ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

「20代の挫折はたいしたことない」監督・筧昌也が語る“才能の早咲き”の心得

20代で自主映画がフジでドラマ化! “早咲き”の秘訣を聞く

下積み10年、20年は当たり前の映画監督の世界。そこで20代のうちに花を咲かせられる人は、ごくひと握り。もちろん、映画の世界に限らず「早く自分の才能を咲かせたい……」と願う人は多いはず。

今回、“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”がお話を伺う筧昌也さんは20代で自主映画が評価され、そのまま『世にも奇妙な物語』の1編としてセルフリメイク。その後31歳で自身の『ロス:タイム:ライフ』がフジテレビで連ドラ化され、自身も脚本・演出を務めるなど、早く世の中に才能が認められた“ごく一握り”のクリエイターのひとりだ。

そんな筧さんの最新監督作品が『トラさん~僕が猫になったワケ~』。Kis-My-Ft2の北山宏光さん演じる主人公・寿々男は、若くして売れたが現在はスランプに陥っている“早咲きの漫画家”という設定だ。そんな寿々男が命をおとし、残された家族のもとに猫として戻ってくる……というストーリーになっている。
ドラマ『死神くん』や映画『Sweet Rain 死神の精度』など、死を題材にした物語を描くことも多い筧さん。“限られた人生の時間”には敏感な感性をお持ちのはず……!

そこで前編の今回は、10代、大学時代、ついに映画が評価された社会人時代……と筧さんの人生を伺いながら“才能を早く咲かせたい人へのアドバイス”を聞いた……!

才能が認められるまでの時間

「(チェリーを見ながら)あ、沖田くんも出てるんですね。僕、日芸のときの同級生なんですよ」

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――ええっ、そうなんですか!沖田修一さんは、中高時代の同級生が映画『横道世之介』でもタッグを組まれた前田司郎さん(五反田団)とおっしゃってましたし、若くして色んな才能と出会ってたんですね。筧さんは日大芸術学部時代から沖田さんの才能を感じましたか?

「もう彼は大学時代からめちゃめちゃ面白い映画作ってましたし、文章を書かせても面白かったですからね。ただ、デビューは僕のほうが早いんです。彼の才能を世の中が認めるまで時間がかかりすぎたと思っています。『やっと気づいたのかよ!もう十数年遅いよ!』という感じです(笑)」

今でも思い出す神保町への“漫画持ち込み時代”

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――では今回は、“才能の咲くタイミング”の話を、まずは筧さんご自身の話を伺いながら考えていければと思います。筧さんはもともと映画監督を目指されていたんですか?

「10代のときは漫画家になりたかったんです。かなり本気で、14歳で最初に賞をとって、賞金をもらったりはしていました。結局、デビューはできなかったんですが、ひとりで原稿を持って大手の出版社に行って、編集者の人にダメ出しをされたり……。だから今でも神保町のほうに行くと、当時の気持ちを思い出すのでちょっと嫌なんですよ(笑)」

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――北山さん演じる寿々男の設定とめちゃめちゃリンクするじゃないですか!

「原作漫画があるので、たまたまなんですが、寿々男が出版社で編集者にダメ出しをされるシーンは自分の過去の嫌な思い出を込めました(笑)。売れた漫画家は原稿を家まで取りに来てもらえますから、出版社に通っている漫画家って売れてないってことなんです。自分が帰りの地下鉄でかいていた嫌な汗とかを思い出しましたね」

“撮影コース”で監督から遠ざかった日芸時代

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――ちなみにそんな漫画家を目指す青年がなぜ日大芸術学部映画学科にいかれたんでしょうか?

「大学時代なら、まだ悩んでいて良いだろうと思って。どっちもやり続けて、うまくいった方に乗っかろうと思っていたんです。どっちも本気でやりたかったので。それで『漫画はひとりで描けるけど、映画はひとりじゃできないな』と思って、人に出会うために日芸に入りました。
ただ、日芸の映画学科の監督コースは倍率が高かったから、少し倍率の低い撮影コースに入ったんです。まあ、撮影コースでもなんだかんだ言って演出のこととかも勉強できるだろう、と思って。そしたら、全く予想が外れて、カメラまわりのことしかやらなくて。フィルムの勉強をしているだけで平気で1年が経っちゃったんです(笑)。それで“転コース”っていって、もう1回、学内で小さい受験みたいなことをして、コースを移ったんですよね」

映画は“人に迷惑をかける”

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――そして、大学時代から自主映画を撮ることになるんですよね。作っているときはどんなことを考えていたんですか?

「自主映画って……人に迷惑をかけるんですよ」

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――どういうことでしょうか?

