人生の悩みは、すべて映画が解決してくれる。
そう、あなたの出演映画も誰かの悩みを解決するのだ!こちらは久々に戻ってきた、若手女優のお悩み相談企画。チェリー編集長の霜田明寛が、その肯定型インタビューとも称されるカウンセリング的なインタビュー術で、お悩みを聞き、その悩みに対して、映画で答えていくというコーナーです。さらには、女優の最新出演作を題材に、「その映画を見るとどんな悩みを解決できるか」まで一緒に考えます!彼女たちの悩みの解決の糸口は、彼女たちの生きてきた時代の映画と、彼女たちが出ている映画の中にある!!
今回ご登場頂く女優は駒井蓮さん。ニコラ専属モデルなど10代から芸能活動を続けながらも、2019年春には慶応大学文学部に進学した才媛である。
昨年は舞台に初挑戦。演出家・鴻上尚史が主宰するKOKAMI@networkの舞台『地球防衛軍 苦情処理係』のヒロインに抜擢された。
そして2020年の初挑戦は声優。大橋裕之原作の長編アニメーション映画『音楽』のヒロイン・亜矢の声を担当している。
「人は好きだけど、人見知り」という大学1年生である駒井さんの初々しい相談に乗っていると、その駒井さんの思考の深さからものすごいところにたどり着いていきます。
【駒井蓮】
2000年生まれ。2014年・中学1年生で、青森から家族とともに東京に遊びに来ていたときにスカウトされ、芸能界入り。ポカリスエットのCMでデビュー。『nicola』専属モデルとしての活躍を経て、早稲田アカデミーやパナソニックの企業CMなどに出演。女優としてドラマ『先に生まれただけの僕』『恋の病と野郎組』などに出演。2019年はKOKAMI@network vol.17『地球防衛軍 苦情処理係』パルコ・プロデュース『奇子』と舞台でも活躍した。
【霜田明寛】
1985年生まれ・東京都出身。国立東京学芸大学附属高校を経て早稲田大学商学部卒業。早稲田大学在学中に執筆活動を始め、23歳で、自身のアナウンサー就職活動への挫折経験をもとにした著書『テレビ局就活の極意 パンチラ見せれば通るわよっ!』を出版。映画監督や俳優への「肯定型インタビュー」には定評があり、映画イベントなどを中心に司会も務めている。最新刊は『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書/3刷)。SBS(静岡放送)ラジオ『IPPO』準レギュラー。
仕事では話せるのに、プライベートでは会話ができない
霜田:大学生になられてそろそろ1年ですが、いかがですか?
駒井:今は友人もできたんですが、最初は全然馴染めなくて……。
霜田:ええっ、こんな陽のオーラを放たれているのに!
駒井:高校生のときも、クラス替えしたあとに半年くらい友達ができなかったんですよね。人見知りなんです。
霜田:中学生の頃から芸能活動をされて大人とコミュニケーションをとってるから、同年代と話すのなんてお手のものだと思ってました。
駒井:仕事のときは大丈夫なんです。でもプライベートになると人見知りで。学校、美容室、お店の店員さんとか……恥ずかしくなっちゃって、話せないんです。
霜田:仕事のときに話せるのはなんでなんですかね?
駒井:仕事の人とは、話す内容がわかりやすいんですよね。「あの撮影で、あの人がああしてたよね……」みたいに具体的な内容が浮かぶんです。
霜田:プライベートのときは話す内容が浮かばないんですか?
駒井:逆に、話しかける前に5コくらい考えちゃうんです。学校だったら、学部から聞くべきか、出身地から聞くべきか、もしくは、今の授業のことなのか、次の課題のことなのか、学業と関係ない近況のことなのか……みたいに。
霜田:めちゃめちゃ頭を使って……疲れそうですね!
駒井:かもしれないです。もちろん、これは最初の段階の話で、仲いいコができちゃえばラクなんですが。
霜田:それってもしかして、話してる最中も考えちゃうタイプなのでは……?
駒井:はい、話してる最中も、相手は今こんなことを思ってるんじゃないだろうか、とか次◯◯って言ったらどんなリアクションするかな、とか考えちゃいます。
霜田:さらにもしかして、話し終わったあとも考えちゃいませんか?
駒井:そうですね(笑)。夜、ひとりになると、1日に起こったことを反芻しながら、あのときああ言っておけばよかったとか、あのときの私の言葉は本心じゃなかったかも、とか延々と考えちゃいます。
霜田:大変そうですが、そう悶々と考えながらも、駒井さんから出ている雰囲気は病んでる感じともまた違うんですよね。
駒井:はい、病んではないんです!ただ、大変ではありますし、自分にめんどくささも感じます(笑)。
霜田:失礼ながら、駒井さんが芸能人であるということが、学校での友達作りを阻んでいる可能性はないですか?
