ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

岩淵弘樹映画がつきつける青春との距離/モッシュピットと岩淵さんと僕

「お前は、今、青春からどれくらいの距離にいるんだ?」
岩淵監督の作品には、いつもそう、つきつけられている気がする。

自分が映り込んでいる気がした『遭難フリーター』

岩淵弘樹さんの初監督作品『遭難フリーター』に出会ったのは2009年の3月。僕は、大学を5年間かけて卒業し、就職先もなく、まさにフリーターとして遭難しはじめた瞬間だった。
都会の中で遭難する岩淵さんのセルフドキュメンタリーを見て、スクリーンに自分が映っているようだった。

『遭難フリーター』は当時、テレビを中心に溢れていた“かわいそうな派遣社員”ドキュメントとは一線を画していた。“負け組”とされながらも、生きる意志に溢れ「俺は誰に負けた?」と、自問自答してもがく岩淵さん。その姿は、真っ最中にいると気づかなかったが、紛れもなく青春と呼べるものだったはずだ。

僕は、トークショー付きの上映を渋谷のユーロスペースで見た後、ロビーにいた岩淵さんをつかまえ、熱く感想を語り続けた。たぶん、ちよっと気持ち悪かったんじゃないかと思う。

「岩淵さんと連絡とれる?」

2010年、フリーターのようなフリーライターをしていた僕は、雑誌の企画会議で何を提案しても、誰の名前を出しても、通らない日々が続いていた。
あるとき、派遣問題に関する企画の識者が必要になり、僕は岩淵弘樹さんの名前を提案した。
編集者が言った。
「岩淵さんと連絡とれる?」

それは、僕にとって、初めて自分の提案で、インタビュー取材ができた機会となった。

取材を受けてくれた岩淵さんは「今は介護の仕事をしています」と言っていた。

“普通の幸せ”と自分との距離感を問われた『サンタクロースをつかまえて』

2011年末、震災後初めてのクリスマスを迎える仙台を撮った『サンタクロースをつかまえて』では、地元の友人たちに「俺のことどう見える?」と聞く岩淵さんの姿が印象的だった。
結婚し、家庭を築くという“わかりやすい幸せ”を手に入れる友人たちと、自分。
岩淵さんは、ちゃんと自分の監督作品を劇場公開するという成果を出しているにも関わらず、自分の見え方が気になるようだった。

僕も同じだった。
友人達に、自分はどう見えているんだろう?

この頃、2冊の本を出版していた。だが、就職したワケでもない。周りと別の道を歩み始めてしまったことは確かで、その先に何があるのかはまだわからない。
別れ道を、段々と後戻りできないほどに進んできてしまい、どの道に行くべきかわからなかった頃とはまた別の不安が襲っていた。

『サマーセール』/今、僕の横にいるこのコは、いつかいなくなる

『サマーセール』は、歌手・大森靖子さんを、新宿のラブホテルで2泊3日、岩淵さんが2人で泊まりこんで撮影したドキュメンタリーだ。もちろん、生半可な音楽ドキュメンタリーではない。

今、自分がラブホテルの中で一緒にいることができる大森さんは、今は自分の手の中にいるように、一緒に夢を追っているように見えて、きっと遠くに飛び立っていく。
そんな切なさが全編から溢れ出していた。

そろそろ、刹那的な恋愛をするのは最後の年齢かもしれない。

2014年、大森靖子さんはメジャーデビューを果たす。
デビューのタイミングで、僕のところに、大森さんへ雑誌でインタビューする仕事が舞い込んできた。過去を赤裸々に語ってくれたが、なんだか自分のことのようで、勝手に恥ずかしくなり『サマーセール』の話は聞けなかった。

就職と連載の依頼

2015年。岩淵さんは映像制作会社・ハマジムに就職した……ことを、ネットで知った。

僕も就職をしていた。
青春が終わるとしたら、就職の瞬間なんじゃないか、とずっと危惧していた、その瞬間だ。

なんとか社会に麻痺しないように。自分のような童貞をひきずる大人のために、この『チェリー』というサイトを立ち上げることになり、いくつか連載を開始することにした。

僕は真っ先に、岩淵さんにお願いをしにいった。

「遭難フリーターからのこの10年を、岩淵さんの文章で埋めてください」

岩淵さんは「他に、誰が書くの?」と聞き、僕が「岩淵さんに初めてお願いしているので、他はまだ決まっていません」と答えると、ちょっと不安そうな顔をしながらも、笑顔で快諾してくれた。