「まあ、今は商業映画をやっているし、関係者は仕事として好きでやっているので、それは“迷惑”ではなく、仕事ですよね?でも、自主映画は基本、誰もお金をもらってないんです。人によってはそこまでの熱意はなく、付き合いで関わっている人もいる。なので、時に迷惑に発展する。自主映画だと自分は監督でもありプロデュ―サーでもあるという立ち位置なので、うまくいけば神様ですけど、下手すると諸悪の根源になりうるんです」

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――諸悪の根源!(笑)

お金で成立している関係じゃない分、協力してもらった人からの人間的な信用とかを一気に失うこともありうるんですよね」

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――それを避けるためには……面白い作品を作ればいいということですか?

「いえ、最悪の場合、つまらなくてもいいんです(笑)。もちろん面白いに越したことはないですが、僕の越えようとしていたハードルはもう少し低くて、とりあえず完成はさせようと。周りに完成させない自主映画監督がかなりいたので、それだけは僕は避けようとしていました。作り始めたら、絶対に完成させて、試写会をして人に見せる……というのは最低限自分に課していましたね」

大人の「まだ若い」は信じるな

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――注目を浴びるきっかけになった自主映画『美女缶』は、大学卒業後の完成・公開ですよね。

「『美女缶』は、撮影は1ヶ月くらいだったんですが、僕は働きながら空いた時間で家で編集し続けて1年半くらいかかってます。それでゆうばり国際ファンタスティック映画祭で賞を頂いて映画祭をまわって、一般公開までは約3年。『苦労した』と言う気はさらさらないんですが、作品としては完成させられて、報われてよかったなと思ってます」

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――『美女缶』が賞をとったのが25歳。それまでの、いわば才能が世に認められる前の時代を振り返って、いかがですか?

「41歳の今から思うと、あのときヘコんだことの多くが大したことなかったんです。メガネにゴミがついたくらいの感じで、割れたわけではないというか(笑)。
でもあの頃は、漫画の持ち込みがうまくいかないし、『美女缶』までは映画もうまくいかないし……ってことを繰り返して……ひとつひとつのことに焦っていました」

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――では、当時の自分がうまくいった秘訣はあるとすれば、何があるでしょうか……?

「焦ること、ですかね。今振り返ると『まだ25じゃん』って思いますけど、当時の僕は『もう25だ……』って焦っていました。
大人は勝手に『まだ若いからいいじゃん』って言いますけど、そんなことはない。焦っても焦らなくても、どうせ1年はあっという間に過ぎていきますから(笑)。当時の僕は、人生に急ぎ気味で頑張っていて、焦ってよかったなと思っています」

U25世代は「自分で自分の可能性を取捨選択している」

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――今の20代を見ていると焦りが足りない感じがしますか?

「ちょうど僕の作品についてくれる助監督が一番歳下で25歳くらいですが、アンダー25の世界を見ていると、マイペースなコが増えている感じはしますよね。情報だけがやたらに多い分、その情報だけを頼りに、動くことをしないで、勝手に自分の可能性を取捨選択しちゃう。僕は焦っていたし、漫画の持ち込みをしていた10代の頃から、色々やってみて、実際に動きまくってうまくいったものに乗っかろうというプランだったので」

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――ひとつに絞ることが美徳とされがちな世の中で、救われるアドバイスです……!

「まあ、もちろん、1回うまくいった後は、それを継続するという大変さが登場するんですけどね。映画でも漫画でもドラマでも、1回くらいの成功じゃみんな忘れますから。今でも僕はその“続けることの大変さ”とリアルタイムで格闘しています(笑)」

(取材・文:霜田明寛 写真:田中智美)
記事はさらに『トラさん』や主演の北山宏光さんについて詳しく語る後編に続きます!
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『トラさん~僕が猫になったワケ~』 作品情報
2月15日(金)全国ロードショー

【STORY】
売れないマンガ家の高畑寿々男(北山)は、妻・奈津子(多部)がパートで稼いだお金をギャンブルに使い、お気楽な生活を送っていたが、ある日突然、交通事故であっけなく死んでしまう。そんな寿々男に“あの世の関所”が下した判決は、「執行猶予1ヶ月、過去の愚かな人生を挽回せよ。但し、猫の姿でー」。トラ猫の姿で奈津子と娘・実優(平澤)のもとに戻った寿々男は、「トラさん」と名付けられて高畑家で飼われることに。愛する家族のために何かしたいと思うトラさん=寿々男だが、猫だから言葉さえ通じない。限られた時間の中で、トラさん=寿々男は、家族に何ができるのか―?出演:北山宏光、多部未華子、平澤宏々路、飯豊まりえ、富山えり子、要 潤、バカリズム
原作:「トラさん」板羽 皆(集英社マーガレットコミックス刊)
監督:筧 昌也 脚本:大野敏哉 音楽:渡邊 崇
主題歌:Kis-My-Ft2「君を大好きだ」(avex trax)
配給:ショウゲート
公式サイト:torasan-movie.jp
©板羽皆/集英社・2019「トラさん」製作委員会
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