ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

第10回「写真には写らない美しさ」

劇団「ゴジゲン」所属の俳優であり、自身でも劇団「ザ・プレイボーイズ」を主催し脚本・演出を手掛ける善雄善雄さんが、ごく個人的で、でも普遍的な“あの頃”を綴る連載もついに10回目。
途中まで同じ道を歩んできたはずなのに、いつしか分かれ道を歩いていて、そのままになっている人……。
今回は高校を中退してしまった女子2人のお話です。

「卒業をさせておくれよ」、連載第10回目です。10回と聞くと節目感が強いですね。
僕は節目とかそういった響きに弱く、誕生日のたびに高いタワーに登っては「俺はなんてちっぽけなんだ」と浸ってみたり、「10周年だから」というのを主な理由に自分の劇団を解散したりするような人間なのですが、気負うことなくいつも通りに書けたらと思います。

いつも通りの高校時代のお話。まだまだ尽きることがなさそうな、あのころの記憶です。

地獄みたいな高校生活がはじまる前、中学のころは、とても平和でした。

僕らが入学する前の中学校は、「今日から俺は!」に出てきそうな、「俺は不良だ!」と言わんばかりのわかりやすいヤンキーが、ヒビと落書きだらけの校舎の前で教師と怒鳴り合いをしているなど、遠目で見てもわかるほどに荒れまくっていたのですが、
入学の1,2年前、崩れかけだった校舎が建て替えで新しくなると、僕らが中学に上がるころには非行などの学校問題が目に見えて激減していました。建物が綺麗になったらヤンキーが消えた。壊れた窓を放置すると街全体がスラムと化すという「割れ窓理論」が、逆説的に証明されたような瞬間でした。ヤンキー、それは綺麗な水では生きられない魚。

そんな新築の中学で、ぬるま湯に浸かるように過ごしたせいもあったかもしれません。
それぞれ別の高校に進学した同級生たちも、程度の差はあれ、みな「高校がつまらない」と口々に言っていました。

中学から僕と同じ高校に進学したのは、男子が僕を含めて5人、女子も5人。
その中でも、僕のように馴染めない人や、頑張って馴染もうとする人などいろいろいましたが、
女子のうち2人は、卒業を待たずして、高校を途中で辞めていきました。

当時、クラスが違ったので辞めたということも全然知りませんでしたし、知っていてもなにもできなかったとは思いますが、
中学時代の彼女たちを見ていた限り、中退する未来なんて誰が想像できたろうと考えてしまいます。

辞めていったお2人、あれきり会えていませんが、お元気ですか?
今回は、あなたたちの話をさせてください。

高校を中退した1人目、仮にAさんとします。

Aさんは中学のころ、生徒会役員を務めるような優等生のイメージでした。
そして、いつも明るい感じで、人当たりもいい素敵な女の子でした。

辞めた日のことは、あとになってそのクラスにいた人から聞いたのですが、
ある朝先生が教壇に立ち、「Aさんは今日で辞めることになりました」と、ほかの生徒に報告したそうです。
そしてその日のAさんは、突然髪の毛をド金髪に染めた状態で教室に現れ、
クラスメイトを睨みつけるようにしながら、「今までお世話になりました」と丁寧な挨拶を残し、荷物をまとめて教室から去っていったそうです。

どうしてそうなったのかも、そのあとどうしているのかも僕はなにも知りません。
ただ、突然金髪で現れるとか、めちゃくちゃパンクでかっこいいなと思ったし、
それに、わざわざ辞める当日に合わせて髪を染めてくるのも、黙っていなくなってもいいはずなのにちゃんと挨拶を残していくのも、中学時代に優等生のイメージだった彼女らしいなぁと少し思いました。

高校を辞めていった女子のもう1人、仮にBさんとします。
Bさんは、身長が低く、色白でとてもかわいらしい女の子でした。

僕とBさんは、小学校3,4年のときと、中学3年のときに同じクラスで、
中3のときは掃除などの班も同じだったのでわりと交流があり、なんならちょっと恋していました。

あれは、中3の修学旅行が終わり、通常授業に戻ったころのこと。
スマホやデジカメなんかも普及していないあの時代。“写ルンです”などで撮った写真を友達に見せようと、現像して学校に持って行き、机の上に出していました。するとそれを見た隣の席のBさんが、「見てもいい?」と聞いてきて、快く手渡したところ、「やったぁ」と小さい声で言ってくれたときは、本当にかわいすぎて自分がどうにかなりそうだと思ったものです。

