ちょっと遅くなったけど、今年最初の『TVコンシェルジュ』はバラエティを語ろうと思う。
――とはいえ、一口にバラエティと言っても、現在、ゴールデンタイムで放送される番組の実に8割近くがバラエティ。当然、全部を網羅できるわけはなく、象徴的な番組をいくつかピックアップしたいと思う。
まず、今のバラエティ界で最も注目される番組の1つとして、これは外せない。今年のお正月――1月2日にも3時間スペシャルが放映された、テレ東の『池の水ぜんぶ抜く』である。第6弾となる今回の視聴率は13.5%。これは同番組史上最高だったんですね。ちなみに、過去6回の視聴率の
推移は――
第1弾 8.3%
第2弾 8.1%
第3弾 9.7%
第4弾 11.8%
第5弾 12.8%
第6弾 13.5%
――惜しい! 第2弾さえ前回より上回っていたら、見事な右肩上がり。それにしても、テレ東のバラエティでこの盛り上がりは異常である。ちなみに、第4弾と第5弾は、裏のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』を視聴率で上回った。あのテレ東が、である。
タイトルに偽りなし
『池の水ぜんぶ抜く』の強さの秘密は何か。
よく言われるのが、そのシンプルなタイトルだ。実際、同番組は池の水を全部抜く。そこに何も足さない、何も引かない――そう、タイトルに偽りなし。ウケた理由の1つは、そんな分かりやすさにあると思う。
今や、テレビの視聴者はスマホ片手に番組を見る「ながら視聴」のスタイルが一般的。そんな時代に、小難しい番組は避けられる傾向にある。ある程度集中しないと話が分からないドラマの視聴率が落ちた一因はそんなところにもある。その点、『池の水~』は分かりやすさ満点だ。
タイトル=企画内容が意味するもの
思えばこの30年――テレビのバラエティで大事なのは、タイトルよりも鉱脈(ヒット企画)を掘り当てることだった。1980年代以前は、『クイズダービー』とか『クイズ100人に聞きました』とか、ストレートにタイトルが内容に直結した番組が多かったけど、90年代以降は、『進め!電波少年』とか『くりぃむナントカ』とか『中井正広のブラックバラエティ』とか『リンカーン』とか『今夜くらべてみました』とか――要するに、タイトルだけでは何をやっているのか分からないバラエティ番組が主流になった。
要は、司会を務める目玉キャストを押さえて(例えば、中居正広やダウンタウン)、あとは番組を転がしながらヒットの鉱脈を探り、ある企画が当たれば、それを広げていく――という戦略だ。『もしものシミュレーションバラエティー お試しかっ!』なんて、「帰れま10」の企画が当たって、途中からそればかりになり、とうとうコーナーが独立して番組になったほど。
そんな中、『池の水ぜんぶ抜く』は、最初からタイトル=企画内容である。つまり、「この番組はこの企画一本でやりまっせ!」という姿勢。実に潔いし、何よりそれは、「池の水を全部抜く」という企画が優れていることを意味する。そう、企画を転がす必要がないのだ。
王道エンタテインメントのフォーマット
そう、『池の水ぜんぶ抜く』は、その奇抜なタイトルばかりに目が行きがちだけど、同番組が強い本当の理由は、その極めて王道なエンタテインメントのフォーマットにある。順を追って説明しよう。
① まず、池という身近なロケーション。基本、生活圏内にあり、なじみ深い。取材先がアマゾンのジャングルの秘境だと感情移入しにくいけど、近場の池ならスッと入り込める。ほら、ドラマだってどこか遠くの星の異星人の話より、ごく普通の家庭の話の方が感情移入できるでしょ? あれと同じ。まず、これが一点。
② 次に、池の水を全部抜くことで、絵的に動きのある大きな変化が見られる。普段見られない広大な池の底が現れる。実にダイナミック。このビジュアルの変化は極めてテレビ的である。
③ 3つ目は、水が減るに従って現れる“外来種”という悪役だ。建前上、番組はこの外来種を駆除して、池を在来種のみの正常な環境に戻すのが大義名分である。地元の行政やボランティアの皆さんがお手伝いしてくれるのは、それゆえ。だが、大義名分と言いつつも、この「悪を退治する」図式は見ていて分かりやすい。勧善懲悪――これもテレビの王道である。
