『花とアリス』次回作も公開!岩井俊二アニメ『TOWN WORKERS』が教えてくれる“新鮮な気持ち”

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昨日、紹介しました岩井俊二監督のアニメ作品『TOWN WORKERS』。(前篇はこちら
あらすじおよび岩井俊二ファンとしての視点を昨日はお伝えしましたが、この短編集『TOWN WORKERS』の中の第二話『君の夢を読む』という作品には、ファンじゃない人にも十分に響く普遍性があると私は考えています。
それは、6分と少しという短い時間の中に、共感できる要素がたくさん詰まっているからです。とくに、アルバイトをしたことのある人は、きっと共感できるはず。

『君の夢を読む』

作成者:townworkbaitojapan

(1)成瀬さんと前田くんの関係性
前田くんは成瀬さんに対し、バイト先では先輩だからという理由で敬語で話しますが、成瀬さんはタメ口で前田くんに接します。
こういうのいいですよね。このふたりがもし学校で出会ってたなら、成瀬さんは前田くんに対して敬語で接していたんでしょうけど、バイト先だからこそその関係が崩れる、みたいな。
あと、年下の女の子からタメ口で話される、というのは男子的には萌えポイントなんですよね。基本的に敬語で話されることが多いので、初対面に近い状態からタメ口で話されると、少しドキッとします。(逆に言うなら、年上の男に対して最初からタメ口で話せることは、男慣れしている条件のひとつであったりもする)

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(2)もともとお客さんだった前田くん
作品中盤、実は前田くんは店の常連客だったことが判明。成瀬さんとも顔見知りの関係であったとわかります。
「毎回初対面みたいだもんね」という成瀬さんのセリフにも、それが表現されています。
そんなふたり、前田くんが新しくバイトになったことで、顔見知りから同僚へと関係性が変化したんですよね。

この部分、私は本作品のキモだと思います。
それはズバリ「もし、よく行く店でバイトすることになったら」という妄想です。
自分の場合に置き換えて考えてみてください。いつも行く店の、同じ時間に決まってバイトしている人。自分は相手のことを知っているけど、でも相手は自分のことを認知しているかわからない……
誰しも、こんな経験をしたことは一度くらいはあると思います。そこに、恋愛感情にも似た気持ちが芽生えることだってあるでしょう。

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作成者:townworkbaitojapan

実際のところ、前田くんが成瀬さんに対してどんな気持ちを抱いていたのかは、作中でははっきりとは描かれていません。
しかし、バイト先に選んだという意味では悪い印象は持っていなかったはずですし、同僚へと関係性が変化したこと、そしてふたりの距離が縮まったことを見るに、恋の芽生えを十分に感じ取ることができる描かれ方と言っていいでしょう。

(3)エンディングテーマも作品の一部
本作品には、専用に作られたエンディングテーマが存在し、歌詞を岩井監督本人が手掛けているため、作品にとても沿った内容になっています。
むしろ、ストーリーで多くが語られない分、歌でテーマやメッセージが表現されていると言ってもいいくらいかも。
曲名は「ぼくら」。歌を歌うのは、成瀬役の声優も担当されている椎名琴音さん。

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作成者:townworkbaitojapan

ピアノの温かく繊細な伴奏が印象的なメロディが流れ出し、椎名さんのウィスパーボイスが耳にとても心地よいです。
そして、サビにたどりつくと、椎名さんがこんな風に歌います。

いつか時が過ぎて僕ら
ただの大人になったとしても
今のままのこのままの
自分でいられるかな?

まだ大人になっていない、子どもの視点で歌われたこの歌。ありますよね、こういうことを思ってしまう時期。社会に出てちゃんと働いたことのない子どもにありがちな考えだと思います。
しかし、だからと言って間違っているともいえないですよね。何がいいとか悪いとかなんて置かれた立場次第ですし、“子どもにとってのリアル”を描いたのならば、それは表現としては間違っていないのです。
では、歌詞で歌われる『今のままのこのままの』とは一体何なのでしょうか?
私はそれを、上記の(1)(2)から読み取ることができると思います。

(1)(2)を通して描かれているのは、日常の中の小さな感情です。
初めてバイトをしたとか、バイト先で新しい出会いがあったとか、ちょっとだけ仲良くなれたとか、夢を話した時の相手の反応だとか、そんな小さなことで喜べる、ピュアで繊細な感情の動き。

岩井監督はその映像の美しさが話題にのぼることが多いですが、私は脚本力も超一流だと思っています。確かに、起伏に富んだ物語ではないかもしれないけど、小さな感情を丁寧に美しく描き、そして日常の美しさを思い出させてくれる……
『花とアリス』も『Love Letter』もそんな作品ですよね。

そして、それってきっと、この「ぼくら」という歌で歌われていることだと思うんです。
大人になっても、子どもの頃のように、経験した出来事ひとつひとつに新鮮な気持ちを感じられるかな、そうであったらいいな、みたいな。

以上、第二話『君の夢を読む』の紹介でした。
今回、紹介しなかった第一話の『初めての潮の香り』と第三話の『この遠い道程のため』も、とてもいい作品なので、興味のある方はぜひご覧になってください。
第一話、第二話と言いつつも、個々に独立したストーリーで設定も全然違うので、それぞれ新鮮な気持ちで楽しめると思います。

そして昨日、岩井監督が初の長編アニメーション作品に挑戦することが発表されました。
作品名は『花とアリス殺人事件』
その名前からわかる通り、2004年に公開された『花とアリス』の次回作です。
声優を担当するのは期待通り蒼井優、鈴木杏の両女優。
岩井監督の新境地開拓なるか、今から非常に楽しみです!

年を重ねてなお挑戦を続ける岩井監督のように、私もこれから生きていくなかで、何をするにしても”新鮮な気持ち”を忘れないでいきたいなと思いました。

 

 

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