ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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『変態村』『地獄愛』監督に聞く“ピュアが狂気に変わるとき”

『変態村』監督・10年ぶりの新作

2006年『変態村』のタイトルで日本公開され、日本のみならず、ヨーロッパやカンヌをも震撼させたベルギーの鬼才・ファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督。今回10年ぶりに新作『地獄愛』(原題:Alleluia・ハレルヤ!の意)を完成させた。

それは果たして狂気か純愛か……?

モチーフとなったのは「ロンリー・ハーツ・キラー事件」と呼ばれる、1940年代後半にアメリカで実際に発生したカップルによる連続殺害事件。変態連続殺人などと称されることもあるこの事件だが、果たしてそれは狂気なのか純愛の果てなのか……?
「ピュアに恋してるのに、狂ったように見られがち」な“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では、勝手にこの作品を自分ごとと捉え、ファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督にインタビューをおこなった。

描きたかった“歪んだ孤立”

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――まずは、監督がこの「ロンリー・ハーツ・キラー事件」に、題材にするほど惹かれた理由を教えてください!

「主人公となるカップルの2人は、もともと孤独で、その孤独な2人が出逢ったことで殺人鬼になってしまうわけですよね。2人は出逢って、つきあうことで、性的にも満たされて、一種の安心感を得るはずなんです。それなのに、今度は2人で世間から孤立していく。その孤立の仕方が、すごく歪んでいるなと感じたんです」

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――歪んだ孤立の仕方、ですか。

「ええ、他にもこの事件を題材にした映画は存在するのですが、今回の僕の作品では、人が孤立していくステップとはどのようなものなのか、リアルに描きたいなと思ったんです。孤独な感情や、良心の呵責もきっと存在する中で、2人が踏み外していく過程を描くことを意図しました」

恋に落ちるときはいつも一瞬

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――その踏み外しの過程がリアルかつ、テンポよく描かれていました。特に、2人が出逢って恋に落ちるまでは、とても短い時間でしたが、リアリティがありました。

「理由を分析できるものではないのですが、恋に落ちるときっていつも一瞬ですよね。恋に落ちるときは、すごく動物的で、本能で動いているので、速さというのは絶対あると思うんですよね」

殺人そのものよりも2人の関係性に焦点

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――うーん、わかります! そして2人がカップルになってから、ついに殺人が始まるわけですが、そこからもとてもテンポよく、ただ、それでいて2人の感情の流れがわかるような構成でした。

「ええ、私が興味があったのは、殺人という行為そのものではなく、カップル2人の関係性なんです。殺人を犯すことで2人の関係性はどう変わり、発展していくのか。まあ見る方は、カップルの2人が、他の女を誘惑して騙そうとするけど、途中で女性の方が嫉妬して殺してしまう、という流れはわかるわけです。だから、殺人そのものは効率的に描くようにしました。早く2人の関係性に行き着きたかったんです(笑)。章を分けているのも、テンポを意識していますね」

殺人犯にもある人間的な部分

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――そして2人は殺人犯ではあるものの、見ていると憎めないキャラクターであるのも印象的でした。

「『変態村』のときもそうだったんですが、特殊な主人公への、観客の皆さんへの距離感というものは意識しましたね。やはり殺人をおこなっているわけですから、皆さんからしたら抵抗があるとは思うんです。ただ、殺人の一方で、2人の人間性や人間的な部分も出すようにして、いい意味でのギャップが与えられたらいいな、と考えていました」

本質と見え方が正反対に

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――実はこの作品を見ていると、なんだか、とてもピュアな2人にも感じられたんですよね。

「彼らの核はとても、子どもなんですよね。自分たちの欲望や、やりたいことに対して、とても忠実なんです。それを、心理学者や社会学者に分析させると『変態』とか『道徳観がない』ということになってしまうんですけどね。中心にあるピュアさと、表面的な見え方は正反対になってしまうんです」

人は2人組になることで本質が表面化する

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――逆に2人のほうは、自分たち以外の世界の人々を「夢をなくしたカラッポの人々」といったような言葉で表現します。彼らが子どもだとすると、大人たちに対する痛烈な批判にも聞こえます。

「ええ、2人は、自分たちの世界の外にいる人たちと自分たちとは、全く正反対だと思っています。そうして反逆していくわけですが、もとはピュアでも行き過ぎた反逆は狂気に変わります。それはたぶん、2人でいる、ということが多分に影響していると思うんですよね。フランス語に『2人一緒にキ●ガイになる』といった意味のことわざがあるのですが、まさにそれで、人間は2人組になることで、本性や本能的なものが表面化していく生き物だと思うんです。今回の作品では、そんな2人にも掛け違えが起きていくわけですが……それは見てのお楽しみということで(笑)。そこも含めて、とても人間的なストーリーなので、シェイクスピア、ひいては黒澤明監督にも通じるような普遍的な物語だと僕は思っていますよ」

『地獄愛』は『ハネムーン・キラーズ』とともに7月1日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

(取材・文:霜田明寛)

■関連情報
映画『地獄愛』
2014年/ベルギー=フランス合作/93分/カラー/2.35:1/原題:Alleluia/配給・宣伝:アンプラグド 提供:キングレコード
監督:ファブリス・ドゥ・ヴェルツ『変態村』
撮影:マニュエル・ドゥ・コッセ
音楽:ヴァンサン・カエイ『変態村』
出演:ロラ・ドゥエニャス、ローラン・リュカ、エレーナ・ノゲラ

©Panique / Radar Films / Savage Film / Versus Production / One Eyed – 2014 R15+

【監督プロフィール】

ファブリス・ドゥ・ヴェルツ
1972年10月21日ベルギー出身。リエージュの国立演劇学院を卒業後、ブリュッセルの映画研究所INSASで演出を学ぶ。その後、テレビ局Canal+にてバラエティ番組の司会をつとめた後、映画界へ。1990年からコダックのスーパー8フィルムによる多くの作品を監督し、自身の作品では、シナリオ兼俳優も同時にこなしていた。1999年に制作された短編「Quand On Est Amoureux Cest Merveilleux」で、第7回ジュラルメール映画祭グランプリを受賞。初の長編作品となる『変態村』(04)はカンヌ映画祭・批評家週間をはじめ、各地の映画祭で物議を醸し、ベルギーを代表する新たな才能としてヨーロッパ映画界を騒然とさせた。2008年にはエマニュエル・ベアールを主演に迎えたホラー・サスペンス映画『変態島』を監督し、第41回シッチェス・カタロニア国際映画祭にて、ファンタスティック・コンペティション部門のカルネー・ホベン審査員賞受賞を果たした。2013年にはベルギーのアルデンヌ地方を舞台とした、狂気の愛を描く3部作の第2弾に当たる『地獄愛』に着手。第1弾とされる『変態村』のローラン・リュカを再度主演に迎えた。2013年からは、BeTVで放送されている『ホームシネマ』の司会者としてテレビ番組に復帰している。

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