駒井:仕事があると、どうしても授業を休んでしまうことも出てくるんですよね。そうすると周りの友人は、ノートを貸してくれたりと助けてくれるんです。でも、そういうことが続くと友人はどうしても『駒井は授業を休んだときのヘルプ要員として私と仲良くなったんじゃないか』って思ってしまいそうで、それが申し訳ないんです。
霜田:相手が「自分にメリットを感じてるな」って思ってしまうんじゃないか、というのはたしかに怖いですね。それにしてもやはり、何重にも考えられる方なんですね……。
駒井:仲良くできそう/できなそうは、仕事のときもプライベートでも直感でわかるはわかるんですけどね……。
悩みの分解!からたどり着いた“やさしい論”
霜田:ここまでお話をうかがってきて、駒井さんの「人見知りである」という悩みを作っている原因は2つに分けられると思うので、処方箋として2つの映画を紹介しようと思います。
駒井:はっ、ありがとうございます!
霜田:悩みの根底にあるのは、①目的のない会話が苦手 ②人づきあいにメリットを感じてしまう自分になりたくない の2つです。まずは①からいきますね。
会話には目的のある会話と、ない会話があります。仕事での話は基本的に、目的のある会話になり、美容師さんや友達との雑談は、基本的には目的がない会話です。たぶん、駒井さんは、目的がない会話が苦手なんだと思います。
駒井:仕事では話せるので、そうなりますね……。
霜田:そこでオススメなのが、1995年の『二人が喋ってる。』という作品です。犬童一心監督の長編デビュー作品になります。
霜田:トゥナイトという女性お笑いコンビの2人が、タイトル通りひたすら喋り続けるという映画です。しかも、特に序盤は、目的のない会話が多く続きます。もちろん、実は物語を進行させるという裏の目的をもった会話ではあるのですが、そこはスパッと完璧に分けられるものではないので、グラデーションということで……。
さらに、大阪のノリでとにかく会話が続くので、相手のことをじっくり考えて喋ってるペースではないんですよね(笑)。会話をしながら考えすぎてしまう駒井さんには参考になると思います。
駒井:ありがとうございます!インプットしました。
霜田:次は②人づきあいにメリットを感じてしまう自分になりたくない の話ですが、おそらく駒井さんは、いい人すぎて、人づきあいにおいて自分がプラスになってしまうことを直感的に避けようとしているのだと思います。だから、本当の友達にノート目的友達だと思われることを恐れてるし、もちろんそうなりたくない。
駒井:高校生のときは、芸能の仕事をしている人の多い学校だったので、休んだらノートをお互いに見せ合う文化だったからラクだったんですよね。今はそうではないので、周りのコに申し訳ないです。
霜田:天秤にかけたときに自分が受け取っているものより与えるものを多くしておきたいタイプというか、それは素晴らしい感性だと思うのですが、自分がメリットを得てしまうことを過度に恐れなくてもいいと思うんですよね。相手ももしかしたら駒井さんにノートを貸せて自分が役に立つ感覚を持てる、というメリットを得ているかもしれません。そこでオススメしたいのが『ペイ・フォワード 可能の王国』という映画です。
霜田:子役として『シックス・センス』で注目を浴び、最近では『スイス・アーミー・マン』が話題をよんだハーレイ・ジョエル・オスメントの主演作なんですが、これは悪い言い方をすると、“メリットを感じていいことをしようとする子供”の話です。
駒井:……!?
霜田:まあ、“世界へのメリット”なんですけどね。主人公の中学生が、人からされた親切を“Pay it forward”(次に渡す)ことをすれば、世界が平和になっていくんじゃないか、と思って実行していく話なんです。自分が親切をされたら、あえて3人に親切をする。これを見ると、目的があって、人に優しくするのもいいんじゃないか、と思えます。ただ、この映画の主人公の発展型であり完成形、すなわち“メリットを感じずとも優しくし続けられる”のが、駒井さんも出演されていた『町田くんの世界』の主人公・町田くんなのではないか、と!
駒井:なるほど……!町田くんは優しいですよね。
霜田:駒井さんが放たれている陽のいい人オーラは、もしかしたら町田くんが実在したらこんな感じのオーラを放つのでは、と思わされます。
駒井:『町田くんの世界』のオーディションのときに、石井裕也監督にの原作漫画の感想を聞かれたんです。私はそのときに「“人を好き”って言葉を使う人はたくさんいるけど、町田くんこそが、本当に“人を好き”な人なんだろうな、と思いました。私も“人を好き”だけど、町田くんにはかなわない」って言ったんです。
霜田:駒井さんも“人を好き”な生き物なんですね。
駒井:好きなんですけど、人見知りなんです。でも“優しく”と言われてピンときました。まずは、優しくしたいです。
霜田:い、いい人……!
