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「0.02歩先を読む」編集者・軍地彩弓の“個性”としてのマーケティング思考

あまの さき

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あまの さき

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ファッション誌『ViVi』の人気絶頂期を支え、大人になったギャルたちのためのバイブル『GLAMOROUS』を創刊、ファッションの情報発信がデジタルシフトしていく、まさにそのタイミングで『VOGUE GIRL』のクリエイティブディレクターを務めたフリーの敏腕編集者・軍地彩弓さん。

編集者として20年以上も第一線で活躍し続ける軍地さんに、編集者にとってのマーケティング思考の必要性について、お話を伺ってきました。

「知らない」から必要だったマーケティング

――軍地さんのように、マーケティング視点で編集者をやっている方というのは、あまりいらっしゃらないものなのでしょうか?

「そうかもしれません。

編集者になるには、まずは出版社に入るのが順当です。四大文系出身者が多いイメージですね。私ははじめからフリーランスでしたが。業界紙ですと、アナリスト的に入ってくる人もいます。そんな中で、『ViVi』のような赤文字系の雑誌を、マーケティングのベースで見た人は私の周りではあまりいなかったかもしれません

――どうしてそういった方法を取るに至ったんでしょうか?

単純に、分からなかったからです。就職活動に失敗して、フリーのライターになった途端に男性誌から女性ファッション誌へ転籍しました。ずっと男社会で生きてきたから、女の子の世界が分からない。だから、とにかく聞くしかなかったんです。渋谷109の前に立って、多い時は毎月100人単位の女の子たちから話を聞いていました。

でも、大学時代に社会調査の授業を履修していたから、すんなり入ることができました。それに、自分自身がいわゆる“きゃぴきゃぴした女子大生”ではなかったから、逆にアナリスティックに見れたと思っています。そういうふうに、調査やリサーチを繰り返す中で次のトレンドの目をみつけることが、私の基礎といっても過言ではありません

傍観者として、ファッションを見つめる

――ファッション編集者の方というのは、ファッションがお好きだからトレンドへの感度が高いのかと思っていたので意外です。

「私の場合はむしろ逆、ダサい自分がすごく嫌だったんです。ダサいなりに、何がお洒落なのか?何が流行っているのか?というのを、女の子たちのリアルな声から探していきました。

その時に意識していたのは、上から目線よりは下から目線でいること。トレンドの発信は、どうしてもメーカーやブランド主体になりがちだけど、本当の真実はユーザーや顧客が持っていると思っています。彼らの中に芽生える一種の共感性が次のトレンドになるから、私は常にそれを見つめて、言葉にしてきただけ。流行は作るものじゃなくて、生まれてくるものなんです。そういう意味で、私はファッションの専門家ではなくて、傍観者なんですよね」

――ファッション傍観者というのは、興味深い表現ですね。

「もともと傍観者としてスタートしたから、原因と結果を見ていく癖ができていました。ファッションと社会性って、実はすごく密接な関係を持っているんです。世の中の経済状況で、女の子のファッションは変わります。世相をすごく反映している。

例えばなぜ急に“モテ”が注目され始めたのかといったら、急にお金を手に入れ出したヒルズ族といわれる人たちが現れたから。彼らにくっついていくことが、当時の女の子たちにとって1番のステータスだったんです。そのためには彼らにモテなくちゃいけないし、彼らにウケのいいコンサバな服をまとう必要があった。そんな風に、女の子が動く時には、何かそこに社会的な理由があるものなんです」

「最先端が1番楽しい」が感性を磨く原動力

――現在は紙媒体に留まらず、デジタル領域にも活躍の幅を広げていらっしゃいます。新しいものに触れることを億劫に感じたことはないんですか?

「根がミーハーだから、面倒だと思ったことはないですよ。それに、最先端は1番楽しい。何より、新しいものには時代を変えていく意味があるから、面白いです」

――とにかく新しいものに触れてきたから、トレンドを見る目も磨かれたのでしょうか?

「長年の勘、ここまで積み重ねてきた経験による部分が大きいと思います。

なので、磨くために必要なことをあげるとしたら、物を見ることですね。いいものも悪いものも、とにかく膨大に見て、その原因を考えること。1つの判断基準としては、常に消費者目線であることですね。やっぱり消費者は正しいですから」
 

▲面白いと思った人とは年齢問わずに付き合っていくという軍地さん

マーケティングの必要性と編集者の役割

――お話を伺っていると、編集者として生きるためにはマーケティングの知識が必要なのではという気がしてきました……!

「少なくとも私が生き残れたのはマーケティング思考があったからかもしれませんね。でもそれはただの個性であって、必要かどうかは人によると思います。何がどう売れるかを予測し示すというのは、私のキャリアの中で大きな武器になりました。読者の1歩先ではなく……そうですね、だいたい0.02歩くらい先を行けるセンス。

だけど、それも20世紀型なんじゃないかと思います。今の時代は、マーケティングはもう不要。数値的に導き出した予測が通らなくて、もっと共感性と直感性の時代になっていると感じます」

――共感性と直感性……具体的には?

ユーザーの考え方に頭の中をシンクロさせることが共感性。数字で見ていても何も分からないですから。

それに、今の世の中は、とにかく先を予測ができないことが多いですよね。それに対して、どれだけ素早いディシジョンメイクができるかというのが直感性

とにかく今は情報量が多くて、秒単位で入れ替わります。一発ギャグだって、少し前までは1年はもったのに、今は3カ月ともたない」

――情報量はたしかに多いですね、ついていくのがやっとというか。

「そういう時代だからこそ、変わり目を見ることが編集者の役割ですよね。流行は流れなので、潮目があるんですよ。どの時点でこれが売れ始めたとか、このタレントの人気に火がつき始めたとか。そういったものの見極めが編集者の役割。そのためには、やっぱりたくさんのものを見て、知ることが大事だと思いますよ」

――軍地さんの考える、“ものを知っている”とはどういう状態でしょうか?

情報が体に入っている状態だと思います。体験的な知識でないと、物事はシナプスのようにくっついていってくれないから。

今、知識がクラウド化してしまっていると思うんです。必要な時に、必要なものだけ取り出すというイメージ。だから、例えばブランドから出されたリリース。あれは生の情報なんだけれど、出されたものを生のままアウトプットする人が増えましたよね。編集者は料理人なので、生の情報と自分の持っている知識を掛け合わせて、より面白くすることが役割。編集者は料理人として、素材の知識と調理法を知らないと面白いものは作れないんじゃないかなと思います。優秀な人ほど、色んなことを知っていますしね」

――たしかに検索すれば何でも調べられてしまう分、自分の中に蓄積されている知識量は少ないかもしれません……。

「だけど、みんながそうなっていくのであれば、そうなった場合の新しいルールができていくはず。時代によって、物事の整理の仕方や秩序も変わっていくものですから。私はその変化が面白いから、そこにまた頭を突っ込んでいくんだろうなと思います(笑)」

オリジナルな編集者になるために

編集者として、マーケティング思考があったからこそ確固たるポジションを築けた軍地さん。彼女のような“0.02歩先を読む力”を身につけるには、同じようにマーケティングの知識を伸ばすことも方法でしょう。

でも、本当の意味での編集者になろうと思うなら、しっかりと自分なりの調理方法を見つけることが鍵。その原動力として、とめどない好奇心が必須であることは言うまでもありません。

(文:あまのさき)

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