④ そしてクライマックス――池の底から現れる予想だにしない物体X。番組的にはこちらが真の目的だ。時にそれは、大阪・寝屋川市の池に潜んでいた北米原産の超巨大肉食魚「アリゲーターガー」だったり、日比谷公園の池に沈んでいた江戸時代の家紋入りの瓦といった“お宝”だったりする。そう、番組終盤にやってくるメインイベント。池の水を全部抜いたからこそ判明する最大の見せ場である。
――いかがです? ①馴染みのあるロケーションに、②池の水が全部抜かれるビジュアルのインパクト、③外来種を駆除する勧善懲悪のスタイル、④クライマックスにやってくる謎の物体X――と、同番組は極めてテレビ的に王道のフォーマットなのだ。奇をてらったワケでもなんでもない。人気があるのはそういう理由。勝ちに不思議の勝ちなし、である。
能動的に働くゲスト
同番組は、ロンブー淳とココリコ田中の2人のMCに、外来生物研究の第一人者の加藤英明氏と、環境保全のスペシャリストの久保田潤一氏の2人の専門家がレギュラーメンバーである。4人のチームワークは盤石だ。しかし、同番組で特筆すべきは、そのゲスト陣なのだ。
例えば、第3弾に出演した伊集院光は、この番組が大好きで、自らゲストに志望したという。そして以後、同番組が話題になるにつれ、この伊集院パターンが定例化する。第4弾ではあの芦田愛菜が自ら望んで登場。顔に泥をつけて外来種の駆除に奮闘する活躍ぶりだった。第5弾では小泉孝太郎、第6弾では満島真之介らが出演し、いずれも同番組のファンと公言し、積極的に活躍した。
そう、昨今、俳優がバラエティ番組にゲスト出演するケースはドラマや映画などの番宣が多い中、同番組は違う。純粋に企画に賛同して自ら志願して出演してくれるのだ。そのため、彼らは能動的に行動する。役者なのに、商売道具の顔に泥を付けて奮闘する。こういう絵はなかなか他のバラエティでは見られない。
企画の保険をかけない
同番組のプロデューサーは、『モヤモヤさまぁ〜ず2』でお馴染みのテレ東の名物男、伊藤隆行Pである。
今年のお正月にNHKで放映された恒例の『新春テレビ放談』(毎年、年始にやってる「テレビ」をテーマにした座談番組。局の垣根を越えてパネリストたちが語り合うのが超面白い)において、彼が同番組を立ち上げた経緯を明かしていたんだけど、これが興味深かった。
伊藤P、上から「大河の裏で戦える番組を」と言われたので、この『池の水ぜんぶ抜く』の企画を提出したところ、こう言われたそう。「面白そうだけど、企画の保険がかかってない」――。
「企画の保険」って?
視聴率を担保するための、文字通り“保険”だ。例えば、出演者が豪華だったり、お得な知識や情報を学べたり、テレビ的に映える「絶景」や「絶品グルメ」を見られたり――。これに対し、伊藤Pはこう反論したそう。「企画の保険? いや、“面白そう”なら、それでいいじゃないですか!」って。
大きな企画
結局、その時は伊藤Pが押し切って、同番組は日の目を見たんだけど、このエピソードはとても大事な教訓を含んでいる。
つまり――昨今のテレビをつまらなくしている一因は、この「企画の保険」を求める風潮にあること。キャスト優先主義が過ぎるあまり、テレビ界はいつまで経っても同じ顔ぶればかりで新陳代謝が進まないし、お得な知識や情報を求めるあまり、昨今のバラエティは「情報バラエティ」ばかりが氾濫してるし、「絶景」や「絶品グルメ」の企画に至っては、もはや食傷気味である。
そうではなく、今のテレビに求められるのは「大きな企画」なのだ。何か1つの大きな企画の柱があり、そこに集中して番組を構成すること。『池の水ぜんぶ抜く』をはじめ、『YOUは何しに日本へ?』や『家、ついて行ってイイですか?』などのテレ東のバラエティが近年好調なのは、そういうことである。
2つの伝説の番組の終了
さて、一旦、話題を変えて、この春に終了する2つの番組に触れたいと思う。もう何度も報道されている通り、フジテレビの伝説のバラエティ番組――『とんねるずのみなさんのおかげでした』(以下/『みなおか』)と『めちゃ×2イケてるッ!』(以下/『めちゃイケ』)がこの3月で幕を閉じる。
『みなおか』は、前身番組の『~おかげです』を含めると30年半、『めちゃイケ』は22年半と、共にフジテレビ黄金期を支えた偉大な番組だ。
