■視聴率は低かったものの……絶対に失敗ドラマなんかじゃない!
開始前から話題をよんでいたTBS系ドラマ『ごめんね青春!』。宮藤官九郎が『あまちゃん』以来初となるドラマ脚本を手がけ、『木更津キャッツアイ』『池袋ウェストゲートパーク』などの人気作を生み出してきた磯山晶プロデューサーとのタッグ、関ジャニ∞の錦戸亮の主演など、期待値が高かった。しかし、フタを開けてみれば視聴率は低迷し、宮藤本人も自身のラジオ番組で「俺が面白いと思うことは、ダメなんじゃないか」と嘆くほどの事態に。最終回の視聴率は5.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)を記録し、全話平均7.6%とふるわぬまま最終回を迎えた。
2015年1月クールは『流星ワゴン』、2013年には『半沢直樹』などのヒット作を生み出してきたTBSの看板ドラマ枠『日曜劇場』枠としても異例の低数字だ。
しかし!!! 著名人の賞賛ツイートは多く見られるなど、ドラマの内容自体は好評価。宮藤官九郎の、視聴者を笑わせながら泣かせることができるという脚本家としての稀有な才能が、存分に発揮されている作品となっていた。さらに、ドラマの舞台となった静岡県・三島市は、低視聴率なんて関係ないかのごとく盛り上がっていた! ということで、実際に三島市にとび、その様子をレポート!
■地域振興をしたかったらクドカンを呼べ!?
そもそも、宮藤官九郎は特定の地域を舞台にしたドラマづくりを得意とする脚本家である。最近の例で言えば、2013年に社会現象ともなったドラマ『あまちゃん』では岩手県久慈市に観光客が殺到。そしてゼロ年代の前半には『池袋ウェストゲートパーク』(00年)『木更津キャッツアイ』(02年)など、特定の地域にスポットをあてたドラマが多い。
今回の『ごめんね青春!』は番組名に地域の名前さえ入っていないものの、ほぼ静岡県三島市が舞台となっている。『伊豆・三津シーパラダイス』『伊豆箱根鉄道』『みしまコロッケ』など実在する施設や名産品が登場し、しかもストーリーと深くからんでくるのである。
■いずっぱこ・ハートのつり革にみしまコロッケ……広がる青春世界
そこで実際に三島市に行ってみると……!?
まずは『いずっぱこ』と呼ばれる伊豆箱根鉄道の駅の中など、いたるところに番組のポスターが。
劇中で登場する高校の生徒たちが通学に使う、伊豆箱根鉄道・通称いずっぱこ!
伊豆・三津シーパラダイスに行く前に、生徒たちが集まっていた、三島駅前のベンチ!
作中でも頻繁に登場するみしまコロッケ!(中身は三島馬鈴薯!)
コロッケを女子達が買い食いしながら、男子が来るとスッと隠した場所・源兵衛川!
さらに、伊豆箱根鉄道・三島駅の駅事務所に行くと『幸せをつかむハートリングストラップ』が売られていた!
こちらは伊豆箱根鉄道、通称『いずっぱこ』の中に存在するというハート型のつり革を模したもの。このハート型のつり革は、錦戸亮と満島ひかりが演じる主人公とヒロインが、同時に掴んでしまうことで、運命を感じ始めるという設定で、劇中にも登場する。ストラップは放送後、一気に売れ始めたとのこと。
そして、あまりん(森川葵)が海老沢ゆずる(ジャニーズWEST・重岡大毅)を突き落としたことで知られる、白滝公園のあたりまで行くと街ゆく人たちに、ある特徴が。
■『みしまるくん』のお面をつけた人たちが……
多くの人が、三島市のゆるキャラ、『みしまるくん』『みしまるこちゃん』のお面を頭につけているのである!!
子どもはもちろん、大人まで……! いくら取材日が三島大社でお祭りが開催されていた日だったからとはいえ、サトシ(永山絢斗)と祐子(波瑠)が夏祭りデートしていた三島神社だったからとはいえ、これは異常なのでは……。
三島市の出身者を探し、話を聞くと「『みしまるくん』は以前からいるゆるキャラですが、正直、どの地域にもいるゆるキャラのような感じで、前はこんなことはなかったですね……」とのこと。
聞いてみると、お面はその日の朝から配り始めたが、午後の時点で予定枚数がハケてしまい、既に配布終了。ストラップはまだかろうじて販売されていた。
そう、もちろんこれも『ごめんね青春!』効果。この『みしまるくん』は第4話から登場。平和な高校の中でひとり、ヤンキーに憧れ『ひとりクローズ』と呼ばれる生徒・古井豊の内緒のバイトが、『みしまるくん』の中に入ることだった、という設定だ。子どもの夢を壊さないために、決して友人たちにもバイト内容を明かさないというストーリーが涙をよんだ。
だが、劇中で登場するからとはいえ、普通のゆるキャラに、再び息を吹き返させ、人気にさせるのは至難のワザなのではないだろうか……!?
■“現実に存在する少しダサいもの”をいじって現代に浮上させる名手
今回三島市をまわっている最中、各所で「最近、ドラマで取り上げられてるから、見に来てくれる人が増えてるの」という種類の発言を聞くことができた。だが、どんなドラマでも舞台になれば、その地域が盛り上がるというワケではない。なぜ、宮藤官九郎にはそれが可能なのか。
おそらくそれは、クドカンが“現実に存在する少しダサいもの”をいじることに長けているからではないだろうか。
『木更津キャッツアイ』には哀川翔、『池袋ウェストゲートパーク』には川崎麻世といった芸能人を実名で登場させたクドカン。その時点では正直、“旬が過ぎていた”彼らを若者に認知させ、人気を出すことに成功したといえる。特に『Vシネの帝王』だった哀川翔は、メジャー映画『ゼブラーマン』の主役をはり、シリーズ化されるほどの再ブレイクを果たした。
また、似たケースで言えば、以前にも宮藤官九郎は『木更津キャッツアイ』に、千葉県木更津市特有の踊り『やっさいもっさい』を登場させ、メジャー化させている。櫻井翔演じるバンビが、地域に伝わる少しダサい伝統的な踊りを、最初は嫌がりながら踊るという設定だったものの、その忘れがたいフレーズもあわさって、シリーズを通した象徴に。
いじりはするものの、決して対象を貶めない。適度な距離感で、時代の中に埋没していた対象の魅力を、現代用にアレンジし、再浮上させる。
今回、コロッケ、ゆるキャラ、イズッパコといった、三島で見た様々なものは、輝きを放っているように見えた。以前の姿を知っているわけではないのだが、きっと地元の人にとっても、クドカンマジックによって、それまで日常に存在していたものが、より輝いてうつっていたのではないだろうか。
■思い出すのは腑に落ちないことばっかりだ(平助)
正直、個人的にも、これだけ素晴らしいドラマが評価されていないことには、腑に落ちない点が多い。でも……劇中で、錦戸亮演じる主人公・平助が言っていた。
「腑に落ちたら忘れちゃうってことだ。大人になって思い出すのは、腑に落ちないことばっかりだ。それが青春!」
『ごめんね青春!』は三島市はもちろん、一部の人々にとっては、忘れないドラマになったのではないだろうか。
(文:霜田明寛)