最近、映画やドラマで、“どんでん返し”展開が多く使われている。
中でも記憶に新しい“どんでん返し”展開は3月に終了した人気刑事ドラマ『相棒』だろう。
最新シリーズの最終話でも、3年間主人公・杉下右京(水谷豊)の相棒だった甲斐(成宮寛貴)が犯人だったという衝撃の結末がネット上でも話題となった。
今後、ドラマ・映画を観る際に主要キャラを「この人、裏切り者なんじゃないか?」と序盤から疑ってしまう。
確かにそんなショッキングな展開が与えてくれるドキドキも映像鑑賞の醍醐味。
しかしハッピーに予想を裏切ってくれる作品もたまには観てみたい……!
今回、そんな(筆者と同じく)ハラハラな展開に疲れた方に向けて、紹介したいのが映画『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』だ。
ドキドキ・ハラハラの“どんでん返し”展開に疲れたあなたへ
この作品はスーダンからアメリカへの移民たち“ロストボーイズ”の実話をベースにした物語。
“ロストボーイズ”とは内戦によって両親の命と、住む家を奪われた数万人の子供たちのこと。
彼らの一部、スーダンの難民キャンプで育った3600人の若者たちに対して2000年、全米各地への移住計画が実施されたのだ。
この映画は1つの作品の中に毛色の違う前編・後編があるのが特徴的。
前半はスーダンの4人の若者が内戦の戦火を逃れ、死にもの狂いでキャンプに辿り着き、“ロストボーイズ”として自由の国での生活を手に入れるまでを描く。
そして作中の多くを占めるのが、彼らを受け入れた先のアメリカの人々とのふれあいを描いた後半だ。
それぞれから見どころを紹介したい。
内戦の悲惨さを子供目線でしっかりと描く
前半では主人公たちが少年少女だったころに降りかかった悲劇を、痛いくらい丁寧に描写する。
筆者も鑑賞した時、内戦にまきこまれてから、難民キャンプにたどり着くまでの描写は何度も目を閉じたくなった。
仲間が餓死しても、親の死体を目のあたりにしても、彼らは生きるために1600キロの道のりを歩き続ける。
その中でも特に哀しい情景は、飲み水が無くなり、自分たちの尿を飲むことになるくだりだ。
この過程だけ描いて映画がで終わってしまうのではないかと思うくらい長く感じるシーンだった。
後半でも大人になった彼らが、アメリカでの生活の中で、そのトラウマに悩まされる様子が描写される。
観客もその悲惨さを共有しているため、仲間が苦しむ姿を観るように感情移入をしてしまう。
前半は“哀しい史実”として実際に起こったであろうことを教科書で知るような“事実”ではなく、世界のどこかで起きていた“現実”として疑似体験させてくれる。
一見ほっこりするカルチャーギャップが教えてくれる、平和のありがたみ
アメリカに移住した彼らは車に乗せれば一瞬で酔うし、牧場を見ると「猛獣はいますか?」と確認。マクドナルドの看板を見るのも、食べるのもはじめてで、コップにストローを刺すのも一苦労だ。
彼らの就職の世話係になったアメリカ人のキャリー(リース・ウィザースプーン)もタジタジ。
しかし彼らには都会で光るステキな個性がある。それはどんな小さいことにも感謝や尊敬を忘れず、精いっぱいの態度で表わす点だ。
配達されたピザに「奇跡の食べ物」と手を合わせ、警察官に会うと、“危険をかえりみず、治安維持を仕事とする”彼らに深く尊敬の意を表する。
彼らが私たちの“当たり前”に対し1つ1つ驚く様子が新鮮だ。
先進国の生活がいかに魔法のように便利で、平和で、幸せな環境であるか実感させてくれる。
優しい嘘がプレゼントしてくれる、感じたことのない種類の幸福感
最後に注目していただきたいのは、タイトルにもある“優しい嘘”がつかれる場面。
観る人の予想をはるかに超えた幸せの“どんでん返し”が、あなたの心にこれまで感じたことのない勇気と幸福感をプレゼントしてくれるだろう。
上映館数は多くはないものの、映画ファンだけでなく一人でも多くの人に観ていただきたい作品だ。
(文:小峰克彦)
作品情報
監督:フィリップ・ファラルドー
原題:THE GOOD LIE/アメリカ/110分/5.1ch/ビスタ/字幕翻訳:稲田嵯裕里
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後援:国際移住機関(IOM) 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)
配給:キノフィルムズ