とはいえ、両番組とも近年は視聴率が一桁台と低迷しており、フジが民放4位から浮上するためには必要な勇退だった。気がつけば、とんねるずの2人は50代後半、ナインティナインの2人は40代後半。いつまでもお笑い番組の最前線でプレイヤーとして活動するのは、ちょっとキツいかもしれない。
そう、お笑い番組の終了――。
今回、この2つの番組の終了について注目すべきは、この点なのだ。
消えゆくお笑い番組
コラムの冒頭、ゴールデンタイムにおけるバラエティ番組が締める割合は約8割と述べた。
だが、一口にバラエティと言っても、それこそ多様性がある。昨今多いのは、何かを学べる“情報バラエティ”と、ゲストを招いたり、あるテーマについて語り合う“トークバラエティ”の2つだ。これに、食レポや旅もの、チャレンジものといったロケのVTRが付随するフォーマットが一般的。スタジオがクイズ形式になることもある。
それに対して、衰退傾向にあるのが、いわゆる芸能バラエティだ。これは大きく2つのカテゴリーに分けられ、1つは、純粋にネタを披露する“ネタ見せ番組”。かつては毎週のように各局で見られたが、今や『M-1グランプリ』や『キングオブコント』など、スペシャルにその主軸を移してしまった。
もう1つが――先の『みなおか』や『めちゃイケ』も含まれる“お笑い番組”だ。かつてはコントやパロディが主流だったが、次第に企画モノやロケものの比重が増えていった。ただ、一貫して“笑い”を追求する姿勢は変わらない。
しかし――今やこの“お笑い番組”は絶滅危惧種なのだ。
バラエティの系譜
元々、バラエティは“ヴァラエティ・ショー”と呼ばれ、それこそテレビの黎明期から存在する人気のジャンルだった。
お手本はアメリカの番組で、これを模倣して、日本に取り入れたのが、かの日本テレビの井原高忠プロデューサーである。当時のヴァラエティは歌とコントの2本柱で、クレージーキャッツやザ・ドリフターズら、昭和の“笑い”をけん引したグループが元はバンドだったのはその名残だ。
それが1980年の漫才ブームを起点に、お笑い芸人が一気にテレビに進出。コントやパロディをベースとする新たなバラエティが量産された。その中心にいたのがビートたけしや明石家さんまで、70年代以前の作り込まれた笑いと違い、楽屋オチや業界ネタなどのホンネの笑いが特徴だった。
その一方、80年代はクイズ番組も進化を見せる。それまでバラエティから独立したジャンルとして、主に視聴者参加のフォーマットだったクイズ番組が、80年代以降、芸能人を解答者とするバラエティ番組へと変貌する。単なるクイズの正誤を競うスタイルから、トークやお勉強の要素も加味され、これが今日の“トークバラエティ”や“情報バラエティ”に発展する。
バラエティ・ビックバンの90年代
そして90年代、バラエティ番組はビックバンのごとく大拡散を遂げる。キーワードは「ダウンタウン」と「カメラの小型化」である。
まず、ダウンタウンの登場で、2人に憧れる全国の面白い若者たちがこぞってお笑い芸人を目指すようになり、吉本NSCをはじめとする芸能事務所の養成所の門戸を叩く。現在、テレビ界はお笑い芸人たちがバラエティに限らず、あらゆる番組に進出しているが、この飽和状態を招いた元凶はダウンタウンである。
もう1つが、カメラの小型化によるロケ企画の増大だ。火を着けたのは、かの『進め!電波少年』(日本テレビ系)である。それまで大きく重いテレビカメラを担いでのロケは、装備や人員を要して大変だったが、技術が進んでカメラが小型化したことで、カメラマン一人でのロケが可能になった。かくして、同番組は“ドキュメント・バラエティ”の手法を確立する。世界的なリアリティショー・ブームが起きたのも同じ頃である。
これ以降、バラエティ番組にロケ企画は定番となり、食レポや旅もの、チャレンジ系の番組が増大する。
2000年代のお笑いブームと収束
ロケものバラエティが増殖した90年代――。その反動からか、2000年代に入ると、『笑う犬の生活』(フジテレビ系)を皮切りに、コント系の“お笑い番組”が見直され、『ワンナイR&R 』や『はねるのトびら』といった若手お笑い芸人たちの活躍の場が次々に誕生した。
