突然ですが、割れ窓理論(ブロークン・ウィンドウ理論)って、ご存知です?
――これ、かつて1990年代に米ニューヨーク市長を務めたルドルフ・ジュリアーニ氏が採用した犯罪撲滅策で、ニューヨーク市内の落書きを徹底的に消してしまおうというもの。当然、消してもまた描かれる。そうしたら、また消す。描かれる、消す――この繰り返し。大事なのは、描かれたらすぐに消すこと。そうこうするうち、気がついたらニューヨークの犯罪率は激減していたそう。
この理論の提唱者が、アメリカの犯罪学の権威であるジョージ・ケリング教授だ。かつて教授は、わざとクルマを放置する社会実験をしたところ、そのまま放置したケースでは一週間経っても何も起きなかったのに対し、フロントガラスを割って放置した場合はすぐに部品が盗まれたことに注目した。そして、こう理論付けた。
「小さな犯罪をそのままにすることで、やがて大きな犯罪の住みかになる」。
そう、これが割れ窓理論。つまりジュリアーニ市長は、これを逆手に取ったんですね。小さな犯罪(落書き)を根絶することで、その先にある凶悪犯罪を減らしてしまおうと。そして結果は大成功。90年代、ニューヨークの治安は劇的に回復したのである。
タイムシフト視聴は“週”回遅れにならないこと
え? なんでテレビのコラムなのに、突然そんな話を始めたのかって?
そう、それは――テレビのタイムシフト視聴も、これと似たようなものじゃないかって思ったから。「週末にまとめて見よう」と録画した連ドラを放置していたら、気がついたら2、3週分、録画が溜まっていた――なんて経験ありません?
僕の経験上、録画したドラマは、次の回が来るまでの一週間以内に見ないと、どんどん溜まる傾向にありますね。まさに割れ窓理論。小さなミスを放っておくと、どんどん積み重なり、やがて取り返しのつかない大きなミスに発展する。
そう、連ドラのタイムシフト視聴で大事なのは、“週”回遅れにならないこと――。
まだ間に合う4月クール連ドラ
――とはいえ、4月クールの連ドラも既に終盤。ぶっちゃけ、3話あたりで視聴が途切れて、後の回は録画したまま放置して、もはや回収を諦めている――なんて人も多いんじゃありません?
でも、大丈夫。前にも言ったけど、連ドラというのは基本、いつ見始めてもいいんです。例え、最終回からでも。繰り返し引用しますが、山田太一先生曰く「連続ドラマというのは、ある回を15分でも集中して見ると、物語の世界観とか、話の流れとか、漠然としたテーマみたいなものが自然と伝わってくる」――。
また、例の「ニコハチの法則」もある。連ドラで大事なのは節目となる2・5・8話。8話といえば、物語の終盤の起点になりやすい。大抵、主人公が自己を見つめ直し、そこから最終回に向けての新たなターンが始まる。つまり8話から見始めても、十分に満足できるんです。
そんな次第で、今からでも遅くない、4月クールの必見ドラマを4つほど解説したいと思います。え? あとのドラマは見なくてもいいのかって? いえね、連ドラを終盤から見始めるメリットとして、見るべきドラマを絞れるという利点もあるんです(笑)。ま、他はお時間のある時にでも――。
今年最大のお祭りドラマ『コンフィデンスマンJP』
一般に、4月クールの連ドラは、1年のうちでテレビ局が最も力を入れると言われる。年度の変わり目だし、そこで華々しくスタートを切って、新年度を盛り上げようと。そのために看板役者と珠玉の企画が用意される。
その意味では、この4月クールで最もその意気込みを感じるのが、フジの月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』である。主演は大スター長澤まさみに、脚本は『リーガル・ハイ』や『デート~恋とはどんなものかしら~』のヒットメーカー・古沢良太。近年、視聴率も話題性もパッとしない「月9」にとって、久々の大型企画だ。
はっきり言いましょう。もし、未見の方がいたら、このドラマは絶対に見ておいた方がいい。最終回からでもいい。
