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尾崎将也「脚本家の僕が映画を撮るということ」

脚本家・尾崎将也が門脇麦を主演に映画を撮った!

門脇麦さんを主演に、ひきこもりの女のコの埋もれていた才能が開花し、周囲に幸福な影響を与えていく様子を瑞々しく描いた映画『世界は今日から君のもの』。脚本・監督を務めたのは、尾崎将也さん。阿部寛さん主演の『結婚できない男』『アットホーム・ダッド』や、NHK朝の連続テレビ小説『梅ちゃん先生』などで知られる名脚本家だ。

監督作としては2作目となる『世界は今日から君のもの』。テレビドラマで脚本だけを書くときとの違いや、「対になっている」という『結婚できない男』と本作との関係性、自身のドラマ『ブラック・プレジデント』で出会ったという門脇麦さんへの想いなどを聞いた。

脚本家・尾崎将也の“映画を撮りたくなるとき”

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――脚本家として多くの作品を送り出してきた尾崎さんですが、ご自身が監督もしようと思い立つのはどういうときなんでしょうか?

「監督するのは自分の中で『これが撮りたい』という発想が浮かんだときですね」

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――それって登場人物の造形などに影響が出てきたりするのでしょうか?

「自分の中の根源的なものが出てくるようになりますね。『こういうお話がウケるんじゃないか』といった発想がなくなって『自分の監督する映画だから好きに考えればいい』という考えになって、自分の中の根源的な部分から出てくるものを活かすようになります」

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――というと、今回、門脇麦さんが演じた主人公・真実にもご自身の根源的な部分が投影されているのでしょうか?

「そうですね。真実がひきこもっている間に、ずっと絵を描いているという状態が、自分の中学生・高校生時代の比喩的なものになっています。僕の場合は、ひたすら映画を見ていたんですよね。その頃は、ひきこもりという言葉もなかったですし、僕は完全なひきこもりではなかったとは思いますが、その傾向はあって、ひきこもりに関する本を読んだりしても心情がとても理解できたんです」

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――今回の映画では、真実の才能が見出されて、開花していく様子が美しく描かれています。やはり、開花していくという感覚も、ご自身の経験が投影されているのでしょうか?

「僕自身は、ひたすら映画を見るだけだった中高時代があって、その後大学生になって8ミリ映画を作ったりしはじめて、32歳のときにフジテレビヤングシナリオ大賞をとってプロになることができました。閉じこもってインプットし続けてきたものが、ある瞬間にアウトプットされて認められるという点では近いですね」

実は『結婚できない男』と対になっている!?

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――真実が夢を叶えることに対しては、YOUさん演じる母親が立ちはだかりますね。

「真実という自分の分身のようなキャラクターをおいたときに、それに対して応援する人と否定する人がいる。そこは、身に覚えがある部分がたくさん入っています(笑)。僕自身、中高生の頃から、映画監督や脚本家になりたかった。だけど親は『そんなものは趣味にしておいて、普通に就職しなさい』と言うわけです。僕は『なぜ好きなことをやっちゃいけないのだろう』と葛藤していました。親に言われた『自分たちの遺伝子にそんな才能はないのよ』という言葉は、今回の映画にいかしましたね。そんな親も僕が脚本家になれたら、喜んでいるし、そういう変わり身の早い部分もいかしているかもしれません」

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――ちなみに、尾崎さんがここまで濃くご自身を投影された作品って他にもあるのでしょうか?

「『結婚できない男』で阿部寛さんが演じてくださった主人公が、ほぼ自分ですね。まあ、あれは完成された状態で、今回の門脇麦さんが演じた真実は、まだ未完成の状態。そういう意味では、使用前と使用後、みたいな感じで対になっている作品だと思います(笑)」

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――『結婚できない男』の主人公が、尾崎さんそのものだと思うと、また尾崎さんの見え方が変わってきます(笑)。作品において自分をさらけ出すことって恥ずかしさがあったりするものなのでしょうか?