一方、『爆笑オンエアバトル』(NHK)を起点に“ネタ見せ番組”も注目され、『エンタの神様』(日テレ系)のブレイクを機に、『爆笑レッドカーペット』(フジ系)などの同種の番組が各局に氾濫した。
2000年代半ばに訪れた空前のお笑いブーム。ここまでの盛り上がりは80年の漫才ブーム以来である。
だが、とかくブームというものは長続きしない。急速に彼らがお茶の間に消費されると、お笑い番組もネタ見せ番組も、次第にネタ切れとクオリティの低下が叫ばれるようになり、2010年代に入ると、相次いで打ち切られた。
変わって台頭したのが、先にも述べたトークバラエティと情報バラエティである。そして現在、バラエティの主流はこの2つとなっている。あとは、ここ数年の風潮として、お散歩番組の隆盛くらいだろうか。
伝説の2つの番組の位置づけ
さて――少々遠回りになったが、ここで『みなおか』と『めちゃイケ』の話に戻りたいと思う。
2つとも、バラエティのカテゴリーでは衰退しつつある“お笑い番組”に該当する。『みなおか』は80年代に始まったことからも分かる通り、ベースにあるのは楽屋オチや業界ネタなどのパロディだ。
一方の『めちゃイケ』はこれも90年代に生まれたことが象徴するように、ロケもののドキュメント・バラエティがベースにある。
いずれも、メインキャストである、とんねるずとナインティナインは時代を象徴するアイコンとなった。最高視聴率は『みなおか』が『~おかげです』時代の29.5%、『めちゃイケ』が33.2%である。共にフジテレビの三冠王に貢献し、功労賞の側面から、バラエティが時代の荒波で移り変わる中でも、長くアンタッチャブルな案件として残されてきた。
終了発表もそれぞれのカラーで
だが、フジテレビが民放4位に転落し、現状ではなかなか浮上の目がない――相当重症だと分かってきたタイミングで、恐らく阿吽の呼吸というか、双方の番組とも自ら退く決意に至ったと思われる。
番組内での終了発表は、これまた各々のカラーを反映したものだった。『みなおか』はとんねるずの2人がお馴染みの「ダーイシ」と「小港」に扮して、初代プロデューサーの港浩一サン(現・共同テレビ社長)の前で「番組が終わっちまうんだよぉ」と終了発表。最後まで楽屋オチなところも彼ららしかった。
一方の『めちゃイケ』は、これまた番組の最高責任者である片岡飛鳥総監督から突然、ナイナイ岡村に「『めちゃイケ』、終わります」と告げられ、岡村が「……リアルなやつですか?」と返し、そこからメンバー全員に岡村自ら終了を伝える様子をドキュメントで見せる、番組お馴染みのスタイルだった。
片や楽屋オチ、片やドキュメント――終了発表すらも番組のネタにしてしまうところが、お笑い番組たる所以である。
お笑い番組絶滅の危機
しかしながら、この2つの番組の終了は、別の意味で大きな意味を持つ。既に報道されているが、それぞれの後継番組は、『みなおか』の後が坂上忍MCの情報バラエティ、『めちゃイケ』の後が『世界!極タウンに住んでみる』という旅もののバラエティだ。
いずれも情報バラエティや、ロケVTRをベースとしたトークバラエティで、昨今のバラエティの主流である。
そう、『みなおか』や『めちゃイケ』の終了は、単なるフジテレビの改編に留まらず、テレビ界全体にとって“お笑い番組”が2つ減ることを意味するのだ。
企画の保険が招いたテレビ離れ
気がつけば、ゴールデンの8割近くを占めるバラエティを見渡しても、純粋なお笑い番組はほとんど見当たらない。目に付くのは、情報バラエティやトークバラエティばかりである。
いずれも、お笑い番組と違って“大負け”しないのが特徴だ。そこそこの視聴率が保証されている。それが「企画の保険」が働いているということ。出演者が豪華だったり、何かお勉強できたり、絶景や絶品グルメのVTRが見られたり――etc.
しかし、大負けしないということは、裏を返せば、大勝ちもしないということ。ブレイクしない、弾けない――それ即ち、昨今の「テレビ離れ」を招いている元凶でもある。
ここで、あらためて『池の水ぜんぶ抜く』の伊藤Pの言葉が思い出される。「企画の保険? いや、“面白そう”なら、それでいいじゃないですか!」――そう、今こそバラエティはこの原点に立ち返る時期に来ているのかもしれない。
フジテレビさん、今がその時じゃないですか?
