ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

第30回 AbemaTV『72時間ホンネテレビ』を検証する

先の11月2日から5日にかけて、インターネットテレビのAbemaTVで、新しい地図の3人――稲垣吾郎サン、草彅剛サン、香取慎吾サンの『72時間ホンネテレビ』が配信され、大反響を巻き起こしたことはまだ記憶に新しい。
そこで遅ればせながら、かの番組の検証を試みたいと思う。一体この番組は何が目的で、実際何が起きて、何の成果があったのか――。時間を置いて、少し熱が冷めてきた今だからこそ、見えるものもある。どうぞ、しばしお付き合いのほどを。

さて、かの番組、3日間の総視聴数は7,400万を超えたという。さすが、国民的グループと呼ばれたメンバーたちである。その一挙手一投足に国民的関心が集まった証左だろう。インターネットテレビの番組としては、もちろん史上最高である。もっとも、藤田晋社長は1億ビュー行くといってスポンサーを集めたらしいから、そこには届かなかった。

とはいえ、一度もサーバーダウンせず、72時間を無事乗り越えたことは特筆に値する。恐らく、ピーク時の同時視聴者数は100万人を超えただろうから、そのトラフィックに耐えたのは、ネットテレビとしては今後に向けた大きな収穫だろう。

だが、同番組が成し得たのはそれだけではない。その真の目的は別のところにあった。それを探るために、早速中身の検証に移ることにしよう。

社長の豪華別荘でホームパーティー

番組は、稲垣・草彅・香取の3人がAbemaTVの藤田晋社長の豪華別荘に到着するところから始まる。
そうそう、この別荘がムダにいいのだ。SNS上では「なんで社長の自慢話を聞かされなくちゃいけないの」とイマイチ不評だったけど、僕は成功した起業家がちゃんといい暮らしぶりを見せるのは悪いことじゃないと思う。何より、この番組のオープニング・ブロックは「ホームパーティー」なのだ。AbemaTVの社長の別荘を使うのは至極自然である。地上波のテレビならスタジオに部屋のセットを組むだろうが、そこにリアリティを持たせるのがAbemaTVなのである。

ブレーンは超一流

番組冒頭、3人によるテーマソングが披露された。タイトルは『72』。作詞作曲は元・ピチカート・ファイヴの小西康陽サンだ。リードボーカルを香取サンが取っていることから、かつて『慎吾ママのおはロック』などをプロデュースした彼が依頼された経緯が分かる(香取サンの声質を一番わかっているからリードボーカルにしたんだろう)。
これが、実にいい曲なのだ。いや、小西サンが作ったのだからそうなんだけど、それにしても、かなり気合を入れて作ったのが分かる。

そして、栄えあるゲストのトップバッターは、「世界のヤザワ」こと矢沢永吉サンだった。ビデオメッセージだけど、「新しい扉を開けて進む人、大好きだから」と、顔をクシャクシャにして発する言葉はそれなりに重い。

そう、小西サンのハイ・クオリティな音楽に、「世界のヤザワ」のメッセージ。恐らく、SMAPの元マネージャーで、「新しい地図」を仕掛けるCULENの飯島三智社長のアイデアだろう。暗に、3人を囲む“ブレーン”は超一流であると示している。この辺りの演出は見事である。

目指すはTwitterの世界トレンド1位

ここで、藤田社長から72時間の目標が発表された。それは――「Twitterの世界トレンド1位」を目指すというもの。もう皆さん、お分かりだろうけど、後にそれは「森くん」というワードで達成される。

続いて、稲垣・草彅・香取のSNSデビューが披露された。驚いたことに、この時点で3人の誰もSNSをやったことがなかったのだ。各人の担当は、稲垣サンが「ブロガー」、草彅サンが「ユーチューバー」、そして香取サンが「インスタグラマー」である。文章・演技・芸術と、それぞれの得意分野を生かした担当分けだろう。

前代未聞のスクショ選手権

そして、この番組を象徴する前代未聞の通し企画も発表された。それは、視聴者参加の「スクショ選手権」なるもの。72時間の配信中、気に入った場面をスマホで“スクショ”(スクリーンショット)して、タグをつけて自由にSNS上に投稿していいという。