聞くところによると、制作費はあのTBS日曜劇場の『ブラックペアン』を上回るというし(つまり今クール最高だ)、撮影もスタート前に全て終わっており、既に映画化も決まっているし――。そう、資金潤沢、用意周到。つまりフジテレビが社運を賭けているんですね。今年最大のお祭りドラマと言ってもいい。
アンチヒーロー&コンゲームもの
物語は、アニメの『ルパン三世』や往年のテレビドラマ『スパイ大作戦』のパターンだ。いわゆるアンチヒーローもの。そしてコンフィデンスマン(詐欺師)が活躍するコンゲームものでもある。
主人公の長澤まさみ演ずるダー子は、天才的な頭脳と、どんな専門知識も短期間でマスターできる集中力、そして変装の達人だ。ただし、ハニートラップの才能はない。
相棒は小日向文世演ずるベテラン詐欺師のリチャード。彼もまた変装の名人で、言葉巧みにターゲットに近づくインテリだ。この2人に翻弄されつつ、チームの一員として毎度奔走するのが、東出昌大演ずる正直者のボクちゃん。いつも最後は彼も騙されていたことが発覚するのも、お約束。そして2話で登場して、いつの間にかチームに加わっていた神出鬼没の五十嵐。演ずるは小手伸也――。
その基本フォーマットは、世の悪党たちをダー子たちが「詐欺」で懲らしめるというもの。だが、いつの間にか詐欺の実行役のボクちゃんも騙され、釣られてお茶の間も騙されるという二重、三重のどんでん返しが面白い。
普通、海外ではこの手のインテリ系のドラマは複数の脚本家によるチーム制で書かれるが、それを古沢良太サン一人で書いているのも凄い。『古畑任三郎』における三谷幸喜サンと同じだ。
ニコハチ傑作に駄作なし
今のところ、視聴率は8~9%台で推移し、一度も二桁に乗せていない。でも、SNSの反応や各種ネット調査を見る限り、内容に対する満足度はかなり高い。
ちなみに、「ニコハチの法則」に当てはめると――最初の通常回である2話は、「リゾート王編」。吉瀬美智子をゲストスターに、無人島を舞台に二転、三転のどんでん返しが繰り広げられた。正直、拡大版の初回の飛行機ネタが大ネタすぎて若干無理があったので、ジャストサイズのフォーマットを提供できた意味で、この2話は傑作だった。初回終了後にネットに渦巻いていたリアリティ面への批判も大方収束し、同ドラマへの評価がグッと増した回だった。
5話は「スーパードクター編」。大胆にもダー子が外科医に扮する話で、ターゲットの、かたせ梨乃演ずる病院理事長を騙して手術してしまう。当然無免許だ。いくらなんでもやりすぎと思ったら、開腹した臓器はハリウッドの特殊造形師ジョージ松原の手による作りもの。これを演じたのがカメオ出演の山田孝之だった。出演時間はわずか30秒。同回はネットでも話題となったので、見てなくても覚えてる人も多いだろう。
そして8話は、りょう演じるカリスマ美容社長を相手に、山形の廃村を舞台に大芝居が打たれた。「子猫ちゃん」と呼ばれる手下から美女たちを選抜し、村に送り込むなど用意周到にコトを運ぶが――最後に依頼者が裏切り、初のオケラ(無報酬)回に。この失敗が最終回へ向けた大逆転への布石にもなっており、節目という意味で、やはりエポックメーキングな回だった。
そう――ニコハチが傑作の連ドラに、駄作なし。
勝負はシーズン2から
さて、『コンフィデンスマンJP』は、既に映画化も決定して、間もなくクランクインと言われる。海外ロケも予定され、ゲストスターもかなりの大物が予想される。この調子なら、ドラマの知名度を生かしてヒットするのは間違いない。
要は、『ルパン三世 カリオストロの城』とか『ミッション:インポッシブル』とか『007シリーズ』とか、そんな娯楽大作ですね。むしろ、この手の企画は、映画こそ相応しいと言える。ウケない理由がない。
いや、それだけじゃない。
同ドラマは恐らくシーズン2が作られる。そして、その時――いよいよ視聴率がブレイクスルーする。
思い返せば、『古畑任三郎』も最初のシーズンは平均視聴率14.2%だったのが、シーズン2で25.3%とブレイク。古沢サン自身の作品『リーガル・ハイ』もシーズン1は平均12.5%だったが、シーズン2で18.4%と大化けした。
