ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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『SR』から10年 入江悠がサイタマに戻ってきた理由

入江悠監督最新作『ビジランテ』は『SR』と同じ埼玉県深谷市が舞台!

今年は『22年目の告白 -私が殺人犯です-』が大ヒット。さらに2009年に公開された『SR サイタマノラッパー』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化されるなど、大躍進の年となった入江悠監督。2017年を締めくくるのは、入江監督によるオリジナル企画『ビジランテ』。大森南朋・鈴木浩介・桐谷健太という重厚なキャストが3兄弟を演じ、『SR サイタマノラッパー』と同じ、自身の出身地・埼玉県深谷市を舞台にし、ロケをおこなっている。『SR サイタマノラッパー』の撮影から10年。なぜ、再び入江監督は地元を舞台に選んだのか?

“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では入江監督にインタビュー。“オトナ童貞”の雰囲気を醸し出す入江監督ご自身や、20代が主人公の『SR サイタマノラッパー』から10年経って、30代後半から40代の男性を主人公にした理由、そして激しいカーセックスシーンを演じた元AKB48の篠田麻里子さんの話まで伺った。

★今回はインタビューを動画でも撮影。インタビューの一部をこちらからご覧いただけます。

(聞き手:霜田明寛『チェリー』編集長)

濡れ場が描けるのは童貞性の裏返し!?

入江「童貞を引きずった、ってコンセプトいいですね(笑)」

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――ありがとうございます! 勝手ながら、入江さんは童貞を引きずった“オトナ童貞”なのでは、と親近感を抱いているのですが……。

入江「ええ、僕は、男兄弟かつ男子校の中で育って童貞マインドが養われて、いまだにそのマインドを抜けられていないですね。たぶん、一生抜けられないと思います(笑)。映画でも、いまだに女性の主人公を描けないですし……」

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――たしかに女性の主人公はないですね。一方で、今回の『ビジランテ』しかり『太陽』しかり、女性への暴力的なセックス描写は多い印象です。

入江「それは、童貞をこじらせた結果かもしれません(笑)。濡れ場って、童貞の憧れみたいなところがあるじゃないですか。だから僕の描く濡れ場は、童貞の妄想が進んだ裏返しなのかもしれません。童貞の頃から、性欲で日々生きていた結果、それが一生抜けなくて、ああいうものができている」

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――オトナ童貞としては、あんな濡れ場を撮れる入江監督は、最高の上がり方というか憧れです(笑)。

入江「逆に、男子高校生の頃から自転車で二人乗りしているカップルを見て『こいつら死ねばいいのに……』って思ってたので、そういうカップルなんかは映画で描きたくないんですよ。映画で見たいのは、そういうものじゃないんです」

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――じゃあ、少女漫画原作の恋愛ものなんかは……。

入江「ときどきお話をいただきますが、なかなか気が進まないんですよね(笑)。濡れ場は描けても、恋に落ちる瞬間が描けないんです。なにかの瞬間に手が触れてドキッとする、みたいな描写ができる気がしなくて……」

『SR』の主人公は当時の僕

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――さて、今回は『SR サイタマノラッパー』と同じ、埼玉県深谷市を舞台にしています。

入江「ちょうど『SR サイタマノラッパー』の撮影が2007年の冬なんで、10年ぶりなんですよね。そろそろ久しぶりに地元を見つめ直そうと思って。埼玉、というと割と都会なイメージを持つ人もいらっしゃるんですけど、深谷市は本当に田舎の街っていう感じで、閉塞感もあるし、ある種、日本のどの田舎の風景とも変わらない普遍性もあるので、再び舞台にしようと思ったんです」

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――同じ場所を舞台にすることで、ご自身のこの10年の変化は感じられましたか?