日テレvs.TBSのバラエティ戦争
ここからは2018年のバラエティ界の展望を見ていきたいと思う。
現在、バラエティで圧倒的な強さを見せるのは、やはり日本テレビだ。昨年、同局は年間視聴率で4年連続の三冠王(全日・ゴールデン・プライム)を達成したが、それはひとえに、ゴールデンの8割近くを占めるバラエティが好調だからである。
一方、現状でそれに唯一対抗できる可能性のある局はTBSだろう。近年、同局は少しずつ話題になるバラエティが増えており、例えば、昨年は『プレバト!!』が「俳句」のコーナーでブレイク。その健闘もあって、同局は年間視聴率で10年ぶりにゴールデン帯2位に返り咲いた。
とはいえ、日テレのバラエティを横綱とすると、TBSはまだまだ小結あたり。今年はこの差がどこまで縮まるかが見どころになる。
イッテQの強さの秘密
では、日テレのバラエティの強さを紐解いてみよう。
現在、同局のバラエティのトップを走るのは『世界の果てまでイッテQ!』である。昨年、番組開始10周年を迎え、視聴率は安泰どころか上昇傾向にある。アニバーサリー月となった2月は毎週のように20%台を連発。“テレビ離れ”が叫ばれる昨今、この強さは驚きである。
人気の秘密は、今の地上波が考え得る最高のフォーマットにある。家族で安心して見られて、ウッチャンを中心にスタジオはアットホームな雰囲気で、ロケのVTRは基本がんばる系の企画で、毎回それなりの達成感がある。いわゆる少年ジャンプの「友情・努力・勝利」みたいなカタルシスがある。お茶の間で家族揃って楽しめる――地上波において、これに勝る視聴習慣はない。
それと、これまでもイモトアヤコや宮川大輔ら、同番組は最初から人気者をブッキングするのではなく、自ら人気者に育てるスタイルをとってきたが、昨年は「世界の果てまでイッタっきり」の企画で、見事に“みやぞん”がブレイク。これも同番組の視聴率を押し上げる要因になった。
家族で楽しめるフォーマットに、自ら新しい人材を育てるスタイル――同番組に象徴されるこれらの要素は、日テレの他の番組でも見受けられる。同局のバラエティの強さの秘密である。
追うTBSの戦略
だが、一見、盤石に見える日テレのバラエティだが、弱点もある。
それは、家族で楽しめるフォーマットを優先するあまり、尖った企画がやりにくいこと。それと、軒並み長寿番組なので、必然的に金属疲労に陥りやすいこと。
つまり、日テレが王道なら、これに対抗するTBSがとる戦略は、古代中国の儒家の教えに従うなら「覇道」しかない。
覇道――テレビの世界に置き換えるなら、それ即ち、強烈な毒を含む演出だったり、ある特定のターゲットに響く濃い企画のことである。比較的新しいバラエティが多いTBSは、思い切った戦略がとれるのだ。
『プレバト!!』がブレイクした理由
例えば、先に挙げた『プレバト!!』もその戦略で伸びている番組の1つ。今や同番組は「俳句の才能査定ランキング」のコーナーが大人気。人気の秘密は、「俳句」という素材が極めてテレビ的だからである。
まず、五・七・五の短い文章の中に世界観を盛り込めるし、ビジュアル的に1ショットで作品を見せられる。歴史あるジャンルだから批評にも説得力がある。極め付けが、センスがモノを言う一方で、たまに一発逆転もある――まさにテレビ的。しかし、同コーナーがブレイクした真の立役者は、俳人の夏井いつき先生の容赦ない「毒舌」なのだ。
そう、生徒たちが詠んだ自信作を容赦なくぶった切る“寸評”だ。見ていて爽快感すらある。それでいて、夏井先生自身は天然で、時々ボケを発して浜ちゃんにツッコまれるので、どこか憎めない。
同番組が視聴者を惹きつける所以である。
『水曜日のダウンタウン』に見るバラエティの可能性
TBSの覇道路線を語る上で、もう一つ外せない番組がある。『水曜日のダウンタウン』だ。
テレビ界には、俗に「面白い番組は面白い社員が作る」なる説があって(そのうち番組で検証してもらいたい)、同番組も演出の藤井健太郎サン抜きには語れない。この方、『クイズ☆タレント名鑑』や『クイズ☆正解は一年後』も作った人で、TBSの名物男。とにかく攻めの番組作りが得意な人でなんですね。
