若者の悩みは2つしかない。
“夢がない”という悩みと“夢がかなわない”という悩みである。
格言風に言っちゃいました、てへへ。ということで、ソーシャルトレンドニュース・ブックレビュー第1回・霜田明寛です。
就活本を書いたり、大学で就活講座を持ったりしている僕は、毎年多くの大学生と様々な話をしています。“夢”に関して言うと、4月初頭の今の時期だと、大学入学直後の1年生は“夢がない”という悩みが多く、一方で就活まっただ中の4年生は“夢がかなわない”という悩みが多い、と感じていたので冒頭のように格言風にしてみました。
■夢をあきらめるのは大卒時?
ただ、これは、言い方を変えれば、たった4年間の間に“夢がない”という悩みが“夢がかなわない”に変化しているということになり、大きな変化です。
入学当初は「何していいのかわからない」「夢がない」なんて言っていた人も、大学生活の途中で“夢”もしくは“夢らしきもの”を見つける。ただやっとこさ見つけたその夢を、絶つものがあらわれる。それが就職活動です。
もちろん、この言い方はいささか大雑把で『希望する就職ができる=夢がかなう』ということでもありませんし、『希望する就職ができない=夢がかなわない』ということでもありません。
でも、就活を経た大学生たちが、「自分の思い描いた通りに人生は進まない」と感じていることも確かです。自分の思い通りにいかないのは当然で、就活とは、自分の人生が、“企業という他者”による“選抜”にさらされるシステムだからです。
■人生は“選抜”の連続
ただ、“選抜”は就活に限ったことではありません。僕の師匠である『夢をかなえるゾウ』の水野敬也先生のお気に入りの映画のうちのひとつに『リトル・ミス・サンシャイン』という、少女たちのミス・コンテストを題材にした作品があります。その中に、こんなセリフが出てきます。
「人生なんてくだらないミスコンの連続だ」
そう、人生はいつも“選抜”の連続です。
別の連載で、ミスキャンパスを毎週取材しているのですが、そこにはグランプリに選ばれるコと、そうでないコの悲喜こもごもが存在します。受験や就職活動もそう。恋愛ひとつとっても、相手に選んでもらえる人、と選んでもらえない人が出てきます。
じゃあ、そんな人生の様々な“選抜”で、選ばれなかった人の人生は、選ばれた人に比べて、輝いていないものなのでしょうか?
もしくは、どこかで選ばれたとしても、その選ばれた後の人生が輝いていて、選ばれる前の人生は輝いていないのでしょうか?
■「わたし、お花見初めてなんですよね」
ちょっと個人的な話にうつります。3月31日、渋谷で『就活エッジ』というセミナーを終えた僕は、参加した就活生のうちの30名ほどと、そのまま代官山の西郷山公園に移動し、お花見をしました。翌日の4月1日から、より本格化する就職活動を前にした、貴重な時間。目をそらせるほど現実は遠くなくて、もう目の前に迫ってきているんだけど、それでも直視はせずに、ちょっとだけ楽しめる時間。
そんな中、ひとりのおとなしめの女子大生が、ぼーっとした目で桜を見つめながら、言いました。
「わたし、お花見初めてなんですよね」
「あ、今年?」
「いや、人生で……」
「え、マジで?」
「はい…だから、今すごく楽しいです」
別にはっちゃけるわけでもなく、噛みしめるようにそっと口にした一言は、なんだか、僕にはとても嬉しくて、近くのコンビニでお酒やおつまみを買い集めた、別に豪華なわけでもないそのお花見が、すごく特別なものに思えたんですよね。
■夢をかなえる前にもある、“ありふれた奇跡”
そしてもうひとつ。西郷山公園はライトアップされているわけでもなく、電灯の灯りでうっすらと桜が浮かび上がる程度の明るさ。ですが見晴らしはよく、目黒の町が見渡せる丘の上にあります。そこから見える広い暗い空の中に、赤と緑の光を放つ物体が飛んできました。
「UFOだ!」と誰かが叫んで、みんなが「マジだ!」「ヤバい!連れてかれる!」と騒ぎ出す。その物体はホント、今まで見たどんなUFOらしきものよりもUFOっぽく見えて、僕もちょっと怖かったんですよね。
そしたら、僕の横に座ってた就職留年してる男のコがこう言いました。
「このまま、みんなでUFOに連れてかれたら、楽しいまんまっすかね?」
結局、近くにゆったりと不時着したそれは、ラジコンであることがわかり、みんなで笑って終わったのですが、僕にはこの時の男のコの言葉が深く残りました。
■夢がかなった瞬間ではなく、かなえようと頑張っている瞬間にあるもの
この場にいた彼らは、就職活動という選抜にまだ“選ばれていない”人たちです。
特に僕のセミナーには、マスコミ志望や、アナウンサー志望がメインで来てくれています。座れる椅子の数の決まっている戦いな上に、その数はとても少ない。でも、その奇跡的な倍率を、現実にしようと戦っている人たちです。
もしかしたら、この就活の時点では、全員が思い通りにはいかないかもしれない。でも、2人の言葉を聞いて、こう感じました。この瞬間が輝いていることは確かで、こんなお花見は、色んなところにありふれているかもしれないけど、でも奇跡のようなものだな、と。
夢がかなった瞬間ではなく、夢をかなえようと頑張っている瞬間。そこには、不安も苦しみも妬みも、色んなマイナス要素が同居してはいるけれど、でも輝いている。気休めに聞こえるかもしれないけど、本当にそうなのだと感じました。僕はやはりそれを、師匠である水野敬也先生から学んだのだと思います。
■“夢のかなえ方”でベストセラーを出した著者が“夢がかなわないことは不幸なのか?”に踏み込んだ
200万部を超えるベストセラー『夢をかなえるゾウ』で、ひとつの“夢のかなえ
方”をメソッド化し、自らも夢をかなえたかのように見える水野さん。ですが、近くにいると、常に渇望していて、まだまだ“夢の途中”にいるように見えます。
そんな水野さんの新刊は『それでも僕は夢を見る』。『夢をかなえるゾウ』以来、初めてタイトルに“夢”という言葉の入った本作は、『夢がかなわないことは不幸なのか?』というテーマに踏み込みます。
ストーリーは、自分の夢をあきらめたまま、死ぬ直前にまで老いてしまった主人公。そんな主人公のところに擬人化された“夢”がやってくる、というもの。そして、そこに絵を添えるのは、朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の絵を担当したのも記憶に新しい、お笑い芸人の鉄拳さんになっています。
就活生はもちろん、人生のどこかで“選ばれなかった”経験のある人には、きっと心に響くはず。そして、この本を読んだあと、目の前に広がる世界に散りばめられている“ありふれた奇跡”に気づくことができるようになるはずです。
■関連リンク
『それでも僕は夢を見る』