「最初はありましたけど、途中で吹っ切れたんですよね。脚本の勉強をする中で、自分をさらけ出したものを書いたときに、自分でも楽しかった上に、面白いと言ってもらえたのが、きっかけだったと思います。もちろん、プロとしてやり続けるためには、自分と全く違うタイプの人物でも思いを入れて書くという技術が必要だとは思いますけどね」

自分の経験を物語にするアプローチ

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――尾崎さんと真実の共通点がわかってきましたが、もちろん、ご自身そのものではなく、物語にするアプローチをとられていると思うので、そのあたりも伺えればと思います。

「まあ、僕自身、男のコのひきこもりの話が撮りたいかと言われればそうではなく(笑)。女のコの話にするから楽しいですし、フィクションにすることができましたよね。あとは、真実だけがうまくいく話にはしたくなかったんですよね。もちろん、ラスボスとしてYOUさん演じる母親が立ちはだかるわけですが、その前に宏樹というニートの男のコが、真実を自分と同じ状況に引き留めようとする。他にも、真実を外に出そうとするという意味で、宏樹と対になる、三浦貴大さん演じる遼太郎、真実の父など、真実以外の人物がどうなるかというところまで描くことは意識しましたね」

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――真実の父を演じたマキタスポーツさんの好演も光っていました。ただ脚本を読ませていただくと、だいぶアレンジされてますよね(笑)。

「マキタスポーツさんは、脚本と微妙に違うことを、しかも毎回ちょっとずつ変えて演じるタイプなんです。でもそれが面白くて、僕の意図ともズレていないので、お任せしました」

自分と門脇麦の境界線がわからなくなった

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――そうして完成された作品を、あらためてご自身でご覧になっていかがでしたか?

「もう何より麦ちゃんがかわいく撮れていて……」

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――そこはもう、全くの同感です!(笑) 尾崎さんの門脇さんへの愛情を再確認できました。

「まあ、監督なので僕の手柄に見えるかもしれませんが、実際は、カメラマンの福本淳さん(※)のお陰です。

福本さんが撮るとなぜあんなに女のコがかわいく撮れるのかは、僕にもわかりません。あとは、門脇麦さん自身の素の状態は、真実とは全く違うキャラクターなので、やはり彼女には何か不思議なパワーがあるのだと思います」

(編集部注:『贅沢な骨』など行定勲監督作品を中心に多くの作品を担当するカメラマン。その他の担当作品に『TOKYO!Shaking Tokyo』『海月姫』『ナラタージュ』などがある)

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――不思議なパワーですか。

「撮影中にも不思議な感覚があって、自分と門脇さんの境界線がわからなくなったんです。僕を投影した真実を演じてもらっているということもあるのかもしれませんが、別の人間なのに境界線がない、普通の日常にはない奇妙な感覚でしたね」

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――尾崎さん自身を投影された脚本に、自分とは離れた役を見事に演じられた門脇さん、そしてそれを美しく撮られた福本さん……と色々なものが重なって、本当に素晴らしい映画になっていたと思います。

「この映画がもし良いものになっているとしたら、その7割は門脇さんのお陰だと思うんですね。でも、ふと考えるんです。他にも、撮影の福本さんがいて、たくさんのキャストさんがいて、音楽もあって……と色んな人の力で作品ができあがっているんですよね。そうすると、その方たちで残りの3割を分け合っているかというと、そうじゃないんです。みんなの力を掛け合わせていったら、200にも300にもなる。きっと映画ってそういうものなんでしょうね。みんなの力で想像以上のものができていく感覚は、ひとりで脚本を書いている時には、味わえないものでした」

(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)

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映画『世界は今日から君のもの』7月15日(土)渋谷シネパレスほか全国順次公開
Ⓒクエールフィルム
配給:アークエンタテインメント

【出演】
門脇麦、三浦貴大、比留川游、マキタスポーツ、YOU 他

監督・脚本:尾崎将也
製作:クエールフィルム

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