僕たちは、ラッキーチャンスを落としてくれた女のコを、運命のように感じてしまう。
簡単に(しかも向こうから)キスをさせてくれた女。その女にとっては、そんなことは日常によくあることのひとつかもしれないが、僕らにとってはそれが運命に感じられる。
そして、その一瞬の出来事に、一生取り憑かれる。
いや、一生は言いすぎたかもしれないが、少なくとも青春の期間の間は頭から離れない。
(※ちなみにこのサイトの文章は基本的に、オトナ童貞、すなわち青春を終えられない大人に向けて書いているので、皆さんにとっては一生ということになります)
取り憑かれ期に現れる“本当の運命の相手”
そんな取り憑かれ期の間に、“本当の運命の女のコ”は現れる。
しかし、彼女はそう簡単に、心を許したりはしない。
キスをさせてくれるなんて夢のまた夢。好意どころか、“異様なものを見るような目で”僕らを見つめてくるような女。だが、そんな女の中に、僕らの運命の人がいたりする。
この映画は、そんな映画だ。(だいぶ一面的だけど)
1967年、ビートルズに憧れてバンド活動を始める男子高校生たちの物語。主人公は、映画館でたまたま隣の席にいた女子と会話を交わし、キスをされる。もちろん、突然のキスで頭はゴチャゴチャ。そんな中、学校にはまた別の美しい転校生がやってくる。主人公は、現れた運命の人に気づくことができるのか。そして、気づけたとして、手に入れることができるのか……!?
“何者でもない”ことに焦っていた時代を切り取る
そして、この映画は恋愛を描きながらも、自分が“何者でもない”ことに焦っていた時代を、痛いほど鮮明に切り取っている。
天秤の片方に“世界”をおき、もう片方に“恋”をおく時代。
“自分には何もない”ことをハッキリと自覚し、憧れの対象と決別しようとする瞬間。
初めてステージに立ち、あたたかい喝采を浴びた時の高揚感。
そして、そんな切ない瞬間を、彼らの“先輩”であるビートルズの楽曲が、あたたかく彩ってくれる。
また、その時代を“振り返る”構成になっているのも秀逸だ。
きっと、振り返っているのは“永遠を信じることができた季節”。
でも、大人になった今この映画を見ると「その時代に確かに経験したそのコへのときめきは、もし“永遠じゃなかった”としても、“運命だった”と信じてもいいんじゃないか」
そんなことを感じさせてくれる。
そして、もうひとつ、この映画はこの世界の大事な真理を教えてくれている。
すぐにキスさせてくれるような女のコよりも、なかなか手に入らない女のコのほうが、僕たちの人生を、変えてくれるのだ。
(文:霜田明寛)
10月1日、新宿シネマカリテほか全国順次公開
配給:マクザム 配給協力:武蔵野エンタテイメント
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