そう、1話完結のチームものの連ドラは、シーズンを重ねる毎にファンが増えて、数字が上がりやすいのだ。こと、『コンフィデンスマンJP』は内容面の評価も高く、映画版もヒットすれば――間違いなく、シーズン2は大化けする。その時、一緒になって盛り上がれるように、今からでも視聴しておくことをおススメします。
フジの冒険、モンテ・クリスト伯
続いては、同じくフジの木曜ドラマ、通称“木10”である。かつては月9と並ぶフジの2大看板と言われたが、近年は月9同様、低視聴率が続き、話題になる作品も少ない。
ところが――今クールはちょっと様相が違う。ディーン・フジオカ主演の『モンテ・クリスト伯』である。原作はデュマが書いた、かの有名な『巌窟王』。幸せな結婚を遂げるはずの主人公が、えん罪を被せられ、遠く流刑の島に幽閉される。そこで謎の老人と出会い、莫大な隠し財産の秘密を教わり、十数年後に故郷に戻り、かつて自分を貶めた連中に対峙するという復讐劇だ。これを、現代の日本を舞台にリメイクした。
このドラマ、正直、視聴率は5~6%台と振るわないが、総じて満足度は高い。理由は――“演出”である。
あらすじだけを聞くと、なんだか昔の大映ドラマや韓流ドラマみたいでリアリティに欠けるし、一歩間違えたらネタドラマになりそうだ。だが――同ドラマは違う。ちゃんと今の連ドラっぽいのだ。肝はそこである。
珠玉の演出
それもそのはず、同ドラマの演出チーフは、フジのドラマ班のエースの西谷弘監督。いわゆる連ドラっぽさ――リアリティ感のある絵作りは、彼の功績が大きい。一般に「ドラマの9割は脚本」と言われるが、こと同ドラマに限っては有名な物語のリメイクということもあり、カギを握る「ドラマの9割は演出」である。
え? その割にはディーン・フジオカ演ずるモンテ・クリスト伯の正体に誰も気づかない描写はヘンだって?
そこだ。ドラマの設定では彼は26歳で幽閉され、戻ってきて復讐を開始するのが15年後の41歳。そしてディーン自身の実年齢が37歳。どうやったって顔が同じだからバレバレだ。ならば――そこにリソースは割かない。
あるインタビューで、西谷監督はこう述べている。「整形したのかとか、昔はすごく太っていたのかとか、それを特殊メイクでやろうとかいろいろ考えました。だけど全部小手先だし、見る人にとっては同じ役者さんだとわかっているわけだし、そこは堂々といけばいいと思いました」
何を面白がらせるのか
――そう、そもそもこの物語の面白さは、バレるかバレないかの描写ではなく、復讐の方法だ。さらに、かつての恋人、山本美月演じるすみれだけが唯一彼の正体を見抜く伏線もあり、周囲が気づかないことが大前提。
だから、整形などの小細工は、逆にドラマを安っぽく見せてしまう。ならば――あえて、そこはぬぐって、そのまま演技をさせるのがベストと判断したのだろう。そうすることで、視聴者には顔に触れるのは無意味と伝わる。結果、極めて文学性の高い、リアリティある連ドラになったのだ。
つまり、大事なのは、何を面白がらせるか。
その軸がブレないドラマは面白い。演出の意図が、ちゃんとお茶の間に伝わっているからである。同ドラマには、それがある。
女性2人のバディもの
続いては、『ドクターX~外科医・大門未知子~』をはじめ、先のキムタク主演ドラマ『BG~身辺警護人~』など、今やすっかり高視聴率ドラマの枠として定着したテレ朝の「木9」である。
今クールは、波瑠と鈴木京香の女性バディもの刑事ドラマ『未解決の女 警視庁文書捜査官』で臨んでいる。中盤まで平均視聴率は12%台で推移し、昨今、二桁行けば御の字と言われる連ドラの世界で、十分結果を残していると言っていい。
同ドラマの原作は、麻見和史サンの『警視庁文書捜査官』のシリーズだ。文書解読のエキスパートが文字や文章を手掛かりに事件解決に挑む視点は新しい試み。とはいえ――主役2人が所属するのは地下の書庫にある第6係と、いわゆる“窓際部署”が活躍するフォーマットは、刑事ドラマのド定番だ。
原作では、男女のバディものだったが、ドラマ化に際して女性2人のバディものに改訂された。理由は、ある女優を使いたかったからである。もっとも、原作でも主役2人に恋愛要素はなく、さしたる影響はない。
視聴率女優、波瑠
