ずっと凍結されていた幻の企画が、まさかの復活!
2012年、こんなニュースが流れた。
『うる星やつら』『機動警察パトレイバー』『攻殻機動隊』など、世界的に評価されるアニメーションを作る映画監督・押井守が、海外と手を組んで実写作品を撮る。
ウォシャウスキー姉妹、ジェームズ・キャメロン、ギレルモ・デル・トロなど、ハリウッドの名監督からもリスペクトされる押井守。その彼が2001年の『アヴァロン』以来となる海外での映画制作を行う。
しかも企画は、以前予告だけされて凍結した幻の作品である『GARMWARS ガルム・ウォーズ』。いったいどんなものが出来上がるのだろうと期待が高まった。
2014年、東京国際映画祭でワールドプレミア。2015年、北米で上映。そして2016年5月、ついに日本で劇場公開!
あらすじ
遙かなる古代、戦いの星・アンヌン。
ここには「ガルム」と呼ばれるクローン戦士が生息し、果てしない争いを繰り広げていた。
かつてガルムには8つの部族があり、それぞれ役割に応じて創造主・ダナンに仕えていた。
あるときダナンが星を去り、その後の覇権をめぐって部族の間に戦いが生じたのである。
長きに亘る争いの末に5部族が絶滅し、残るは空を制する「コルンバ」、陸を制する「ブリガ」、そして情報技術に長けた「クムタク」の3部族だけとなった。(公式サイトより引用)
公開直後にライター2人が事故的に見てきました。
ライター紹介
菊池良(@kossetsu)
IT系企業勤務の会社員。著書に『世界一即戦力な男』がある。好きな押井作品は『機動警察パトレイバー the Movie』、『立喰師列伝』、『御先祖様万々歳!』。
柴田ボイ(@boid2000)
Webメディアを中心に芸能系、テレビ系の記事を執筆。仕事のために家で一日中テレビを見ている。好きな押井作品は『攻殻機動隊』、『機動警察パトレイバーthe Movie1&2』、『THE NEXT GENERATION-パトレイバー-首都決戦』。
ズートピア、人気すぎ
菊池 今回、本当はディズニーの新作である『ズートピア』を見に行く予定だったんだよね。
ボイ そしたら、公開から1ヶ月も経っているのに、劇場が満員で入れなかった。
菊池 普通の作品なら上映が終わっていてもおかしくないのにね。
ボイ 開始の10分前にチケットカウンターに行ったら、満席の「×」が出ていて。残りの回、全部ね!
菊池 それで他になにか見たいのあるかな、って調べたら……『ガルム・ウォーズ』があったと。
ボイ 押井守作品の新作だから、気にはなっていたんだけど、正直、劇場で見ようかどうかは迷っていたよ。
菊池 でも、『ズートピア』が残りの回全部が「×」で、『ガルム・ウォーズ』に「○」が付いていると……もう呼ばれているような気がしたよね。運命だな、って。
ボイ そういうわけで見ました。
「押井守のサービス精神を買いたい」
菊池 ビックリした。あの終わり方はすごいね。M・ナイト・シャマランの『ハプニング』を思い出したよ!
ボイ ああ。園子温の『愛のむきだし』が開始1時間ぐらい経ってからタイトルが出たじゃない? そういうことなのかな、って思っていたら……。
菊池 そうそう。あと、『ガルム・ウォーズ』ってタイトルだけど、戦争というより、ほとんどが会話シーンだったね。これ、『ガルム・立ち話』じゃないかな。
ボイ うーん……自分は押井守のサービス精神を買いたいよ。
菊池 (笑)。どういうところが、サービスしていた?
ボイ 途中で巨人が出てくるところ。いつも会話パートばかりの押井映画で巨人が暴れまわるなんて大サービスだよ。きっと『進撃の巨人』要素を取り入れたに違いない!
菊池 そうかなぁ(笑)。どっちかというと『ワンダと巨像』ってゲームを思い出したよ。なんかCGの色合いもゲームっぽかったし。『CASSHERN』以上に役者とCGの合成がすごかったよね。顔以外は全部CG、みたいな使い方だった。
巨人だったら『風の谷のナウシカ』でも出てくるけど?
ボイ だから、今回はスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーと組んでるってことで、『進撃の巨人』と『風の谷のナウシカ』の新旧両方のファンを取り込もうとしたんだよ。
菊池 むちゃくちゃな考察だな……(笑)。
川井憲次の音楽はα波が出ているから……
菊池 ストーリーはどうだった?
