTwitterのキャプチャ

――確かに久保先生が発信しはじめてから、男子フィギュアもぐっと注目された感じがあります。

無良さん「まさか男子フィギュアがアニメ(*)になるとは夢にも思っていなかったのでびっくりしました。試合の前の気持ちの表現とか、分かるな~!!っていう部分ばかりだったので、選手として見ていてヒヤヒヤしました(笑)」

*……久保ミツロウさん、山本沙代さん原案のアニメ『ユーリ!!! on ICE』。

――最後に、今後のフィギュアスケートを盛り上げるためにやりたいことなどありますか?

無良さん「後進の育成についても、コーチとして自分にできることがあるのであれば少しずつ勉強しながらやっていけたら、と思っています。

プロとして滑れる状態にあるうちは、スケートの良さや面白さを伝えていくことを伝え続けていきたいですね。どうしても主要都市でしかやらないイベントも多い中で、今回真央のサンクスツアーを一緒にやらせてもらって、いろんな場所で身近に見られる機会を作ってくれた。これをもっと広めて行けたらなという思いはあります」

“自分の演技”を追求した先に見えるもの

「家庭環境から、気が付いたらフィギュアスケーターになっていた」、「成績を残すことを重視していない」と言い切る無良さん。この言葉だけ聞くと、向上心がないと思われてしまうかもしれません。でも、「もっと大きいジャンプを飛びたい」、「こんな風に滑りたい」と、着実に目標を設定し、自分の納得する演技を追い求める姿勢もまた、アスリートとしてあるべき姿のひとつでしょう。

成績や順位だけにとらわれず、“自分の演技”をひたすらに追求した職人のようなフィギュアスケーター。無良さんに次ぐそんな存在が現れた時、フィギュアスケートはさらに“勝つこと”以上の価値を高めていくのかもしれません。

(文:あまのさき)

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