『千本桜』や『脳漿炸裂ガール』などのボカロの名曲をカヴァーし、演歌界からニコニコ動画へ進出。
“ラスボス”の異名で若年層にもファンを増やすなど、演歌界にとらわれない多岐にわたる活躍が、めざましい小林幸子さん。
歌い手の印象が強い彼女ですが、10歳でデビューし、11歳の時に勝新太郎主演の『座頭市二段斬り』で子役としてスクリーンデビューを飾るなど、映画人でもあります。
そんな小林さんがCS映画専門チャンネル・ムービープラス『この映画が観たい』の5月放送ゲストとして登場! この番組は毎回大物ゲストが自身の「オールタイム・ベスト作品」や映画との関わりについて語る番組です。
この番組の収録後、オープンから1カ月半のチェリー編集部が芸歴52年の小林幸子さんにインタビューを行うチャンスをいただきました!
――まずは小林さんご自身のことをお伺いします。最近、演歌の世界だけでなく、ニコニコ動画を中心に、若いネットユーザーの方から大人気ですが、実感はありますか?
「ネットなので、そこまで実感はありません。でもニコ動で歌をアップしたら100万回も再生をされたので、みなさんが興味を持ってくれていることは感じます。
気がつけば、私の演歌のコンサートにも若い方が来ていただけるようになりましたね。
みなさんジーっと演歌を聴いた後、『千本桜』になると一斉に盛り上がって一緒に歌い始めるのがなんだか不思議です(笑)。
私は『面白いなー』と思ってボカロの曲を歌っていますが、演歌とボカロの架け橋になろうなど、そんなおこがましいことは考えていません。全く別の独立した文化ですからね」
――一般的には歳を重ねるほど保守的になるというイメージがありますが、小林さんはどんどん新しいことへのチャレンジを続けられています。
「仮に挑戦して失敗しても、やめればいいだけですからね。
うちのスタッフが面白いことを発見して、提案してくれるんです。これからも面白いことはドンドンやっていきたいですね。
そういえば『小林幸子は仕事を選ばないのか』と言われるようなこともありました……。私としては、『ちゃんと選んでるんだけどな』と思いました。
私がこのスタイルをずっと貫いているので、今では誰もそういうことは言わなくなりましたけど(笑)」
「好き」が積み重なってオリジナリティになる
――今回、番組の収録中にデビュー当時の映画の現場についても振り返っていらっしゃいましたが、歌と映画の共通点はどこにあると思いますか?
「お芝居の脚本には“ト書き”がありますよね。歌だとしたら歌詞の行間です。
映画は2時間で起承転結を描きます。でも歌謡曲は3分なんですよ。
3分で人生、その人のドラマを伝えるのは、ものすごく難しいことです。
ト書きをしっかり読むためには、自分の中で印象的な感情や昔の匂い、感じたことをずっと貯める必要があります。そこはお芝居と歌が似ている点かもしれません」
――忘れたくない感情や匂いを、鮮度を保ったまま覚えていられるのはなぜですか?
「本当に悲しかったり、本当に悔しかったり、本当にうれしかったりすることは忘れないですよ。感情だけじゃなくて映画のシーンや歌のフレーズもそうですね。
自分が『本当にいいなー』と思ったものだけが、知らず知らずのうちに、自分の中に残っていくんです。音楽がドレミファソラシドだけで構成されているのに、多くの歌が存在するのは、それぞれの音楽家が色んな場所から集めた“いいなと思った曲”がフレーズになっていくからなんですよね。色んな場所から積み重なった“好き”こそがオリジナリティだと思うんです。
私も『美空ひばりさんのあのこぶしの効かせ方いいなー』と思ったから、身体のどこかで覚えています。すべて一緒だとモノマネになってしまいますから、全部が残っているわけじゃないんですけどね」
――とてもしっくりくる分析です……! 小林さんが美空ひばりさん以外に歌で影響を受けたことはありますか?
「アメリカンポップスの歌い方は大好きで、今でも身体に染みついていますね。
もちろん、アメリカンポップスは“こぶし”を効かせないで歌いますよ。
『こぶし入れてください』と言われたら、どんな歌でもこぶし入れられますけどね(笑)」
――こぶし入りのアメリカンポップス、いつか拝聴できるのを楽しみにしています(笑)。
歌い方も蓄積が大事なのですね。
「『歌は心で歌うもの』といいますけど、心だけじゃ歌えません。役者も同じで技術がなきゃできない仕事です。スタッフがたくさんいる撮影現場で『寂しい』と言いながら涙を流せる……その感情の作り方が技術ですから」
「今の若い人たちは、自分が寂しい理由がわからないんです」
――新しい表現をはじめてみて、発見があれば聞かせてください。
「昨年『OTAKU SUMMIT』に出させていただいたのですが、海外の人から『サッチッコー』って叫ばれて驚きました(笑)。今やオタク文化は世界のものですからね。
その場所で会ったオタクの人はしゃべるのが苦手だったり、話しかけるまでは無表情だったりするんですけど、話してみるとニッコリ笑って、どんどん表情が明るくなってね……、その純粋さが素敵なんです。
思えば、そんな彼らの声を代弁してくれる場所としてニコニコ動画ははじまったんですよね。
ニコ動ユーザーの若い人たちの気持ちを歌った『ぼくとわたしとニコニコ動画』という曲があるんですけど、初めて聴いた時に、私、泣いてしまいました。
この曲の中にある『テレビを観ていても、ワイプの中の人が作り笑いをしているだけでつまらない』という内容の歌詞を聴いてから、ニコニコ動画にとても興味を持ちはじめたんです」
――小林さんが流した涙は、「私にもこんな寂しい時期があったな……」という共感の涙なのか、今の若い子たちに対する涙なのか、どちらでしょうか?
「今の子たちに対する涙ですね。私の若い頃の寂しさは『小学5年生からたった一人で生活をしている』という明確な原因がありましたから。
今の子たちが抱えている寂しさは本人にも理由のわからない寂しさなんです。
そんな彼らが『脳漿炸裂バーサン』をはじめとした私の歌を聴いて笑って『幸子さんワロタwwwありがとー!』って楽しんでくれることが、本当にうれしいんですよね。
オタクの皆さんは“ネット弁慶”とか言われることもあるかもしれないけど、本当にピュアな方たちばかりなんです」
――ニコニコ動画と演歌の世界はやはり全く違うように思えます。
「『ワロタwww』という言葉は普通に演歌をやっていたらいただかない感想ですからね(笑)。
演歌はどこか歌い手と観客は全く別の場所に立っている形式ですが、ニコ動はみんながみんな参加者であり、歌い手と聴き手が同じ目線であることが素晴らしいんです」
「面白がる」心を忘れず、「自分は今も青春まっただ中です」と語る小林幸子さん。
今回のインタビューは“今を生きる彼女自身の魅力”に迫りましたが、5月のCS映画専門チャンネル・ムービープラスでは、映画女優として、映画ファンとしての一面にもフォーカスします。
劇的な人生を歩んできた彼女が選ぶ映画は果たしてどんな作品なのか……。
CS映画専門チャンネル・ムービープラス『この映画が観たい#32 ~小林幸子のオールタイム・ベスト~』は5月2日(月) 23:00~23:30に放送! 乞うご期待!
(取材:霜田明寛 小峰克彦 文:小峰克彦)
「この映画が観たい#32 ~小林幸子のオールタイム・ベスト~」
放送日:5月2日(月) 23:00~23:30 ※リピート放送あり
CS映画専門チャンネル・ムービープラスで放送!
「この映画が観たい」公式ページ