一気に寒くなってまいりましたね。「世の中の事象を下半身を絡めて書く」という連載転じて「些末な悩みを場末の飲み屋で聞く」という内容になってきているこのコラム。今回も主旨に沿って、クソみたいな店に入ったらクソ寒かったです。鍋食べてるのに。
そんな店で相談を受けたのは、またもや知人。J島君です。41歳。京王線の奥地の駅前にて。
髪の毛でしょ?
――悩みある?
J島 特にないんですよね。
――え、髪の毛でしょ?
J島 悩んだら生えてくるなら悩みますけど、悩んだらもっと抜けそうなんで。
――なるほど。でも今日、J島君に会う前から、「頭髪の悩みをするんだろうな」って気持ちで来ちゃったからなぁ。
J島 そんなこと言われても。
――じゃあ髪が抜けだして初めてわかったことってある?
J島 あー、……親父の気持ちですかね。
――親父の?
J島 親父も薄いんですよ。今、考えると、親父は30代半ばからハゲだしてたんですね。で、育毛ブラシみたいなので、ポンポン叩いてて。その時の親父の感情って、昔は想像しようとも思ってなかったですけど、
――今は手に取るようにわかる、と。
J島 そうです。
――親の悩みで理解できたのは、髪の毛のことだけ?
J島 はい。うちは借金もなかったし、夫婦仲も普通だし、親が悩んでる姿って見たことないんですよ。
――なるほど。
J島 でも、髪の毛は悩んでたんだなぁって、今頃になって思うようになって。急にいろいろ思い出したんです。なんか家で出るサラダが海藻サラダばっかりだったなぁとか。親父のシャンプーだけ、通販で箱に入ったやつだったなぁとか。
――高価な育毛シャンプーだったんだね。
J島 母親、俺、弟は同じシャンプーで。親父だけ別でしたから。
――記憶の引き出しが、
J島 ブワァーって開いたんですよ。肩叩き券とか父の日にプレゼントしたりするじゃないですか。僕はそれで、頭皮マッサージさせられてましたから。当時は、よくわからずにやってましたけど。
――そんな親父さんも亡くなって……。
J島 生きてますよ。髪の毛は全滅ですけど。
――(笑)。
J島 あ、あと髪の毛のことでいうと、親戚のおじさん達と共通の話題ができて、法事が苦じゃなくなりました。
――髪の毛の話をしていれば間が持つんだ。
J島 一晩中話せますよ。
――徹夜は髪に悪いよ。
J島 で、髪の毛の話から、大抵、チンチンの話になりますね。
――親戚とそんな話するの?
J島 しますよ。
――チンチンの話ってなに? 勃たないとか?
世界平和とチンチン
J島 チンチンまだまだ勃つんですけど、勃っても柔らかいんですよ。
――おやまぁ。
J島 それでなんか性格も柔らかく、穏やかになってきしました。
――連動してるのかな。心とチンチン。
J島 してると思います。だから俺、「これじゃ世界は平和にならないなぁ」って思ったんですよね。
――なに急に。
J島 いや、チンチン柔らかくなると、なにもかも許せて、平和な気持ちになるんですね。だから、世界中の人のチンチンが柔らかくなったら戦争もなくなると思ったんです。戦争しているのはチンチンのカチカチな人です。
――うん。
J島 でも、チンチンが柔らかいままだと、子孫を残せないじゃないですか。そうするといずれ世界は滅びますよ。
――でもカチカチだと戦争が起きて、やっぱり滅びる?
J島 そうです。人類は矛盾した問題を抱えているんです。チンコの固さにおいて。いつか科学が進歩して、人類にとって適正な固さのチンチンが発見されるといいなって思ってます。
――酔ってる?
J島 え?
残り何回出来るのか?
――今の話さ、別にチンチン柔らかくても射精は出来るから、人類滅びないんじゃない?って思ったけど、そういうこと言い出すと、こういう酒が入っての話がつまらなくなるから、話題変えていい? 他に悩みある?
J島 あとは、死ぬまでにセックス何回できるのかなって。40過ぎて、徐々に残りの回数が具体的になってきた気がするんですよ。
――ちなみにあと何回くらいだと思ってるの?
J島 100は切ったな、って。
――若い頃はどう考えてた?
J島 そんなの無限ですよ。あと何回できるかなんて考えたこともないですよ。もっと若い頃は、最初の一回が出来るのかな?って悩んでた時期もありましたけど。
――それって、もっと回数したいって悩み?
J島 はい。とにかくもっと使ってあげたいんです、チンチンを。まだまだ可哀想で。チンチンがチンチンとしての使命を果たしてないまま柔らかくなり始めているので。
――それは、チンチンが可哀想っていうか、J島君自身が可哀想なんじゃないの?
J島 僕は可哀想じゃないですよ。僕自身はもう満足ですから。充分セックスしました。でも、チンチンは満足してない気がするんですよ。多分。はっきり言われたことはないですけど。
――それは自分とチンチンの人格を切り離してるの?
J島 そういうことになりますね。
――自分の身体を自分から分けて考えられる人は、アスリートか病んでる人だよ。
J島 (聞いてない)すいません、生おかわりください。
約束したセックス
――もうじゃあこの店、やたら寒いし、あとひとつくらいで終わりにしようか。
J島 うーん、悩みとは違うのかもしれないですけど、いつかセックスしようねって約束したまま、まだしてない子がいるんですよ。もう7年くらい会ってないんですけど、
――どうしたらやれますかって相談?
