若者が成長するには何をすればいいのか?
そんな疑問と、疑問に対する“答えらしきもの”が溢れている。昨今では、書店に20代以下にターゲットを絞った、浅い内容のビジネス書が積まれていたりもする。
僕 自身も、就職活動本の著書があったり、大学で講演することもある関係で、「どうやったら成長できるのか?」という問いを当事者たちから投げかけられること が多い。もちろん、この問いは、例えば進学・就職・転職……といったそれぞれの局面で形を変えるので、その都度、その問いにあった答え方をしているのだ が、根本的には答えはひとつ。
“異世界に飛び込んで、価値観を刷新させること”
これが唯一の方法だと思っている。
そもそも成長とは何なのかを考えたときに、“自分の中に新たな価値観が入りこむことで、世界を新たな視点で見られること”が、成長だと思っているからだ。
“異世界に飛び込む”と言っても、それは世界旅行に行こうとかそういう話ではない。自分を成長させてくれる“異世界”は日本の中の、ちょっと足を延ばせば行けるような場所にでも存在しているものなのだ。
そんなことを感じさせてくれたのが5月10日(土)より公開になった映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』。
高校卒業直後の都会育ちの青年・勇気(染谷将太)が、林業の世界に飛び込み、森で働きながら生活をしていくという話だ。
都会から田舎へ、そして、学生から仕事の世界へ、異世界に飛び込んでしまった勇気には、もちろん多くの困難が立ちはだかる。
例 えば周囲の人々。「どうせいなくなるんでしょ」という態度を見せる村の美女・直紀(長澤まさみ)や、勇気が働く中村林業の先輩ヨキ(伊藤英明)。出身では ないというだけで、あからさまに拒絶してくる村の人もいる。人だけでなく、ケータイも圏外でコンビニもない森の中での生活の不便さや、仕事の大変さなど も、勇気が登るべき壁となる。
そんな中、最初は逃亡を試みる勇気も、徐々に変化を見せていく。その結果、周囲の人々から許容されていく様子や、学生時代の恋人という“かつて自分がいた世界”に違和感を抱くシーンは、成長そのもの。
こういったストーリーの軸に、約1年を通して計7回おこなわれた取材旅行の賜物ともいえる、丹念なディテールが加わり、大きなリアリティのある物語へと昇華 する。染谷将太演じる主人公の顔が、最初は本当にダメダメな感じから、ラストにむかうにつれ、徐々に精悍な顔つきに変わっていくのは、役者としての卓越し た力量を感じさせ、さらに物語に説得力を加えていく。
本作の脚本・監督を手がける矢口史靖監督は『ウォーターボーイズ』『スウィング ガールズ』など、これまでも“身近な異世界”に若者が飛び込み、成長していく話を描いてきた。そこに近年の『ハッピーフライト』にも通じる職業モノとして の面白さや、ギャグも加わり、いい意味で、観客を落ち着かせない作品に。
林業というちょっとした異世界へのトリップが、爽やかな感動を与えてくれる。
『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』は5月10日(土)より全国東宝系で公開中
■『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』公式サイト