みうらじゅんと安齋肇。『勝手に観光協会』『笑う洋楽展』…etc.と例をあげるまでもなく、その名タッグで、いろいろな角度から、我々文化系オトナ童貞たちを楽しませてくれてきた2人。今度は、みうらじゅん原作×安齋肇監督というタッグでポルノ映画『変態だ』を届けてくれた。
制作は、昨年、低予算ながら大ヒットを記録、そして数々の映画賞を総ナメにした『恋人たち』の松竹ブロードキャスティング。その『オリジナル映画プロジェクト』の番外編として作られた。そして何よりも、みうらじゅん原作映画には『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』と名作ぞろい。
“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”として、注目の映画を紹介し続けてきた媒体としては取り上げないわけにはいかない!そして、サイトに『童貞』の名を冠しているからには、この童貞の神様おふたりには、サイトを始動させた2016年のうちに仁義を切っておかなければならない!
ということで、今回の記事では、主に映画の話を中心に、同時公開の動画では、チェリーの掲げる『オトナ童貞』という言葉に絡めてインタビュー。2つの方向から、2人に迫る!
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今回は“未来予想図”
――みうらじゅんさんの原作の映画といえば、過去に『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』という2つの名作があります。
みうら「田口トモロヲさんが撮ってくれたあの2本は、宣伝文句にもよく書いてあったように“自伝的ストーリー”なんですよね。でも、今回は、自分がどこまで変態に振り切れるかという“未来予想図”なんです。だから、初めて書いた、“先の話”なんですよね。自分想定ではない話を書いたという違いはすごくあって。たぶん、あの2本を見て『青春っていいな』と思った人が、これを見て『見なけれなよかったな』と思う。そんな実験的要素もある作品じゃないですかね(笑)」
安齋「先の話とはいえね、僕には、みうらさんの自伝的な部分がそこかしこに感じられました。だからこそ、トモロヲさんが撮られた映画に寄っていったら失礼だな、という思いはありましたね」
みうら「それはね、安齋さんずっと言ってたね。あの感じじゃない映画を撮るって」
安齋「全編モノクロにしたのは、それもあるのかもしれないし。まあ正直、同じことをやったら勝てないからね」
みうら「まあ勝ち負けの映画ではなかったけどね」
安齋肇から見たみうらじゅん
――ちなみに安齋さんのおっしゃる、みうらさんの自伝的な要素が出ている部分って、劇中でいうと例えばどの辺りなんでしょうか?
みうら「不倫だよねぇ(笑)」
安齋「不倫……かなぁ(笑)。まあでも、バンドの他のメンバーがやめても、ソロでやり続ける主人公じゃないですか。主人公のそういう頑なさは、みうらじゅんという人のブレない感じが出ていますよね。例えば、みうらさんのようなイラストレーターが音楽をやると、趣味や遊びだと思われるじゃないですか。それを忌み嫌う人なんですよ。本気でやっているのにそういう目で見られるのが嫌だ、と」
――みうらさんと同じく、安齋さんも多才なイラストレーターだと思うのですが、共通する部分はあるのでしょうか?
安齋「ええ、だから僕も『なんだよ映画撮るのかよ』『“空耳アワー”みたいな画撮るんじゃねえの?』って思われるのは嫌ですね」
みうら「どんな画ですか(笑)」
みうらじゅんから見た安齋肇
――全てに本気で、頑な。安齋さんから見たみうらさん像が垣間見えた気がします。逆に、みうらさんから見た安齋さん像はどういったものなのでしょうか?
みうら「安齋さんはやり口がロックなんですよね。自分のイベントのポスターやら、装丁やら、安齋さんと今まで色々仕事をさせてもらったけど、考えつかないことをやるんですよ。クライアントが結果的に困ることをやったりして、ロックなんですよね(笑)。
だから、例えば、今回はポルノでお願いします、こういうテーマでお願いします……という注文はこの映画でもしていますけど、そんな型にはまったものは絶対に撮らないだろうなと思っていましたし、でも逆にその部分がすごく楽しみで、見たかった部分でもあるんです。『タモリ倶楽部』の安齋さんしか知らない人は、そういうロックなデザインの部分とか知らないだろうから。今回の映画にはそれが出てるんだよね。安齋さんがデザインした、この映画のポスターひとつとっても、それが出てると思うんです」
楽しくないと面白いものは作れない
――企画段階のお話が聞けたところで、実際の現場やキャストの話なども聞いていければと思います。現場ではどのように撮影を進めていったのでしょうか?
