ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

第2回「ナオミとカナコに学ぶ面白い連ドラの見つけ方」

 もう終わっちゃったけど――皆さん、フジテレビ系の連ドラ『ナオミとカナコ』って見てました?
 僕の周りは、僕も含めて連ドラ好きのアホが多いので、視聴率は80%くらいあったんだけど――ビデオリサーチ社が発表する視聴率(関東地区)によると、全話平均7.5%。おまけに1回も二桁に乗らなかった。言っときますけど、めちゃくちゃ面白かったんですけどね。

 もっとも、この1月クールの連ドラ(1クールもの)で平均視聴率を二桁に乗せたのは、テレビ朝日系の『スペシャリスト』と日本テレビ系の『怪盗 山猫』の2つだけ。この平均二桁が2つという数字、実は連ドラのクール史上最低だったんですね。これまでは昨年、2015年7月クールの3つが最低だった。
 つまり――世間の人々は、どんどん連ドラから離れてるってこと。

アメリカは視聴率5%で大ヒット

 もっとも、アメリカはもっと進んでいて、あちらではとうの昔に視聴率が二桁のドラマは消滅してしまって、今や3~4%で高視聴率、5%を超えると大ヒットという状況。あの空前の大ヒット作と言われる『ウォーキング・デッド』ですら、せいぜい7%程度だ。
 もっとも、これだけメディアやネットの選択肢が増えた現代、1つのドラマに国民の1割以上が熱狂するほうが不自然かもしれないけどね。

 ――とはいえ、そんな状況を踏まえた上で、連ドラを見ない若い人たちに敢えて言いたい。それ、すっごく損しているから。
 だって、人生において一文の得にもならないかもしれない連ドラの視聴に時間を割く行為って、ステキだと思いません?
 つまり、人生の遊び。ほら、クルマのハンドルだって、遊びがあるほうがスムーズに走れるじゃないですか。

『ナオミとカナコ』はコメディだった

 さて――この1月クールで言えば、なんと言っても冒頭に挙げた『ナオミとカナコ』が抜群に面白かった。
 主演は広末涼子と内田有紀。2人が演じる大学時代から親友のナオミとカナコが共謀して、佐藤隆太演ずるDV夫を殺して埋める。しかし、被害者の姉(吉田羊)から執拗に追い詰められ、やがて2人の犯罪が暴かれていく――という話。毎回、ナオミとカナコの穴だらけの行動にハラハラドキドキさせられたもの。

 脇も魅力的で、特に高畑淳子サン演ずる華僑の李社長が最高だった。「殺すのコトネ!」と片言の日本語でまくしたてる姿に、毎回大いに笑わせてもらった。俗に、優れたドラマには「魅力的な脇役」が付きものと言われるけど、まさにアレ。主役を食うほどの脇役の存在感って、要は物語に奥行きがある証しなんですね。
 そうそう、『ナオミとカナコ』は一応、サスペンス仕立ての連ドラなんだけど、コメディとして楽しむと、より面白さが増す作品だった。例えば、ナオミとカナコは犯罪を終えたあと、最も注意を払うべき時期に2人して原宿のパンケーキ屋でワチャワチャするし、悠長に富山旅行に出かけて、温泉入ってカニ食べちゃうし。実際、SNSなどの反応を見ると、毎回、ドラマの感想は笑いとツッコみであふれていた。

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連ドラ離れの背景に、ながら視聴あり

 これは以前、脚本家の山田太一先生が話していたことなんだけど、連続ドラマというのは、映画館で見る映画と違い、視聴者がアタマから黙って見てくれるものじゃないし、途中2、3話飛ばされることもある。それでも――ある回を15分でも集中して見ると、物語の世界観とか、話の流れとか、漠然としたテーマみたいなものが自然と伝わってくる。そういうドラマが優れた連続ドラマである、と。
 なんか、すごくしっくりくる話でしょ?
 その理屈で言えば、確かに『ナオミとカナコ』はどの回に限らず、15分でも黙って見れば、自ずと面白さが伝わってくる作品だった。

 そう、15分間、集中して見る――これが今の時代、なかなかできないんですね。今はテレビをつけても、手にはいつもスマホがあって、LINEをしたり、SNSをチェックしたり、お気に入りのファッションサイトを閲覧したりと、テレビ画面に集中できない。こうなると、連ドラは話がアタマに入らず、「なんかツマンナイ」と次週から切り捨てられる。

 とはいえ――何も僕は、若い人たちに黙って連ドラを見なさいとは言わない。『ナオミとカナコ』みたいに、SNSでみんなのツッコミと並行しながら見ると、面白いケースだってあるし。
 大丈夫。労せずして面白い連ドラを見つける方法があるから。少々前置きが長くなったけど、ここからが、いよいよ今回の本題です。

面白い連ドラを見つける方法

 よく、ドラマ好きの人たちの中には、連ドラはとりあえず1話だけ全部目を通すと言う人がいる。そこから自分好みのドラマを見つけるらしい。もちろん、全てをオンタイムで見るのは大変だから、いくつかは録画して、週末にまとめて見ることになる。
 でも、1クールにつき、プライムタイム(19時~22時台)の連ドラは12、3本もある。それらを全部見るのは大変。もはや苦行だ。録画はしたものの、なかなか見られずに、気がついたら2週か3週か“週回”遅れになって――そうなると心が折れて、もはやそのドラマは見ませんね。

