ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

「消費される日本人へ」園子温がロマンポルノに込めたメッセージ

園子温監督がロマンポルノを撮った!

5人の映画監督が、日活ロマンポルノの生誕45周年を記念してオリジナル新作を撮る、ロマンポルノリブートプロジェクト。その第4弾として公開されるのが園子温監督の『アンチポルノ』だ。
だが、園子温が監督するロマンポルノが普通の作品になるわけがない……!もともと、このプロジェクトへの参加を一度は断った園監督。そこから『アンチ』と名付けられたこの作品ができるまで何があったのか?

ロマンポルノリブートプロジェクト全作品の監督・主演女優取材を続けている“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”。
『ジムノペディに乱れる』行定勲監督×芦那すみれさん対談『風に濡れた女』塩田明彦監督×間宮夕貴さん対談に続き、園子温監督が抜擢した冨手麻妙(とみてあみ)さんとの対談をお届けする。

国会議事堂はポルノ

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――『アンチポルノ』というタイトル、そして園子温監督の撮るロマンポルノであるということから、普通ではない作品がくる予想はしていたものの、冒頭に出てくるのが国会議事堂だったことにはびっくりしました。

園「国会議事堂は、僕にとって、この世界で最もポルノっぽいものなんですよね。この国で最も虚構の存在で、あの変な建物が、いやらしく感じる。この国は何が虚構で何が現実なのかわからないくらい、へんてこりんな状態になっていると思うんですよ。今、何が起きているんだか、もしくは起きていないんだかわからないし、全部がからくりのような気もしてきます。国会議事堂がうつりながら、パトカーの音が聞こえるのも『この頭のイカれた建物を、早くしょっぴけよ!』という意味を含めています」

ポルノを越えて、怒りを込めて

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――冒頭だけではなく、自宅のテレビでも、国会前でのデモの様子が流れているなど、基本は密室の中で話が展開される作品ながら、随所に外の社会との接続が見られます。

園「撮影したのが、2015年の夏の、ちょうど安保法案で国会が大荒れになった時期なんですね。実は、主人公・京子が国会前のデモの行進の先頭を歩く、というシーンも撮ってはいたんです。ただ、撮影してから公開まで1年半の時間が空くことになり、編集の段階でカットしてしまいました。時間が経つとどんな風に受け取られるか、わからないですしね。ただ、カットはしましたが、ロマンポルノを越えて、とにかく社会全体の怒りを取り込んだ作品にはなっていると思います

ただのポルノは撮りたくなかった

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――そもそも、記者会見などで園監督は「ロマンポルノなんて撮りたくなかった」とおっしゃっていましたよね。作品を見てから振り返ると、あの発言は「普通のロマンポルノを撮るつもりはなかった」という強い意思表示にも感じられました。

園「ええ、ノスタルジックというか、懐古趣味だけで映画を撮るのは嫌だったんですよね。ロマンポルノを見てはいましたけど、そんなに思い入れはないですし。だから、最初にオファーをもらったとき『今ロマンポルノを撮る意味がよくわからない』と言って断っていました。ただ『アンチポルノだったら撮れるけど』ってチラッと言葉を挟んだら、それでもいいと言われたんです。じゃあ、アンチでいいならやってみよう、と」

女の裸って珍しいのか?

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――できあがった作品は、濡れ場や女性の裸の映し方も、他のロマンポルノ作品とは異なるものとなっていました。

園「僕は一般的にエロティックとされているものに性的なものを感じないんですよね。もっと言うと、裸にあまりセクシーを感じないんです。だから、冒頭から主人公には裸になってもらいました。全裸で起き上がって、歯を磨いてもらって。『これっていやらしい?』『女の裸ってそんなに珍しいものなの?』という問いかけがあります。もちろん、女性の裸を消費していく作品にはしたくなかった、という部分もありますね」

アンチポルノは園子温の女性論

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――作品全体にいえることでもありますが、『女性の裸を消費していく作品にしたくはなかった』というのは、今回の園監督の立ち位置はとても女性的ですよね。

園「今回は僕の女性論を映画にした部分も大きいです。本を書こうと思って、現代の女性の労働環境を調べていたら、酷いものだなとあらためて実感したんです。AVやアイドル文化などのように、女性に対する極端にポルノ的な視線があるにも関わらず、一方で公園にある裸の彫刻像にパンツを履かせたりもしている。主演の冨手さんはグラビアもやって、アイドル活動もかじっていたわけで、まさに男たちに消費されていく、消費文化の一員でしたが、そういうのが嫌だなと思っていたんです」