かくして、連載『10年後の遭難フリーター』が始まった。

紛れもない“岩淵さんの青春映画”だった『モッシュピット』

ハマジムに所属してからの岩淵さんが初めて撮った『モッシュピット』は、これまでの作品とは、作り方もテイストもガラッと変わったが、紛れもなく“岩淵映画”だった。岩淵さんの、青春映画だった。

ハマジムの他の監督たちの手も借りながら、恵比寿リキッドルームでおこなわれた、バンド・Have a Nice Day! のリリースパーティーの日と、そこに至るまでを追った音楽ドキュメンタリー映画。

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これまでとの作品と違って、今回はセルフドキュメンタリーではない。
岩淵さんは登場しない。
岩淵さん本人こそ映り込んでいないが、でも、そこには、紛れもなく青春が映り込んでいる。

Have a Nice Day!、NATURE DANGER GANG、おやすみホログラム。
劇中に主に登場する3組は、音楽だけで食えているワケではないが、東京アンダーグラウンドとよばれる音楽シーンではそれなりの人気を博している。いつも150人ほどの収容である新宿ロフトなどを拠点にする彼らが、1000人収容される恵比寿リキッドルームでライブを行うことになり、そこに至るまでの熱狂を、岩淵さんが追う、というかたちの映画だ。
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真向かいで行われていた青春の熱狂

正直、僕はこの3組のことを知らなかった。
恵比寿リキッドルームは実は、今、僕が働いている会社の道路を挟んだ真向かいにある。
リリースパーティーがおこなわれた2015年11月18日も、真向かいでの熱狂に気づくことなく、オフィスにいたのだろう。

目の前に、恵比寿リキッドルームがあるという好立地にも関わらず、毎日、ただただその横をすり抜けて通勤をしていた。

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僕の日常の真向かいで、こんな熱狂が起きていたことを、この映画で初めて知った。

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不思議な体験をした。映り込んでいる人たちに100%感情移入できるわけでも、彼らが好きになったワケでもない。

感情移入どころか、ストレート過ぎる彼らの言動が、サムく見えることすらあった。
サムく見えるということが、青春から距離が離れてしまったということなのかもしれない。

同時に、羨ましくもあった。
今の僕はこんなにピュアな発言ができるだろうか。

相反する感情を発生させてくれた、この映画は見終わってからずっと、僕の脳内にこびりついて離れない。

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劇場を出ると、岩淵さんが来てくれた。
「どうでした?」

そんな場所で、青春から遠く離れたつもりなのか?
お前は、そんな安全な場所から、映画を見ていていいのか?

7年前、同じユーロスペースで、立ち尽くしていた僕が、問いかけている気がした。

(文:霜田明寛)

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『モッシュピット』作品情報

【キャスト】
Have a Nice Day!、NATURE DANGER GANG、おやすみホログラム 他

【スタッフ】
監督:岩淵弘樹
撮影:カンパニー松尾、堀井修一、岩淵弘樹、タートル今田、梁井一、アキヒト、井上祐太、エリザベス宮地、黒田悠斗、morookamanabu、手汗太郎、カズキ、田中友二、杉山祐樹、坂巻裕太、平井侑馬、松田航平
プロデューサー:カンパニー松尾
企画・制作・著作・配給・宣伝:有限会社 ハマジム
[18:39:01] 小峰 克彦: 東京渋谷ユーロスペース 2週間限定レイトショー
2016年5月21日(土)~6月3日(金)連夜21時〜

【ユーロスペース基本情報】
上映時間:21:00~
入場料金:一般1800円、大学・専門学生1400円、会員・シニア1200円
高校生800円、中学生以下500円、
リピータ割引(本作半券提示)1000円、
*予約は出来ません。当日朝の営業時間から整理番号付き当日券を発売します。
*連夜舞台挨拶、トークショー予定!

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