そう、原作の男を女に変えてまでも起用したかった女優――それが同ドラマの最大の売りである。女優の名は波瑠。ずばり――同ドラマの安定した視聴率は、作り手の狙い通り、彼女のお陰と言っていい。
思えば、前クールの日テレの『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』でも、波瑠は脇役ながら抜群の存在感を放ち、好調な視聴率は彼女のお陰と言われた。今、波瑠は数少ない“数字を持ってる”女優の一人なのだ。
実際、彼女が一躍ブレイクしたNHK朝ドラ『あさが来た』以降の出演作の平均視聴率を見てみると――
『あさが来た』(NHK)……23.5%
『世界一難しい恋』(日本テレビ系)……12.9%
『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(フジ系)……8.1%
『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)……5.7%
『あなたのことはそれほど』(TBS)……11.2%
『もみ消して冬〜わが家の問題なかったことに〜』(日テレ)……9.8%
――となる。どの作品もその枠の平均点以上の視聴率を残し、何より話題になったドラマが多いのが特徴だ。そう、波瑠は数字・記憶両方を残せる女優なのである。そして特筆すべきは、出演作が1つの局に固定されず、各局にバラけているところ。引く手あまたなのだ。
もう一人のキーマンは高田純次
もちろん、同ドラマは女性のバディものなので、表記上は文書解読エキスパートの鳴海理沙役の鈴木京香とのW主演だ。実際、2人のコンビワークはいいバランスを保っている。「静」の鈴木サンが堂々としているから、「動」の波瑠が自由に遊べる面もある。
とはいえ、脚本は朝ドラ『あさが来た』で波瑠と組んだ大森美香サンで、彼女の生かし方を心得ており、やはり事実上の波瑠の物語と思っていい。
それよりも、もう一人、キーマンを挙げるとするなら――定時に帰る、実直な財津警部を演じる高田純次サンをおススメしたい。昔から、『夜明けの刑事』の坂上二郎サンや『踊る大捜査線』のいかりや長介サンなど、コメディ系の人が実直な刑事を演じると、その刑事ドラマはヒットするという法則がある。同ドラマもその法則の延長線上にあると考えて間違いない。
安定のTBS日曜劇場
最後に挙げるドラマは、こちらもテレ朝の木9同様、今やすっかり高視聴率ドラマ枠として盤石の安定感を誇る、TBSの日曜劇場である。
元々、1956年から続く同局の看板枠。過去に橋田壽賀子脚本の『愛と死をみつめて』をはじめ、倉本聰脚本の『うちのホンカン』シリーズ、加山雄三が復活した『ぼくの妹に』、最高視聴率40%を超えた木村拓哉主演の『ビューティフルライフ~ふたりでいた日々~』等々、時代時代で話題作を輩出してきたが、安定して数字を稼げるようになったのは、2009年の『JIN-仁-』以降だろう。
なぜ、近年、同枠が復活したかと言うと、前にも述べたけど、『JIN-仁-』や『とんび』、『天皇の料理番』などを手掛けた石丸彰彦P、平川雄一朗D、脚本・森下佳子からなるチームと、『半沢直樹』をはじめ、『下町ロケット』や『陸王』を手掛けた伊與田英徳P、福澤克雄D、脚本・八津弘幸からなるチームが、互いに切磋琢磨した結果なんですね。
そんな局内の適度な競争が、ドラマの質と視聴率を高め、今日の盤石の日曜劇場を築いたんです。
毎度、デジャブのような展開に
さて、そんな日曜劇場の今作は――医療ドラマの『ブラックペアン』である。座組としては、チーム福澤(克雄)の作品になるが、原作はお馴染みの池井戸潤ではなく、海堂尊の作品。脚本もいつもの八津弘幸サンではなく、丑尾健太郎サンとちょっと変化球だ。
そのせいか、同ドラマは『半沢~』や『陸王』などに比べると、ちょっと話が荒く見える。毎度、デジャブのような同じ展開に見えるのだ。恐らく、福澤監督がかなりの部分で脚本にも携わっていると思われるが、やはり餅は餅屋なのかもしれない。
『ブラックペアン』のパターン考
そう、『ブラックペアン』の物語の展開は、大体パターンがあるのだ。