J島 いや、まず久しぶりに会いたいんですけど、連絡先を交換してないんで。
――いろいろわかんないんだけど、連絡先も知らない人とセックスする約束したの?
J島 はい。
――っていうか、なんだその約束。幼稚園児が、将来結婚しようとかいう約束と一緒のニュアンスかな。
J島 そうなんですかね。自分でもちょっと……、
――それはもう、約束することに意味があったんであって、実行されることに意味を感じてないんじゃない、相手は。7年前のJ島君とその子にそんな約束をする美しい時間が一瞬流れたってことでしょう。
J島 うーん……。
――美しいのか、若気の至りのバカな時間なのかわかんないけど、まぁ30代の遅い青春話じゃないの?
J島 まぁ僕も、今更したいわけじゃないんですけど、…なんだろ、その約束を覚えてて欲しいなっていう。
――気持ち悪いなぁ(笑)。そもそも、どういうシチュエーションで、そんな約束結んだの?
J島 仕事の研修で一緒になったんですよ。合宿する研修で。
――J島君の会社、ブラックなの?
J島 まぁ昭和な雰囲気なだけで、大丈夫だと思いますけど。でもまぁ、そこそこきつい合宿で。社会人で30超えてから、なんでこんなこと言われるんだろうみたいな研修で。
――滝に打たれたりとか?
J島 それはクライマックスですね、最終日に。
――定番だなぁ…、で、つらい合宿の中で意気投合して?
J島 そうです。合宿終わって、次に会う時にエッチしようねって。
――すぐ会えばよかったじゃない。
J島 違う会社から来てる子でしたし。すぐ会う感じじゃなかったんですよ。
――うーん?
J島 付き合うほどでもないし、連絡先も交換しないけど、偶然再会するくらいのことがあれば、その時はセックスまでしたいよねっていう。
――よくわかんないけど、よくわかんないのが男女のこもごもだから、そうなんだって言えるけどさ。
J島 その時は、社は違うけど、同じ業種なんで、そのうち会うこともあるかなぁって。で、あっという間に7年経って。
――結婚してるかな、その子。
J島 してるでしょうね。
――会社名はわかるんでしょう? 調べれば連絡先わかるんじゃないの? 会ってみなよ。
J島 はい。…ただハゲちゃったんですよね、僕。
――そこに話が戻るのか。
J島 えぇ。ガッカリされたらショックですよ。
――そんな理由で、そんな面白い約束がなしになっていいの?
J島 ……。
――髪の毛薄くなるとかさ、そんなの生きてる証しじゃない。それが人生じゃない。J島君もその子もさ、若くないんだろうし、再会して普通のセックスしても面白くないよ。
J島 面白いとかは別にいいんですけど……、
――いや、相手の人生丸ごと抱く、みたいなことじゃないと今更、興奮しないって。それに、姿の変わったJ島君とセックスすることに、向こうも意義を見い出してくれると思うよ。
J島 意義あることですかね?
――あるよー。俺、若い頃からの知り合いがさ、男も女も、当然どんどん老いていってるけど、愛おしさしか感じないよ。薄くなったり、シワシワしたり、カサカサしたり、太ったり痩せこけたりしていい感じよ。……年輪のない人間、バカみたいじゃん。
J島 うーん、わかりますけど。
――しかも、それを愛せる下地はあるじゃない。俺達、ガンプラ世代なんだから。
J島 …え?
――つまりさ、
J島 …あ、エイジング塗装的な?
――そう! 説明する前に伝わった!(笑) モビルスーツにさ、あえて錆っぽい塗装とか傷とかつけてさ、エイジング塗装をしてきたじゃない。そして、それこそをカッコいいとしてきたじゃない、ガキの頃から俺達は。ピカピカのガンダムとかザクとかカッコ悪いもん。グフにはやっぱり砂まみれでいて欲しいじゃない。
J島 確かに!
――ガキの頃からずっと、アンチ・アンチエイジングだから!
J島 わぁ勇気わいてきました。
――いけるよ!会いなよ!やっちゃいなよ!
J島 ただ、その子は特にガンプラには興味ないと思うんですけど、僕にエイジング的魅力を感じてもらえますかね?
――…J島君さ、こういう話題は腹八分目でわぁーきゃー言ってるのが楽しいんだからさぁ、この辺でお会計しようぜ。
J島 …。
一応、チェリー様の主旨に則って、性に絡めた話は毎回聞くようにしているんですが、おじさんに性の話を聞くと、思い出のお相手話になって楽しいです。時間が経てばどんな恋の話も淡くなるので、おじさんの恋バナはいつだってパステルカラーですね。
で、まぁ楽しいんですが、これからも僕の知り合いに話を聞いてると、40代男性ばかりになってしまうので、若い方からのお悩み相談もお待ちしています。
(文:福原充則)
(イラスト:ゆきち先生)
ということで、福原様が主旨に則って頂き、オトナの下半身世界が覗けて嬉しいのですが、若い方の相談もあったほうが多様性が出るので……。
“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では、相談者を募集中!
福原さんに会って、直接、お悩みを相談したい方は「cherry_info@trenders.co.jp」(担当:浅野)までメールもしくは、Twitter: @CHERRY_OTONA までDMをお送りください。
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