これは画期的だった。
元来、テレビの世界は著作権にはうるさい。その真逆を行く行為である。だが、結果的にこれが72時間を通して、同番組の最大の“番宣”となる。
それはまるで、かつて撮影NGだった国内の音楽イベントが、海外のフェスを起点に撮影OKとなり、今やSNSの拡散をむしろ奨励するようになった現象を彷彿とさせた。

SNS発で番組を見るスタイル

そう、AbemaTVの先進性は、人々がテレビを見る動機付けに、新たに「SNS発」を加えた点にある。同テレビの利点は、外出先でもスマホがあれば、いつでもどこでもテレビを見られることだ。
実際、今回、Twitterのタイムラインに森くんとの4ショットが大量に流れ、それに触発されてスマホのアプリを立ち上げ、番組を見た人も多かったと聞く。これはAbemaTVが発明した新たな視聴スタイルである。

その後、番組はしばし藤田社長の別荘内の探索に費やされ(ここで渡辺篤史サンを呼べばもっとよかったのに)、程なくして客人が到着する。いよいよ番組のオープニングを飾るホームパーティーの開催である。

パーティーの本当の目的

このホームパーティー自体は大したことはない。お土産を渡して、飲んで食べて、カラオケして、パットゴルフして、クイズやゲームに興じる――そんなところだ。
だが、パーティーの真の目的はそこじゃない。大事なのは、誰が来て、何を喋ったかである。ちなみに参加者は――伊達公子、橋下徹、カンニング竹山、メイプル超合金、織田信成、矢口真里、フォーリンラブ・バービー、みちょぱ(池田美優)、岡本夏美、柳ゆり菜、爆笑問題――である。

まず、爆笑・太田サンの暴言がSNSを賑わせた。もちろん、想定の範囲内だ。要は、「飯島を呼べ!」や「木村、見てる?」みたいな発言の真意は、ゲストが喋る分には、基本タブーはないと飯島サンは伝えたかったんだと思う。

もう1つのポイントは、ゲストたちの所属事務所である。タイタン、サンミュージック、アップフロント、ナベプロ、エヴァーグリーン・エンタテイメント――etc. ちなみに、エヴァーグリーンはバーニング系のプロダクションである。

誰が来なかったか

要は、それらの事務所は「新しい地図」に協力しますよ、というスタンスである。ちなみに、これ以外に72時間の番組中に訪れたゲストの所属事務所は――浅井企画、人力舎、マセキ芸能社、スターダスト、オスカー等々。

反対に、72時間中、一組もゲストを派遣しなかった事務所もある。ジャニーズ事務所を筆頭に、大手では吉本興業、ホリプロ、アミューズ、レプロ・エンタテインメント、そしてエイベックス等々――。

そう、誰が来なかったか――。
今後の「新しい地図」の展開を知る上で、この点が重要な鍵になるのだ。

陰のプロデューサー・香取慎吾

賑やかなパーティーも終わり、部屋は再び稲垣・草彅・香取だけになった。ここからは3人だけの生トークのブロックである。
だが、ここで早々に香取慎吾が席を外す。残された稲垣・草彅は「あいつ、飲みすぎじゃないか?」と心配するが、実はこれは香取サンの巧妙な作戦。2人っきりにして、彼らの思い出話を引き出そうというのだ。確かに3人よりも、2人のほうがよりディープな話が聞けそうである。

そう、ここで視聴者は気がつく。この番組の陰のプロデューサーが香取慎吾であることを。恐らく、番組全体の大枠の構成は、飯島サンと彼の2人で考えたものだろう。実際、この後に、草彅サンが「別荘を使わせてもらったお礼に、慎吾に絵を描いてもらおう」と提案するが、香取サンは「俺の知らないところで打ち合わせしたワケね」と暗に自分が全体の仕切りに携わっていることを匂わせた。

新しい別の窓=AbemaTV

そうそう、この3人の生トークのブロックで草彅サンが作詞作曲した歌も披露された。タイトルは『新しい別の窓』――略して『アベマ』である。これが意外にも(と言ったら失礼だが)いい歌だったのだ。彼はマイクの前で普通に歌うよりも、ギターを弾きながらのほうが断然歌がうまく聴こえるのは気のせいだろうか。

