佐々木蔵之介、永作博美、夏川結衣、黒木華、尾野真千子……。
脇を固めるキャストは大物ばかりなのに、生徒役は本作で演技に初挑戦の役者ばかりという大作映画がある。それが宮部みゆき氏の原作を映画化した『ソロモンの偽証』だ。
二本立てのうち、前篇が今月3月7日に上映開始された。後篇は4月11日に公開と、未だ物語の結末が明らかになっていないにも関わらず、すでに年末の賞レースが有力という声が多い。
監督の成島出氏は前作『八日目の蟬』でも日本アカデミー賞で10冠を果たし、“消費されないエンターテイメント大作”を撮ることに定評がある映画監督。
そんな巨匠に映画『ソロモンの偽証』の舞台と同じ1991年生まれのライター小峰が僭越ながらインタビューさせていただいた……!
日本ミステリー史上最高傑作を見事、映画化した背景とは……!
――『ソロモンの偽証』は9年間連載・全6巻にも及ぶ大作ですが、映画化すると決めた際に最初から前、後篇の2本立てにしようとお考えだったのですか?
そうです。全部やるとなると10時間かかると思ったので、前後篇にしました。
はじめて本屋で原作を手にとった時、少し立ち読みするつもりが、読み始めたら止まらなくなってしまいました。
そこで先方からオファーされたのではなく自分から映画化を申し出ました。宮部さんも僕の映画をよくご覧になって下さっているみたいで「成島さんなら無条件でお渡しします」と言っていただけました。
――原作を読んだ時、特にどのような点が衝撃的でしたか?
まず宮部さんの志の高さに打たれました。
大人でも子供でもない14歳のとらえ方が本当に上手いんです。
普通は大人が中学生を描くと “大人から見た子供”というキャラクターになってしまうのですが“中学生の視点”で描いているところです。
俯瞰では書けるのかもしれませんが9年間その視点で描き続けるのはなかなか難しいはずです。
その上それぞれキャラクターに宮部さんが少しずつ、ご自身を投影して描かれているのも印象的でした。
正義感にあふれる子、大らかな子、少し変な子、宮部さんの10人格を10人のキャラクターで描いているのが面白かったですね。
大人が撮ったのに“14歳と同じ視点の映画”秘密は演技未経験の子役たち
――主演の藤野さんを含め、多くのメインキャストは本当に演技経験がないようにはみえませんでした。今回、経験者ではなく演技の未経験者を多くキャスティングしたのはなぜですか?
例えば演技経験がある子は小学生でもフォークとかカーブを投げてきます。
一方で経験がない子はストレートしか投げられない。でも投げ続けるうちに“フォークとかカーブを投げられる子”より速いストレートが投げられるようになるんです。
前田航基(まえだまえだ)や石井杏奈(E-girls)は、経験値があるにも関わらず、きちんと自分の色を真っ白にできることもあって、キャスティングしました。
それができるのが一流の俳優なのではないかと思っています。
役所広司とかもそうです。あんなに濃く染まっていたのに、次会うと真っ白になっていますから。
でも真っ白に戻るのは“大人の俳優の技術”です。高校生以降は大人の俳優に仲間入りしてしまうので、いまの彼らでしか撮れない作品でした。
――成島監督をはじめ映画チームも“14歳を描く”という点で心掛けたことはありますか?
映像化するにあたって、私たちも“大人からみた子供”ではなく14歳の視点で描くことを心がけました。私たちも何度か挫折しかけるくらいしんどかったですが、彼らの視点で作品を完成させることができたと思います。
特に14歳の心情を描くのにはこれしかないと、デジタルが主流の現代に、あえてフィルムを使って撮っていることにも注目して欲しいです。
デジタルにはない独特なピントのぼけ方、この歪みじゃないと本作の14歳の心情、宮部さんの小説でいう行間を描けないと思いました。
ですから正直、DVDではなく、どうしても映画館でみてもらいたい作品になりました。
観るというより感じて欲しいです。ぜひ観客ではなく、参加者として傍聴席に並んでほしいですね。
――私自身、観終わったときに自分の中に残ったものは“作品の感想” ではなく自分の“14歳の頃の気持ち”でした。
特にそれを呼び起こしてくれたのは、生徒役のみなさんの等身大かつ“誰一人として埋もれない”お芝居でした。
そんな彼女らを演出される上で印象に残っていることはありますか?
見て頂いたのは厳密に言えば演技ではないんです。頭で考えた芝居ではあんな風にならない。石井杏奈であれば、彼女に“樹理”という人が降りてきてるんです。
オッケーテイクはみんな「どう演技をしていたか覚えてない」といいます。無心になって禅のような心持ちだったんでしょうね。
あとは仲良くなった候補者同士がオーディションで落ちて離れ離れになっている時は印象的でした。泣きながら抱き合ったりしていて卒業式を観ているようで、私自身涙をさそわれました。
「落ちた子の分まで」という気持ちが芽生え、多くの同世代と一緒だからこそ乗り越えられたのではないかと思います。一人だったらあの子たちも挫折していたかもしれません。
中学生をありありと描いた劇中は、オーディション、リハーサルの段階からドラマ溢れる実際の青春の上に成り立つものだったようだ。
映画『ソロモンの偽証』には時代を問わない“14歳という季節のリアル”が10人10色、色濃く描かれていた。
この作品は観客の年齢を選ばない。特に大人にとって、もう会えないと思っていた“中学生の自分”が、あなたに寄り添ってくれる映画になりそうだ。
(文:小峰克彦)