『面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由』という本が9月17日に発売された。
タイトルを見て、アナウンサー志望の学生、マスコミ就活をしている学生、その親たちに向けた本という印象を持つ方も多いだろう。
実はこの本、「就活のためだけの本」ではない。
例えば僕にとってこの本は「大学を留年し、内定も無く、彼女に浮気され、就職どころか人生をあきらめそうになっている大学5年生が、劣等感を受け入れて、“自分らしい人生”を踏み出す方法を教えてくれた」本だ(長い……)。
就職どころか、上手く自分を見つけられない人に、ちゃんと自分を受け入れて生きるための「方法」や「言葉の使い方」を教えてくれる。
ちなみにこの本の著者は、テレビ局の人事部のOBでも、老舗就活塾の名物講師でもない。
3年前まで無職。元芸人で、元ホスト。現在は就活本作家として、大学で就活講座を持ちつつ、ミスキャン評論記事や映画監督へのインタビュー記事を雑誌やWEBに寄稿するジャンル不問のライターでもある。
そんな異色の文筆家でこの本の著者の霜田明寛さんは、「本作に書かれた言葉」を本にする前から僕に掛けてくれていた。この本は出版される前からどうやっても上手く生きられない大学生を救ってくれていたのだ。
自分が一番気にしてた「童貞ぽさ」が武器になった日 リア充就活セミナーの打ち上げでブサイクが覚醒!?
僕は大学2年生の頃、偶然、霜田さんの『マスコミ就活革命(レボリューション) ~普通の僕らの負けない就活術~』という本を読んでいた。就活本にも関わらず、例えに岩井俊二監督や三木聡監督の名前が出てくる、不思議な本だった。
就職浪人した僕は、2年目の就活をはじめるにあたり、この本の著者に会っておこうと思い「就活エッジ」という霜田さんが主宰する就活セミナーに足を運ぶ。
10月のある日、会場である渋谷の貸会議室は“意識の高そうな学生”であふれかえっていた。就職活動2年目の僕にとって腐るほど見た景色だ。
そんな優秀オーラを放つ学生たちに対して、セミナーの中で霜田さんが言った「失敗経験や自分のネガティブな部分と向き合って自己PRをしよう。劣等感は武器になる」という主旨のフレーズが、聴衆の殺気だった学生たちにそぐわず、印象的だった。
劣等感まみれの僕は「この人と話してみたい!」とセミナー後に行われた交流飲み会に行くことを決めた。
しかし飲み会がはじまり、2分で参加したことを後悔することとなる。
現在、「就活エッジ」には色んな大学の学生が集まってきているが、当時はマスコミ就活の常連、早稲田や慶応の学生が多く、中でもアナウンサ―志望がほとんどだったため、美男美女多かった。セミナーの間、夢中で前ばかり見ていた僕は、気がつかなかったのだ。
そんなエリートたちの中でMARCH以下の偏差値の大学に通い、留年が決定した落ちこぼれ学生の自分には場違いなことはなはだしかった。
周りの話題は“夏に先だって行われたテレビ局の青田買いの選考について”。みんなインターンで出会っているのか、既に友達のようだった。
2年前に就活をはじめた頃、スーツを着るとじんましんが出る体質になってしまっていた僕は、その日、私服にも関わらず、身体のいたる場所がかゆくてたまらなかった。
普段の面接でも毎回どもってしまい、面接官の目も見られない僕だったが、その日は年齢が1個下の学生の目も見られない。
そんな、「落ちこぼれ就活生」どころか、「就活もまともにできない欠陥品」である自分が来るところではなかったのだ。
ふと顔を上げると、僕が座った席の目の前には立教大学在学・女子アナ志望のかなり綺麗な学生が座っていた。「地味でブサイクな僕の前に座って、“誰とでも笑顔で接する私”を演出したいんだろうか」と思った。
まだ電車で目の前の席に座っているなら少しうれしい状況だろう。しかし知り合いが一人もいない、同世代の飲み会では地獄だった。どもりながら必死でその子と話しをするも、もちろん話はかみ合わない。相槌さえ上手く打てない僕を見て、彼女の笑顔が凍っていく。
そんな中、すべての席に乾杯するために回っていた霜田さんがやってきた。この飲み会で一番盛り上がっていない僕らの席に来るなり、僕と彼女を見て言った。
「お、異文化交流! 大好きなんだよね! 童貞が美女と話してるの!」
そのフレーズを聞いて、違うテーブルの奴も面白いもの見たさで身を乗り出す。
きっと僕は恥ずかしさとじんましんで首と顔は真っ赤だったはずだ。普段なら顔から火が出るほど恥ずかしい場面。しかしセミナーの中で「劣等感を武器にしろ」と言われた直後だったので、腹を括った。
僕の劣等感は「メガネがネガティブに似合ってしまう地味な見た目」に加えて「生まれつき話し方や仕草がどうしてもなよなよとしてしまうこと」。おまけにそれらを助長するブサイクな顔面だった。「どうにでもなれ」と僕はこれらを利用することを決める。
興味を向けられた次の瞬間、どもりをさらに誇張して、女の子からの言葉をおおげさにありがたがる。その瞬間にドッと笑いが起きた。この時のことを後に友人は、『素人娘、お貸しします。』シリーズに出演する“強がっている童貞”のようだったと教えてくれた。