この国は男も女も消費されている

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――女性の目線に立った園監督の気持ちが、作品で代弁されている、と。

園「基本的に、日本の人はみんな女性だと思っているんですよ。男も女もとにかく消費され尽くしているのが、この国のさだめなんです。僕自身だって、日本の映画という枠の中で生きていて、うまいこと消費されようとしていて、つらい部分もありました。だから、女性の気持ちも代弁しているけど、自分の気持ちも代弁していて、また多くの日本のひとたちのことを代弁しています。そのせいで、ちょっと詩的というか、普通じゃない台詞ばっかりになりました。」

園子温は女性的

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――さて、ここからは冨手さんにもお話を伺えればと思います。冨手さんはこの作品を受け取って、どう感じましたか?

冨手「何も知らずにこの作品を見たら、女性監督がつくったんじゃないか、と思えるような作品ですよね。一緒にいても、園監督自身が、とても女性的なんです。世間では厳しい監督や罵倒するような監督というイメージがあるかもしれませんが、私よりも女性らしいんじゃないかと思います」

園「本当は女のコなんで(笑)」

冨手「(笑)。でも、台本を受け取ったときは、主人公の京子は私自身だと思ったんですね。女性の性や裸が消費されることに関しては、私もずっと抱いていた怒りでした。ただ、どう言葉にして伝えればいいかは、ずっとわからなくて。だから、私の怒りを園監督が台詞として言葉にしてくれた、という感覚だったんです。私自身の言葉だと思ってやっていたので、園監督自身の言葉でもあると伺って、びっくりしています」

親だってセックスしてるのに

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――あのセリフを自分の言葉だと思える冨手さんも、いい意味で普通ではないですよね……。

冨手「どの台詞も自分が抱いている感情で、台本を読んで本当にびっくりしたんです。園監督はエスパーなんじゃないか、と思うくらい、私の子供のときの思い出と重なるようなことが台本に書いてあったりもしたんです」

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――どんな思い出ですか?

冨手「私には6歳下の妹がいるんですが、小さいときに両親に『いつ妹を作ったの?麻妙が幼稚園に行っている間にセックスしたの?』って質問したことがあったんですよ。それに対して、お母さんは淡々と答えてくれたんです(笑)。そうしたら、お父さんがすごく怒ったんです。お母さんに対しても『お前はどんな教育をしているんだ。変なドラマとかを見せるから、このコがこんな下品な質問をするような馬鹿な子どもに育ったんだ』って。私は幼いながらに、そんなに変な質問をしたつもりはなかったんですよね。親だってセックスしてるのに、私はなんでセックスの話を出すとこんなに怒られるんだろうか、と疑問でした」

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――それは、作品とめちゃめちゃ被りますね。

冨手「私、この話を園監督にしたかな、って思いましたもん」

園「聞いてないよ(笑)」

園監督との出会いはトークショー後の出待ち

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――まさに園作品の新たなミューズといっていいほどの一致だったわけですが、園監督が、冨手さんを抜擢するまでには、どんな経緯があったんでしょうか。

冨手「もともと私が、園監督の大ファンだったんです。たしか中学生くらいのときに『自殺サークル』を見たんですよね。それまでは、日本の映画を見てもそこまで強烈なインパクトを受けなかったんですけど、このとき初めて勢いのある日本映画を見た気がして、衝撃を受けたんです。それで女優をやっていく中では、絶対に園監督と仕事がしたいと思って、渋谷でトークショーをやっていた園監督を出待ちしたんです」

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――なかなかの勇気ですね。園監督のリアクションはどんな感じだったんでしょうか?

