■アイドルの“キラキラじゃない”魅力を引き出す映画監督
関ジャニ∞の渋谷すばるさんを主演に迎えた映画『味園ユニバース』が今月14日から公開がはじまった。
公開2日間で4万3334人を動員、興行収入5522万円を上げ、限られた公開規模にも関わらず、9大都市全国興行収入ランキングでは10位にランクインするなど、大ヒット中だ。
監督は現在テレビ東京で放映中のドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』の監督のひとりとしても注目されている山下敦弘さん。
最近では“前田敦子をニート”にした『もらとりあむタマ子』や“乃木坂46のメンバー3人を地味な文科系高校生”にした『超能力研究部の3人』が注目された。
そんなアイドルをアイドルらしからぬ設定で撮ることを得意とする山下監督にインタビュー!
■国民的アイドル前田敦子や乃木坂46を“ダサい女の子”に変身させてきた山下監督
――――今回の渋谷さんをはじめ、最近の山下監督の作品には普段は俳優というより“アイドル”という肩書で呼ばれる方が多く主演をされています。
いつものステージでの印象とは異なり、どこにでもいるような華のない身近なキャラクターになっているように思えます。演出をする上で心がけていることなどありますか?
「前田敦子さん以降アイドルを起用することは多いのですが、キャラクター作りは“お客さんに作られたアイドル像以外の、その人が元から持っているもの”にヒントがあると思っています。だからこそ現場の姿だけをみて、あえてアイドルとしての情報は仕入れないように心がけてきました。
今回はまっさらな渋谷くんをイメージしながら茂雄というキャラクターを作りました。
逆に前作の『超能力研究部の3人』では素でキラッキラの女の子たちをダサい女の子にしたら面白そうだと思って、普段のアプローチと逆のことをしました」
―――――実際に渋谷さんや乃木坂46の3人に役をつけたときの印象も教えてください。
「渋谷くんは“アイドルじゃない感”がダダ漏れで作りやすかったです(笑)。
鋭さと陰があったし、荒々しい魅力がありました。逆に乃木坂の3人は皮をむくと本心が出るのかと思っていたら全くでなくて苦労しましたね」
――――役者として渋谷さんにどんな魅力を感じましたか?
「渋谷くんの役は、人生の選択を間違え続けてきた男なんです。でもどこかまっすぐさがある。そこが彼にハマりましたね。人間、常識を気にしたり、誰しもどこかバランスをとって生きていきますよね。でも映画では、衝動的だったり、そういう風に生きられない人を映すのが面白いので、これからも描いていきたいですね。かといって犯罪者がいいってわけじゃないですけど(笑)。
茂雄という人間は一言でいうと歌しか残ってなかった男なんです。それも渋谷くん自身にも重なります。実際に歌声を聴いたときは“説得力がある歌を歌う人”という印象を持ちました。それがこの映画の核になるとも思いましたね」
■死んだお父さん役が某有名ミュージシャン…!? ジャニーズ、お笑い、ピンク映画の監督、インディーズバンド、日本映画の名脇役まで…ジャンル不問・盛りだくさんなエンタメ映画
山下監督にとって10年ぶりの音楽映画である今作。大阪のバンドシーンを支える赤犬と映画単独初主演の渋谷すばるさんを絡ませる、不思議な組み合わせも印象に残る作品だ。
主演を支えるのは、赤犬の他にも天竺鼠の川原克己さん、日本映画の名脇役、宇野祥平さん、康すおんさんなど。レッテルをはるのは良くないが、ジャニーズ主演映画と聞いて浮かぶイメージとはかけ離れている。
その面々が大阪のウラなんばの空気に溶け込み、どこか懐かしくも、残酷で愛おしい、唯一無二の世界を作り上げているのが本作の魅力だ。
―――――いろんなジャンルのキャストを共存させるのは大変でしたか?
「主演の二人はすぐ芝居がイメージできました。特に渋谷くんのストイックな感じやまっすぐなところが映画をひっぱっていったのがよかったです。
一番大変だったのは赤犬とのバランスですよね。全体がシリアスなので、赤犬が軽くなりすぎちゃだめだし……。そこは苦労しましたが、最終的には赤犬も主演を支える魅力的な芝居になったと思います」
――――うまくスクリーンではその均衡が保たれているように感じました。他にも、芸人、やピンク映画監督など肩書はキャスティングをする上で意識はされたのでしょうか?
「本業は全く関係なかったですね。お笑い芸人の川原さんも知ってるけど、俳優としてオファーしました。
鈴木紗理奈さんも『めちゃイケの鈴木紗理奈がいる』と思われてもいいかな、と思ったんです。いろんなジャンルの人がいると映画が豊かになりますから」
――――――関ジャニ∞や渋谷すばるさんのファンの方々は、なかなか山下監督の作品を観る印象がなかったのですが、勝手な見解ながら、お互いが歩み寄るきっかけになる作品だったと思います。
本サイトは“20代女子に向けてトレンドを提供するニュースサイト”なのですが、あまり映画館へ多く来る習慣がない、読者に向けてメッセージはありませんか?
「観る人を選ばない映画は理想ですよね。でも自分の映画は無意識に観る人を選んできました。
今回はシンプルに観られると思いますし、映画と音楽って相性がいいと思うので、それを大きいスクリーンで見て、大きい音で聴いて欲しいです。
いろんなバンドが出るので、少し大げさかもしれないけど、フェスに来るような感覚できて欲しいですね。しばらく映画を観てなかった方も是非、劇場に足を運んでください」
より多くのジャンルのエンターテイメントを1度で楽しめる映画『味園ユニバース』。
どのキャスト目当てで映画館に来ても、他の好きな俳優や音楽がみつかりそうだ。アイドルやバンドマンが見せている普段のイメージとは少し違う、新しい魅力を発見できるかもしれない。
(取材 霜田明寛・小峰克彦)
(文・小峰克彦)
『味園ユニバース』 絶賛公開中
©2015『味園ユニバース』製作委員会
配給: ギャガ