ネタとして笑われると、なぜかスーッと楽になり心に余裕が生まれる。そのやりとりがしばらく続くと、立教大女子の表像を見て、自虐ネタのエグさを調整できるくらいには視野が広がっていた。
「見た目だけで童貞とかオタクとかいうのはやめてくれ」と思い、ずっと小さくまとまっていた自分の人生で生まれてはじめての感覚。
僕の横に座り、その席で誰より大きな声で笑いながら、霜田さんは言った。
「君、本当に面白いね! 久しぶりにこんな大学生にあったよ」
その瞬間に「ああ、もうかっこつけなくていいんだ。劣等感を明るくさらせば、他人を演じられないことに悩まなくていいんだ」と思えたのだ。自分を“面白い人”と思ったことは今までの人生でなかった。
その日の夜以降、就職活動を始めてから1年半止まらなかったじんましんが止まった。
劣等感は自分がずっと「気にしていたこと」裏を返せば「こだわってきたこと」。唯一の魅力になる
霜田さんと出会った飲み会で、初対面の僕の童貞っぽさを笑った友達はみんな後に親友になった。
その日の飲み会も、明らかに序盤はイロモノだった僕だったが、後半はいじられキャラではなく、同等の学生として、将来のことを早稲田や慶応の奴と熱く語っていた。
『面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由』にも霜田さんは自身の劣等感を明かして、以下のように書いている。
私は、身長が157センチメートルしかありません。このことを、初対面の人にも、聞かれてなくても、話してしまいます。
自分にとっては相手と打ち解けるためのネタの一つと思っています。「160センチ弱です」
ではなく「157センチです」と正確に言うのもそのためです。
でも、他人からみれば立派なコンプレックスでしょう。こうしたマイナスポイントを正直に話すと人から「信頼できる」と思われるのです。
(P95-96 霜田明寛 『面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由』)
僕も自分の一番気にしていたことをさらしてしまえたからこそ、グッと周囲との距離が近くなったのだ。
霜田さんが180センチの長身の慶応卒キー局ディレクターであれば「劣等感は武器になる」と言われても、きっと何も思わなかったはずだ。
「童貞ぽい見た目」という劣等感。誰もが僕に抱く印象を、最初にネタにして提示し、笑いに変えた僕は、早慶でも、イケメンでもないというバックボーンの違いを超え、仲間として信頼されたのである。
「童貞ぽい自分」を受け入れた僕は、就活の面接にも通りはじめる。どもったり、つまったりしても、童貞キャラで通っているため、面接官に受け入れられるのだ。
“みんな同じ”を求められて育った僕たちは「みんなと同じじゃないから隠していること」に本当の個性がある
この本にはヘイトスピーチに行くことに対して「面白い」と霜田さんに言われて驚く学生が出てくる。
ある学生に就活のアドバイスをしていたときのことです。いろいろと話を聞いたのちに、「ヘイトスピーチの現場に行ってみたなんてすごいね。みんなメディアで見聞きはしても、なかなかその現場まで行こうとはしないよ。そこが君のいいところだね」と何気なく言ったところ、「人と違ったことをしたのにほめられたなんて、初めてです」と驚いていました。彼らにとっては、“人と違う”ということは、それほどまでに「隠さなければならないもの」なのです。
(P44 霜田明寛 『面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由』
)
「面白い」と言われた初対面の夜、二次会に差し掛かる前に一時間くらいずっと霜田さんと映画の話をしていた。
毎日、「明日も絶望することばかりなんだろうな」と劣等感に押しつぶされそうになりながら、どうにか明日を生きのびるための理由が欲しくて、レンタルショップでDVDを借りた。
計365本は観たDVDのおかげで僕は霜田さんと初対面にも関わらず意気投合できた。
面接でも、映画が好きすぎて、ブサイクのくせに俳優として活動したことも、大人たちは興味津々に聞いてくれた。
どれも人とは違うことだけど、自分にとっては自然に動いてしまったことだ。
僕は現在、駆け出しながら映画監督の方々にもインタビューできるライターになった。
唯一無二の個性に気がつくことができたから、自分の本当にやりたいこと、できることを知ることができたのだ。
“自分”が伝わらなくて死にたくなったら読むべき一冊
できればアナウンサー志望の学生だけでなく、“自分のキャラがわからない”“何をしている時が充実しているといえるのかもわからない”という内気で上手く生きられないすべての人が霜田明寛さんに会って、「本当の自分」を引き出してもらって欲しい。しかしそれは難しいだろう。
だからこそ、一見リア充以外は手を出しにくいタイトルを持つこの本に手伝ってもらって欲しい。
自分が楽に生きられる“自分”を、劣等感と話をしながら見つける方法に、きっと出会えるはずだ。
(文:小峰克彦)
■面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由
著者:霜田明寛
発行元:日経BP社
価格:本体1,300円+税
URL:http://www.amazon.co.jp/dp/482225108X/