安齋「撮り方もドキュメンタリーみたいな感じで進めていったんですよね。なにせ絵コンテがないですから」
みうら「イラストレーターなのにねぇ(笑)」
安齋「絵コンテがないことで、カメラマンさん、スタイリストさん、役者さん、美術さん……といったひとたちが、そのときに、1個のシーンを作っていくという形になったので、結果的に熱い現場にはなりましたよね」
みうら「僕も何回か現場にも行かせてもらったけど、寒い映画なのに、寒くない現場でしたね(笑)。ものすごい楽しそうで」
――そんなに楽しそうな現場だったんですね。
みうら「逆に、昔から色々と仕事をさせてもらってるけど、現場が暗いなんていうのはありえないですよ。楽しくないと、絶対面白いものは作れない。暗いんだったらやめる。そんなのやりたくないよねぇ」
安齋「帰っちゃうよね。まあ、今回、さすがに、僕がおしっこ行ってる間に、ワンカット終わってたのは『大丈夫かな?』って思いましたけど」
――ええっ、監督がいないのに、撮影が進んでいたんですか?
安齋「こっ恥ずかしいのもあって、スタートやカットのかけ声は助監督の人に言ってもらってたんですよ。でもあるとき、おしっこから帰ってきたら助監督に『あ、撮っちゃいました!』って言われてね。まあ、僕がいないことも忘れるような集中力を発揮していた現場だった、ということで(笑)」
なぜみうらじゅん映画にはミューズが出るのか
――監督をはじめ、楽しくも熱いスタッフさんの様子が伝わってきます……。キャストでいうと、主人公の奥さんを演じる、AV女優の白石茉莉奈さんが、素晴らしい存在感を出されていますよね。
安齋「主人公の売れないミュージシャンを包んでくれる感じをね、可憐に出してくれていますよね。大学を出てから10年経って、子どもがひとりいて、売れていないということは、主人公に何かしらスポンサードしてくれる人が必要ですからね。ひとり産んだ感じもちゃんと出ていたしね」
みうら「白石さん自身も、子供がいるしね」
安齋「体ばっかりは嘘つけないですしね」
――『アイデン&ティティ』もそうでしたが、みうらさん原作の映画に出てくる女の人に、男を包み込んでくれる感じがあるのは、何か理由があるのでしょうか?
みうら「やっぱり、ミューズが出ていたほうが映画に夢があるしね。『アイデン&ティティ』のときは『あんな風に男を持ち上げられた上で、きちんと意見を言えるような女いない』って言われるんじゃないか、と不安だったんですよ。でも、トモロヲさんが色々と考えて『麻生久美子さんだったら大丈夫』って配役したんです。麻生さんじゃなかったら『そんな人いねーよ』って言われてオシマイだったかもしれない。そういう意味で、麻生さんも、白石さんも、キャラクターに説得力を持たせてくれましたよね」
みうらじゅんの趣味趣向があらわれたセックスシーン
――そして、白石さんのキスやセックスシーンだけは、カラーで描かれていますよね。
安齋「昔からパートカラーが好きなんです。ピンク映画を見ていて、花瓶がうつってカラーになったときに『きたー、始まるぞ!』って思うんですよ。だから、その感じを味わってもらいたいな、と思って。でも、あのシーンには原作者の趣味趣向も表れていますよね(笑)」
みうら「射精をしたあとに、相手のお腹は汚れてるのに、自分は汚れていない、っていうのが、悪いなあと昔から思っていて。だから、返り血を浴びるつもりで、精子の付いた相手のお腹に、自分のお腹も、ニュニュニュっとくっつける、というのはね、男気のつもりだったんですよ(笑)」
安齋「あそこで3カット。しつこいですよねえ(笑)。こないだ、この映画を、寿司屋の老夫婦に見せてみたんですけど、気まずそうにしてましたねえ。もう、今までに感じたことのない気まずさでした。でも、それでも見せつけるってことが変態性だとも思うんですけどね」
――ちなみにお寿司屋の老夫婦が感動していた場面はなかったのでしょうか?
安齋「月船さららさんの役の最後の登場シーンは、老夫婦も泣いてましたね。突っ張っていた女の人が……というところで沁みる部分があったんだと思います」
『変態』ではない『変態だ』だ!
――ちなみにこの作品、10月におこなわれた東京国際映画祭にも出品されましたがいかがでしたか?
安齋「レッドカーペットを歩きながら、明らかに自分のいるところじゃないな、って思いましたよね。外国人にどんどん抜かれていったしね」
みうら「随分抜かれたよねえ。まあ、リレーじゃないから一番初めに入ったらいいわけでもないしね(笑)。でもスタッフの人に『変態のみなさんー!』って言われたよね」
安齋「変態御一行になっちゃった」
みうら「『変態』は人に言われる言葉だけど、『だ』がつくと自主的になる。違うんですよ」
安齋「思いっきり、世界観が変わっちゃうんだよね!」
みうら「そう、だから『だ』がないと、ダメな映画なんですよ、これは」
(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)
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映画『変態だ』
12月10日(土)より新宿ピカデリー他、全国順次公開
キャスト:前野健太、月船さらら、白石茉莉奈、奥野瑛太、信江 勇 他
監督:安齋 肇
企画・原作:みうらじゅん(原作「変態だ」小説新潮掲載)
脚本:みうらじゅん、松久 淳
Ⓒ松竹ブロードキャスティング
2016/上映時間:76分/日本