入江「『SR サイタマノラッパー』は、本当に僕自身の等身大の映画だったんです。ある意味、子どもで、社会との接点がほとんどなくて、自分の夢や『こうなりたい』という希望が、なかなか実現できない20代の若者の話。もう、それは、あの当時の僕ですよね」

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――公民館で大人たちに対して、ラップする主人公たちが、当時の入江さんだったんですね。

入江「ええ、僕は集団というものが怖くて。昔から、満員電車に乗らなくていいような仕事をしようと思って生きてきましたし、最近では渋谷のハロウィンの集団も怖い。あの公民館のシーンは、当時の僕の、そういう大人の社会という集団に絡め取られる怖さが表れていると思います」

30代後半から40代前半は一番つらい時期

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――それから、入江さんが映画監督としてキャリアを重ねられて10年が経ち、今回の『ビジランテ』の主人公の兄弟3人も、入江さんと同世代の30代後半から40代の男性になりました。

入江「幸いにも映画を撮るチャンスをいただいて、映画監督という個人だといっても、やっぱり社会だったり、コミュニティだったり、人間関係っていうものに縛られて生きている。『ビジランテ』の主人公たちの30代後半から40代の前半っていうのは、社会人として一番つらい時期かもしれない、という感覚で撮りました。家族ができたり、会社の中で責任が生まれたり、フリーランスの人だってしがらみが生まれてくる時期ですしね」

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――同じ世代、同じ兄弟でも、例えば鈴木浩介さん演じる二郎は、集団に従属するのに対し、桐谷健太さん演じる三郎は、反逆していきます。

入江「どっちが幸せか、そして、どっちが正しいのかもわからないですよね。のちのち振り返った時に、あの行動が大変な間違いだったと気づく、というパターンもありますしね」

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――そんな色々な人がいる中で、入江さんの思う強い同世代の男性ってどんな人なんですかね?

入江「うーん、子どもやら家族やら色んなものを抱えても、続けている人ですかね。僕の場合は映画ですけど、昔から一緒に映画をやっていた人や、俳優さんもみんなだんだんと辞めていくんです。だから、例えば週末にだけライブやってる、じゃないですけど、続けている人は強いなと思います」

篠田麻里子の中に見た“大人の女性のしんどさ”

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――そう考えてくると、男性よりも、今回篠田麻里子さんが演じたような女性の方が強さを感じます。

入江「たしかに、童貞マインドをもった大人が、奥さんにすべきは、ああいう女性かもしれないですよね」

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――ちゃんとセックスもしてくれますしね。冒頭の鈴木浩介さんと篠田麻里子さんの車の中でのセックスシーン、最高でしたよ! 特に篠田麻里子さんの『大学生じゃあるまいし』っていうセリフ、秀逸です!

入江「あのセリフは篠田麻里子さんに『どういう意味なんですか?』って聞かれたんですけど、面と向かってはうまく答えられなくて(笑)。本当は、僕の中での大学生のイメージなんです。東京ではあまりないかもしれませんが、仙台や名古屋のような大きめの都市ではもちろん、地方都市には車を持っている大学生って結構いるんです。だから、あれは僕の中の、自分がなれなかった大学生のイメージをこめたセリフなんです」

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――なれなかった、という部分が最高です!(笑) そして、篠田さんにセックスシーンを演じさせるご決断もさすがです。

入江「篠田さんも初めてだったと思うので、あえて撮影初日に持ってきました。後半におくと、撮影期間中ずっと気になっちゃうじゃないですか(笑)。それで、鈴木浩介さんとも最初に夫婦になってもらう、という感じで」

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――『ビジランテ』を見て、実は篠田麻里子さん自身は今回の役柄に近いんじゃないかという気がしました。

入江「ええ、そう思います。篠田さんは演技経験的にいったら、同世代の他の女優さんよりも少ないかもしれません。でも、精神的な強さは勝っていると思うんです。九州から出てきて、AKB48というすごい競争の中で、勝ち残ってきた。その中で大人の女性としてのしんどさをいっぱい感じてるはずなんですよね。だから、今回の役は彼女に託した部分も大きいんです」


★さらに後編では入江監督が映画を作る人生で覚悟していることや、生きてきて感じた閉塞感などお話してくれています! 後編に続く!

(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき 動画編集:小峰克彦)

映画『ビジランテ』 12月9日(土)より テアトル新宿ほか全国ロードショー

大森南朋 鈴木浩介 桐谷健太
篠田麻里子 嶋田久作 間宮夕貴 吉村界人 般若 坂田聡
岡村いずみ 浅田結梨 八神さおり 宇田あんり 市山京香
たかお鷹 日野陽仁 /菅田俊

脚本・監督:入江悠
音楽:海田庄吾
配給:東京テアトル 製作:「ビジランテ」製作委員会(東映ビデオ・巖本金属・東京テアトル・スタジオブルー)
©2017「ビジランテ」製作委員会

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