ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

宮藤官九郎が語る“主人公を死なせる理由”

宮藤官九郎監督の映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』がついに公開される。

神木隆之介演じる主人公・大助が、開始早々死んでしまうというこの作品。地獄に落ちた主人公が、恋するクラスメイトにキスするため、地獄からの生還を目指して奮闘するというコメディだ。

完全オリジナル作品で、映画監督としては4作目となる本作。映画としての完成度の高さもさることながら、そこはやはり宮藤官九郎脚本。過去のドラマとも共通している点が多数ある。

そこで今回は、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』と過去のドラマとの共通点をもとに
①死を描き続ける理由
②10年以上もその時代の若者を瑞々しく描き続けられるワケ
③なぜ青春を取り戻す物語を描くのか……

といった3つの話を中心に、宮藤官九郎さんにインタビュー。取材は、2015年の12月だったが、折しも、この6月まで放送されていたドラマ『ゆとりですがなにか』にも通じる内容に……!
青春をひきずるオトナ童貞たち必見のインタビューです。

『木更津~』の頃より、真面目さを避けたくなった

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――今回“若くして死ぬ”とタイトルにも入っていますが、主人公のぶっさんが“若くして死ぬ”話だったドラマ『木更津キャッツアイ』をはじめ、宮藤さんの作品には、死を匂わせるものが多い気がします。

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「やっぱり、死ぬことと生きることに、ずっと興味があるんですよね。でも、死に対する自分のスタンスや印象が、時とともに変わってくるからやり続けるんだと思います」

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――といいますと、どんな変化なのでしょうか?

kudokan

「『木更津キャッツアイ』のときは、生きてる人間の目線だったんですよね。まだ死が身近ではない目線で書いていたんですよ。今回は、自分自身もあのときよりも死に近づいているから、真面目な感じを回避したかったんですよ。きっと、この先どんどんそうなっていくんじゃないかと思います」

死ぬということが悲しくならないように

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――確かに、今回の作品は、なんだかんだ生き続けていたぶっさんとは違い、冒頭で死んでしまった主人公の目線で進んでいきますよね。死というものを、絶妙なバランスで笑いにまぶしていた気がします。

kudokan

「17歳で死んじゃったというところから物語が始まるので『死』が本来持っているドラマチックな部分を、あらかじめ捨ててるんですよね。例えば、主人公が死んだ直後、現世では弟が部屋でオナニーしてるじゃないですか(笑)。そのせいか、お母さんも悲しんでるんだか、悲しんでないんだかわかんない感じで。『死』から始まる物語だからこそ、ああいうコメディに仕上がる、というのは発見でした。自分が死んでも、日常は普通に続いてるって、死んだ人間からすると、悲劇的だけど

地獄は、天国より個性を尊重されている気がする

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――死ぬまでの話より、死んでからの話の方が、悲しくはないのかもしれませんね。そういった考えのもとに、あの地獄と天国の世界を造形していったんですね。

kudokan

「死後の世界について書かれた本を読むと、実は天国のことはあまり書かれていなくて、だいたい地獄のことばっかり書いてあるんですよ(笑)。だから、そういう本を書く人も、読む人も、みんなホントは地獄の方に興味があるんじゃないか、というのが、この映画をやろうと思ったきっかけのひとつでもあるんです」

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――映画を見ると、地獄も楽しそうだなと思えました。

kudokan

「地獄の設定って、嘘をついた人は舌を抜かれる、とか、不倫をした人は愛人と妻の顔をした……といった感じで、いっぱい分かれているんですよ。それって、なんだかそれぞれの個性を尊重されてる感じがするじゃないですか(笑)。地獄では『お前はこんなことをした』って言われたりして、気にしてもらえるところがまだいいよなあ、と思って。鬼にちゃんと存在を認めてもらえてるわけですからね」

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――確かに、映画の中の鬼たちも、ロックフェスに参加したり、個性を爆発させていました(笑)。一方で、天国はどう造形されていったのですか?

kudokan

「天国は、ほっとかれてる感じが嫌なんですよ。みんな平等って、それって人として見られてない感じしませんか?(笑)天国は全ての欲から解放されるっていうけど、欲がなかったら生きてても面白くないのでは、と考えたところもありました。そこから、ああいう無機質で、不思議な世界観の天国をつくっていきましたね」

“その時代の若者”を瑞々しく切り取り続けるために

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――さて、2つめのテーマなのですが……。宮藤さんも歳を重ねているにも関わらず、その時代の若者の描写が、変わらずリアルであり続けるのは本当にすごいことだと思いました。何か、そこがズレないようにしていることがあるのでしょうか?

kudokan

自分の経験と現代を照らし合わせて考えることはしましたね。例えば、自分の10代の頃はバンドをやってる奴らが、クラスで1番モテてる連中だったんですよ。
でも、今そういう奴らは、部活も何もやってないと思うんですよ。むしろ、主人公の大助みたいにバンドをやっていても『スーサイド(自殺)』なんて歌をつくっちゃうような奴は、クラスの端っこにいるだろうなあ、と考えたりしましたね」

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――ちなみに宮藤さんご自身は、大助のように『死にたい』といったことを言うようなタイプの若者だったのですか?

kudokan

「すぐ『死にたい』って言ってましたね(笑)。その意味では今の若者と割と近いんですかね……。音楽とかラジオとかがあったから、なんとかなってましたけどね」

絶望しない若者が死を体で知っていく話にしたかった

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――その頃の悩みの種はなんだったのでしょうか?