まず、最新医療器機が、小泉孝太郎演ずる高階によって東城大学に持ち込まれる。目的はボスである帝華大学の西崎教授(市川猿之助)の実績を作り、理事選に勝たせるため。それを見透かした内野聖陽演じる佐伯教授はこれに難色を示すが、カトパン――加藤綾子演ずる治験コーディネーターがフレンチで接待したりして、最終的には折れて手術が行われる運びとなる。
そして、手術当日。一同が新しい手術の行方を見つめる中、決まって予期せぬミスが起こる。竹内涼真演ずる研修医の世良は取り乱し、葵わかな演ずる新人看護師は廊下を走り回る。そんな中、趣里演ずる猫田看護師が手を回して、満を持して二宮和也演じる天才外科医・渡海が現れ、華麗なる手さばきで手術をリカバーするというもの。毎回、最新医療機器がスナイプやダーウィンに変わるくらいで、大筋は同じだ。
誰が主人公か
もっとも、あの『ドクターX』も毎度展開は同じだし、1話完結の医療ドラマはこれでいいのかもしれない。視聴率も中盤まで12~13%と推移し、決して悪くない。スマッシュヒットには違いない。
それよりも――同ドラマを見ていて気になるのは、「誰が主人公か?」という問題だ。一応、クレジットの順番で言うと、トップが二宮クンで、セカンドが竹内涼真。トメが内野聖陽サンで、トメ前が小泉孝太郎である。ならば二宮クンが主人公になるが、ドラマを見ていると、語りは竹内涼真だし、物語は彼の目線で進む。実際、原作の小説では、彼が演じる研修医の世良が主人公なので、こちらも違和感がない。
役者の格と、日曜劇場への貢献度(『JIN-仁-』『とんび』等)を思えば、内野聖陽演じる佐伯教授が真の主人公という線もある。いや、ボス(西崎教授)と佐伯教授に挟まれ、なんだかんだと振り回されつつも地味に生き残ってる小泉孝太郎演ずる高階の成長物語なんて見方も――。
ドラマ『ブラックペアン』の楽しみ方
はっきり言いましょう。この手の群像劇は、名目上はクレジットの順番はあるものの、視聴者は誰に感情移入して見てもいいんです。
例えば、僕は――小泉孝太郎演ずる高階医師の目線で楽しんでますね。ボスの論文の実績を上げるために、ライバル大学にスパイとして送り込まれた彼は、毎度、新しい手術にトライするも――思わぬミスで、いつも渡海にアタマを下げて、助けてもらう。プライドはズタズタなんだけど、患者の命を最優先に、前向きに考える――ほら、これって中間管理職であるサラリーマンの悲哀に通じません? いっそ、「サラリーマンドクター」とタイトルを改題して、高階を主人公にしたほうが面白くなると思ったり――。
カトパン攻略法
そう、ドラマはもっと自由に鑑賞していいんです。必ずしも、作り手が考える通りに見なくてもいい。
例えば――カトパンが演ずる役だってそう。
彼女の役は「治験コーディネーター」だ。これ、ドラマのオリジナルキャラクターなんですね。その割に出番が多く、また彼女の演技が女子アナの域を出ないためか、お茶の間からアゲンストが吹いている。
いや、それだけじゃない。彼女の役の描写(わいろ紛いの多額の研究費や負担軽減金を用立てたり、高級フレンチで医者を接待する)が、実際の治験コーディネーターとかけ離れているとして、日本臨床薬理学会がTBSへ抗議したとの報道もある。まぁ、これについては、彼女は言われた役を演じてるだけで、はっきり言って濡れ衣だ。
提案。そんなカトパンを見る際のおススメの鑑賞法がある。
「あれは、カトパンがカトパンを演じている」と思うといい。ドラマの役と思うから、つたない演技力や、事実とかけ離れた設定に違和感を覚えるのだ。そうじゃなくて、カトパン自身と思えば、よすぎる活舌は違和感ないし、権力と才能へすり寄ったり、高級フレンチで食事する描写も“素”と思えて気にならない。まんま、カトパンのままだ。むしろ、俄然リアリティが増して、面白く見える。
――そんな次第で、まだ間に合う4月クール連ドラ、いかがでした? そう、ドラマの見方なんて、もっと自由でいいんです。あなただけの目線で楽しんでみてはいかがでしょう。
そしてもう一つ――最終回から連ドラを見始めても、決して遅くはないってこと。
では、今回はこの辺で。また7月クールにお会いしましょう。
(文:指南役 イラスト:高田真弓)