それにしても、この『新しい別の窓』というタイトルは秀逸だ。AbemaTVの持つ、既存のテレビとは違う可能性を示しつつ、3人の「新しい地図」も掛けてある。名コピーライター・草彅剛の誕生である。

登場、三谷幸喜

番組はその後、香取サンが藤田社長の別荘のスカッシュ部屋に御礼のイラストを描いたりと色々な展開を見せるが、ここでは省略する。

2日目を迎え、時間は午前11時。堀越高校の教室に、あの男が待っていた。三谷幸喜である。
ここから2時間は、彼のブロック。その内容は、教室を舞台に3人が出演する5分間のミニドラマを撮るという。しかもゼロから脚本を作り、リハーサルを重ね、本番に臨む。それら全てを2時間でやるという。

僕は同番組において、この三谷サンのブロックが最大の収穫だったと思う。三谷幸喜という大物ゲストに2時間を預け、1つの作品が出来上がる過程を生で見せる――こんな贅沢な時間の使い方は、地上波のテレビじゃ絶対にできない。
逆に言えば、こういう演出ができると分かったことが、同番組の最大の収穫だったと思う。

地上波のテレビはそれこそ1秒単位でテロップを入れたり、ナレーションを足したりして、絵を作っていく。一方、ネットテレビは“生”の特性を生かして、SNSと連動しながら視聴者を誘導する――どちらがいい悪いではなく、互いに棲み分けをしながら、テレビ界全体が盛り上がればいい。

スターダストの2人にインスタを習う

三谷監督のミニドラマの撮影も無事終わり、3人は次の目的地へ向かう。今度は2人のイケメン俳優にInstagramを教えてもらうという。
1人目は、男性インスタグラマーでフォロワー数日本1位の山﨑賢人サンだ。3人は、彼からSNOWのやり方を習う。今や若手トップ俳優にインスタを教えてもらうなんて、なんとも贅沢な番組だ。

続いて3人は、山﨑サンの事務所(スターダスト)の先輩でもある山田孝之サンの元を訪れる。ちなみに、山田サンもインスタ男性部門2位である。
で、この山田孝之サンがなかなか面白かった。

2017年で最も面白い男・山田孝之

この日、山田孝之サンは、自らがプロデュースする映画『デイアンドナイト』のクランクインで訪れた秋田から、藤田晋社長が所有するプライベートジェットに乗って帰京したという。まず、そこから面白いが、なんと彼が3人と待ち合わせした場所は、原宿の人気スポット――スティーブン・パワーズの巨大なストリートアート『NOW IS FOREVER』の前だった。普通に人々でごった返す(しかもこの日は祝日である)場所に、普通にたたずむ山田孝之サンがまた面白い。

それから一行は、山田サンの先導のもと、インスタ映えするスポットを目指して原宿・神宮界隈を探索する。ここで何が感心したって、山田サンが3人の初歩的なSNSの質問にも懇切丁寧に答えていたこと。恐らく、この72時間で3人が最もSNSを学べたのは、“山田先生”からじゃないだろうか。
さすが、2017年で最も面白い男・山田孝之である。

芸能界のドン、登場す

この後、3人はプロレス・デビューや市川海老蔵サンとのキャラ弁対決などをこなし、夜も更けて、六本木の思い出の場所へと向かった。
そう、2016年12月31日のSMAP解散の日にメンバーで集まり食事した「炭火焼肉An」である。そこには芸能界のドンが待っていた。
堺正章サンである。

芸能界のドンを前に、委縮する3人。
草彅「やっぱり、緊張しちゃいます」
堺「よそうよ、よそうよ。今日は無礼講……無礼講にも限度があるけどね」

――これだ。これぞマチャアキ節。とはいえ、その笑顔の裏には、田辺エージェンシーをはじめ、芸能界に強い影響力を持つ華麗なる人脈が連なる。“芸能界のドン”とは、単なるベテラン・タレントへの比喩ではないのだ。
そして始まった食事会。個室のテーブルの上座にドン、3人は向かい合う形である。まるで面接を受ける就活生のようだ。