冨手「あんなに緊張したのは人生で初めてかもしれません。告白より恥ずかしかったです。でも、園監督の反応はあっさりしてましたね」

園「あっさりしてたでしょ。まあ、他にもそういう人いるもんね」

冨手「ええ、私が行ったときも、他に若い役者さんの軍団がいて。私は、軍団に紛れちゃダメだと思って、ひとりでトイレに隠れていて。ずっと待ちながら、隙を見て監督の方に走っていったんですけどね」

満島ひかりで「勘に自信」

園「なるべくそういう人たちの機会は作ろうと思っているんです。それで『新宿スワン』で、15秒くらいのシーンに出てもらったんですよね。大体の人は、そこでふるいにかけられてサヨナラになるんだけど、冨手さんはそこで存在感を出してきたんですよ。伊勢谷友介さんなんか冨手さんの芝居に凍りついてましたからね(笑)」

冨手「もう必死でした(笑)。ここで園監督の心を掴まなきゃ私は終わりだ、って思っていたんです。ただ一方で、私は園監督は絶対嘘をつかいない人だと思っていて。初めて会ったときに、『お前脱げるか?』って聞かれて『はい、脱げます!』って答えたら、『よし!じゃあやるか!』って言ってもらえたんです。もしかしたら冗談みたいなやり取りだったかもしれないけど、私はそれを信じてやっていたんです」

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――信じ続けて、ついに実現されたわけですね。ちなみに園監督の中では、ちょっとのシーンで出てもらって、そのあと大きな役で抜擢するというパターンはあるものなんでしょうか?

園「ええ、満島ひかりさんも「帰ってきた時効警察」というテレビシリーズに少し出演してもらったら、面白かったんですよ。それで、『愛のむきだし』に出てもらいました。だから、小さな役でも何か引っかかるものがあると、一緒にやりたいなと思います。満島さんがうまくいったこともあって、自分の勘に自信が持てたところもあるんです。それがことごとく失敗してたら、自分の勘を疑うと思うんですけど、今のところうまくいってますんでね」

冨手麻妙の全力が全面に出た映画

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――実際の撮影の話も伺えればと思います。今回のロマンポルノリブートプロジェクトの5作品の中で唯一、日活撮影所に巨大セットを作っての撮影でした。

園「ロマンポルノリブートプロジェクトの制約で低予算だったので、それを逆手に取って、全編を美しく、色彩豊かに見せるにはどうすればいいかを考えました。ある意味で『十二人の怒れる男』のように、舞台のようにひとつのセットでうまくやっていく、ということをやりたかったんです」

冨手「ひとつのセットで、長いセリフをずっと言っているところを、ワンカットの長回しで撮っていました。『ここはどこかの舞台の上』というセリフもありますけど、確かに舞台のようでしたね。私は舞台をずっとやっていたので、そういう撮り方をしてもらえたのはやりやすかったです」

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――ただ、かなり肉体的に厳しそうなシーンもありましたよね。

園「高揚しすぎて、いじめちゃったところも多いです(笑)。四つん這いになって這いずり回るシーンはくどいくらい撮りましたね。気づいたら冨手さんの足が血まみれになっていて……。でも、そういう彼女の全力が、全面的に出た映画になっているかもしれません」

冨手「絵の具が上から落ちてくるシーンで『目開けて踊ってください』って言われたときは、さすがに、ちょっとひるみましたけど、必死についていくしかなかったので」

園「口の中にいっぱい入ってたよね」

冨手「もう、全身の、体の穴という穴から、絵の具が入ってきました」

園子温・尖るスタンスの出発点として

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――さて、園監督は、21日に『新宿スワンⅡ』28日にこの『アンチポルノ』が連続公開となります。公開規模も作風も異なる2作品の連続公開をどう捉えていらっしゃるのでしょうか?

園「例えば、2つの絵が並んでいたときに、到底同じ人が描いたとは思えない2つが並んでいるような画家が自分は好きなんですよね。映画の世界ではそういうことはあまりないですけど、そう思われると嬉しいんです。『新宿スワン』は、いわば設計図を渡されて、自分の感情を全く入れずに作ったらどうなるか、という実験みたいなものなんです。ワクワクしながら試験管にドクドクと注ぎ込んでいって、できたものに自分でも驚くというイメージです。一方で『アンチポルノ』は今年からの自分にとっての日本映画に対するあり方のスタートラインのようなイメージです。今は、日本映画を撮るときは、尖っていることを全面に出して撮っていこうと思っているので、その出発点かなと思っています」

(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)


【関連情報】
・ロマンポルノリブートプロジェクト 公式サイト
『アンチポルノ』 2017年1月28日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督・脚本: 園子温
出演: 冨手麻妙  筒井真理子 不二子 小谷早弥花 ほか

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