“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”人気連載『オチマンポコ論』再開! ドラマ『視覚探偵 日暮旅人』『SICKS』や舞台『俺節』などの脚本家・演出家、福原充則さんが、下ネタに見えつつも、壮大な世界に通ずる文章を届けます。今回からは人生相談編。
福原さんが実際に対面し、人生相談にのっていきます。
「みなさま、お久しぶりです。前回の更新からだいぶ経ちましたね。その間に、私、42歳になりました」というのが、前回の書きだしでした。みなさま、お久しぶりです。前回の更新からさらに経ち、私、43歳になりました。「世の中の事象を下半身を絡めて書く」というテーマで送っていたはずのこの連載。途中からお悩み相談みたいになってましたね。というわけで、今まではメールでのお悩みを答えていたんですが、今回から実際に会って、話を聞くスタイルにしてみました。
今回の相談者は知人A島君です。40歳。場末のおでん屋にて。
○そもそも人に悩みを相談するか?
――普段、悩みって相談する?
A島 しないですね。
――俺も全くしない。
A島 まぁ、金の話だけですね。金の相談はしたことあります。
――悩み相談する時って、仕事とか女なんじゃないの?金はキャッシングすればいいでしょ。今の時代。
A島 なんか怖いんですよ、そういう会社から借りるの。
――人から借りるほうが怖くない? 返せなくて友情が壊れたりさ。
A島 友情が壊れるのは怖くないんですよね。
――すごいこと言うなぁ……。いくら借りたことあるの?
A島 1回だけですけど。10万。
――なんで?
A島 いや、母親が死んだ時にですね、生前、母親になにも親孝行出来なかったっていう後悔が残って。それで、父親には生きてるうちに恩返ししたいなって思って。
――うん。
A島 当時、実家暮らしだったんですけど、フラフラしてて家に金いれてなかったんで、これからは毎月10万、家に金いれるぞ!って決心して。
――え、それで10万、借りたの?
A島 はい。
――そういう時って、自分で働いたお金を入れるんじゃないの?
A島 いや、決心をした、その月から金をいれたかったんですよ。でも一文無しだったんで。まずは友達に借りました。
――それ、親父さん、喜んだの?
A島 まぁ借りた金とは言いませんでしたからね。
――そいつもよく貸してくれたね。10万かぁ、俺、どういう理由なら貸せるかなぁ。頼まれたら貸す?
A島 俺は、貸さないですよ。友達に金借りようとする奴なんかに貸せないですよ。
○パンツをもらう
――すごいこと言うなぁ。……金以外に、なんか悩みはある?
A島 あー、セフレとセックスレスになってて。
――知らないよ。
A島 悩み相談のコーナーなんですよね?
――却下。そんな贅沢な悩み。
A島 えー。
――なにを悩むの。幸せじゃん、そんな関係。セフレとセックス抜きで会ってるんでしょ?
A島 はい。
――最高の友情が育っているってことじゃない。
A島 でも原因は俺が勃たないってことなんで。相手を傷つけてないかなぁって。俺がその立場だったら悲しいですよ。「好きだけど、濡れないの」って言われたら。
――「濡れないけど、好きなの」ってことでしょ。素敵だよ。年取れば〝勃たない〟が当たり前になっていくわけだし、許容してもらわないとさ。
A島 そうですけど。
――チンポが勃たないって悩み?
A島 いえ、そのことで相手を傷つけていないかっていう悩みです。
――相手には正直に言ったの?「勃たない」って。
A島 はい。
――なんだって?
A島 パンツくれました。
――は?
A島 いや、「女として興味なくなってるなら悲しい」って言われたんで、「そうじゃないよ」って。あの、たまに、朝勃ちとか、…まぁ朝勃ちはもうしないんですけど、疲れマラって言うんですか、意味なく勃ってる時あるじゃないですか? そういう時に、わぁーってオナニーするんですけど、「その時のオカズは君だから」って話をして。
――そうしたら?
A島 パンツくれたんです。偶然勃った時に呼び出してくれてもいいけど、お互い忙しいし、その子は家庭もあるし。それで、「私でオナニーしてくれてるなら、あげる」って。
――大事なポイントだけど、向こうから「あげる?」って言ったの? 君が「ください」って言ったからくれたの?
A島 僕から「ください」って言ったんですけど、ほぼ同時に「あげようか?」って言ってくれたんですよ。
――いつ頃の話?
A島 二年前だから、お互いに38の頃ですね。
――弘兼憲史の漫画で見たような話だよ。
A島 えぇ。
――っていうか解決してるじゃん、もう。その場で脱いでくれたの?
A島 あ、いざもらうってなったら、ちょっと渋られたんですよ。その日、着けてた下着が高かったらしいんですね。でも「だったらいいよ」って言うのも逆に失礼かなって思って、引き下がらなかったんです。
――逆に失礼って?
A島 今、思うと何が失礼なのかわからないですけど、その時はそう思ったんです。で、「絶対、今、パンツくれ」って言って。そしたらコンビニでパンツ買って、それを車の中で一回履いて、脱いで、そのうえで、くれたんです。
――なにそれ。
A島 俺もなにしてんだろうって思いましたけど、相手の行為を無駄にしたくなかったっていうか。そこまでしても欲しいって言うことで俺からの愛情を伝えたかったんですよ。
――そのパンツ、まだ持ってる? 今度みたいな。
A島 いや、捨てましたよ。帰り道で。歩道橋から捨てました。
――ひどいよ。
A島 パンツもらうってやりとりをしている時間が大事で、パンツ自体はいらないですよ。部屋にあったら悲しいでしょ。それで、環七の歩道橋の上から捨てたんですよ。
――事故になるよ。
A島 トラックの荷台の上に落ちて、そのままどこかへ運ばれていきました。
――……その子の悩みも聞きたいよ。今度、会わせてよ。
A島 いや、それが二年前で、つい最近死んだんですよ。飛び降りちゃって。
――……もう、最初に言ってくれれば、掘り下げなかったよ、この話。
A島 すみません。
――聞いてあげなきゃいけない悩みを抱えてたんじゃないの、その子こそ。
A島 ですよね。それはもう、だから、今、福原さんに言われなくても、それについては散々考えたんで、えぇ。ここまでの話でいいっすか。
――うん、いいけど。この話は書いていいの?
A島 いいですよ。
――……。
A島……。(しばし、沈黙。ハイボールをおかわりの後)そんで、俺、もらったパンツ履いて、葬式行ったんです。
――……? パンツは捨てたんじゃないの?環七に。
A島 いや、死んだってことは言うつもりなかったんで、もらってすぐ捨てたってオチで話を終わらせようとしたんですけど、ほんとうはずっと持ってて。で、葬式の時に……。
――それはどういう感情?
A島 うーん、一番の思い出っていうか、たぶん、人生で一番、人から優しくしてもらった出来事だと思うんで。一心同体になりたかったんですかね。だから、喪服の下にもらったパンツ履いて、線香あげてきましたよ。
――今、履いてたりしないよね?
A島 今は履いてないです。
――…じゃあ献杯。
A島 献杯。
A島君と話している最中、ずっと「パンツって言うんだ」と思っていました。まぁ「パンティ」って言う人も全滅しましたけど。「スキャンティ」って言葉もありましたけど、あれはパンティとなにが違ったんだろう。ググればいいけどググりませんよ。わかりたいわけじゃなくて、考えたいだけだから。なので答えは出しませんが、相談は募集します。
(文:福原充則)
(イラスト:ゆきち先生)
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