終始笑みを浮かべながら、3人に芸能界で生きる覚悟を問うドン。恐縮しつつも、前向きな答えを発する3人。SNS上は「3人が可哀想!」「顔が強張ってる!」といったネガティブな書き込みが散見されたが――そもそもこの場をセッティングしたのは「新しい地図」を仕切る飯島サンである。そこには、彼女なりの思惑があった。

転校生を守るクラスの番長

普通、芸能人が長年お世話になった事務所を辞めて独立すると、相手が大手の場合、芸能界では干されるのが通例である。テレビのレギュラーから外されたり、CM契約も延長されなかったり――いわゆる芸能界の悪しき“忖度”が働く。
しかも3人は、『72時間ホンネテレビ』という異例の船出を果たしたばかりである。旧来の芸能界の風当たりは強いだろう。どの芸能事務所も、どう彼らに接していいのか、正直戸惑うところである。

そこへ芸能界のドン、堺正章サンだ。この会食は、要はドンが3人にお墨付きを与えたということ。例えて言うなら、3人の転校生がクラスメート全員から無視されようとしていたところに、「あれは俺のダチだから」とクラスの番長が味方してくれたようなもの。
これで、3人は今後も芸能界という“クラス”で生きていけるのである。

運動会が教えてくれたこと

そして番組は3日目を迎える。この日は朝から運動会が行われた。
とはいえ、バラエティ番組などでよく見る運動会だ。内容自体は大したことはない。ここもオープニングのホームパーティー同様、見るべきポイントは1つしかない。“誰が来なかったか”である。

ちなみに参加者は――司会のずん・飯尾、はるな愛を筆頭に、ボビー・オロゴン、永野、ギャオス内藤、薬師寺保栄、花香よしあき、亀田興毅、ジャイアントジャイアン、スパローズ、森脇健児、野村将希、野村祐希、武尊、テル、あかつ、オラキオ、シューマッハ、インディペンデンスデイ、所英男、立石諒、屋舗要、猫ひろし、お侍ちゃん、ドドん、瀧上伸一郎、イワイガワ――

見ての通り――吉本芸人が一人もいなかったのだ。
それでも、ずん・飯尾サンの進行は安定して面白かったし、全体的に盛り上がったし、3人も結構ノッて楽しんだ。つまり――非・吉本芸人でもちゃんとバラエティが成立すると分かったことが、このブロック最大の収穫だろう。

浜松オートレース場へ

そして、番組は72時間で最大のサプライズを迎える。
バスに乗り込む3人。行先は、浜松オートレース場である。そう、SMAPからオートレーサーに転身した、あの森且行サンに会うために――。

この日、浜松オートレース場では「日本選手権オートレース」の開催中だった。オートレースの中で最も伝統と権威のあるレースで、年に5回しかない「SG」と呼ばれる最高クラスのレース(競馬でいう「G1」みたいなもんですナ)の1つだ。森選手が出場するのは、その準決勝。ここで上位2着までに入ると、翌日に行われる優勝戦に出場できるという。

オートレーサーは全国に400人ほどいるので、準決勝枠の32名に入った時点で、森選手は「S級」と呼ばれる堂々のトップレーサーなのだ。

「森くん」が世界トレンド1位に

午後0時15分、3人は浜松オートレース場に到着、早速VIPルームに通される。まだ森選手のレースが行われるまで少し時間があるので、ここで彼らはフリーアナウンサーの井上英里香サン(彼女はテレビ埼玉で森選手が所属する川口オートの専属リポーターである)からオートレースの講習を受ける。

そして試しに、森選手が出場する1つ前のレースの車券を購入する。その時だった。なんと「森くん」というワードがTwitterの世界トレンド1位になったのだ。時計の針は午後1時11分。同番組が冒頭で掲げた目標が、この時点で達成されたのである。

香取慎吾の目に涙

そして午後2時過ぎ、いよいよ森選手がレース場に顔を見せる。まず、練習走行が行われるが、この時、走りながらチラッと3人のいる観覧席を眺める森選手。思わず感極まった香取サンが目頭を押さえる。
香取「泣いてないです……」
草彅「お前、泣いてるの?」
香取「泣いてない、泣いてない……」

