東日本大震災から2年半あまり。震災と、震災後の東北を初めてきちんと描いたドラマでもある連続テレビ小説『あまちゃん』も好評を博し、改めて震災のことを考えたという人も多いはず。
時が経ち、震災発生時に非日常だった状況も日常に感じるようになった現在。「忘れないで」と言葉にして呼びかけることは簡単だが、『あまちゃん』のように、受け取った人が自然と「忘れたくないな」と思うようなものをつくるのは至難の業だ。
そんな中、心から「震災を忘れたくない」と感じさせてくれるようなコンテンツが誕生した。それが、WEB版『東北未来絵本 あのとき あれから それから それから』。
『東北未来絵本 あのとき~』は山形新聞社のキャンペーンによってつくられた一冊の絵本。新聞社に寄せられた、震災を語るたくさんの言葉をもとに、絵本作家の荒井良二さんと子どもたちが絵を描いた。
この絵本は3千冊限定の非売品だったため、世界中のどこからでも見られるよう、このたびWEB版が制作された。荒井さんは震災後に出版した『あさになった ので まどをあけますよ』が「震災後の世界に、普通の日常がやってくることの幸せを感じさせてくれる」と評判になり、産経児童出版文化賞などを受賞している。
絵本は、「あのときみんなの手は何をつかんでた?」という問いかけから始まる。そこに続く答えは「テーブルの脚」「いのち」「娘のからだ」「もうかたほう の手」と、種類は様々。その様々な答えの中に、決して空想では並べられない、実際に震災の時に、心ごと揺さぶられた人たちだからこそ出る、いや、出てし まった言葉が溢れ出す。
その後も「あれからみんなの日常は何かかわったかなあ?」「ぼくらのとうほくはどんな未来になっているんだろう?」と問いかけが続き、スクロールされる美しい絵の中に、その答えが流れていく。
今回のWEB絵本の特長は、WEB上で読めるだけではなく、そこに朗読がつくこと。担当するのは、芸能事務所セントフォース所属の女性キャスターたち。
元日本テレビアナウンサーの西尾由佳理さんをはじめ、山岸舞彩さん、皆藤愛子さん、小林麻耶さん……と日々、テレビで目にする人気者が顔を揃える。
とかく、美しいルックスが目立ち、色眼鏡で見られがちな彼女たち。だが、女性アナウンサーとしての隠れた実力は、そのルックスが封印された、ラジオでのトークや、今回のような朗読のときにあらわれる。
その意味で、過剰な感情表現やトーンの変化をせずに、優しさ、悲しさ、やるせなさ……と様々な想いを表現した今回の朗読は、彼女たちの真の実力を裏打ちしたものになっている。
このWEB絵本は、6分あまり。この6分間を体験すると、見えていなかった小さなしあわせに、気づくことができるような気がする。そんな気付きとともに日 常を送り続けたとき、絵本の中で望まれていた「日々のせいかつがいとしいと思えるみらい」に、僕らの気持ちは一歩近づいているはずだ。
◯WEB版『東北未来絵本 あのとき あれから それから それから』
http://tohokumirai.com/
(文・霜田明寛)