個人的には、一昨年の秋に放映した「水曜日のダウソタウソ」が傑作だった。この回、ダウンタウン以下、出演者全員がそっくりさんなんだけど、一切そこには触れず、いつもの体裁で番組が進む。スタジオに漂う超・違和感。しかし、流すVTRは過去の傑作選で、こちらは本物。要は総集編のフリの部分をそっくりさんにやらせるギミックなのだ。有り体の総集編にせずに、一枚フェイクを噛ませるところに藤井サンの非凡さがある。
ちなみに、最近の回で面白かったのは、昨年暮れに放映されたクロちゃんにドッキリを仕掛ける「フューチャークロちゃん」の回。何が凄かったって、番組の終盤、思いを寄せる女の子が仕掛け人と気づいたクロちゃんが、分かっていながら自ら落とし穴に落ちる悲しい展開。もはやバラエティを超えた人間ドラマだった。
テレ朝の危機
テレ東、フジ、日テレ、TBSと来て、民放キー局で1つだけ外すのもアレなので、最後にテレ朝のバラエティに触れたいと思う。
同局のバラエティと言えば、長らく『アメトーーク!』だのみの状況が続いているが、気がつけば、ゴールデンで戦えるバラエティが枯渇している状況にある。かつて深夜で新しいバラエティが生まれ、次々にゴールデンに上げて成功した栄光も過去の話。昨年はとうとうTBSに年間視聴率でゴールデン帯を逆転されてしまった。
そんな中、同局で唯一の光明とも言える番組が、ナスDこと友寄隆英ゼネラルプロデューサーが活躍する『陸海空 地球征服するなんて』である。だが、これも単純に喜んでばかりもいられないのだ。
ナスDの立ち位置
先に、「面白い番組は面白い社員が作る」と申し上げたけど、確かに、『池の水ぜんぶ抜く』の伊藤隆行Pや『水曜日のダウンタウン』の藤井健太郎D、『アメトーーク!』の加地倫三GPなど、名物番組には名物社員が付きものである。その意味で『陸海空~』もナスDという名物社員が手掛けており、この法則に沿っている。
だが、1つ問題がある。同番組におけるナスDの立ち位置は、ゼネラルプロデューサーでありながら、出演者でもある。つまりプレイヤーだ。これは何を意味するかというと、誰もナスDのやることに異を唱えられないのだ。
社員が演者になることの是非
番組作りは、役割分担でもある。作家が台本を書き、ディレクターが演出をつけ、演者が演じ、カメラマンが絵を撮る。それぞれの得意分野を持ち寄り、1つの番組が完成する。そしてクオリティを一定に保ちながら、毎週のオンエアに乗せていく。これがプロの仕事だ。
だが、ナスDの行動を許してしまうと、例えそれが最高に面白くても――いや、面白ければ面白いほど、芸人は仕事を失い、編集するディレクターはテープを切れなくなる。それは結果的に、番組を一定のクオリティで毎週オンエアすることを難しくする。
石原隆サンの仕事術
かつて、フジテレビの面白いドラマは必ず、この男が携わっていると言われた社員がいる。石原隆サン(現・編成統括局長)だ。『古畑任三郎』や『王様のレストラン』、『踊る大捜査線』に『HERO』など、数々のヒットドラマは石原サン抜きには生まれていない。
そんな石原隆サンには、1つの信条がある。それは――「作家の台本に筆を入れない」こと。正直、国内外の映画に誰よりも精通し、並みの脚本家では到底太刀打ちできない豊富な知識と技量を持ちながら、石原サンは相手が新人脚本家であっても、直しが必要なら言葉で語り、脚本家自身に書き直してもらう。それが自分に課せられた役割と自負しているからである。
実際、それで石原サンは同時期に複数のドラマと映画を手掛け、高いクオリティの作品を次々に世に送り出した。石原サン自らが筆を入れていたら、とてもそんなペースで仕事は回らない。餅は餅屋なのだ。
ナスDへの期待
そう、ナスDに課せられた役割も、石原隆サンと同じじゃないだろうか。
あれほどのバイタリティーとテレビの見せ方を知り尽くした御仁である。本来、その類まれなる才能は自らプレイヤーになるのではなく、『陸海空~』をはじめとして、テレ朝のバラエティ全体を立て直すために、広く生かされるべきである。
同局のバラエティの復活は、ナスD――友寄隆英ゼネラルプロデューサーの手にかかっていると言っても過言ではない。
(文:指南役 イラスト:高田真弓)