ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

入江悠38歳 僕らの世代の“希望”論

入江監督が『ビジランテ』にこめた2017年の日本とは?

2017年の上半期興行成績ランキング・実写邦画の中で1位となった『22年目の告白 -私が殺人犯です-』や亀梨和也主演の『ジョーカー・ゲーム』などで知られる、入江悠監督のオリジナル企画による最新作『ビジランテ』が12月9日(土)より公開される。

10年前に撮影され、自身の出世作となったインディーズ作品『SR サイタマノラッパー』と同じく、入江監督の出身地である埼玉県深谷市で撮られたこの作品。2017年の日本に生きる人々が描写されており、決してわかりやすい希望が与えられるようなものではない。なぜ、入江監督は自身の出身地でこのような作品を作ったのか?
“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では童貞話とセックス話で盛り上がった前編から一転、1979年生まれ、現在38歳の入江監督が感じる2017年の日本について、真面目に話を聞いた。

映画で中途半端な希望を描くのは嘘

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――『SR サイタマノラッパー』は、絶望の中でも、まだ若さや未来という“希望”があったと思うんですが、正直、今回の『ビジランテ』はなかなか希望を見出しづらいですよね。

入江「これからの僕らの世代の希望って何があるんだろう……って考えちゃうんですよね。いや、もちろん『給料入ったから美味いもん食おう』とか『いい映画見れたな』レベルの幸せはありますよ。でも、10年後、20年後を考えたときに、どんな希望があるんだろう、っていうのは考えこんじゃうんですよね」

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――今の日本社会を見つめて、そう感じるということでしょうか?

入江「ええ、それは僕が映画監督という、いつ次の仕事がなくなるかわからない職業についているということもあるかもしれませんが、大手の電機メーカーも破綻する時代ですからね。『22年目の告白』のときも思いましたが、あの映画よりもひどい事件が、実際に起きていたりするじゃないですか。だから、今回も、映画で中途半端な希望を描くと嘘になると思ったんです」

2017年を込めた『ビジランテ』

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――その監督の覚悟のお陰で、『ビジランテ』はズッシリと来ました。

入江「まあ、相当ひどいことになりますよね(笑)。でも、取材をして、実際に起こりうるだろうなと思ったことを描いてます。やっぱり2017年っていう時代が、この映画に込められてないと嫌なんです。なので、今回の脚本を書くために、興味はないけどInstagramを始めてみたり、酔っ払って過激なツイートをしてみたりしました(笑)」

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――(笑)。SNSの描写もまさに2017年でしたし、『ビジランテ』には、2017年の閉塞感がつまっていた気がします。

入江「ええ、『ビジランテ』で描いていますが、何が正しくて何が間違いなのかわからない、という状況は年々強くなっている気がするんです。フェイクニュースなんて言葉も出てきてますし、ネットの世界を覗いていても、僕が10代の頃よりも閉塞感はどんどん強くなってきている気がします」

地方都市で起こることは地球規模で起こりうる

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――入江監督は10代の頃も閉塞感を感じられていたんですか?

入江「僕が10代の頃は、1999年にすべてが終わるというノストラダムスの大予言がありましたからね。今思えばすごい話ですけど(笑)。少年『マガジン』でも、そんな『地球が滅亡する!』みたいな連載がやっていましたし、1995年に阪神・淡路大震災やオウム真理教の地下鉄サリン事件があったことも大きいです。僕もそうでしたけど、若いときって何かひとつの情報に染まっちゃうことってありますよね。そうやって若者が絡め取られていくことに怖さを感じます

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――その、ひとつの情報に流される若者の代表として、吉村界人さん演じる青年が出てきます。「SNSとかで見て~」と言いながら自警団に入り、その思想を行動にうつしていきますね。

入江「何が正しいのかわからない社会の中で、吉村界人くん演じるあの青年は、自分が正しいと思ってああいう行動をしてしまうんですよね。もしかしたらそれは一面的には正しいのかもしれないけれど、結果的には誰かを傷つけたり、コミニュティ崩壊のきっかけになっていたりするんです」

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――恐ろしいですし、深谷市だけで起きそうな話とはとても思えませんでした。

入江「ええ、ああいう地方都市で起きてることっていうのは、きっと日本のどこか他の場所や、もしくは地球規模で見てもどこかで起きうることだ、というのは脚本を書きながら感じていました」

傷つかないと作れない

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――自分の地元に帰って、決して明るくはない部分を描くのは、旧友への気配りとかも含めて大変じゃないですか?

入江「もうそこは、ちゃんと地元に帰って、大人の人に『相変わらずハッピーエンドじゃない、地方都市のいやらしい話を描くんですけど、いいですか?』みたいな感じで説得をして。髪の毛の薄くなった同級生を見たり、未だに『おい、入江!』って怒鳴ってくる先輩に会ったりして……。中高の先輩後輩関係って、地方都市だと特に、そのまま大人になっても固定化して続きますからね(笑)」

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――それでも地元に帰るのにはやはり何か理由があるんですかね?

入江「怖いもの見たさ……っていうのもありますよね。やっぱり、映画って自分を傷つけながら作らないと本物じゃないって、心のどこかで思っているんです。だから、身を削らなくちゃいけないと思っていて。本当だったら戻りたくないけど、身を削るために地元に戻っているっていう感覚ですね(笑)。やっぱり、安全地帯で映画を作っていても面白くならない、って思っているんですよね」

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――それって、怖くはならないんですか? 今後、入江さんが映画を撮り続けていく人生をおくる限り、自分を傷つけていかなきゃならないってことですよね?

入江「うーん……怖いですけど、スリルでもあるんですよね。年を重ねると、怖いこともドキドキすることも少なくなっていくんです。例えば昔は映画を見に行くだけでドキドキできたじゃないですか。でもそれはさすがになくなっていくから、そういうスリルでドキドキして生きていって、映画を作っていきたいなと思っています」


(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき 動画編集:小峰克彦)

★今回はインタビューを動画でも撮影。インタビューの一部をこちらからご覧いただけます。

(聞き手:霜田明寛『チェリー』編集長)

映画『ビジランテ』 12月9日(土)より テアトル新宿ほか全国ロードショー

大森南朋 鈴木浩介 桐谷健太
篠田麻里子 嶋田久作 間宮夕貴 吉村界人 般若 坂田聡
岡村いずみ 浅田結梨 八神さおり 宇田あんり 市山京香
たかお鷹 日野陽仁 /菅田俊

脚本・監督:入江悠
音楽:海田庄吾
配給:東京テアトル 製作:「ビジランテ」製作委員会(東映ビデオ・巖本金属・東京テアトル・スタジオブルー)
©2017「ビジランテ」製作委員会

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