高校に上がり、クラスも違う彼女を見かけることはほぼありませんでしたが、最後から2回目に見かけたときの彼女は、とある男と歩いていました。

その男は、僕らの中学の同級生で、学校一の不良でした。
平和な中学だったと前述しましたが、一応不良っぽいのもいるにはいたのです。
しかし彼は、卒業式に暴走族の特攻服を着て登校し、普通に校門で止められ、めちゃくちゃ怒られて着替えさせられる、みたいな微妙なヤンキー達とは一線を画し、
グループには属さず、でも自分を持っていて気に入らないやつとは揉める、しかも喧嘩もめちゃくちゃ強いので結果として恐れられる、なのに実態は結構優しい、といった感じの、
たとえるなら、“少女漫画に出てくるタイプのヤンキー”でした。

多くの少女漫画のヒーローが学校一優しいやつや学校一の不良であるように、そいつからは異常なほど主人公感が溢れており、
Bさんと歩いているのを見かけたときは、「まぁ、仕方ないか…」と思うと同時に、なんだか遠くに行ってしまったような気もして、寂しく感じたものでした。

そんなBさんと最後に会ったのは、僕がたまたま立ち寄ったコンビニでした。
このころにはすでに高校は辞めていたと、あとになってから知りました。

商品を持ってレジに行くと、Bさんはカウンターの中に店員の制服を着て立っていました。
僕はレジに着くまで彼女だとわからなかったので、気付いたときにはめちゃくちゃに動揺しました。

気付けなかった理由は、Bさんから眉毛がなくなっていて、ドレッドヘアで、色黒で、化粧もめちゃくちゃ派手になっていたせいだと思います。
かつての色白のかわいらしい女の子とは、まるで対極にも思える女性がそこにはいました。
「どうしてこうなった!」と、僕の心が叫んでいました。

自分の意志か?あの不良の影響か?そのほかに何かあったのか?
っていうかあの不良はなにをしてるんだ。あれだけ少女漫画の主人公感出してたくせに。ヒロインが少女漫画じゃなくて、わりと重めな社会の闇を描いてる系青年漫画に出てきそうになってるじゃねぇか。世界観くらい守れないのかお前は!

そんないろんな感情が頭を駆け巡る中、なにか話しかけたかったけどなんと言っていいかもわからず、僕は必死で気付かないふりをしながら、当時まだ無料でもらえたビニール袋に商品を入れてもらいながら、ただただその作業が早く終わることを祈っていました。

Aさん、Bさん、お元気ですか?

あなた方が高校を辞めて行った理由も流れも、一切存じ上げないのですが、行動から察するに僕と同じく、あの高校が大嫌いだったのではないかと思います。

なんだかんだで、僕は最後まで通ってしまいました。大好きなTHE BLUE HEARTSをはじめとするパンクロックを大音量で聞いて、自分を騙しながら、なにも聞こえないふりをしながら。
しかし、大人になった今、あのとき逃げなかったことが自信に繋がり、あの日々で精神が強くなりました、みたいなことは微塵も思いません。
あれは嫌な時間だったし、無駄な時間でした。あそこは全然、耐え抜いてまで通うほどの場所じゃなかった。無理に迎合することもなかった。そんなことが、この歳になってようやくわかりました。

もしかするとお2人には、辞めて後悔した日もあるかもしれません。
ですが僕は、辞めなかったことを後悔しています。
あと、ド金髪のAさんを見れなかったことも。あのときは少し驚いてしまったけれど、黒ギャルの格好をしていたBさんに、それでもかわいかったあなたに、「似合ってる」と言えなかったことも。

もしも僕が、いつか君らと出会い、話し合うなら。
そんなときは、あなた方がたぶん持っていないだろう卒業アルバムをお持ちしたい。

それを見せることで、Bさんがまた「やったぁ」と言ってくれることなんてないだろうけど、
短くもたしかに通った学び舎や、嫌なやつの写真でも見ながら、めちゃくちゃな悪口なんか言い合えたら最高だなと思います。

ロックが好きなだけでなにもできなかったクソみたいな僕は、あなた方のパンクな生き様をとても尊敬しているし、
心より、美しく思っています。


<善雄善雄出演情報>

①脚本・演出作品がYou Tube配信中
ストーリーファイター SESSION2「記念日」

脚本・演出:大歳倫弘(#ヨーロッパ企画)× 善雄善雄(#ゴジゲン)
▶︎「記念日」第1話
youtu.be/Kvn5-NSQQw4

②ゴジゲンオンラインイベント
「ゴジゲン2020忘年会〜トンコツ王国がYouTubeジャックだYO!!〜」
12/27(日)21:00〜
http://blog.livedoor.jp/gojiblog/archives/2494277.html

③善雄さん企画のゲーム王イベント
ゴジゲン「ゲーム王は俺だ!!!! stage FINAL」
2021/1/24(日)OPEN 18:30 / START 19:00 @LOFT9 Shibuya
【出演】 善雄善雄、奥村徹也、東迎昂史郎、松居大悟、目次立樹、本折最強さとし/神谷大輔
会場前売 ¥2,500 配信視聴チケット¥1,500
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/date/2021/01/24

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