駒井:石井裕也監督にも「駒井さんは本当にいい人ですね」って言われたんですが、私は全くその自覚がなくて。
霜田:たぶん町田くん自身にも「自分はいい人だ!」とか「自分は優しい!」みたいな自覚はないですよね。
駒井:無意識であり、嫌味がないのが素晴らしいことですよね。その優しさを行使された周りの人が、嫌味を感じずに、学ぶものがあるのなら、それは意味のある優しさですよね。その優しさに触れたら、周りも優しくなれる。そもそも“優しさ”って他人がつける言葉ですしね。
技術よりも衝動的なものに感動する『音楽』
霜田:駒井さんのお陰でなんだか素晴らしい結論に落ち着きましたね……。ということで、ここからは映画『音楽』を題材にどんな悩みを持った人への処方箋になりそうかを考えていければと思います。まずは、駒井さんはこの作品で声優初挑戦なんですよね。
駒井:プレッシャーがとてもありましたね。このアニメーションは、監督の岩井澤さんが7年ほどかけて作られたもので、ものすごく時間と熱意がかけられているんです。そこに私が参加するのは2日くらいなので、その7年の上にのっている責任は強く感じました。
霜田:しかも原作の大橋裕之さんの画からして、ちょっと独特で、他の多くのアニメに比べて、キャラクターの表情の情報量が少ないですよね。
駒井:オーディションのときは、原作漫画を読んでいったものの、迷いつつでした。ただその時点で、岩井澤さんがこの映画に流れている日常の温度感や、私の演じる亜矢というキャラクターの魅力を教えてくれて。最初はスケバンみたいなルックスですし、怖いイメージだったのですが、彼女は他の個性的なキャラクターの中でバランスをとるような、10代感の担当なのだと感じ、そこを出せるよう意識しました。
霜田:主人公の男たちは10代に見えなかったりしますもんね(笑)。彼らがバンドを組んで、初めて亜矢に演奏を見せるシーンがあるじゃないですか。亜矢はどんな反応をするんだろう、と怖くもあったのですが……。
駒井:「男らしくっていいんじゃない?」って言いますよね。
霜田:あれをちゃんと肯定してくれる女神感で、一気に亜矢を好きになりました。
駒井:わかります! 頑固に見えて頑固じゃない、亜矢の見た目とのギャップにかわいらしさを感じますよね。上手さよりも、熱意とか楽しそうな雰囲気とかそういうもののほうが大事って亜矢はきっと直感で気づいてるんだろうな、と思います。技術よりも、衝動的なものに感動する。『音楽』自体もそういう感覚が最初から最後まで通底していますよね。
霜田:そして、もうひとつ、亜矢が「お前がボーカルやれ!」って言われたときの恥ずかしがりながらも嬉しそうな感じがかわいかったです。
駒井:いいですよね!ギャップ萌えのかわいさといいますか。
霜田:でも、その後の押しは強くないんですよね。
駒井:そうなんですよ、グイグイいけそうで、行けない部分に自分と似たものを感じました。
私も、グイグイいけそうに見えるらしいんですけど、実はいけないタイプなので。
霜田:でも、この作品は、グイグイいけない女子にも、幸せは待っているということを教えてくれますよね。
駒井:そうそう!女子的なキュンもありますしね……。まあ胸キュンと呼んでいいのかはわかりませんが(笑)
霜田:これ以上言ってしまうと結末に具体的に触れそうなので、グイグイいけそうでいけない悩みを持つ人に……ってあたりで止めておきましょう!(笑)
写真:中場敏博
■関連情報
映画『音楽』
1月11日(土)より東京・新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開中
出演:坂本慎太郎 駒井蓮
前野朋哉、芹澤興人、平岩紙、
山本圭祐、大山法哲、鈴木将一朗、林諒、早川景太、柳沢茂樹、浅井浩介、用松亮、澤田裕太郎、後藤ユウミ、小笠原結、松竹史桜、れっぴーず、姫乃たま、松尾ゆき、天久聖一、
竹中直人、岡村靖幸
©大橋裕之 ロックンロール・マウンテン Tip Top
ヘアメイク:mahiro スタイリスト:津野真吾(impiger)
衣裳協力:ブラウス¥3580 (税別) /DHOLIC (DHOLIC 0120-989-002)、パンツ¥18500 (税別) /AMERI (Ameri VINTAGE 03-6712-7887)、イヤリング¥1500 (税別) /OSEWAYA (お世話や 03-5358-1448)、その他スタイリスト私物
撮影協力:下北沢anthrop