ボイ ちょっと造語が……。映画の世界観だけでつくられた言葉がずっと飛び交うから、わかんなくなってくる。最初から身構えて単語を記憶していかないと、ちょっとついていけない。
菊池 最初のオープニングの方で世界観の説明があったけど、造語の連続パンチがすごかったよね。国なのか、種族なのか、よくわからないのがポンポンポンって。
ボイ 先に設定資料集を読み込みたかったね。
菊池 受験勉強みたいに暗記してきてね。
ボイ やっぱりね、わりと戦闘パートと会話パートが分かれていて単調だったし、眠気を誘うものがあったよね。
菊池 戦闘、会話、戦闘、会話、会話って感じでね。
ボイ それと造語の多い会話と、劇伴の川井憲次の音楽が重なって、だんだんウトウトしてきちゃう、と。
菊池 リラクゼーション効果があったね。
ボイ 川井憲次の音楽って、α波が出ているんだって。海外の打楽器とか使っているから。シャワーと同じα波が出ているから、リラックスできるんだよ。だから、映画館で眠くなるのは自然なことなの。心地良い音楽だから。
菊池 じゃあ、川井憲次をよく起用している押井守映画で寝ちゃっても、しょうがないんだね。
ボイ 今さ、映画館って1回ごとの入れ替え制になっちゃっているでしょ? 押井守の映画はずっといても良いようにしてほしい。眠たくなったら寝て、起きたらまた次の回を見るっていうさ。
菊池 十数時間いて、起きたところだけ見るのか。
ボイ そうそう。身体休めたいときにリラックス目的に行くっていう。
菊池 酸素カプセルの次に押井守映画だ。
ジェームズ・キャメロンの感想が聞きたい
菊池 これって1回凍結した企画なんだよね。前に動いていたときはどんな感じだったの?
ボイ 90年代に出ていた話だと……制作費が60億。
菊池 そんなに!? 60億……はかかってないよね、今回は。劇場版『進撃の巨人』が10億らしいから、すごい額だね。
ボイ 当時は脚本が伊藤和典、特撮が樋口真嗣、製作総指揮がジェームズ・キャメロンって計画だったから。それで押井守の頭のなかをそのまま形にするとなると、60億かかるってことだったんじゃない?
菊池 すごいメンバーだね。ジェームズ・キャメロン、何で今回は製作総指揮やってくれないの? やってよ!
ボイ 忙しいんじゃない。『アバター』の2と3を同時に撮っているって話だから。それで今回はジブリの鈴木敏夫と組んだんじゃないかな。
菊池 今回の作品、キャメロンも見るはずだよね。
ボイ そりゃ見るでしょ。元々ファンなんだし。
菊池 その試写会に行きたいね。ジェームズ・キャメロンやジョージ・ルーカス、あとウォシャウスキー姉妹が来る試写会に行ってさ、終わったあと、聞きたい。「どうだった?」って。
ボイ まぁ……「最高!」って言うんじゃない。キャメロンはCGアニメ版の『キャプテンハーロック』も絶賛していたし。タランティーノも「最高!」って言うよ。
菊池 じゃあ、スティーヴン・キングも絶賛だな。そういう人、集めればいいのか。見たものは必ず絶賛してくれる人を。
押井守の朝ドラが見たい
菊池 押井守って、原作ものは傑作が多いんだけどね。
ボイ まぁ、そうだね。ポップな原作と、押井守的なテーマの味付けが上手く混ざり合うと、すごい作品ができあがる。『機動警察パトレイバー』とか、『うる星やつら』とか。
菊池 完全オリジナルで行くと、エンタメ要素がごっそり抜け落ちちゃうんだよね。哲学的な主題と、ポップな原作の融合が良いんだろうね。何を原作にしたら面白いかな?
ボイ ……『クレヨンしんちゃん』とか。
菊池 (笑)。それは傑作になる!
ボイ 押井守の難解なところを、しんちゃんで緩和させる。
菊池 あと、マイケル・ベイとかポール・バーホーベンとかと組んだら良いんじゃないかな。ミサイルばんばん飛ばしてさ。
押井守があらすじを、マイケル・ベイに口頭で喋って、それを作ってもらったら面白いものになるんじゃない? 押井要素がほどよく入ったエンタメが。
ボイ あ〜。火薬量を増やしてくれそうだね。現実のニューヨークのビルがばんばん爆破されるよ。あとさ、NHKと組んだら良いと思うよ。
菊池 ……どういうこと?
ボイ 三谷幸喜とか、宮藤官九郎とかさ、大物になりすぎちゃった人が、NHKっていう制約のなかで作ると傑作を生み出すんだよね。
菊池 押井守の朝ドラかぁ。
押井守のトレーナーは何だったのか
ボイ ぜんぜん関係ないけど、押井守の心霊映像って知ってる?
菊池 なんだっけ? 犬のトレーナーのやつ?
ボイ そうそう。押井守がインタビューを受けていて、トレーナーに書かれた犬が瞬きをするっていう映像。それがジャニーズのオカルト番組で、心霊現象として紹介されたんだよね。
菊池 『USO!?ジャパン』だっけ。嵐が出ていた気がする。その映像、僕も番組で見たよ。
ボイ ほんとはね、エフェクターの人がイタズラでやったらしいんだけどさ。それをゴールデンタイムのテレビ番組で流して、芸能人が悲鳴をあげて、押井守のトレーナーに恐怖したっていう。あれが一番、本人がテレビに露出した瞬間じゃないかな?
菊池 押井守は、大勢の人には「犬のトレーナーの人」って認知されているんだ。
ボイ そうそう。だから、次回作は犬ホラーを作れば大ヒット間違いなしだよ! 「あの犬のトレーナーの人が作る、戦慄の犬ホラー」って。
菊池 宣伝はそうでも、見に行ったら違う中身かもしれないね。
ボイ いろんなトレーナーの犬が、哲学的な会話をしているんだよ。
(文:菊池良&柴田ボイ)
作品情報
映画『GARMWARS ガルム・ウォーズ』公式サイト
原作・脚本・監督:押井守
キャスト:ランス・ヘンリクセン、ケヴィン・デュランド、メラニー・サンピエール
© I.G FILM