■「妖怪になりたい」36歳契約社員をOLがiPhoneで撮影した映画
「私は映像関係の知り合いが皆無だから……」混んだ映画館の壇上で監督がいう。
ドキュメンタリー『加藤くんからのメッセージ』はiPhoneで3分の2以上撮影したという異例の映画作品。そんな超インディペンデントな制作体制ながら、座・高円寺ドキュメンタリ-フェスティバル コンペティション部門入賞など、国内の3つの映画賞にノミネート・受賞する快挙を成し遂げた話題作だ。
本作は「妖怪になりたい」という夢に向けて奔走する当時36歳契約社員で絵本作家、加藤志異に密着したドキュメンタリー。
彼のプロフィールは『早稲田大学を11年かけて卒業』『手取り9万円の病院事務をしながら妖怪活動を行う』など衝撃的。彼のいう妖怪活動とは渋谷ハチ公前で「夢はかなう!僕は妖怪になる!」と叫ぶような“妖怪演説”を行ったり、井の頭公園で象のはな子と会話をするなどの活動を指す。
そんな本作、東京では今月26日まで渋谷シアターイメージフォーラムにて上映されている。最終日までイベントは続くが、その中から13日に行われたトークイベントに潜入してきた。
■上映後トークに“世界一即戦力な男”が登場
この日は監督の綿毛さんとフリーライター、柴田慕伊さん、そして就活生を震撼させた菊池良さんが登壇。
『世界一即戦力な男』と自称する菊池さんは“6年間引きこもり生活”など一見ネガティブに思われる経歴を自己PRに変えて内定を目指し、50社以上が採用に乗り出したという“異例の夢の叶え方”をした人物だ。(伝説のサイトはこちら!)
菊池さんと本ドキュメンタリーの被写体である加藤さんは元々の知り合い。加藤さんの「ひたむきにやり続ける」姿を見て、菊池さんは「僕も万葉集や日本書紀みたいな何十年も続くものを作りたい」という半分本気めいた発言が飛び出す。
■“持たざる者”をあえて撮るドキュメンタリー。 「夢が叶っていない脆さ」が与えてくれる共感とパワー
ドキュメンタリーといえば、一般的に例えれば『情熱大陸』のように、基本的に“夢を叶えた人物”の現状とそこにたどり着くまでの過去の美談を取り上げることが多い。
しかし『加藤くんからのメッセージ』では“夢を叶えるために尽力する姿”に密着している。加藤さんは観客から見ればまだ夢を叶えてはいない“持たざる者”。そんな彼を綿毛さんが取り上げたのはなぜか。
「加藤さんはバカにされていることを受け入れている。見向きをされないのに叫び続けている。その姿に多くの“持たざる者”である観客は共感し、殻に閉じこもっている人に力を与えられるのでは」と監督は話してくれた。
叶うか叶わないかわからない。その倒れそうな儚い姿。多くの迷える若者とそう変わらない姿だ。しかしその不安の中「夢は叶う」と言い切る勇気と自信が、きっと今いる場所から、少しでもたどり着きたい場所へ自分を連れて行ってくれる。そんなことを教えてもらえた気がした。
(文:小峰克彦)