 そこで僕が提唱したいのが、「15分鑑賞法」と「ニコハチ」である。
 ニコハチって?
 ――俗に連ドラの世界では、2話と5話と8話をこう呼ぶ。1クールの中でも、キーとなる話が多いのが、その3回だからだ。
 実は、初回は人物紹介がメインになりがちで、振り返った時、それほど重要じゃないケースがままある。本当に重要なのは、最初の平常運転の2話。物語が一旦佳境を迎え(ラブストーリーなら、メインの2人が一度結ばれる)、次なるステップに踏み出す5話。そして主人公の内面が掘られ、最終回への助走が始まる8話――大体、この3つを押さえておけば、連ドラは楽しめるんです。

 つまり――連ドラはまず、2話か5話か8話のいずれかを15分間だけ集中して見ましょう。これが僕の薦める連ドラ鑑賞法。それで面白いと感じたら、そのまま見続けるといいし、つまらなければ消せばいい。えっ? 8話だと、ほとんど最終回直前じゃないかって?
 大丈夫。優れた連ドラなら、例え8話から見始めても、ストーリーの全体像が伝わってくるし、最終回へのモチベーションも分かる。言うほど、1話から7話を見落としたハンディキャップを感じないから。

 『ナオミとカナコ』で言えば、2話は高畑淳子演ずる李社長の強烈な個性が明らかになる神回だし、5話はナオミとカナコがDV夫の殺人を成就して、次の展開へと移る前半の山場。8話は2人が吉田羊演ずる陽子から執拗に追いつめられ、2人の間に亀裂が入る終盤の起点。
 実際、僕の知人に、本当にこのドラマを8話から見始めたヤツがいて、それでもちゃんとナオミとカナコに肩入れして、李社長に笑い、執拗に2人を追う黄色いコートの陽子にムカついていた。そして――みんなと同じスタンスで最終回に臨んだのである。

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ナオミとカナコのラストを考察する

 そうそう、『ナオミとカナコ』は最終回のラストも大いに物議をかもした作品だった。結果として、1月クールの連ドラで最も盛り上がったんじゃないだろうか。
 あっ、ここから先はネタバレなので、未見の方は、最終回をご覧になられてから、読んでくださいネ。

 さて――上海への高飛びを図るナオミとカナコ。李社長の手引きもあり、なんとか羽田空港の出国審査を切り抜ける。しかし、間もなく彼女たちに逮捕令状が下り、一斉に空港になだれ込んでくる警官たち。
 上海行きの飛行機が離陸するのが先か、それとも出国前に2人が捕まるのが先か? 画面は追いかける警官たちと、笑顔で空港内を歩くナオミとカナコのカットバックへ。そして――ホワイトアウト。
 ハイ、ここで終わり。
 「捕まったのか、捕まってないのか、どっちよ!」
 「イライラする~!」
 「いや、これはこれで仕方がないんじゃないの?」
 その夜、SNSは混乱する視聴者の書き込みであふれた。確か、同時間帯のTwitterのトレンド2位だったと記憶する。

 まぁ、アレですね。原作では2人は逃げ切るんだけど、地上波のテレビドラマの倫理だと、殺人犯が捕まらないのはお茶の間が許さないと作り手側がビビっちゃって(本当はその程度で文句を言うほど視聴者はバカじゃないし、BPOだってドラマの表現は問題にしない。要は自主規制)、その辺りを曖昧にしちゃった。
 視聴者の中には、笑顔で歩く2人が上着を脱いでいるのと、背景に「到着ゲート」の案内板が見えるので、「上海空港に到着した後じゃね?」と、逃げ切り説を唱える人もいたけど、要するに――あとは視聴者の皆さんのご想像にお任せします――というアレ。古くはアラン・ドロン主演の映画『太陽がいっぱい』のラストでも用いられた古典的な手法だ。

 とはいえ、ラストの解釈までSNSで賛否両論交えて盛り上がったということは、良くも悪くも、みんなこのドラマが好きだったということ。ほら、「好き」の反対は「嫌い」じゃなくて、「無関心」と言うでしょ?

4月クールに向けて

 最後に、若い人たちへ僕からのお願い。
 4月からまた新しい連ドラが始まるけど、どうか「テレビの連ドラなんてツマンナイ」と切り捨てずに、先の「ニコハチ」と「15分鑑賞法」を参考にしてもらって、最高に面白い連ドラと出会ってほしい。
 どうか視聴率なんかに惑わされないで、第二の『ナオミとカナコ』を自分の目で見つけてほしい。

 だって、先にも言ったけど、連ドラを見ても、恐らくあなたの人生に何の影響も及ぼさない。つまり無駄な時間だ。
 でも――それこそが、あなたの人生に“遊び”がある証しになるのだから。

 そう、人生に遊びを。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

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