3人が買った車券は当然、森選手の単勝狙いである。ちなみに、森選手が1位になると、賞金は“72”万円。偶然の一致だが、なんとも運命的な数字である。

午後2時20分、レーススタート。森選手は最初こそ4番手だったが、3周目で最後尾になると、あとはそのままの展開が続き、結果は8位、最下位に終わる。現実はドラマのようにはいかない。ここで3人も視聴者も、森選手が挑む世界が厳しいものだと、あらためて思い知らされる。
ちなみに、レース結果は「7―2」。ここでも、その数字に何か運命的なものを感じる。

21年ぶり歴史的共演へ

さて、レースも終わり、3人はレース場のバックヤードに案内される。通常、レース中は不正防止のために選手は外部との接触は禁じられるが、3人は特別な許可を受けたのである。

午後3時5分、森且行サンが姿を現す。小走りで3人の元へと駆けつけ、抱擁を交わす4人――この4ショットは“スクショ”され、Twitterのタイムラインに氾濫する。恐らく、この写真を見て、慌ててスマホのアプリを起動して、同番組を視聴し始めた人も多かっただろう。

森「緊張したよ……」
草彅「焦った?」
森「あぁ、焦った、焦った(笑)」

冗談を言い合う4人の姿は、21年前と何も変わらない。感極まって再度森サンに抱きつく香取サン。「デカいな」と笑いながら抱きしめ返す森サン。
この時の香取サンは、少年・香取慎吾に戻っていた。

思い出話に3時間以上

森サンは3人を食堂へと案内する。そして思い出話に花を咲かせるかつての仲間たち――。
この時、特に印象的だったのは、森サンと香取サンの関係だ。当時、2人はよくプライベートで一緒に過ごす時間が多かったという。2人の年齢差は3歳だが、10代でその差は大きい。いわば兄弟のような関係だ。傑作だったのは、香取サンが昔、森サンに呼ばれて自宅に遊びに行った時の話――「来いよと言われていったら、見たことのある芸能人の女の人がいた」

そんなぶっちゃけトークも交えつつ、続いて3人は森サンの案内で宿舎からレース場、そして整備場を見て回る。初めて目にするオートレースの世界。フェンスに張られた森選手の横断幕の前に座り込んで空を見上げる4人の姿は、まるで青春映画の1シーンのようだった。

結局、3人が森サンと別れ、オートレース場を後にしたのは、午後6時23分。なんと3時間以上も思い出話に花を咲かせたのだ。いや、オートレース場に来てからカウントすると、実に6時間以上も滞在したことになる。こんな贅沢な時間の使い方は、地上波じゃ絶対にマネできない。

最終日は個別行動に

4日目(最終日)は、3人別れての個別行動となった。
草彅サンはユーチューバーとなり、数々の「大実験」企画を慣行した。稲垣サンは「もしもの結婚式」と題し、道で“ナンパ”したカナさんとの疑似結婚披露宴を行った。そして香取サンは特殊メイクで「カトルド・トランプ」に扮し、浅草の雷門でもみくちゃになった。

特に印象的だったのは、香取サンの元へ、かつてのNHK大河ドラマ『新選組!』の共演仲間――佐藤浩市サンや山本耕史サン、谷原章介サンらが激励に駆けつけたこと。香取サンの人徳のなせる業だろう。谷原サンに至ってはサングラスをかけたSPに扮し、浅草寺の人混みの中を終始裏方に徹した。恐らく観客の中には、谷原サンと気づいていない人も多かったに違いない。そんなところにも、役者仲間の“絆”の深さを感じた。

フィナーレは72曲メドレー生ライブ

そして、番組はいよいよグランドフィナーレを迎える。3人による72曲メドレー生ライブである。
歌唱前の草彅サンの言葉が印象的だった。「僕らには曲がない。アーティストの皆さんの曲をお借りして、好きな曲を歌いたい」――。