kudokan

『モテない』と『田舎にいる』というのが2大コンプレックスでした。でも今の若い人たちの『田舎にいる』ことの悩みはだいぶ違うんじゃないですかね。インターネットやSNSで繋がっちゃってますから、今の若い人は田舎にいても何も不自由しないくらい色々なものがある。東京にいるのとそう変わらないですよね。
 
昔は、間違った情報を雑誌で仕入れて、実際に東京に行ったら全然違って落胆する、ということがありました。だから、今の人たちは、夢も見ないけど、間違いや誤解や絶望もないんだろう、とは意識しましたね。そうしたら、死ぬってことも、そんなに絶望的なことじゃないのではないのかな、なんて思えてきて。だから、死ぬということを体で知っていく話にしたいな、と思って書いていきました」

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――確かに、大助は文字通り、体を使って死を知っていく感じがしました。そして、宮藤さんはネットの影響も大きく捉えられているんですね。

kudokan

「俺ですら生きづらくなってる気がするんだから、若い人はもっとそう思うだろうなあ、と心配になりますよね。Facebookなんて……。俺はやんないですけど(笑)。
知って欲しい自分と、本当の自分が違うなんて、ああいったことをやり始めたら、どんどんキツくなっていくんだろうなあ、と心配です」

“失われた青春”を描き続ける理由

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――最後の質問テーマです。大助は体を使って死を知っていく一方で、キスさえもできなかった“青春”を取り戻そうとしているようにも見えました。今回しかり『ごめんね青春!』しかり、人生をかけて、過去の青春を取り戻そうとする作品を作り続けられるのは理由があるのでしょうか?

kudokan

「俺、『大人になりなさい』って言われたことがないんですよ。大学生の頃に、大人計画に入って、大学もやめちゃったんで。劇団では『バカになりなさい』ってことしか言われてこなかったし、ダメな先輩ほどかっこいい、っていう雰囲気だったし……。1回も『大人になれ』と言われないまま、30歳になっちゃって、そのまま今まで仕事も続いているんですよね」

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――素晴らしいことですね……!

kudokan

「だから、青春は青春として置いていくものだ、っていう発想がないんですよ。会社勤めしたことがある人は、社会に出ることで、青春を置いていくっていうことを経験するんだと思うんですよね。
でも俺社会に出てないんで、今でも文化祭のロケに行ったりすると、『俺だったらこんな出し物やるな……』とか考えるんですよ(笑)。『俺が高校生だったら……』って考えることもあるし、俺の中で文化祭が終わってない感じなんです」

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――そうすると、周囲の社会に出て行った人のことはどう見えるんですか?

kudokan

「学生時代に一緒だった友だちと話していても、俺は会社に勤めた経験がないことにすごく負い目があるんですよ。会社に勤め始めると、自分で使っていいお金で、いきなり大人っぽいことをするじゃないですか。それを俺は経験してない、っていうのが大きいと思うんですよね」

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――もう今はお仕事も成功されて、お金もどんどん使えると思うんですが、そうなっても負い目があるんですか?

kudokan

「やっぱり、就職してないですから。そういう意味では、会社に1回勤めた人は偉いですよね。ウチ(大人計画)でいうと、松尾スズキさんも、阿部サダヲくんも、就職経験ありますから。漫画家のしりあがり寿さんも会社に勤めながら漫画描いてましたけど、そういう人は俺以上に色んなこと知ってますね。
 
アルバイトだったら、責任感も大したことないし、まあ行かなきゃいいじゃないですか(笑)。でも会社に勤めて、保証された環境で、『会社のために!』みたいな思想を少しでも学んだ人っていうのはすごいな、と思うんですよ。もう戦争経験者ですよ、戦争に行ったくらいすごいと思います(笑)」

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――ちなみに僕らは、宮藤さんの言葉を借りれば、“文化祭が終わってない人たち”に向けた媒体です。今、会社という戦場に行っていない、ということで悩んでいる人たちも多いと思うのですが、最後にそういう人たちに向けてメッセージをお願いします。

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「行かなくていいです。ただ『行かなかった』ということだけは、ずっと忘れないでいて欲しい、と思います」

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(取材・文:霜田明寛)

【関連情報】
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TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ 6月25日(土)全国ロードショー

出演: 長瀬智也 神木隆之介/尾野真千子 森川葵/桐谷健太 清野菜名 古舘寛治 皆川猿時 シシド・カフカ 清/古田新太/宮沢りえ
監督・脚本: 宮藤官九郎
配給:東宝=アスミック・エース
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■公式サイト:TooYoungToDie.jp
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<<STORY>>
フツーの高校生・大助は、同級生のひろ美ちゃんのことが大好き。
修学旅行中のある日、大助は不慮の事故に遭ってしまう。
目覚めるとそこは―――深紅に染まった空と炎、ドクロが転がり、人々が責め苦を受ける、ホンモノの【地獄】だった!!
なんで俺だけ!? まだキスもしたことないのに、このまま死ぬには若すぎる!!
慌てる大助を待ち受けていたのは、地獄農業高校の軽音楽部顧問で、地獄専属ロックバンド・地獄図(ヘルズ)を率いる赤鬼のキラーK。
キラーKによると、なんと、えんま様の裁きにより現世に転生するチャンスがあるという!
キラーKの“鬼特訓”のもと、生き返りを賭けた、大助の地獄めぐりが幕を明ける!!!

ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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