そう、その72曲は、彼ら自身のセレクトだったのだ。
これが、なかなか思わせぶりで、途中、『SOMEDAY』(佐野元春)から『いつか』(ゆず)を歌うくだりがあったり、ラスワンの71曲目に木村拓哉サンが信奉する故・忌野清志郎さんの『雨あがりの夜空に』を持ってきたり――。

この72曲に、3人はどんなメッセージを込めたのか。それをここで分析するのも無粋なので、ぜひ、皆さん自身で考えてみてください。

『72時間~』から見えたAbemaTVの可能性

ここで、ラストシーンの描写に移る前に、あらためて今回の『72時間~』がもたらした意味について考察したい。
それは、「新しい地図」の3人の門出を祝うものであったのは確かだけど、それと同時に、「新しいテレビ」の可能性を示す、いわばAbemaTVのプレゼンだったのではないか。

本コラムでも再三述べてきたが、同テレビが既存の地上波のテレビと大きく異なる点が2つある。
1つは、“視聴の動機づけ”である。従来のテレビがあらかじめ決められたプログラムを流し、視聴者がお茶の間でそれを楽しむ構図なのに対し、AbemaTVは今この瞬間、バズっていることをSNSで喚起し、視聴者はそれに触発され、外出先でもスマホでアプリを起動して視聴する――つまり、“SNS”が視聴の動機づけに欠かせない点である。「テレビを見る→何かが起きる」ではなく、「何かが起きる→テレビを見る」と、動機と結果が既存のテレビと逆なのだ。

大きな時間の流れゆえの“非・予定調和”感

そしてもう1つが、“大きな時間の使い方”である。既存のテレビはそれこそ1秒単位でテロップやナレーション、SEなどの編集が施され、お茶の間に届けられる。常に緊張感のある絵作りが行われる。対して、AbemaTVは2時間なら2時間、設定のみを与えて、その中で起きる化学変化を追う。

そう、だから同テレビは当然、何も事件が起きない時間帯もできる。だが、それゆえ一度何か起きた時の「非・予定調和感」が際立つのだ。
例えば、あの森且行サンとの再会ブロックにおいても、地上波なら3人がオートレース場に着いてから再会までの3時間は15分くらいに編集するだろう。でも、AbemaTVは敢えてその3時間をガッツリ見せる。そうすることで、いざ再会できた時の4ショットの喜びがダイレクトに視聴者に伝わるのだ。

AbemaTVが開いた新しい別の窓

「SNS発」と「非・予定調和感」――その2つが、AbemaTVが既存の地上波のテレビと大きく異なる点である。
そして、ここからが最も大事なことだけど、その“違い”は決して、既存のテレビを脅かすものではない。新しいテレビの在り方の可能性の扉を開いたのだ。

そう、奇しくも今回の『72時間~』の中で草彅サンが歌った『新しい別の窓』――まさしくアレなのだ。既存のテレビとは別の、AbemaTVという全く新しいテレビである。

今回の『72時間~』を、同テレビの藤田晋社長が大きなリスクを背負いながらも推し進めたのは、1つは「新しい地図」の3人の門出を応援したかったからだろう。そこに他意はないと思う。だが、彼はビジネスマンである。当然、それだけのために骨は折らない。
もう1つは――昨今の「若者のテレビ離れ」に対する“次の一手”だったと僕は推察する。SNSを通じて若者に接触し、従来のテレビ的な演出とは違う“非・予定調和”な世界観で、彼らを再びテレビに振り向かせたかったからではないだろうか。

「72」に託された意味――

午後8時47分、ライブ終了。その後、ゲストの方々からの「お疲れ様です」のビデオメッセージが流れた。トリを飾ったのは、森且行サンである。
「これからも、ずっとずっと仲間だから。応援しています」
――その瞬間、普段はあまり感情を表に出さない稲垣サンが手で顔を覆い、泣き出した。つられて後の2人も涙ぐむ。

番組は終わった。総視聴数は72曲目に7,200万を達成し、最終的に7,400万を超えた。
そう、ここでも運命の数字「72」が存在感を発揮した。

もしかしたら、その「72」には、番組を通じて、ここにいない2人へのメッセージも含まれていたのかもしれない。
中居正広と木村拓哉――奇しくも2人とも1972年の生まれである。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

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